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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第九章 消えゆくモノ、金色の輝き
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第百四十八話 再起

 目が覚めた時、全てが終わった後だった。


 ギルドホームは破壊され、エリカさんは重傷を負っていた。


 今はユキちゃんに治療を行ってもらっているが……。


 みんなはギルドホームが破壊される際にエリカさんに助けられたおかげで無事だったのが唯一の救いといっていい。


 でも、そこにフェリスはいない。


 ルナも、ユーフィア様も。


「つまり、状況は最悪ってことか」


 ギルドホームの残骸の上に腰かけながらライオネルが吐き捨てる。


 魔王がすぐ傍にいたのに気を失っていたことが悔しいのか少しイラついている。


「ソウジ、お前、魔法の方はどうなんだ?」


 レイドの問いに対し、俺は首を横に振る。


「ダメだ。……魔力自体は残っているから普通の魔法なら使えるけど……星眷魔法がどうしても発動出来ない。変身することが…………出来ない」


「他者の魔法を奪い取る魔法か。無茶苦茶な力じゃないか、そんなの」


 オーガストが珍しく苛立ちをぶつけるかのように地面を蹴っている。


 さっきから胸の中にぽっかりと穴が空いたみたいだ。


 星眷魔法を奪われたおかげで今の俺は無力だ。


「……フェリスと、ルナとユーフィア様も魔王に攫われちゃった」


 ぽつりと漏らしたチェルシーの言葉はどこか諦めのようなものが滲んでいる。


 それはここにいる全員が抱いている微かな感情を代弁してくれているかのようだった。


 魔王は強い。


 巫女の力を吸収し、師匠が力を失っている今、魔王の力を上回る者などこの世界のどこにもいないだろう。


 まさに圧倒的な存在だ。


 ……それでも。


「だから、諦めるの?」


 俺がぐっと拳を握ったところで、沈黙を破ったのはクラリッサだった。


「確かに魔王は強いわ。もしかしたら、もうわたし達には止められないのかもしれない」


 クラリッサの小さな体は微かに震えを帯びている。


 怖いんだ。クラリッサも。


「さっき、エリカさんに守ってもらった時……とても、怖かった。死ぬかと思った。もう終わりなんだなって、諦めかけたわ」


 でも、と。


 クラリッサは顔を上げる。


 その目はまだ諦めていなかった。


 光を宿していた。


「フェリスや、ルナや、ユーフィア様は、わたし達以上に怖い思いをしているはずよ」


 クラリッサの言葉で、みんながハッと顔を上げた。


「あんなにも強くて、恐ろしいやつに攫われたんだもの。そりゃ怖いに決まってるわよ。わたしなんか、考えただけで逃げ出してしまいそうになる……でもね、それでもフェリスは立ち向かっていったわ。フェリスは逃げなかった」


 そうだ。


 あの時、フェリスは逃げなかった。


 必死に魔王へと立ち向かった。


 それはきっと、俺を助けるためでもあり……後ろにいた、みんなを助けるためでもあった。


「だから、わたしも逃げない。怖いけど……逃げたいけど、逃げない。フェリスがそうしたように」


 クラリッサの言葉が、みんなの中に染み渡り、温かいエネルギーになって奮い立たせていく。


「助けましょう。わたし達の友達を」


 決意に満ちた目をしたクラリッサを止める者はこの場に誰一人としておらず、今やみんなが同じ目をしていた。


「それに、元々ソウジだって諦めていないでしょ?」


 彼女の言葉に思わず頬をかく。


 まいった。完全にお見通しって感じだ。


「ん。そうだな。諦めるつもりはないよ。確かに今の俺は変身出来ないし、普通の魔法を使うのが精いっぱいだけど……それでも、魔王と戦う」


 俺が決意を言葉にして吐き出すと、ライオネルが息を吐いた。


「ったく、今じゃ変身も出来ないヤツがこんなことを言うんだ。オレがここで折れるのもダセェか。それに、どっちにしたって魔王のやつを倒さなきゃここで諦めようがどこに逃げようがおしまいだ」


 そうだ。


 逃げる道を選んだところで魔王がこの世界を支配してしまえばもう終わりだ。


 どこに逃げたって意味はない。


 逃げ場所なんてないんだ。


「魔王と戦うにしてもよ、これからどうするんだ?」


「もちろん、フェリス達を取り返しに行くのよ!」


「や、だからどこにだよ」


「ほえ?」


 レイドの言葉にいつもの調子でささやかなふくらみしかない胸をはって答えたクラリッサだったが、レイドのさらなる返しによってきょとんとした顔をしている。


「……クラリッサ。取り返しに行くって言うのは簡単」


「だが一番の問題は、敵の居場所が僕たちには分からないという点だ」


「あっ」


 チェルシーとオーガストに指摘されてようやく気づいたらしい。


 だらだらと冷や汗を流している。


「そ、ソウジ……」


「助けを求めるような目をしたって、俺にも分からないよ」


「うぅぅ……」


 そんな風に目をうるうるさせたところでどうしようもないんだけど……。


 とはいえ、このままどうしようもない状態が続くのは避けたい。


 またもや沈黙が場を支配したところで、


「ったく……そんな重要な点も気づけないで、よくもまァあんな魔王バケモノに立ち向かおうと出来るわね」


 聞き覚えのある声が、俺達に投げかけられた。


 声のする方向に振り向くと、


「お前は……」


 全身に傷を負い、胸から血を流しながら木々にもたれかかっている女性の姿があった。


「……グリューン…………!?」


「そうよ。私は緑の魔人。グリューン……って、呼ばれていたけど…………忘れて頂戴。今のわたしはユリアと呼んで」


 名乗ると、ユリアは口からごぼっと血の塊を吐き出した。


 明らかに尋常じゃないダメージを負っている。


「お前、その傷は」


「まァ、説明してあげてもいいけどそれは後にして。単刀直入にこっちの要件を言うわよ。私は、魔王のいる場所を知っている。そこに行く道案内も出来る。望むというのなら、アンタ達を魔王城まで連れて行ってあげるわ」


 ユリアからもたらされた提案は俺達にとって願ってもないことで、同時に疑問が浮かび上がる。


 それを、ライオネルが追及する。


「ちょっと待て。お前は魔人だろうが。どうしてオレ達に味方するような提案をするんだよ。魔王は、言ってしまえばテメェのご主人様だろうが。見え透いた罠にしか見えないぜ」


「ハッ。それはどうかしらね。私のこの傷を見りゃァちょっとは想像つくでしょうよ。アイツにとって私はただの道具だった。命令を埋め込んだ、ただの道具。都合のいい人形……用済みになった私は、あいつらに捨てられた」


 けれど、と。


 ユリアは続ける。


「そんなことは、どうでもいいの。私の感情が偽物だとか、作られた疑似的な物だったとか、そんなことはどうでもいい。でもね。今でも許せないのよ、あいつらが。私を捨てたことじゃァない。そんなことじゃない。一番許せないのは、あの子を傷つけたこと。だから魔王と戦う」


 ユリアが指しているのはきっと、アイヴィ先輩のことだ。


 先輩に何かあったのだろうか。


「これは、私の意志よ。埋め込まれた命令じゃない。正真正銘、私の意志。」


 ユリアの目にメラメラと燃える確かな意志を、俺は感じた。


 彼女は彼女なりの理由と思いで戦いに挑もうとしている。


「……分かった。力を貸してくれ」


「ソウジ!?」


「彼女はこの前、アイヴィ先輩を助けようとしてくれた。ほかの魔人とは違う。信用していいと思う」


 どのみち、俺達に選択肢はない。


 それはライオネルも、みんなも分かっているのか反対はなかった。




 ……ここからだ。


 最後の戦いが始まるのは。


 







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