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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第八章 ヘル・パーティ
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第百四十三話 消えゆく記憶

黒の星眷使いの第四巻出ます!

今回はブレイヴモード登場まで!

既に表紙も公開されていますのでよろしくお願いします!

http://mfbooks.jp/4411/




 俺が到着した時にはもう、すべてに決着がついていた。

 ライオネルの新しい姿にも驚いたものの、変身を解いたあいつの顔からはどこか憑き物が落ちたような、簡単に言えば吹っ切れたような感じがしていた。


「終わったのか」


 俺の問いかけに、ライオネルは静かに頷く。


「ああ。終わった」


 それだけで分かった。


 ライオネルは、仇を取れたのだと。


 その後、地下で無事リーナさんを保護したというケイネスさんの報告を受け、地上にある隠れ家で合流した。

 

 話を聞いてみれば地下ではみんなも大変だったらしい。


 よく生きて帰ってこれたな、と思うと同時にほっとする。


 ユキちゃんがいてくれたおかげで、地下で合流したメンバーはみんな魔法である程度は治療してもらったのも大きかった。


 ライオネルの師匠にして七色星団のメンバーでもあるヨーカクさんは、リーナさんが持ち帰った調査データをリーナさんと共に詳しく解析する作業に入った。


 エリカさんはというと、言葉を交わすまもなくどこかへと消えてしまった。


 二体の魔神を倒したことでこの場所での危機が去ったということもあり、ひとまず俺達は一晩の休息をとった。みんな疲れがたまっていたのか朝までぐっすりと眠っていた。


 俺も思っていた以上に疲労がたまっていたらしい。


 ベッドに倒れ込むなりすぐに眠りについた。


 その日、夢を見た。


 前世の……勇者として活動していたころの夢だ。


 ここのところ、ずっと勇者時代の夢を見る。


 日に日にそれはリアルになっていき、これまでは遠い昔の記憶で、他人事だったことが……自分が確かに関わり、体験した現実なのだという認識が強くなっていた。


 俺と、他の勇者と……巫女と呼ばれた少女達と過ごした記憶。

 特に巫女の少女達はこうして夢で見ると驚くばかりだ。


 エルフ族の巫女、フィア。

 ドワーフ族の巫女、エーミィ。

 獣人族の巫女、セリカ。

 人間族の巫女、エフィリア。

 魔族の巫女、セレネ。


 フィアはユーフィア様にそっくりだし、エフィリア……エフィリア・ソレイユはまさにフェリスのご先祖様であり、まさにフェリスそっくりだ。そしてセレネは……ルナにそっくりの少女だ。


 勇者としての記憶が戻ってくるごとに、巫女や勇者パーティのみんなとの思い出も蘇っていく。


 だけどそれは俺にとって不安のようなものも、同時に強くなっていく。


 じわじわと、夢に現実が侵食されていくような……そんな、不安が。


 翌朝、俺は現実と夢の狭間が一瞬曖昧になるような錯覚に陥りながらも起床した。

 身支度を済ませて廊下に出て、眠気覚ましに外へと出る。

 差し込んでくる朝日を身に浴びながら、息を吐き出す。


「あー……くそ。ブレイヴモードを使うといつもこうだな……」


 ラヴァルスードと戦った時もそうだったが、『最輝星』を使ったり、魔王、もしくはそれに近しいものと戦うといつも勇者時代の記憶を強く思い出す。


「ソウジくん、顔色が悪いようですけど……大丈夫ですか?」

「…………うわっ⁉ って、あぁ……エフィリ……じゃなくてフェリスか」

「ど、どうしてそんなに驚いているんですか? 逆にこっちがびっくりしてしまいました」

「あ、いや、ごめん……」


 勇者時代の夢を見たあとだったから、エフィリアが現実にも現れたのかと思って驚いてしまった。


「似てるなぁ……ほんと」

「似てる? わたしが、ですか? えっと……誰に?」

「そうだな。フェリスのご先祖様、かな」


 今の言葉で、フェリスは何となく察したらしい。


「もしかして、前世の記憶でも、夢で見たのですか」

「……ああ」


 手近なところに二人で揃って腰を下ろす。

 朝の風が心地よく、こうしてゆったりとした時間が流れていることに幸せを噛みしめる。

 これは……前世の仲間と共に勝ち取った時間だから。


「『最輝星』を使ったり、魔王とかと戦ったりするとよく思い出すんだ。前世のこと。さっきも夢に見た。フェリスは……そっくりなんだ。昔いた、エフィリア・ソレイユっていう『巫女』に。だからちょっと、びっくりした」

「エフィリア……その名前、知っています。勇者様と共に戦った者の一員だと、今でもソレイユ家には伝わっている名前ですから。エフィリア様の活躍があったからこそ、ソレイユ家は太陽街の管理人としての地位を得ることが出来たと言われているほどです」

「そういえばそんなこともあったなぁ……懐かしい気分だ」


 覚えている。というよりは、思い出したか。

 魔王を倒した後、平和になった世界は色々なことがあったっけ。


「ソウジ、くん……?」

「ん? どうかした?」

「あ、いいえ……その……」


 フェリスはじぃっと俺の顔を確認するように見つめたあと、


「今一瞬、ソウジくんがソウジくんじゃないような気がしたので……」

「えっ。そ、そうか?」


 自分では特に自覚はない……んだけど。


「あっ、わ、わたしの見間違いだと思うので、気にしないでください」

「そ、そう?」

「そうですっ。ソウジくんはソウジくんですからっ。あ、それより……わたし、そんなにもエフィリア様に似ているのですか?」

「ん。そっくりだよ、ほんと。あいつはもうちょっと目つきが鋭かったけど」

「…………」

「……それがどうかした?」

「いえ……その……わたし、ずっと考えてたんです」


 フェリスはきゅっと胸の前で手を握る。


「姉さんのことを。姉さんは……わたしに何か隠しています。それを考えていて、わたし、思ったんです。もしかしたら、わたしが……『巫女』なんじゃないかって」

「フェリス……それは……」

「だって、わたしとエフィリア様は似ているのでしょう? だったら……そういう可能性もあるじゃないですか。もしかしたら姉さんは、わたしを守るためにわざと『巫女』を名乗っているのかも……」


 可能性としては……否定しきれない。

 フェリスはきっと、ずっと一人で考えていたのだろう。

 エリカさんのことを尊敬していて、大好きだからこそ。


「それは……分からない」


 可能性としては高いと思う。

 十分にあり得る話だとは思う。

 何しろエリカさんには謎が多い。師匠と繋がりがあり、既に色々なことを知っていたから。


 でもきっとエリカさんは、フェリスにそれを知られることを望んではいない。


 だから俺は分からないと答えるしかない。


「っ……そう、ですよね……ごめんなさい。急にこんなこと……」

「いや、こっちもごめん……何も言えなくて」

「……そろそろ、戻りましょうか。リーナさんとヨーカクさんからのお話があるらしいですし」


 ☆


 俺達は一つの部屋に集められた。

 リーナさんとヨーカクさんが一晩で解析した分の情報を共有しようというユーフィア様からの提案だ。


 これから魔王と戦っていくにあたり、情報は一つでも多い方がいい。

 まず最初に口を開いたのはリーナさんだ。


「まずはお礼を言わせていただきます。昨日は助けていただいてありがとうございました。さっそくですが、この一晩で解析した情報を皆さんにお伝えさせていただきます」


 さて、とリーナさんは続ける。


「まずあの地下ダンジョンですが、あれは大昔の人が人工的に作り出した空間、ということで間違いないようです」

「人工的に作り出した空間、ですか。でも何の為に?」

「情報を保存するためです。あの空間は、巨大な重要情報を保管するための施設だったんです」

「重要情報……それってもしかして、勇者様や魔王に関係することですか」

「はい」


 オーガストの問いに、リーナさんはこくりと頷く。


「調べて分かったことですが、あのダンジョンではかつて召喚魔法の研究が行われていたようです。異世界から勇者となり得る素質を持った者を召喚し、強大な力を与える魔法……異世界召喚魔法の研究施設。それが、あのダンジョンの正体です」

「なるほど。それは確かに隠しておきたくなるような施設だな。そのためにわざわざダンジョン化したとは恐れ入る」


 フレンダは呆れたように言っているが、俺も同意見だ。


「残念ながら、魔王に関することはあまり分からなかったわ。でも…………勇者に関することなら少し分かった」


 言いながら、リーナさんはじっと俺の方を見つめてくる。


「あなたが、ソウジ・ボーウェンくんね」

「はい。そうですけど」

「……あなたのことはエリカちゃんから聞いたわ。その上で、解析の結果と照らし合わせて……単刀直入に言わせてもらう」


 どこか悲しそうな目で、憐れむような目で、彼女は言う。


「あなた、もう戦うのはやめた方がいい。特に、『最輝星』を使ってはだめ」


「えっ。そ、それは、どういう――――」


 いきなりの発言に戸惑っていると、リーナさんは目を伏せる。


「あの施設をの情報を解析して分かった。白魔力は黒魔力を殺す力を持った魔力。魔王を倒すための、殺すための魔力。でも、それだけじゃなかった。白魔力は人々の記憶に干渉することの出来るほど絶対的で無慈悲な力でもあったの」


 俺達が疑問を持ったタイミングで、リーナさんは「おかしいとは思わない?」と言葉を紡ぐ。


「そもそもわたし達は『勇者様』は知っていても、その名前を知らないわ。勇者様の名前は、教科書にも載っていない。そうでしょう?」


 リーナさんの問いに、俺達は頷いた。


「そういえばそうだよなァ。勇者様の名前って聞いたこともねぇや」

「むしろこの世界における謎の一つでもあるな」

「そう。謎なのよ。この世界を救い、文化の面でも多大なる影響を及ぼした勇者様達の名前が、どこにも残されていない。知っているのは『勇者』という記号だけ。この世界のどこにも、英雄達の名前は残されていない。これって、とてもおかしなことだと思わない?」


 言われてみれば……変だ。

 影も形もないぐらいに名前を聞かない。


「これがあのダンジョンで研究されていた召喚魔法の力なのよ」

「どういうことですか?」

「これはまだ推測の段階なのだけれど……白魔力は強力であると同時に、人々の記憶にも影響を及ぼす。例えば……召喚した勇者様達が死んでしまうか、この世界からいなくなってしまうと……この世界にいる人々の記憶から、『召喚された者の名前が忘れ去られてしまう』のかもしれないわ。人の記憶だけじゃない。物に刻まれた名前もすべて、『勇者』という記号に置き換えられてしまう……」

「ッ! それって……!」

「そう。世界に干渉するほどの力を持った魔力。目的を果たすとすべて真っ白の状態にしてしまう力。それが白魔力……いいえ。異世界召喚魔法の力だったの」


 そうか……だから今のこの世界に『勇者様』という記号しか残っていなかったのか。

 誰もが勇者の名前を知らなかったのは、そういう理由が……。


「でもこれはおそらく、召喚魔法によって呼び出された者にのみ適応されるのかもしれないわ。あくまでも記憶の消去は、召喚されたことによる副作用みたいなものだから」


 でも、と。


 リーナさんはじっと、俺の方を見る。


「ソウジ・ボーウェンくん。あなた、体の中に魔王の力も抱え込んでいるのでしょう?」

「……はい」

「白魔力と黒魔力。この二つは本来なら相反する力のはず。だからこそ、あなたは過去に黒魔力の『最輝星』で暴走した。今は『星遺物』の力で白魔力の『最輝星』を発動させているけれど……それはつまり、勇者としての力が強くなったということ」

「それが、何か問題があるんですか」

「これまでは黒と白、均等にバランスが取れていたけれど、あなたは『最輝星』を得たことでそのバランスが崩れてしまった。そしてあなたは前世とはいえ、異世界から召喚された人間……召喚魔法の副作用が働いている」

「何が……言いたいんですか」

「あなた、既に記憶に何かしらの影響が出ているはずよ。たぶん……前世としての記憶がより強くなってきているんじゃないかしら」

「っ……それはっ! ただ、思い出しているだけでしょう?」

「本当にそう? 思い出しているだけ? 前世のことが、リアルになって、夢が現実に置き換わっていない?」


 心当たりはある。

 言われてみれば確かに……そうだ。

 今朝も、そうだった。


「やっぱり……既に始まっているのね。記憶の消去が」

「記憶の消去……?」

「これはあくまでも仮説だけど。『転生』というイレギュラーな事態が起こったせいであなたは白魔力の持ち主でありながら黒魔力を持ってしまった。そこに白魔力の『黒魔力を殺す』という特性と、召喚魔法の副作用が合わさって悪影響を及ぼし……あなたの『ソウジ・ボーウェンとしての記憶』が徐々に失われつつあるということ」


 リーナさんの言葉に、俺は心臓を掴まれたような、体が氷漬けにされてしまうような気がした。


「そのまま『最輝星』を……大きくなった勇者の力を使い続ければ、黒魔力を持ったあなたは白魔力の力で記憶を消され続け、前世の記憶しか残らなくなる。つまり、転生して生まれ変わった『ソウジ・ボーウェン』という存在が消滅してしまうのよ」








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