第百三十五話(偽) 帰ってきた! イヌミミ魔法少女マジカル☆くらりっさ
本当の第百三十五話は前の話にちゃんとあります!
もうほとんど終わってますがエイプリルフール短編として投稿。
※割と勢いに任せて書いたやっつけです。
それと遅くなりましたが、書籍版「黒の星眷使い」第二巻、発売中です!
クラリッサ・アップルトンは幼馴染のソウジと共に私立レーネシア学園に通う、魔法少女を兼業している女子高生である。
☆
「いってきまーす」
ちゃんと朝の挨拶をしてから、家を出るのがクラリッサの日課である。
今日も平穏で、ごくごく普通の女子高生らしい日常を送ることの出来る幸せを噛みしめていると、
「……いってきます」
あろうことか一緒に、チェルシーがついてきた。彼女はいぬねこ魔法王国とやらからやってきた精霊という非日常の権化のような存在である。
「いってきますじゃない!」
「……? 挨拶、大事」
「そりゃそうだけどそうじゃなくて! なんで一緒に学校に行こうとしてるの⁉」
「……契約した魔法少女についていくのが精霊の務めだから」
そうなのだ。かくかくしかじかで、クラリッサはこのチェルシーと契約したのだ。魔法少女として。
しかも目的が、地域活性化を目論む魔王オーガストを止めるためなのだという。
そういえば、ちょうど近くにある商店街が最近、活気が衰えてきて心配していたところだと母のディアールが言っていた。ならばちょうどいいではないか。むしろどんどん活性化してほしい。
「契約は破棄するわ」
「……それは出来ない」
「どうしてよ⁉」
「……まじかる☆クーリングオフの期限は過ぎてるから」
「なんでもかんでも『まじかる』ってつけたらいいもんじゃないわよ⁉」
あまりにもてきとう過ぎる。そもそも魔法少女契約にクーリングオフなんてあったのか。というかクーリングオフの使い方を間違えていないかといった疑問も出てくる。
「はぁ……まあ、もういいけど。でもこのまま外に出てもいいの?」
「……どうして?」
「だって尻尾とネコミミなんか生やしてたら騒ぎになるじゃない」
「……大丈夫。他の人には見えないようにしてるから」
「どうやって?」
「……魔法であれやこれやして」
「雑ね⁉」
「……あと、今日はクラリッサのクラスに転校生として来ることになってるから、そこのところよろー」
「よろー、じゃないわよ! え、なにそれわたし聞いてなかったんだけど⁉」
「……よかれと思って」
「ぶっ飛ばすわよ」
と、朝からぎゃーぎゃーと言い争っていると、隣の家から幼馴染のソウジが出てくるのが見えた。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。今日は寄り道せずに帰ってくるのよ」
「分かってるよ」
「あらクラリッサちゃん。おはよう」
「お、おはようございますソフィアさん」
ぺこりと頭を下げる。お隣に住むソウジの母親であるソフィアは、母の昔からの知り合いなのである。
ディアールにも負けず劣らずの美人さんで商店街でも人気者だ。
「あら。そっちのかわいい子は?」
「……チェルシーです。今日から同じ学校に転校する予定です」
「チェルシーちゃん。かわいい名前ね」
「……ありがとうございます」
「ふふっ。ソウジと仲良くしてあげてね」
「……はい。分かりました」
にっこりと微笑むソフィアはかわいらしい。クラリッサの憧れる『オトナのオンナ』であるにも関わらず、少女のような雰囲気すらある。
その後、挨拶もほどほどに三人で学校までの道を歩く。
「それにしてもまさか、同じクラスの転校生を教室に来る前に見ることになるとは思わなかったな」
「……がっかり?」
「いや、そんなことないよ。あ、そうだ。何か分からないことがあったら俺も協力するから、遠慮なく相談してくれ」
「……ありがと」
「ところで、チェルシーさんってクラリッサのコスプレ友達なのか?」
「コスプレ⁉ ちょっと待ちなさいソウジ、どうしていきなりコスプレが出てくるのよ⁉」
ソウジが言っているのはおそらく、先日見られてしまった魔法少女バージョンのクラリッサのことだろう。
変身後に顔がそのまんまでも別人だと思ってくれるなんて都合のいいフィルターみたいなものは全然なく、変身後でもバッチリ正体を知られてしまっている。
「……そうだよ」
「チェルシぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
チェルシーの肩をつかんでがっくんがっくんと前後に振る。
何を言ってくれているのだこのネコミミ精霊は。これでは『部屋で魔法少女コスプレして遊んでるクラリッサちゃん十六歳JK☆』という誤解が更に深まっていくではないか(ある意味、誤解ではないのだが)。
「まぁまぁ。そこまでにしとけってクラリッサ。俺は分かってるから」
「そ、ソウジ?」
ああ、流石は幼馴染。どうやら誤解であると分かっているようだ。
「コスプレ、楽しそうでいいじゃん。別に恥ずかしがる必要はないと思うぜ?」
「ちっがぁあああああああああう!」
違う、そうじゃない。そうじゃないのだ幼馴染よ。
「ただセリフはもうちょっと考えた方がいいかな……」
「それ一番気にしてるところなんだけど⁉」
幼馴染故か、急所を的確に抉っていく。
学校に行く前だというのにライフは0だ。
よろめきながらようやっと学校の前につくと、金色の髪を揺らした清楚な女の子の姿が視界に入った。
「おはよう、フェリス」
「おはようございます、ソウジくん」
にっこりと太陽のように眩しい、魅力的な笑みを浮かべるのはフェリス・ソレイユ。この学園の生徒会長の妹だ。クラスでも人気者の、いわゆる学園のアイドルというやつで、噂ではファンクラブまで出来ているらしい。ソウジとクラリッサのクラスメイトでもある。
「おはよう……フェリス」
「おはようございます、クラリッサ……って、なんだか今日は朝から疲れてそうですね」
「ちょっと色々あってね……」
よもやコスプレ趣味を持ち始めたと誤解された、などとは言えない。
今日はいつもの登校より倍以上のエネルギーを使った気がする。
はぁ、と肩を落としてため息をついていると、見知った顔が近づいてきた。向こうもこちら側に気がついたのか、ぺこりと頭を下げる。
「先輩方、おはようございます」
「おはよう、ルナ」
金髪のツインテールをふわりと揺らしながら、中等部の制服に身を包んでいるのはルナ・アリーデ。クラリッサ達の後輩だ。今年の春で三年生になり、今は友人のユキと共に、中等部の生徒会長として頑張っていると聞いている。母が学園の食堂で働いており、休日になると食堂のお仕事を手伝っている頑張り屋さんだ。
「クラリッサ先輩、なんだかお疲れですね」
「うん……色々あってね」
「そうなんですか。やっぱり高等部ともなると大変なんですね。凄いです」
いや、違う。高等部一切関係ない。……と訂正する気力もない。
「そういえば……そちらの方は?」
フェリスの疑問と共に向けられた視線にいたのは、もちろんチェルシーである。
「……転校生」
「ああ、チェルシーさんですね。職員室で先生が待ってますよ」
「……りょーかい」
頷くと、チェルシーはてくてくと迷いのない足取りで職員室へと向かった。
その後ろ姿を見て、フェリスは「そういえば」と言葉を何気なく漏らす。
「実は今日、わたしたちのクラスにチェルシーさんを含めて三人も転校生がやってくるんです」
「えっ、三人も?」
「随分と偏ってますね」
「そうなんです。しかも、三人とも気がつけば、知らぬ間に転校手続きが済んでいたそうです。それこそ、魔法みたいに」
フェリスの言葉を聞いて、嫌な予感がした。
(まさか……まさかね)
脳裏を過った嫌な予感。ただの妄想で終わってくれと願うばかりだ。
☆
「えー、今日は転校生が三人もいます」
担任教師のプルフェリック先生が開口一番告げた言葉に、教室中がざわめいた。入ってきなさい、という声で三人が足を踏み入れる。
「……チェルシー・ベネットです」
ここまでは分かっていた。うん。分かっていたのだ。
けれど、次に出てきた奴らが問題だった。
「フハハハハハ! 先日この街に越してきた、オーガスト・フィッシュバーンだ! 魔王をやっている。この地域は僕の手で賑わせてやるからな! 覚悟しておけ!」
「同じくレイド・メギラスだ。よろしくなー」
ああ、やっぱり。もっとも当たってほしくなかった予感が的中した。これでも勘はいい方なのだ。
つまるところ、この教室には部屋でコスプレしてダサくて恥ずかしいセリフを言う趣味があると誤解されている魔法少女と、敵である魔王が一緒にいるクラスになってしまったというわけだ。
何より嫌なのは、
(あんな痛々しくてワケの分からない奴と一緒にされるのだけは勘弁なんですけどぉ――――!)
案の定というか、クラスメイト達は困惑している。
中には「オーガストくんとレイドくんだ」「町内会の会合で見かけたよ」「すごくいい人なんだよー。お婆ちゃんのお店を手伝ってくれたり」「あ、知ってるー。うちにも来た。商店街を盛り上げるために頑張って色々考えてくれてるんだって」と言い出す者もいる。というか魔王、めちゃくちゃいいやつだ。
「……今回は一切変身すらしていないけれど、イヌミミ魔法少女マジカル☆くらりっさの戦いは続く」
「勝手に続けないで!」
魔法少女という割に今回、一切変身してませんが続くかは誰にも分からない…………