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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第八章 ヘル・パーティ
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第百二十六話 心の整理




 リーナさんを助けにいくことは確定事項ではあるのだが、このままむやみに突っ込んでもダメだということでまずはダンジョンの情報を集めることになった。とはいえ、そのあたりのことはエドワードたちがやってくれているらしく、俺たちは体を休めておいてほしいとのこと。

 実際のところは助かる。みんな長旅で疲れているだろうし、これからおそらく『再誕リヴァース』との戦いになる。敵は『邪結晶』を持っている。対抗できるのは俺やライオネルだけだ。ごく一部の例外を除いて、普通の魔法使いや星眷使いでは対抗できない。

 とはいえ。

 とはいえ、だ。

 エドワードたちが情報を集めてくれるとはいっても場所は発見されたばかりの未知のダンジョン。ケイネスさんたちからもたらされた数少ない情報によると、広さはかなりのものらしいし、そうなると俺とライオネルの二人だけで探すのは手間がかかる。もしかしたら手遅れになる可能性もあるので明日、エドワードやケイネスさんを含むみんなで手分けしてリーナさんの探索をすることになった。


 用意された隠れ家で一夜を明かすことになり、就寝した。が、俺はどこかざわざわとした胸騒ぎのようなものを感じて眠れなかった。一人だけ布団から出て、部屋から去る。外の風を吸いに……というわけにもいかないか。

 なんとなく辺りを見渡していると、薄暗い部屋の中で人影を見つけた。この場所を知った敵が来たのか、という考えが一瞬だけ過ったが、違った。


「ルナ……?」

「あ……ソウジさん」


 持ってきたらしい寝間着に身を包んだルナが、暗い室内で一人ソファに座り込んでいた。明かりをつけようと魔法を使いかけたが、


「あの、大丈夫です。このままでも」

「それならつけないけど。どうしたんだ? こんな夜中に」

「少し、考えごとをしてました」

「考えごと?」

「はい……。あ、よければ隣、どうぞ……」

「じゃあ失礼しようかな」

 

 勧められたので俺はルナの隣に座る。彼女の肩が触れてしまいそうなぐらいの近い距離だからか、薄暗い室内でも横顔はよく見える。表情にはどこか陰りのようなものがあるのを感じた。


「…………わたし、正直まだ混乱してるんです」

「それって……」

「はい。わたしが、その……魔族とのハーフだとか、そういう話です。『巫女』のことに関しても、そうなんですけど」

「まあ確かにいきなりすぎたよな……色々と」


 自分は『半魔族ハーフ』で、『巫女』で、今まで親から捨てられていたと思ったのに、実は両親はルナを守ろうとしてくれた。そのために自分たちの命を犠牲にした。ブリジットさんはルナの記憶を書き換えていた。

 悪い言い方をすれば、騙していたということになる。

 確かに、一気に色んな情報が押し寄せてきて自分だけでは処理できないのだろう。


「正直、未だにわたしには『巫女』という力があって、それでソウジさんを助けてきたなんて……信じられないんです。わたしは今まで魔法が使えなくて、色んな人にバカにされて、逃げるためにわたしは……学校を辞めました。わたしは、弱いんです。ソウジさんたちみたいに強くなんかないんです。だから信じられないんです。わたしに何か力があるなんて……」


 そういえば、『巫女』の力を使って俺たちを助けてくれた時は、いつもルナ本人はそのことを覚えていなかったっけ。自覚がないのも当然か。


「混乱するのはわかるし、実際に俺も前世の記憶を取り戻してからはしばらく混乱してたよ。でも自分の中で少しずつ折り合いっていうか……なんていうのかな。受け入れて、心の整理をすることはできた。だからルナも、少しずつ心の整理をしていけばいいんじゃないかな。たとえどんなことがあったってルナはルナなんだし」

「そう……でしょうか」

「そうだよ。だって、俺から見たらルナは何も変わっていないしさ。そりゃ、内心は色々と考えてるんだろうけど。でも、俺たちからしたらいつものルナだよ。たとえ『巫女』だろうが『半魔族ハーフ』だろうが、そこは変わっていないから。だから、安心して悩んで、考えて、心の整理をしてくれていいから」


 あくまでも他人である俺が言っても、何の解決にもならないのかもしれない。でも、ルナがたとえどんな存在であろうとも、俺たちはルナのことをしっかりと受け止めるってことを知っておいてほしかった。


「……そうですね。わたしは、わたしです」

「ん。そうだよ」


 ふっと柔らかく微笑んだルナを見て安心する。


「ああ、そうだ。それとさ、さっきルナは俺たちのことを強いって言ってたけど……別に、そうでもないよ。特に俺なんか」

「そうですか?」

「そうだよ。実際、つい最近だってかなり悩んで、落ち込んでただろ。我ながらボロボロのフラフラでさ」

「あ…………」


 ラヴァルスードに言われ、俺の持つ力が魔王の物と同じことだと知った時。

 俺はかなりのショックを受けた。自分自身を嫌いになった。大好きな師匠を傷つけたこの魔王の力が、俺は嫌いになった。俺の持つ力は、いろんな人を苦しめて、傷つけてきたものだと思ったから。

 いつかコントロールできると思っていた。信じていた。でも、魔王の力だということがわかって、もうだめだと思った。制御なんてできるわけがないと思った。また誰かを傷つけてしまう。いつか魔王の力がまた暴走して、周りにいる大切な人たちを傷つけてしまうと思った。


「怖かったよ。とても。ルナやみんなは、俺にとって大切な存在だから。俺の持つ力が暴走してあの時みたいに……師匠を傷つけてしまった時みたいに、同じように、みんなを傷つけてしまうんじゃないかって。でも、今は違う。俺にはみんながいるから。みんなが支えてくれたから、立ち直れた。逆に言えば、みんながいなかったら立ち直れなかっただろうし、そんなもんなんだよ。俺なんか」


 笑って話すと、ルナはきょとんとして。でも、すぐに優しそうに笑ってくれて。


「……そうですね。そうでした」

「そうそう。クラリッサやチェルシーだって、ルナには見せていないだけで弱いところがあるし、それはフェリスたちも同じだと思う」

「クラリッサさんとチェルシーさんは、ソウジさんにそういうところを見せたんですか?」

「……………………まあ、たぶん」


 あれ。おかしいな。なんで今の流れでそんなジトッとした目で見てくるんだルナ。


「ソウジさんはほんっとうに見境がないですね」

「まってなんでそういうことになるんだ」

「自分で考えてください」


 いきなり不機嫌になられるとそれはそれでショックだぞ……。まあ、本気で怒っているとか嫌っているとか、そういうわけではなさそうだから安心はしているけれど。


「と、とにかくだな。俺が言いたいのは、みんな何かしら弱いところがあって、ルナにもあって当たり前なんだよ。でも、それをひっくるめてルナだし、俺なんだ。弱くたって、ルナたちが俺にしてくれたように、今度は俺たちがルナを支えるからさ」


 ぷくっと頬を膨らませていたルナではあったが、俺の方に視線を向けると……またさっきみたいな笑顔を見せてくれた。


「わかりました。……じゃあソウジさん、わたしのこと、ちゃんと支えてくださいね」

「ん。がんばるよ」


 俺は普段からみんなに助けられてばかりだ。ルナが生み出してくれた『星遺物ブレスレット』のおかげでこれまで何度もピンチを切り抜けることができたし、『巫女』の力を抜きにしても普段から、影で支えてもらっている。

 だったら今度は、俺が助ける番だ。


「あの、ソウジさん。せっかくなので少しお願いがあるんですけど……」

「お願い?」

「はい。少しだけでいいので……手を繋いでくれませんか?」

「こんな手でよければいくらでも」


 ルナがさしだしてきた手に静かに応じる。きゅっと手を繋ぎ、ルナの不安が少しでも軽くなりますようにと願いをこめる。当のルナ本人はというと途端に顔を俯かせていたから表情はわからない。でも心なしか耳が赤いような気もするし、手も熱くなってきたような気がする。


「うぅ……」

「ルナ? もしかして、長旅の疲れがたまって……」

「な、なんでもないですからっ。だから、えっと……今は、顔を見ないでください……」


 また不機嫌になってる……のとは違うよな。たぶん。

 だったら、いいか。


 などと思った俺は、それからしばらくルナの傍に居つづけた。


 ☆


 エルフの大陸にあるとある場所。

 赤の魔人ロートのもとに、黄色のローブを羽織った男が現れた。男の存在に気付いたロートは視線を送る。


「なんだ、ゲルプかよ」

「ロート。今回は俺も参加することになった」

「チッ。知ってるよ。けど、片方はアタシの獲物だからな」

「それぐらい知っている」


 ロートの言葉にゲルプは苦笑する。ラヴァルスードは魔人がそれぞれ自我を持ち、進化していると言った。最近のグリューンの動向を考えれば納得だし、ロートのこの反応を見れば確かになと頷きたくもなる。ゲルプ自身とて、ラヴァルスードの手によって生み出された当初と比べると確かに『自我』というものが生まれてきたかもしれないと思うことはある。ロートはそんなことはどうでもよさそうと思っているだろうが。


 そうだ。

 自分たち魔人は生まれた当初はこうではなかった。

 命じられたままの仕事をこなすだけの存在。ラヴァルスードの命令をこなすための作戦会議とて淡々と進んでいた。必要最低限の言葉だけ交わし、必要でない限り動きもしない。

 だがいつしか魔人には自我が芽生え、作戦会議や、そうでなくともただ顔を合わせるだけでこうした会話を交わすようになった。


「まあ、なんだ。今回、俺はラヴァルスード様から預かったものをお前に託す役割もあるのだ。そう邪険にするな」

「預かりものだぁ? 珍しいねぇ。魔王様がアタシらになにかくれるなんてよ」


 と、言葉では言いつつも目はキラキラしている。なんだかんだロートはラヴァルスードのことが好きなのだなぁと苦笑しつつ、件の預かりものをロートに手渡す。


「あん? なんだこりゃ」


 ロートが手にしたのは『邪結晶』にも似た赤黒い結晶だ。アイヴィ・シーエルを使って実験した新型邪結晶ともまた違う。


「そいつは新型を研究して新たにラヴァルスード様が作られた、俺たち魔人専用の邪結晶……『魔神結晶』というらしい」

「『魔神結晶』?」

「理屈としては『星眷使い』共の『最輝星オーバードライブ』と同じらしいが……まあ、それはゆっくりと説明してやろう」


 どうせ時が来るまで暇だ、と言ってはみたが――――暇、か。

 よもや人形でしかなかった魔人が、暇と思うとはなと。

 ゲルプは自身に芽生えたらしい『自我』に内心、苦笑した。




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