第百三十四話 ヘル・パーティ①
書籍版「黒の星眷使い」第二巻発売まで一週間切りました!
今週発売です! 発売日は3月25日!
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ダンジョンに突入する直前に現れたゲルプと戦ってからしばらく時間が経った。ダンジョンの様子は分からないが、みんながまだ無事であることは『星遺物』を通じて伝わってくる。
だからこそ、集中して戦える。
ゲルプの作り出す土の刃を切り裂き、加速魔法を使って距離を詰め、頭部に刃を突く。が、ギリギリのところで顔を横に傾けてかわされた。そのまま振り下ろすが、巨体に似合わず素早い。刃を振るった時には既に姿を消していた。
「ほぅ。意外と冷静じゃあないか!」
「そりゃどうも!」
回避行動を終えたゲルプをすぐに捉え、『黒鎖』を展開し、拘束する。
この隙に『アネモイモード』へと変身。鎧が黒から緑に変わり、輝き、剣から弓に変わった『アネモイ・ブレイヴ』を構え、即座に風属性の魔力で構築された矢を放つ。
ゲルプは咄嗟に土の壁を作るが、俺の放った矢は立ちはだかった壁を貫いた。
「なっ!?」
さしものゲルプもこれには焦ったのか、身を捻ってかわす。ここを見逃す手はない。
俺は魔力をすぐにためて再度、風の矢を放つ。直後、矢が拡散する。無数の矢がゲルプを襲い、生み出す壁を次々と破壊していく。生じた隙を狙われたせいか、ゲルプは舌打ちをしながら両腕をクロスして身を守る体勢に入る。
全身に矢が突き刺さっていくゲルプだが、直後に魔力を放出して刺さった矢を無理やり吹き飛ばした。
魔力放出の衝撃波が離れている俺のもとまで広がり、あまりの衝撃に体のバランスが崩れかかるが……地面をしっかり踏みしめて耐える。
ゲルプは矢を排除することに成功したものの、刺さった部分からは傷口が生まれいる。
『ストライク』タイプの魔法を使わず、通常攻撃だけでここまで魔人を追い詰めることが出来たのははじめてだ。魔王との戦い、『最輝星』の発動を経て強くなっている。
一人じゃこうはいかなかった。みんなのおかげだ。だからこそ、はやく助けに行かなければならない。
「前に戦った時よりも成長しているなァ……黒騎士よ。不完全な器だったとはいえ、魔王様を退けただけのことはある」
「だったら大人しく倒されてくれないかな。先を急いでるんだ」
「それは出来ぬ相談だ。それはお前も分かるだろう?」
ゲルプにはまだ余裕があるように見える。魔力を温存して『アネモイモード』で倒したかったが、これ以上の決定打は望めそうにない。
ならば、やることは一つだ。
「ああ、そうだな。だから……そろそろ倒させてもらう!」
『星遺物』に魔力を込める。
緑色の魔力が色を変え、みんなが俺に与えてくれた白銀の輝きが迸る。
「――――『最輝星』ッ!」
爆発したかのような魔力の奔流が俺を包み込み、かつて勇者と共に戦ったものを再現した『星霊天馬』が召喚された。
勇者と魔王。二つの相反する力を持つが故に暴走する俺の星眷魔法の『最輝星』を安定化させるための術式を内包した、ある種の拘束具。
「そうはさせん!」
ゲルプが変身を妨害するために巨大な土の斧を生み出し、俺の頭上に振り落とす。が、天馬が土斧を突進して粉砕する。そのまま天馬は突進攻撃を繰り出し、ゲルプはかろうじて土の壁を出して防御するが、体勢を崩す。
天馬は突進を終えるとそのままの勢いで俺に突き進み、魔力の塊と化して鎧を包み込んだ。
緑から白へと色を変え、『ブレイヴモード』へと変身する。背中に六枚の羽が展開され、俺は地面を蹴って飛翔した。
「むゥッ……!」
「一気に決着をつける!」
空中から弾丸の如く駆け抜け、降下する。ゲルプは土で剣や斧、槍とあらゆる刃を取り揃えて投擲してくる。が、突き出した俺の拳はあらゆる刃を真正面から粉砕した。
『最輝星』のエネルギーを凝縮し、まとったこのモードは全身が武器みたいなものだ。ただのパンチ一つが『デヴィル・ストライク』にも匹敵する必殺の威力を持っている。今更この程度の攻撃で止まるはずがない。
かわす余裕がない程の速度で真っすぐに突き進んだ俺の拳はゲルプの腕を削る。浅い。だが、白魔力によるダメージは確実に効いている。
このまま押し通せば……勝てる!
「そこを……どけぇッ!」
地面を踏みしめ、拳を振るう。さっきまでとは違ってスピードも上がっている。かわされるが、掠りはする。掠りさえすればダメージは着実に溜っていく。
拳や脚を武器にしてゲルプに叩き込み、徐々に追い詰めていく。
ゲルプの主な戦い方は土で作った武器を放つもの。ゼロ距離まで一気に近づけてしまえばこちらの方が有利だ。
一撃一撃の小さなダメージを蓄積させて動きを削っていく。伴って、ゲルプの動きも鈍くなっていく。
「はァッ!」
左拳を叩きつける。動きの鈍ったゲルプにかわすことの出来ない速度。
白銀の拳が魔人の、鎧のような腕に叩きつける。たちまち腕に亀裂が走り、魔力が血のように噴き出した。はじめてはいった手ごたえのある一撃。
このまま押し切れば勝てるというイメージが強くなる。
(いや、勝てるじゃない…………勝つんだッ!)
必殺の一撃を放つべく、右拳に魔力を集約させる。背中の翼が分離し、拳周辺に集まり、キラキラと輝く白銀の粒子が噴出した。
「『魔龍星拳』!」
ゲルプに向かって放たれる流星の一撃。
ダメージを蓄積させた今の魔人に回避することは不可能。
あとは頭部に叩き込み、粉砕するだけ。
これで終わる。
魔人を倒せる。
――――はず、なのに。
(なんだ……この、嫌な予感……!)
暗いイメージが脳裏を駆け巡る。さっきまでの勝てるという強いイメージが霧散する。
それを表すかのように。
ゲルプが、笑った。
「『魔神結晶』」
魔人が発した一つの言葉の正体を俺は知っている。
詠唱だ。
それも、聞き覚えのある。
ゲルプが笑みを浮かべた理由を理解した時にはもう遅い。
黒い嵐が彼の体を包み込み――――『魔人』が『魔神』へと姿を変えていた。
☆
オーガスト達は薄暗いダンジョン内を進んでいると、一人の女性が目の前に立ちはだかっていた。
まとっている殺気や魔力からして味方でないことは一目で理解できた。オーガストとレイド、フレンダはユキを背後にやり、並び立つ。
「見たところ、迷子というわけでもなさそうだな。『再誕』のメンバーか」
フレンダの問いにネルは頷いた。
「まあ、そうね。わたしはネル。メンバーっていうか、正確には愛しい愛しいロート様の部下だけど」
ロート。赤の魔人だ。
「その名前が出てきたっつーことは確定だな、オーガスト、フレンダ」
「ああ。僕達でこいつを倒すぞ」
「了解した」
「おうよ!」
目の前のネルを敵と認定した三人は魔力を高めていく。
「『アクエリアス・グラキエス』!」
「『ヘルクレス・アックス』!」
「『ピスケス・リキッド』!」
フレンダはみずがめ座の星眷魔法を、レイドはヘルクレス座の星眷魔法を、そしてオーガストはうお座の星眷魔法を眷現させて三人で戦闘態勢に入る。
水を生み出して攻撃の機会を伺っていると、目の前の女がピクリと眉を動かした。
「へぇ……『皇道十二星眷』。うお座の星眷魔法を使うオーガストくん、ね。事前に確認していたとはいえ、本当にアンタがそうなんだ。こりゃまた懐かしいものが出てきたものだわ」
「……なに?」
「懐かしい、って言ったのよ。十二家の人間と戦ったのは、二度目だし」
「どういう、ことだ」
どくん、と。
心臓の鼓動が跳ね上がる。ネルの言葉が幼い日の記憶を刺激し、直感で理解していく。
僕は、こいつを知っている。こいつの声を。
幼き日の記憶――――母が死んだときの記憶。
自分を守りながら戦う母の体を、黒い閃光が貫いて。
――――オーガスト……自分を責めないで。憎まないで……。
どんどん体が冷たくなっていく母が最期に言い残した言葉を思い出す。
汗が滝のように流れ出る。
視界がぐらぐらと揺らいでいく。
「私の仲間は魔族なのよね」
ネルは動揺するオーガストの顔を面白がるように笑いながら、何気なさそうに言葉を零した。
「だから二人とも黒魔力を持っている。でも、私は違う。私は人間よ。あの二人とは違う。けどまあ、人間である私にも、あいつらとの共通点があるのよね。それが、これ」
不気味な笑みを浮かべるネルの手に、黒い魔力の光が灯る。
「くろ……魔力……?」
「そう。私は人間よ。人間だけど、黒魔力を持っているの。珍しいでしょ? まあ、アンタたちからすれば珍しくないかもね。ソウジ・ボーウェンが黒魔力だったはずだし」
「貴様とソウジを一緒にするな!」
怒りのままに水の刃を叩きつける。だがネルは単調な攻撃をひらりとかわす。
面白がって笑う女に苛立ちが募る。
どくん、どくん、どくんと心臓の鼓動が加速していく。
嫌な、予感がする。こいつは、こいつは、こいつは――――!
「キレる若者ってやつぅ? 面倒ねぇ。ああ、話の続きね。……私は人間だけど黒魔力を持っている。そのせいでまあ、苦労したわ。子供の頃から。特に私は王都にある『下位層』の生まれだったし、なおさらね。『太陽街』の連中をいつか殺してやろうって毎日考えてたものよ」
「『下位層』出身の黒魔力を持つ人間……まさか、貴様!」
隣にいたフレンダがピクリと反応を示す。彼女も同じ結論に思い至ったようだ。
過去を知るレイドも顔を強張らせる。
予感が確証へと変わっていく。
「ええ、そうよ。何年前か忘れたけど、まあ、昔ちょっとフィッシュバーン家に乗り込んだ時があってね。確か、一人殺したはずよ。ていうか、オーガスト。アンタ、あの時の子供でしょ? 私のこと、覚えてるかしら?」
ニタリと笑うネルに、ついに確信する。
七歳の誕生日。母を殺した、『下位層』出身の黒魔力を持つ人間が、目の前にいる女だと。
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