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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第八章 ヘル・パーティ
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第百二十八話 ジャック・オー・ランタン①

書籍版黒の星眷使い、発売まで一週間を切りました!

既に特典の詳細や画像もMFブックス様や各種サイトの方でも公開されているようです。

書き下しもたくさんの書籍版は12月25日発売です!


よろしくおねがいします!

「兄さん⁉」


 クリス・ノーティラスを含むリーナ・フェリー探索チームのメンバーが異変に気付いたのは地上から不気味な魔力が発せられた時だ。そのあとすぐにクリスたちが入ってきた穴が塞がったと同時に地上に残ったソウジに何かあったのだということを理解する。


「え、エドワードさん、兄さんは⁉」

「魔人だ。魔人が現れた。そいつと戦うためにソウジは残ったんだ」


 魔人。以前、学園を襲撃してきた人ならざる者たち。あの時、ライオネルやソウジがラヴァルスードと戦っている際、学園の各地で暴れる魔人や『再誕リヴァース』メンバーの邪人たちに対して、生徒会や風紀委員会、上位ギルドのメンバーと協力してクリスやフレンダは一戦交えたことがある。魔人の力は凄まじく、倒すことはおろか戦うのがやっとだった。こちらの攻撃でダメージを与えられたとしても、相手はすぐに再生してしまう。後に聞いた話でかつてこの世界を救った勇者が持っていたとされる白魔力があってはじめてダメージを与えられるのだと知った。


 ソウジはその勇者の転生した存在だということで魔人と戦うための術は持っている。だからこそ残ったのだろう。それはわかる。実際、自分たちの中だったらソウジかライオネルが魔人と戦うのが適任だ。それもわかっている。でも、納得はできない。


 どうして自分の兄なのだろう。どうしてソウジが戦わなければならないのだろう。なにもソウジでなくていいはずだ。大好きな兄が傷つく必要はないはずだ。戦うのなら他の誰かではだめなのか。どうしてみんな、ソウジが戦うことをさも当然のようにしているのだろう。

 クリスにはそこが、納得できない。

 できることなら逃げてほしい。もう傷つく必要なんて、ないのだから。あの家から解き放たれたソウジはもう、幸せになってもいいじゃないか。


「クリスさん?」

「あっ……フェリスさん……」

「ソウジくんが心配なのはわかります。でも今は、わたしたちにできることをしましょう。それがソウジくんを助けることに繋がるはずです」

「…………はい」


 フェリスの理屈は正しいのかもしれない。けれど、やはりクリスには納得ができない。なぜならフェリスの言う理屈は結局はソウジに任せることになる。ソウジを傷つける選択だ。


「それなら、当初の予定通り僕たちはルートごとに分かれよう。フェリスさんの言う通り、ここは僕たちにできることをしなくちゃね」


 エドワードの言葉に頷いた面々は、ルートごとに分かれて歩き出した。リーナは魔王を倒す手掛かりに繋がるかもしれない女性。ここで失うわけにはいかない。エリカがいるかもしれないとはいえ、楽観的になるのは危険なのだから。


「行きましょう、クリスさん」

「は、はいっ」


 クリスはフェリスと共に四つあるうちの一つのルートへと向かう。発見されたばかりの地下遺跡ダンジョン。油断は禁物だと自分に言い聞かせる。余計なことを考えている場合ではないのだから。


「…………」


 警戒しながらダンジョンの探索を進めていく。周囲を見てみると、所々に文字のようなものが彫られているのがわかる。クリスにはよくわからないが、魔王がいた時代に使われていた文字なのだろうか。なにが書かれてあるのかさっぱりだ。

 周りに視線を向ける際、ふと目の前を歩く少女を眺める。後ろ姿だけでも綺麗だな、と思わず声を漏らしそうになるような女の子。金色の髪が歩くたびに自然に揺れる。

 目の前の人が、幼少のころにソウジと会っていたひと。ソウジを支えていたひと。

 そしてきっと……ソウジのことを好きであろうひと。

 なのに、どうして。


「……フェリスさん」

「なんですか?」

「さっき、どうして兄さんを助けようと動かなかったんですか?」


 余計なこと。集中力を乱すだけの無駄な質問なのだとわかっていても問わずにはいられない。


「学園祭の時、『魔人』と戦ったことがあるからわかります。いくら兄さんでも……危険です」

「それは……」

「フェリスさんもわかっているんでしょう? それなのにどうしてなんですか? どうして兄さんが……また、傷つかなければならないのですか?」

「クリスさん……」

「兄さんはあの家でずっと傷つけられてきました。もうあの家から解放されたのに。傷つかなくていいはずなのに。なのにどうしてみなさんは……フェリスさんも、ギルドのみなさんも、ソフィアさんも、七色星団のみなさんもどうして……兄さんが戦うことが当然のようにしているんですか? 前世が勇者だからってそんなこと関係ありません。もう兄さんはわたしの兄さんです。もうこれ以上……充分に傷ついた人を、戦わせなくてもいいでしょう?」


 ずっともやもやしていたことをようやく吐き出せた。

 そうだ。ソウジが戦わなくてはならない理由なんてない。わざわざソウジ一人が傷つく理由なんて。あんな危険な魔人と戦う理由なんて、ないのだ。


「…………そうですね。きっと、ソウジくんが戦う理由なんて、ないのだと思います。あの時も本当ならもっと強く止めるべきなのかもしれません」

「だったらっ」

「でも……ソウジくんは、きっと…………」


 クリスの問いにこたえようとするフェリス。が、クリスはフェリスと同時に何者かの気配を察知する。感じ取った気配の方向へと視線を向けようとするがそれよりも先に真っ黒な炎の塊が放たれていた。


『ッ!』


 クリスはフェリスと同時に飛びのくと、先ほどまでちょうど二人がいた場所に炎塊が着弾した。派手な爆発と共に地面の一部が抉り取られる。


「ふむ。反応速度はなかなかのようだな」

「誰ですか!」


 クリスの問いにこたえるかのように、ダンジョンの奥にいる闇から音もなく一人の男性が姿を現した。

 紳士的な物腰に鋭い眼光が特徴的な男だ。

 

「まさか……『再誕リヴァース』の?」

「然り。我は赤の魔人ロート様に使えるしもべが一人。『ヘル・パーティ』のメラド」

「『ヘル・パーティ』? 魔人の部下ということですか?」

「然り。小娘共よ、貴様らにはここで死んでもらう。リーナ・フェリーを探されるのは――――ましてや、生存させられるのはこちらとしては不都合なのでな」


 やはり今回の一件には『再誕リヴァース』が絡んでいた。だが、今はそれよりも気になることがある。クリスにとっては、とても気になることが。


「あなた……今の魔力は……」

「ふむ。クリス・ノーティラス。……ああ、そういえば貴様の兄が黒騎士だったな。なるほど。気になるわけだ。我の『黒魔力』が」

「ッ…………!」


 目の前にいる男――――メラドの発する魔力の色は、世界で一番大好きな存在である兄と、同じ色をしていた。ソウジの魔力は温かくて好きだが、この『色』の魔力には嫌な思い出がある。ソウジが追い出された、あの日のことが脳裏を過る。

 そうだ。フェリスさんはあの日の兄さんを見ていないから……家にいた頃の兄さんを見ていないから、兄さんにすべてを押し付けていられるんだ。

 心が荒んだせいか、つい変なことを考えてしまう。

 クリスは全身に魔力を滾らせながら、メラドに向かって地面を蹴る。


「ッ! クリスさん、なにを⁉」


 なにを? それはこっちのセリフだ。なんて悠長なセリフを言っているのだろう。


「あいつを倒します! はやく倒して、兄さんのもとに!」


 紫色の雷属性魔力が唸り響く。強くなりたいと願い、鍛錬し、ようやく得た力を解放する。


「いきます! ――――『タウロス・ストリエル』ッ!」


 詠唱が完了すると、クリスの手の中に紫色に輝くレイピアが眷現する。

 皇道十二星眷の一つ。バウスフィールド家が有する『おうし座』の星眷。


「ほぅ。ソードタイプか。『星眷魔法』の原典が剣の形だったために剣の形状をした星眷がもっともランクが高いと聞くが……なるほど。やはり間違いではないらしいな」


 現在の星眷魔法は、かつて生み出された世界初、一番最初の星眷魔法である『原典』に何重ものリミッターをかけて生まれたものだ。強力な力を持った『原典』は人には扱いきれないからだ。『最輝星オーバードライブ』はリミッターの解除ではあるが、それはつまり『原典』に近づくということを意味している。

 その『原典』となる最初の星眷魔法は剣の形をしていたとされており、故に『原典に近い』がために剣の形状をした星眷は最上級のランクを誇る。

 バチバチと閃光を迸らせる『剣』を、一時期は憎みすらしたことのある星座の力を握りしめ、地を蹴り跳躍する。


(こいつを倒せば……少しでも兄さんの危険が減る!)


 世界で一番大切な人のことを思い出し、魔力を更に高めていく。プラスの感情は魔力を高める一つの方法だ。クリスのソウジへの思いに呼応するかのように高まった雷が剣先へと集中されていく。


「『紫雷刺貫パープル・ピアストローク』!」


 雷の如く放たれた一撃に対してメラドは即座に対応する。黒魔力を一瞬で高めると目の前に薄黒く、顔の彫られた大きなカボチャを眷現させる。


「『ジャック・オー・ランタン』」

「ッ!」


 おそらくその名はメラドの持つ星眷、否、『魔眷』の名。現れたカボチャはガパッと口を開くと黒炎を吐き出した。雷と炎が激突する。スパークが起こり、閃光と魔力片が飛び交う。クリスの放った一撃はメラドの炎を貫くが、その先には誰もいない。

 気づいた時にはもう遅かった。自分は跳躍して今の一撃を放った。メラドは魔眷によって黒炎を吐き出したのは、空中にいる僅かな間、身動きの取れないクリスの視界から逃れて隙を突くため。

 視界から消えたメラドは既に、クリスの背後にまわっている。

 今の一撃に集中していたうえに雑念もあり、警戒していたと思っていたのに実は注意力散漫だった今の自分に防ぐ手段は、ない。


(しまっ――――――――⁉)


 どうして自分はこんなミスをしてしまったのだろう。こんな初歩的でくだらないミスを。

 やっと会えたのに、これではまた離れ離れだ。それも今度は永遠に。


(兄さん……!)


 目を閉じる。ソウジのことを思いだす。だが、炎がクリスの体を焼き殺すことはなかった。


「『ヴァルゴ・レーヴァテイン』ッ!」


 紅蓮の焔をまとった少女が、クリスの背後に現れてメラドの炎を押しのけたからだ。

 着地し、すぐそこまで迫っていた死にぞっとしながらギリギリのところで得た生をかみしめる。


「フェリス、さん?」


 助けられた。助けてもらった。ソウジにすべてをおしつけているひとに。


「クリスさん。確かにさきほど、わたしたちは魔人と戦うソウジくんを助けるために動くべきだったのかもしれません。魔人と一人で戦おうとするソウジくんを止めるべきだったのかもしれません」

「え……?」


 フェリスが言っているのはさきほどの質問のことだということなのだと理解するのに一瞬の間が空いた。


「でも、わたしたちが止めても、きっとソウジくんは一人で戦ったと思います」

「…………兄さんが?」

「はい。ソウジくんはそういう人ですから。これまでもそうでした。わたしたちを危険なめに合わせないようにと一人で背負いこんでいました。でも……今は違います。こうして、わたしたちを頼ってくれています。わたしたちがリーナさんを見つけてきてくれると信じてソウジくんは魔人と戦ってくれているんです」


 フェリスはじっと目の前の敵を見ている。そこに一切の迷いはない。なにかを信じてまっすぐに進もうとしている目だ。


「確かにソウジくんは今までたくさん傷ついてきました。わたしが知らないだけで、もっとたくさん……クリスさんはそんなソウジくんをずっと、わたしたちよりも多く見てきたからこそ、心配なんだと思います。でもソウジくんはみんなを守るために自分が傷つく道を選ぶ人なんです。わたしたちがどれだけ止めてもその道を選んでしまう……だから、決めたんです。一人にさせないって。一人で傷つこうとするソウジくんを助けて、支えるって。勇者のことも、魔人や魔王のことも、ソウジくんだけに押し付けさせません。わたしたちみんなでやります。そう決めたんです」


 ああ、そうか。この人は信じているんだ。ソウジが魔人を倒してくれるって。信頼、しているんだ。

 だからこそ、今は目の前のことに集中しようとしているんだ。ソウジ一人だと魔人を倒すこととリーナさんを探すことを二つとも一人でやらなくてはならない。けれど、だからこそみんなでやるんだ。

 ソウジ一人に押し付けさせない。できることをする。

 少しでもソウジの負担を減らす。

 一人じゃない。みんなで進んでいく。

 お互いにできると信じているからこそ進んでいけるんだ。


「……ごめんなさい、フェリスさん。わたし、勘違いしていたみたいです。みなさんのこと。兄さんのことも」

「クリスさん……」

「みなさんは兄さん一人に押し付けていたんじゃないんですね。兄さんと一緒に歩くと決めたからこそ、やるべきことをしているだけだったんですね」


 簡単なことだった。誰も押し付けてなんかいなかった。自分が傷つく道を、ソウジ自身が選んでしまう。ソウジが選ぶ道がわかっていたからこそ、こうして支えているのだ。

 なら今自分がすべきことは?

 簡単だ。兄を支えることだ。世界だ一番大好きなお兄ちゃんを助けることだ。


「……まったく、困ったお兄ちゃんです」

「ふふっ。そうですね。妹さんとしては、少し大変なお兄さんかもしれません」

「はい。でも……だからこそ、わたしも助けたい。兄を支えたい」

「では、一緒に支えましょう。そのために、まずは目の前の敵を!」

「はいっ!」


 迷いは消えた。今度はさっきのような無様な姿は、晒さない。




書籍版黒の星眷使い、発売まで一週間を切りました!

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