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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第八章 ヘル・パーティ
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第百三十六話 ヘル・パーティ③

 邪悪な光が、晴れた。

 目の前に広がっていたのは、墓場のような薄暗い空間だった。


「なんだここは……」


 ネルは確かに叫んだ。『星眷』ではなく……『魔眷』と。

 だとすれば。奴は人間ではなく魔族ということになる。


「あァ、一応言っておくと私は人間よ。最悪なことにね」

「バカな。人間に魔眷は使えない。使えるとすれば星眷魔法のはずだ!」


 フレンダの叫びにネルは嘲笑を浮かべる。


「単純なことじゃない。私は『魔眷』が使える人間よ。ただ、まァ、私にとっては素晴らしいことよ。なんてたって、私がクソッたれな人間とは唯一違う点だと実感できるのだから」


 そもそも星眷魔法とは四種族が魔王に対抗する為に生み出したものだ。対する魔眷は魔族にしか使えない。


(人間でありたくないという奴の願いが……黒魔力をきっかけに何らかの変化を及ぼしたのか?)


 フレンダは驚愕に顔を染めている。とにかく今は仮説を立てることしか出来ない。少なくとも、通常ではありえないということだけは確かだ。


「理由は知らないわ。使えるから使っている。ただそれだけよ」


 ネルが剣を振るうと、周囲の地面が不気味に蠢き、たちまち人の形をした『ナニカ』が生み出された。


「ゾンビ⁉」

「こいつら……大陸に来た時に現れてた……!」


 気がつけば半分が薄気味悪い青に染まったゾンビの群れが、オーガスト達を取り囲んでいた。


「けどよ、こいつらも所詮は雑魚だろ! 一気に蹴散らすぜ!」


 体勢を立て直したレイドは斧を構え、ゾンビの群れに向かって叫ぶ。

 だがネルは嘲笑を浮かべ、


「私は『ヘル・パーティ』というチームを組んではいるけれど、実際のところ『死者の国にて宴をヘル・パーティ』は私一人で成り立つのよ。意味が分かる?」


 死体のように冷たい眼を向けたネルは剣を軽く振るう。その動きに合わせて周りのゾンビ達が一斉に襲い掛かる。


「こいつらを雑魚だと思っていたら、痛い目にあうわよ」

「ッ⁉」


 言葉が真実であることを証明するかのように、群れの中の一体が斧を振りかぶり、レイドの持つ星眷に叩きつける。重苦しい一撃を受けて足元が揺らぐ。が踏みとどまっている。


「重ッ……!」


 フレンダも他のゾンビの攻撃を何とか受け止めてはいるが、苦戦している。それはオーガストも同様だ。

 重く、速い一撃が次々と襲い掛かる。液状化して逃れ、受け流してはいるが……隙が無い。


「こいつら、強い⁉ あの時とは違う……!」

「当然よ。あの時は結界の外だったしね。けど、今は違う。アンタたちは私がさっき展開した結界の中。ここならフルに力を発揮できるわ。呼び出せる死人のランクも上がる」

「死人? 死人を呼び出す能力、だと?」


 ネルの言葉にフレンダはじっと目の前にいるゾンビを観察する。


「ッ! こいつは王都の兵士だった男……!」

 

 今、自分が戦っている相手。それが、かつて王都を守っていた兵士であることに気付く。

 変わり果てているが、フレンダの記憶の中にある男の顔と一致していた。


「貴様ァ!」

「やァね。そんなに怒らなくたっていいじゃない」


 怒りを露わにするフレンダに対し、ネルは残虐な笑みを浮かべていた。


「死者を弄ぶような真似を!」


 同じように怒りに燃えるオーガストは液状化を使って抜け出し、ネルに一直線に突き進んでいく。


「うっ⁉」


 だが、液状化して突き進むオーガストを止めた物があった。


 水だ。


 魔力で構築された水。それによって生み出された壁が、オーガストの進撃を止めた。

 液状化の弱点は、同じ水属性の魔法で干渉されること。そこを見事に突かれた。


「さあ、感動のご対面よ」


 とても人間が浮かべているとは思えないような、歪な笑みを浮かべるネル。

 嫌な予感がする。

 敵が何かする前に駆け出そうとしたが、その前にゾンビの一体が立ちはだかった。


 それがただのゾンビであったなら。


 ただ切り伏せて突破していたことだろう。


 だが、脚が止まる。


 これ以上前に進めない。


 石のように固まって、目の前に現れた人物ゾンビに視線を奪われる。


「母さん…………?」


 長いプラチナブロンドの髪。かつて綺麗だった肌は面影はなく、腐食してボロボロになっている。

 身に着けているドレスは……オーガストの誕生日を祝った時に着ていたものだ。青く、煌びやかなドレスだったのに、今ではボロ布のようになってしまっている。

 眼は虚ろで、魂と呼べるようなものが入っていないことが伺える。


 紛れもない。


 見間違えるはずもない。


 あれは、母だ。


 メリア・フィッシュバーン。


 死んだはずの、オーガストの母親。


「あはははははははは! その、顔! そのおっどろいた顔、いいわねェ! どう? ねぇ、どうだった? 私なりのサプライズ! 気に入った? 気に入ったわよね? そうよね? だって! だって、だって、だって! 死んだアンタの母親が! とても愛していた母親が! アンタを庇って死んだ母親が! こうして、ゾンビとして蘇ったんだから!」


 手を挙げて、万雷の拍手を受けているかのように。

 ネルは笑う。大きく、高らかに。


「きッ……さまァッ……!」


 あまりの怒りに体が震え、槍を握る手が血を流す。痛みすら感じない。それを通り越して、とてつもない怒りがオーガストの体を支配する。


「怒る? どォして? 笑いなさいよ。喜びなさいよ! アンタの愛しい母親が、今! そこにいるのよ⁉」


 メリアは虚ろな目をしたまま、両手に水をまとってオーガストに向かって駆け出した。


「ッ…………!」


 襲い掛かってくる母を前に、オーガストの体は怒りに震えることしか出来なかった。



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