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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第八章 ヘル・パーティ
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第百二十三話 案内人

 エルフの大陸にたどり着いたのは、船に乗ってから二日経ったころである。フィーネさんが手をまわしてくれたのか、船から出たあとのチェックもスムーズに済んだ。


「リーナさんという方がいるレストフォールはこの港のすぐ傍にあります。馬車で一日ほどでつく距離ではありますが、目に見えない特殊な結界がはってあるので許可のない人がたどり着くには『案内人』の能力が必要になります」

「案内人……ですか?」

「はい。とはいっても、文字通りの普通の案内人というわけではありません。この場合の『案内人』とは特別な権限を持ったエルフのことを指します。このエルフの協力なしにはレストフォールにはたどり着けません。普通なら申請が必要なのですが……今回は事情が事情なのでフィーネが『案内人』を手配してくれました」


 と、話をしているうちに一台の馬車がこちらに近づいてくるのが見えた。馬車は俺たちの近くについてから止まると、フード付きのマントをまとい、目深にフードを被った一人の少年がひらりと降り立つ。


「ユーフィア様、ご無事で何よりです」

「よく来てくれました、エドワード」


 俺たちの目の前に現れたフードを被った少年は、交流戦の時に戦った経験のあるエルフ族の代表選手の一人だったエドワード・クルサードだった。


「やあ、久しぶりだね、ソウジ。それにギルドの皆さんも」

「エドワード……お前が『案内人』だったのか?」

「ああ。普段は僕みたいなただの学生が『案内人』になることはないんだけど、今回はどういうわけか特例が出たんだ。まあ、そっちの事情は『巫女』のことも含めてフィーネさんからざっくりと聞いているよ。それよりもはやく馬車に乗って。移動しながら話をしよう」


 言われた通り俺たちはエドワードの用意してくれた馬車に乗り込む。俺たちが馬車に乗り込んだのを確認すると、馬車は静かに走り出した。荷台に乗るや否や、クラリッサが俺にこそこそと話しかけてくる。


「ねぇ、ソウジ。冷静に考えてみたらわたしたちってあんまりあのエドワードってやつと話したことないし、アンタが話してよ。ほら、『巫女』に関する手がかりとか、色々と情報とか引きだして」

「……クラリッサ、人見知り?」

「ち、ちがうわよチェルシーっ。……ただ、ちょっと他の種族は……話しにくいわ」

「…………クラリッサ」

「わかってるわよ。ただ、ちょっと、まだ苦手なだけ」


 思えば、クラリッサとチェルシーはかつて獣人たちから迫害された経験がある。他種族に対してまだ心の奥底で警戒心のようなものがあるのだろう。ユーフィア様みたいにある程度関わりがあれば大丈夫なのかもしれない。……いや、もしかしたら、『他種族の男性』が苦手なのかも。吹っ切ったとはいえ、交流戦の時にギデオン・バートンからされたことがまだ少し尾を引いているのかもしれない。


「なあ、エドワード。リーナさんのことについて何か知ってることはあるか? それ以外に、えっと……何か変わったこととか、『巫女』に関する手がかりとか」

「残念ながら、『巫女』に関してまだこれといった情報は得られていない。僕が君たちに代わってリーナさんって人から何か少しでもお話を聞ければよかったんだけど……今はそう簡単にはいかなくてね。率直に言えば、今リーナさんという人はかなりまずい状態に陥っているんだ」

「なんだって!?」

「おいおいそりゃどーいうことだよエルフの色男」


 ライオネルもぎょっとした顔でエドワードに問う。いや、ライオネルだけじゃない。他のみんなも真剣な表情をしている。フェリスは俯きながら何かを考えるかのようにし、


「……あの、こういうことを言うのは失礼なのかもしれませんが、もしかして……エルフ族の中に、『再誕リヴァース』に繋がっている方がいて、その方がリーナさんに何かを?」

「察しがいいね」


 俺たちは荷台にいて、エドワードは馬を操っていたので彼の顔は見えなかったが、きっと苦い顔をしているのだろうということが声からわかった。


「……わたしたちの学園にも『再誕リヴァース』と繋がっている人はいましたから」

「アイン・マラスか。王都の誇る国内最高峰の魔法学園の教職員にすらやつらの人員が潜んでいた上に、魔王復活を目論む者達だ。他の種族にも魔の手が伸びていてもおかしくはないな」


 騎士団員ということもあってか、フレンダは既に過去に起きた『再誕リヴァース』関連の事件を調べているようだ。流石だな。


「お察しの通り、僕たちエルフの大陸にもやつらの手は既に伸びていてね。やつらの手駒になっている者達もいるんだ。勿論、そうじゃないエルフたちもたくさんいるけど本当に信用できる人といったら限られてくる。まあ、その中に僕を入れてもらえて光栄ではあるんだけど、問題はリーナさんって人さ。彼女は今、この地上にはいない」

「……囚われの身ってことか?」


 レイドの質問にエドワードは首を横に振る。


「いや、正確には違うな。ただ、こちらからそう簡単に手出しできないという意味ではそうかもしれない」

「なるほどな。ダンジョンを使われたか」

「……本当に君たちは察しがいいね」

「お兄ちゃんは現役の冒険者なんです。過去にも似たようなことがありましたから」

「なるほど。納得だ」

「あのね、アンタたちだけで勝手に納得して話を進めないでくれる?」


 クラリッサの疑問はもっともだ。ライオネルもさすがにこのまま俺たちだけ話題に放置することはしないらしい。


「たちの悪い冒険者が邪魔なやつを排除するのに使う手だ。相手をわざと高レベルのダンジョンに置き去りにして殺す。ダンジョンってところは事故に見せかけるには都合の良い場所だし、死んでも怪しまれることは少ない」

「リーナさんが今現在ダンジョンの奥深くに閉じ込められてしまっているのは確かだ。このエルフの大陸には昔の遺跡がたくさんあって未発見の遺跡もたくさん眠ってるんだけど、リーナさんが閉じ込められたのは地下にある遺跡のダンジョン。この前新しく発見されたところで、どうやら勇者様や魔王に関する何かがあるらしいんだ。リーナさんはその場所での調査中、ダンジョン内部に起きた『事故』に巻き込まれて調査チームと分断されてしまったらしい。つい昨日のことさ」


 事故、という部分を話す際にエドワードが皮肉げな口調になった。おそらくその自己とやらが、故意に仕組まれたものだということを言いたいのだろう。


「調査チームの中に事故の手引きをしたやつがいるに違いない。同じエルフ族として、僕は情けないよ」

「リーナさんは生きているのか?」

「それは間違いないと思う。僕の仲間たちの調べではまだ生命反応は途絶えていないからね。ただ、落ちた場所が厄介で…………」


 エドワードが更に口を開きかけた時、馬車が唐突に止まった。ガタン、と強い揺れが起こる。何事かと思い前方を見てみると、


「こいつらは……!?」


 オーガストが叫んだのも無理はない。俺たちの進行方向を塞ぐような形で、体の半分を薄気味悪い青色に染めたゾンビのような人間の集団が蠢いている。手にはそれぞれ剣やら斧やら明らかに『武器』とわかるものを持っていて、殺る気満々といった感じだ。


「一応聞いておくけど、エドワード。これはエルフ族特有の歓迎の仕方だったりするのか?」

「生憎、僕たちの種族にこんな趣味の悪い歓迎の仕方はないよ」

「ならどっかの誰かさんがわざわざ主催してくれたサプライズパーティってことか。まったく、勘弁してほしいぜ」


 言いつつ、馬車から飛び降りたライオネルは左手に装着しているブレスレットを構えている。俺も同じように馬車から飛び降り、ブレスレットを装着して構える。


「みんな、ユーフィア様とルナを頼む!」

「はい! 兄さんとライオネルさんも気をつけて!」


 ユーフィア様とルナはみんなに任せ、俺たちは魔力をこめて一気に鎧の騎士へと変身する。


「『スクトゥム・デヴィル』!」

「『スクトゥム・セイヴァー』!」


 体の周囲に巻き起こる魔力の嵐を斬り裂き、俺たちは飛び出した。背後でエドワードが「おおっ、あれが」と、どこか感心したような声をあげているのが聞こえた。


「目の前にいるやつ以外にもまだ他に隠れているやつがいるかもしれねぇ。馬車からあんまり離れんなよ、ソウジ。護衛系の依頼の鉄則だ」

「了解。ならライオネル、前衛は任せていいか」

「ああ。馬車は頼んだぜ!」


 冒険者として経験を積んでいるライオネルの指示に従って俺たちは馬車から近い距離を維持する。ライオネルは『オリオン・セイバー』を眷現させてゾンビの群に突っ込んだ。


「『アネモイモード』!」


 詠唱すると、途端に俺は緑色の魔力の嵐に包まれた。それを斬り裂き、黒から緑の鎧をまとった俺は弓の星眷となった『アネモイ・ブレイヴ』を手にし、構える。

 仲間の力を借りることのできるこの能力もルナの創り出したブレスレット……勇者の力を再現した『星遺物』によるものだ。かつての勇者もこうやって、仲間の能力を借りることができたのだろう。

 俺は弓を構え、魔力で矢を構築し、狙いを定める。ライオネルの戦っている場所を避け、矢を放つ。間髪入れず次々と離れた距離からゾンビを撃ち抜いていく。撃ち抜かれたゾンビは魔力の欠片となって砕け、消滅していく。


「きゃあっ!」


 背後でユーフィア様の叫び声が聞こえたので振り向くと、ゾンビの群とは反対の方向の空から半身が青い腐った鳥のような魔物が馬車めがけて襲い掛かっていた。鳥は口をぱかっと開くと、次々と魔力の塊を放ってくる。まるで爆撃のような攻撃だったが、馬車を護衛してくれていたフェリスが『ヴァルゴ・レーヴァテイン』を振るい、炎の防御壁を構築してくれていた。


「ッ!」


 俺は『アネモイ・ブレイヴ』を空に向けて構えるが、ボコボコと足元からまた別のゾンビが這い出してきた。どうやら注意が空に向いている隙を突いてきたらしい。


「チッ」


 地面に向けて矢を放つが。だめだ。遠距離戦を得意とする『アネモイモード』でこの距離は不利。それなら、


「『レーヴァテインモード』!」


 焔をまとって足元のゾンビを焼き払い、今度は真紅の鎧を纏った『レーヴァテインモード』へと変身した。次々と地面から湧き出てくるゾンビたちを弓から剣へと形状が変化した『レーヴァテイン・ブレイヴ』で薙ぎ払う。 

 ライオネルは……まだゾンビの群と戦っている。単体の強さは大したことないが、いかんせん数が多い。『ヘラクルスモード』に変身して一掃するか。けどその間、馬車が無防備になってしまう。


「『落雷サンダーボルト』!」


 そんな俺の迷いを砕くかのように、空中にいる鳥のゾンビをクラリッサの雷が撃ち抜いた。


「……『エウロスアロー』」


 次に、チェルシーの放った風属性の矢がまた別のゾンビを撃ち抜く。チェルシーとクラリッサだけじゃない。レイドやオーガスト、クリスやフレンダも次々と湧き出てくるゾンビたちを蹴散らしている。馬車には傷一つついていない。


「ソウジ! ユーフィア様とルナはわたしたちに任せなさい!」

「……そっちの戦いに集中して」

「……ッ! わかった!」


 俺は周囲にいるゾンビたちを焼き払いながら、ゾンビの群と一人でライオネルに近づいていく。俺は『レーヴァテイン・ブレイヴ』で焔をまき散らしながらライオネルの背後を守るように背中合わせのポジションをとる。


「ライオネル、馬車の護衛はみんなに任せてきた。俺たちで一気にこのゾンビ共を一掃するぞ」

「わかった。行くぜ!」


 俺はすぐさま『ヘルクレスモード』へと変身し、剣から斧へと形状を変化させた星眷を構えて魔力を高めていく。この『ヘルクレスモード』は赤、青、緑、黄、紫の五大属性の力を司るモードの中ではもっともパワーが高い。雑魚を一気に片づける時にはちょうどいい。


「『魔龍土斬ヘルクレスストライク』ッ!」

「『勇龍斬セイヴァーバースト』!」


 斧を存分に振りまわし、高密度の魔力をまとった必殺の一撃で周囲のゾンビを一気に薙ぎ払う。ライオネルの振るった剣も、同じく敵を一掃した。連鎖するようにして爆発が起こり、群れを成していたゾンビが跡形もなく散っていく。残りは空だ。

 俺は紫色の鎧である『トルトニスモード』へと変身し、斧から杖へと形状を変えた星眷である『トルトニス・ブレイヴ』を構える。杖から雷撃が迸り、空中にいる鳥を撃ち落していく。同じくライオネルも剣を『セイバスター』へと変形させて銃撃を加えていく。

 みんなの協力もあって残りのゾンビも瞬く間に壊滅した。次にまた何か来るのかと警戒したが、このゾンビ共を仕組んだ何者かはネタ切れなのか今回は様子見なのか、理由はわからないが退いたらしい。

 奇妙なまでの静けさだけが残り、俺とライオネルは変身を解く。


「くそっ。なんだったんだ今のはよ」

「間違いなく『再誕リヴァース』の襲撃だろうな。どうやら、急いだ方がいいみたいだ」


 まるでこれは小手調べと言わんばかりにアッサリとした撤退に、俺たちはこのエルフの大陸で待ち受ける謎の脅威に対し決意を固めた。





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