第百三十三話 トリック・オア・トリート③
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「どこですかねぇ?」
ウリングはケタケタと笑いながら、逃げた二人を探していた。探しているとはいっても、遊びのようなものだ。それに、相手はそう遠くまで逃げていない。目的がラナ・フェリーの救出と分かっているのならば待ち伏せしていればいいのだ。
「……うん?」
突如、索敵に出しているゴーストの何体かが爆ぜた。
生み出したゴーストの位置は手に取るように分かる。どこで破壊されたのかも。
どうやら引っかかったらしい。ニタリと笑みを浮かべていると、
「…………ッ⁉」
隣の通路から、闇の中でエメラルド色に光る風の矢が飛んできた。
予想外な方向からの攻撃だったので反応が僅かに遅れたが、邪人化によって強化された体はかろうじて矢を避けることに成功した。
体に染みついた迎撃行動で反射的に矢が撃ち込まれた方向にゴーストを殺到させる。爆発音が鳴り響くが、手ごたえがない。
かと思ったら、今度は背後から風の矢が何本も撃ち込まれてきた。防御壁を張るが、いくつかは防ぎきれずに体に突き刺さる。
「ちぃっ!」
矢を引き抜き、砕き、舌打ちする。
通路の方を睨みつけるが……気配がない。そうしているうちにまた別方向から矢が放たれ、反応し、防ぐ。一度防いでもまた次々と様々な角度から矢が襲ってくる。
これは、
(矢の軌道を曲げて多方向からの攻撃を……!)
小賢しいまねを。
しかし、どうやってこちらの位置を把握しているのか……。
「……空気、ですか」
腕を鞭の形状に変化させ、矢を叩き落としながら冷静に状況を分析していく。
相手は風属性の魔力を持っている。しかも、ダンジョン内部の複雑な構造に合わせて矢の軌道を細かく変えることが出来る程の技量を持つ。それほどの実力者ならば風の魔法を応用し、空気の流れを事細かに読み取ってこちらの位置を掴むことも可能。
風属性を専門としていないウリングはこのような芸当は真似出来ない。
とはいえ、腕を鞭に変化させ、叩き落とすことで矢への対処法は見つかった。邪人化に伴って魔力も爆発的に増え、再生能力も身に着けた。対して、あちらの片方は怪我人だ。このまま長期戦にもつれこんでもこちらが有利。
「まァ、それだけだとこっちの気が済まないんですけどねェ!」
ゴーストは次々と破壊されているが、範囲から位置は大体掴めてきた。
放たれる矢を叩き落とし、軌道を読み、距離を詰めていき――――小賢しい矢を撃ってくる半獣人の姿をようやく捉えた。
「さあ、鬼ごっこは終わりですよォッ!」
丁度通路は一本道。風の魔力を操る半獣人の背後には壁しかない。
「ヒヒヒ、自分から追い詰められるような位置にいるとは愚かですねェ! 汚らしい半獣人の考えることは分かりませんよ!」
言い放ち、大量のゴーストを生み出す。膨大な魔力に物を言わせてこのまま道を埋め尽くす程のゴーストを爆破させ、念入りに吹き飛ばす。
…………いや待て。
目の前にいるのは、あのネコミミ少女のみ。もう一人はどうした。腕を怪我している方は。
罠かという疑惑が頭の中を過った時、チェルシーが再度、矢を放ってきた。矢は途中でばんっと爆ぜ、眩いばかりの光がウリングの目を覆う。
「ぐあっ⁉ め、目くらまし⁉」
視界を奪われたものの、邪人化の影響で視力はかろうじて残っている。
薄い視界の中――――上の方から、爆発的な魔力を感じた。
「上……だとぉ!」
はっとして顔を上げると、そこには風の魔法で天井に待機していたクラリッサの姿があった。
腕が使い物にならなくなっているやつが何を。いや、脚に何かついている。
杖だ。
彼女の星眷魔法によって眷現された杖が脚に無理やり魔力で括り付けられて、固定されている。
「今よ、チェルシー!」
「……りょーかい」
合図と共に、チェルシーは風の魔法を操作し――――クラリッサを、ぶん投げた。
☆
チェルシーは風の魔力で空中に浮遊させ、待機させていたクラリッサをぶん投げた。
いや、正確には風の魔法でクラリッサの体を矢の如く放ったと呼ぶべきか。
クラリッサは脚に無理やり魔法で括り付けた杖を突きだし、飛び蹴りの姿勢で突き進んでいく。
そう。これがクラリッサの提案した突破口である。
まずはチェルシーの星眷魔法で敵を攪乱。軌道を自由自在に変化させることの出来る矢を巧みに操り、多方向からの攻撃を仕掛け、この一本道まで誘導させる。
次に、浮遊魔法で空中に待機させていたクラリッサを矢にして、敵に向かってスピードを乗せて『撃つ』。
「む、無茶苦茶な!」
「無茶苦茶上等! 手が出せないなら足を出せばいいのよ!」
脚に括り付けられた杖より雷が迸り、クラリッサを包み込んだ。
風と雷の混合魔力に身を包んだクラリッサは一本の矢と化してウリングに向かって全力のキックを叩きこみに行った。
クラリッサが提案した、「腕が使えないなら脚に杖を固定して飛び蹴りを叩きこめばいいじゃない」作戦である。
そりゃ無茶苦茶だ。頭がおかしいともいえる。
正直、敵に同情するレベルである。
まさかこんな無理やりすぎる方法で攻撃してくるなんてまるで思わないだろうから。
とはいえ実際、クラリッサの星眷魔法による雷は杖から出しているものだ。
よって、腕が使えない以上、杖を体に固定して攻撃するというのはまあ分からなくもないが、まさか自分ごと撃ち出した上に必殺キックを叩きこもうなんて言い出すなんてチェルシーとて思わなかった。
「く、くそぅっ!」
ウリングは焦ったようにゴーストを盾にして展開した。左右に対する逃げ場を失った一本道。盾を出して逃げることしか出来ない。
けれど、今や疾風迅雷の矢と化したクラリッサは大量のゴーストを貫いて一直線にウリングへと突き進んでいく。防御壁を展開しようと、雷属性の魔力によって貫通力を高めた一撃を防ぐには足りない。
子供達のゴーストを貫くクラリッサの表情に悲しさを読み取ったが……すぐに気持ちを切り替えていることも、分かった。
今は、相手を倒すことに集中する。
「いっけぇええええええええええええええええ!」
ゴーストによる爆発からはチェルシーの風の魔力が守り、ただひたすら真っすぐ進む。
ウリングはゴーストが役に立たないことをさとると舌打ちし、真正面から風と雷の混合矢を両手で受け止めた。
だが基本的にはゴースト頼みで本体にそこまでの力はないのか、触れた瞬間に嵐のように吹きすさぶ混合魔力によって消滅していく。
「ち、畜生! こんな……こんなわけもわからない、無茶苦茶な魔法でぇえええええええええええええ!」
ある意味、同情出来る断末魔を響かせ、ウリングは消滅した。
クラリッサはというと、着地の際に上手くバランスが取れなかったのかすっ転んでいる。
「……倒したわ!」
ぶいっと地面に寝ころびながらピースサインを送るクラリッサ。
それを見て、チェルシーはふっと柔らかい笑みを浮かべる。いつもの、クラリッサだ。
「だいしょうりね!」
「……うん。だいしょうり」
とはいえ、ここからどうするかだ。
クラリッサは両腕に怪我を負っている。今の敵は何とか倒せたが次もどうにかなるとは限らない。
「…………脱出は……多分、無理」
上には魔人達がいる。ならばどうすれば……チェルシーに出来るのは、応急処置レベルの回復魔法のみだ。本格的に治療してもらうとなると、ユキの回復魔法が必要だ。
「……クラリッサ、ユキのところに行こう。回復魔法で腕の傷を治してもらう」
「そんなことしてる暇はないわ! って言いたいところだけど、うん。その方がいいみたいね」
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