第百三十九話 褐色の男
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「どうした、仇って奴をうつんじゃなかったのか?」
笑っている。
目の前で、親の仇が笑っている。
「ちッ……くしょう……!」
地に伏せ、ただただ拳を握ることしか出来ない自分が悔しかった。
あっという間だった。
ルナとユーフィアを守るために待機していた。いざという時、魔人に対抗できる力を持っているのはソウジと自分だけだから。
外で異変が起こっていることはすぐに分かった。ソウジ達に何があったのかと。隠れ家から少し顔を出そうとした瞬間、悍ましく、かつ覚えのある魔力が近づいてきた。
現れたのは赤の魔人。
親の仇。
すぐに斬りかかった。
だが刃が、攻撃が届く前に…………彼女は言った。
魔神結晶と。
そこからはよく分からなかった。
漆黒に染まった魔力をまとった彼女は凄まじいスピードとパワーで白騎士へと変身したライオネルを蹂躙した。
何が起こったのか分からなかった。
あっという間だった。
あっという間に、地面に這いつくばることになった。
「ハハハハハハハ! なァおい、どうしたんだよ。全然じゃあねぇか!」
かつて両親を手に欠けた魔人が見下している。
それだけで屈辱だった。
自分の力がまったく通用しない。いや、それ以前の問題だ。
「あんまりガッカリさせないでくれよ白騎士。こちとらお前とのバトルを楽しみにしてたんだぜ? なあ、頑張れるだろ? 頑張れるよな? だってほら、アタシは仇だ。アンタの両親の仇。殺さなきゃだよなァ? 今すぐにでもぶち殺さなきゃだよなァ?」
目が徐々に黒く染まっているロートはケタケタと不気味に笑っている。
「ああ、そうだ。アタシとしたことがついはしゃぎすぎた。そうだよなァ。ただでさえ勝っていたおのアタシが。アンタよりも強かったアタシが更にパワーアップしたんじゃアンタにゃ勝ち目はない。もう少しハイリョってやつをすりゃあよかったよ」
「んだとッ……!」
「ゲルプから魔神結晶をもたった時、使い方を教わった時からはやくパワーアップしたくてうずうずしててさァ……こいつぁ失敗だった。ああ、失敗だったさ。だからほら、チャンスをやるよ白騎士」
「チャンス、だと?」
「ああ、そうだ。チャンスだ。大チャンス。アタシに一撃ぶち込みな。アンタの最大最強の一撃だ。避けやしねぇ。受けて立ってやるよ」
さあこいと。自分は避けないと。
そう、宣言するかのように。
ロートは両手を広げている。
「バカに……すんじゃねぇ――――――――ッ!」
力を引き出す。起き上がる。
剣に白銀の輝きが迸り、渦巻く。
渾身の一撃。
必殺の一撃。
両親の仇を撃つために磨きぬいた一撃を。
「『勇龍斬』ッ!」
白い輝きが炸裂した。
迸る爆音。
手ごたえは…………、
「この程度か? オイ」
「ッ…………!」
傷一つすらついていない。
赤の魔神は健在で、魔力で構築した刃は燃やし尽くされていた。
渾身の一撃は届かなかった。
あまりにも簡単に、アッサリと。
防がれてしまった。砕けてしまった。
ショックを受けるよりも先に、どうすれば届くか考える。
回る頭の中で出てきたのは、白魔力をまとったソウジの姿。
ブレイヴモード。
最輝星。
あの力があれば、もしかして。
「ッ……『最輝星』ッ!」
反射的に発動させた。
なぜ自分がこれまで最輝星を使ってこなかったのかすらも、忘れて。
白の輝きが体を覆う。
ロートは楽し気に笑う。予想外の抵抗を見せるライオネルに、笑顔を見せる。
「がッ、あああああああああああああああああああああああああああああッ!」
異変はすぐに起きた。
魔力が制御を外れ、暴走を始める。
ここでようやく思い出した。
ああ、そうだ。これだ。これが原因なのだ。自分が師から、最輝星を使うなと言われていたのは。
まだコントロールが出来ないからだ。
――――復讐だけ目的に戦う者に、白魔力の最輝星は使いこなせない。
師の言葉を思い出す。
なぜだ。なぜだと自分自身の力に問いかける。
復讐を目的に戦って何がいけない。大切な家族を殺されて黙っていろとでもいうのか。
なぜ白魔力は、勇者の魔力はオレに力を貸してくれない。
魔力の暴走に苦しんでいると、心底ガッカリしたような声で、ロートは。
「こいつがてめぇの限界か」
ロートからもたらされた言葉と、殺気立った魔力で頭の中に一つのイメージが刻み込まれる。
――――勝てない。
あまりにも、力が違い過ぎる。
「限界なら、そろそろ死んどけ」
暴走しているとはいえ、今のライオネルは最輝星の状態だ。
魔力だけならば先程よりも圧倒的に跳ね上がっている。
だというのに、あっさりと殺せるという宣言をする。
それが嘘でもなんでもないことはすぐに分かった。
何も出来なかった。何も出来なかったまま死ぬのか。
仇すら打てないまま。
心の中で悔しさを噛みしめる。
どうすることも出来ない中、黒炎が迫る。
「そこまでにしてもらいたいなァ、魔神ちゃん」
聞き覚えのある、声。
刹那、黄の閃光がロートの動きを遮った。
更に周囲の地面から土で構築された鎖が生み出され、ライオネルの体に巻き付いていく。
鎖はライオネルの魔力をすぐに吸収していき、暴走を収めた。
「あ……ぐ……」
ぐったりとしたまま、鎖に巻き付かれつつも介入してきた人物に目をやる。
ここに介入してきた彼は、予想通りの人物だった。
「師匠…………」
「やァ、ライオネル。私のバカ弟子よ。どうやら君はあれから何も成長していないようだ」
紳士服に身を包み、シルクハットを被った褐色の人。
手にはステッキを持っているドワーフ族の男性は、ニヤリと笑う。
「誰だ、てめぇ」
「申し遅れたね、赤の魔人。いや、今は魔神と呼べばいいのかな?」
くるりとステッキを華麗に回しながら、彼は言う。
「私の名はヨーカク。『七色星団』のメンバーで、今はそこにいるバカ弟子の師匠をやらせてもらっている、ただの通りすがりの紳士さ」