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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第八章 ヘル・パーティ
132/167

第百二十五話 炎をまとった少女

12月25日発売の書籍版、黒の星眷使いの表紙イラストがついに公開されました!

MFブックス様のページにて確認することができます!

http://mfbooks.jp/3521/


各通販サイトの方でも予約がはじまっておりますので、よろしくお願いします!


(ちなみに今回、かなりの加筆を行っております)


活動報告も更新しました!


 案内人であるエドワードは時折、呪文のようなものを口にしながら馬を操ってレストフォールまでの道のりを駆け抜けてくれた。道中、警戒していたがあれきりゾンビの群は現れることはなかった。


「もしかすると、さっきのはわたしたちを試していたのかもしれないな」


 フレンダの言葉に異論はなく、さっきのは明らかに俺たちの実力を確かめるためのものだった。


「ついたよ」


 あれから一日が経ち、警戒しながらも何とかたどり着いたらしい。とりあえずほっと一息つきつつも、馬車から降りる。

 外はすっかり夜になっていて、これならばちょうど姿を隠すのには適している環境といえる。

 辺りが真っ暗な為に確認しづらかったが、『レストフォール』は俺たち人間の大陸で言うところの王都ではあるのだが、あまり『街』という感じはしない。周囲を岩山や森で囲まれ、木でできた建物が建っている。まるで前世で日本にいた頃に行った記憶のある田舎だ。言ってしまえばここは、『エルフの里』といやつだろうか。


「さあ、こっち。急いで」


 エドワードの案内のもと、フィーネさんが用意してくれたという隠れ家まで案内された俺たちはそこで一度、腰を落ち着けることになった。

 案内された隠れ家は『エルフの里』ことレストフォールの隅にある自然にできた洞窟のような入り口を通った地下にあった。中に入ると人の手が加えられた痕跡がある空間に出た。岩を削って部屋を作ったかのような。部屋はいくつかあって、テーブルや椅子をはじめとした簡素な家具も一通りそろっている。


「申し訳ありませんユーフィア様。あまり広くはありませんが……」

「大丈夫です、エドワード。今、『王域』へと帰るわけにはいきません。わたしの居場所が敵に知られてはまずいでしょうし、あそこだと多くの人を巻き込んでしまうもの」


 話に聞いたところによると、『王域』とは要するに王様が住まう聖域……俺たちでいうところの『城』のような場所らしい。王都レーネシア的に言えば『王領域レグルス』ともいうか。


「エドワード、お前以外の仲間は?」

「今はそれぞれの任務についているんだ。もうすぐ、情報を受け取った仲間が戻ってくるはずだけど……」


 と、エドワードが扉へと視線を向けた瞬間だった。俺たちのいる地下室に複数人の足音が聞こえてきたかと思いきや、すぐに扉が開き、何人かのエルフが地下室に入ってきた。どうやらエドワードのいう仲間らしい。エドワードや、交流戦の時に見た他のエルフよりも背が高く、体格もいい。言ってしまえば大人エルフってやつだろうか。大人エルフたちはユーフィア様を見つけると、一斉に跪く。


「お帰りなさいませ、ユーフィア様」

「我ら一同、貴女様の帰還を心待ちにしておりました」

「ありがとう、ケイネス。みんなも、顔をあげてください」


 ケイネスと呼ばれた、どうやらこの仲間内ではリーダー格らしいエルフが顔を上げ、他の者もそれに続いた。ケイネスさんとやらは今度は俺に視線を送る。


「もしやこの方が……?」

「ええ。そうです」

「おおっ……! 噂の――――」


 なぜか俺の顔を見たエルフたちが、ぱあっと明るくなっている。というより、盛り上がっている?

 俺はこの人たちとは初対面のはずだけど、いったいどういう…………、


「――――ユーフィア様の王子様ですか!」


 …………そういうことか。


「おいソウジ、どうして両手で顔を覆ってしゃがみこんでるんだ?」

「ユーフィア様、どうして両手で顔を覆ってしゃがみこんでおられるのです?」

『何も聞かないでくれ(ください)…………』


 チラッと隣に視線を移すと同じようにユーフィア様もしゃがみこんでいた。どうやら過去の自分の行いを反省してくれているらしい。悪いことじゃないんだけど。それでも恥ずかしいといえば恥ずかしい。ユーフィア様にとっての黒歴史というやつだ。


「とにかく、とっとと先に進まない?」


 クラリッサの呆れたような声で我に返った俺とユーフィア様はのろのろと立ち上がり(ダメージが回復したわけではない)、ケイネスさんたちの持ち帰ってきた情報を確認することとなった。


「ことのはじまりは三日前のことです。突如、リーナ・フェリーさんを中心とした調査チームのメンバーの大半が入れ替わりました。これを怪しんだ我々はすぐに調査チームのメンバーを秘密裏に調べました」

「ん? ちょい待ち。調査チームのメンバーがいきなり入れ替わったのは確かに不自然だが、そんなことはいくらでもあるんじゃないのか? 動く理由としてはちょっとばかり弱い気がするんだけど」


 ライオネルの疑問ももっともだ。冒険者だって、きっとそれぞれの事情でメンバーが入れ替わることもあるのだろう。


「リーナさんが調査していたのは勇者と魔王に関する記録のことなのですが、これに関して現在はかなり専門的な分野となっています。そもそも、入れ替わったメンバーというのがそれまで魔王と勇者に関する研究とはまったく無縁の、いってしまえば素人のような者ばかりだったので……」

「なるほど。そりゃ怪しい」


 いきなり調査チームのメンバーがド素人に入れ替わるのはたしかに怪しい。聞いたところ、おそらく理由の説明もろくにされないままだったのだろう。


「理由を問うてもはっきりとした返答がもらえなかった我々は、リーナさんを密かに護衛しようとしたのですが…………」

「そこで邪魔が入った?」

「はい……」


 ケイネスさんの話によると。

 リーナさんを護衛しようとしたケイネスさんたちは、洞窟を使って調査地点まで先回りしようとしていたところ、その洞窟の中で謎の子供たちに出くわしたらしい。


「おい、ここは危ないぞ」

「はやく家に帰るんだ」


 ケイネスさんたちは呼びかけるも、子供たちはまったく耳を貸さず、はしゃぎながら辺りを走りまわっているだけだったらしいのだが……。


「その直後だった。俺たちの目の前がいきなり爆発し、洞窟が塞がってしまった。あと少しでも逃げ遅れていたら俺たちは生き埋めにされていたところだ」


 慌てて別ルートを通ってリーナさんを追いかけたが、たどり着いた時にはもう『謎の爆発』という事故でリーナさんが地下ダンジョンへと落ちてしまっていたらしい。


「謎の爆発、か……」


 オーガストが失笑する。気持ちはわからなくもない。状況的やケイネスさんたちに対する露骨な対応から見るに怪しさ満点だ。


「じゃあ、やっぱりはやく探しに行かないと! ダンジョンは魔物もいますし……もう二日も経ってるんですよね?」


 クリスが焦ったように言うが、たしかに急いだ方がいいだろう。既に手遅れかもしれないという考えが脳裏を過るが……それは今は振り払う。

 対するケイネスさんたちはというと、互いに顔を見合わせて困ったような表情をしていた。


「ケイネス? どうしたのですか?」

「ああ、いや……その、実は……妙な証言がありまして……」

「妙な証言?」

「はい。リーナさんが爆発事故とやらに巻き込まれ、地下ダンジョンへと落ちていく際……リーナさんを追って地下へと飛び込んだそれはそれはとてつもなく変な人間の少女がいたと」

「えっと…………よく分かりませんが、どのような少女だったのですか?」


 ケイネスさんたちも自分のいうことがおかしなことだと自覚しているのか、相変わらず表情は困惑している。


「ソウジくん……」

「どうしたフェリス」

「えっと……なぜでしょう。なんだかとても嫌な予感が……」


 と、言うフェリスは冷や汗を流している。彼女には珍しい、どこか焦ったような表情になんだかこっちまで嫌な予感がしてくる。


「話しによると、その人間の少女は真紅の剣を構えながら炎を身にまとい、『妹への愛があれば、この世すべてのことに不可能なんてないわ!』と叫んで地下ダンジョンへと落ちて行ったらしいです。変な少女でしょう?」

「ええ、それは確かに変ですね。いったい何者なのでしょうか……」

「……………………ごめんなさい。おそらくそれはわたしの姉です…………」

『あっ……………………………………………………』


 ユーフィア様とケイネスさんがいたたまれない表情になった。


 とはいえ、どうしてエリカさんがここにいるのだろう。

 あの人には前々から謎が多い。俺とライオネルのことを何か知っていたのは間違いない。それに……。


 ☆


「ん?」

「どうしたの? エリカちゃん」

「いえ……今、愛する妹がわたしのことを口にしたような気がして。ああ、だめですね。地下となると妹レーダーの感度が悪くなるから嫌だわ」

「前々から思っていたけれど、エリカちゃんの変態性も人外じみてるわよねぇ」

「リーナさん、今はそんなことよりも脱出することを考えましょうよ」

「そうねぇ」


 リーナを狙った動きがあったことを掴んだエリカはすぐさま彼女を助けるために駆けつけた。何とかギリギリのところでリーナを助けることに成功したエリカではあったが、こうやってまんまと地下ダンジョンへと叩き落とされてしまったのは不覚だ。


「あーあ、途中で邪魔が入らなかったら、もっとかっこよく助けることができたんですけどね」

「助けてくれただけで十分よ。それに関してお礼は言うわ。さて、休憩も済んだことだし、わたしは調査の続きをするわね」

「リーナさん、よくやりますねこんな状況で。脱出しようとは考えないんですか?」

「脱出しようにも、外から結界がはられてて出ることができないのでしょう? だったら、外からの助けを待つしかないわ。どうせなら時間を無駄にせず、こうやって思う存分調査した方がいいと思わない?」

「……無理しないでくださいよ。体が治ったばかりなんですから」


 エリカはリーナとは昔からの付き合いだ。歳こそ離れているものの、あの『七色星団』のメンバーたちと同じようにリーナとも長い付き合いである。


「そうね。……でも、わたしはわたしにできることを、少しでもやっておきたいの」


 そう言って、リーナは一人調査を再開した。ここがどういう場所であるかはエリカもなんとなく察しはついている。過去の勇者と魔王に関連がある場所だ。ここを調べればもしかしたらラヴァルスードを倒す方法が分かるのかもしれない。だからこそリーナは、今できることを頑張っている。

 彼女には娘がいる。娘を守るために、娘が生きるこの世界を守るためにがんばっている。


(……ま、これ以上止めるのは野暮ってやつかしらね)


 エリカにも愛する妹がいる。妹がいるからこそエリカはがんばれる。

 命だって、投げ出すことができるし、どんな無茶だってやってのける。

 リーナの気持ちのわかるからこそ、エリカは最低限の忠告をするとそれ以上は彼女の邪魔をするようなことはしなかった。


(問題は…………)


 地上の方にいるあの三人だ。

 ソウジたちがこの大陸にいる以上、あの三人との衝突は避けられない。当然、妹であるフェリスも戦うことになるだろう。

 わかってはいた。

 できるだけ妹のやりたいこと、生き方を尊重するつもりではいた。

 それでもやっぱり、心配だ。


(……………………)


 いや、よそう。

 妹はいつまでも守られる存在ではない。できるだけ守るつもりではあるが、それこそこの命を捧げてでも守るつもりではあるが。

 

 妹を信じることも、姉の役目だ。




(とりあえず暇だし、フェリスたんコレクションの整理でもしようかしら)




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(ちなみに今回、かなりの加筆を行っております)


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