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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第七章 オーバーブレイヴ
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第百二十一話 エピローグ

 俺達がこれからやろうとしているのは魔王ラヴァルスードを倒すこと。それが並大抵のことではないことはわかっている。でも、やらなくちゃならない。魔王を倒すことができるのは俺やライオネルの持つ『鎧』や白魔力だけなのだから。


 あの後、俺たちはみんなでこれからのことを話しあった。魔王を倒すにしても今後どうしていくか。


「まあ、学園ここを出て外に行くしかないわよね」


 話がまとまったのは割と早かった。どちらにしろ、学園はラヴァルスードと魔人達の手によって半壊状態で授業どころではない。復旧には時間がかかるだろうし、これまでのように受け身でいるわけにはいかない。

 それに、『再誕リヴァース』はこれから『巫女』を集めようとするはずだ。

 これまで奴らが王都で動いていたのは王都にいる人達を実験台に『邪結晶イーヴィルクリスタル』のデータを集め、魔王が復活するための『器』を完成させるためだ。そして、『器』もある程度のところまでは完成してしまった。

 次に奴らがやることはおそらく『巫女』集めだ。

 詳細は不明だが、ラヴァルスードは『巫女』を欲していた。おそらくは、完全復活のために。


 となると、狙われているルナを連れて行くのは危険だ。そう思った俺たちはブリジットさんにルナを預けようとしたのだが、


「ううん。ルナちゃんはソウジくん達が守って」

「ど、どうしてですか? 俺よりもブリジットさんの方が……」

「ダメだよ。私はソウジくんたちみたいに『鎧』の力を持ってなければ白魔力も持ってない。私達じゃ魔王どころか魔人すら殺せない。だから、魔人達に対抗できる力を持つソウジくん達に、ルナちゃんを預けるんだよ」

「ユーフィア様にしても同様です。私達が魔王や魔人達を殺せない以上、あなた達のそばに『巫女』である二人をおいておいた方が安全なのです」


 たしかにそうかもしれないが、それでも逃げることはできるはずだ。俺達がこれからやろうとしているのはいわば敵に攻めこむということ。それには危険が伴うし、『巫女』である二人は格好の的だ。


「私達にはこれからやらなくちゃいけないことがあるの。だけどそれにも危険が伴ってくる……私達いがいの人に『巫女』であるルナちゃんやユーフィアちゃんを預けたとしても、きっと魔人達には太刀打ちできない」

「これからの戦いはより厳しくなります。その時『巫女』の力は必要となるでしょう。かつての勇者達と共に戦った『巫女』を揃えることが、魔王を倒す鍵になるはずです」

「ブリジットさん、やらなくちゃいけないことって……」

「んー。具体的には調査かな。魔王を完全に倒すための手がかりを探す」

「魔王はかつての勇者と巫女達に倒されたはず。ですが奴は確かに今、この時代にも存在している……その謎はまだ解き明かされていません。今、魔王を倒してもまた復活する可能性がある。だからこそ、ヤツを止めるための手がかりを私達は探しているのです。それと並行して、あなた達には残りの『巫女』の保護と私達と同じように手がかりを探してほしいのです」

「……わかりました」


 思った以上にやらなければならないことは難しい。それでもやらなくちゃいけない。

 ブリジットさんとフィーネさんから、ルナとユーフィア様という大きなものを託された俺達は決意を胸に刻み込んだ。

 フィーネさんから色々と説明を聞き、俺達に同行することになったユーフィア様は最初は戸惑っていたが、覚悟を決めたのか、エルフの姫としての顔を見せながら「よろしくお願いします」と言ってきた。


 その日、俺達はこれからの旅立ちに向けて各自で準備を行うことになった。ギルドホームに残してきたものはもう戻ってこないのであまり多くは無いかもしれないが。俺もお金に関してはほとんど残っていない。どうやらラヴァルスードとの戦いの際、あまりにもダメージを受け過ぎたせいか、それとも魔王の持つ黒魔力のせいか、『黒空間ブラックゾーン』にも影響が出たのか、ほとんどの金貨と一緒に中に収めていたものの一部が無くなっていた。


 師匠たちはというと、魔王を倒す手がかりを見つけるためにすぐにどこかに行ってしまった。最後に手がかりだけ残して。


「さて、じゃあこれからのことを整理するわよ」


 翌日。

 それぞれの準備が終わったあと、ユーフィア様を含めたみんなは寮にある俺の部屋に集まっていた。なぜ俺の部屋なのかは分からないけれど……まあ、フェリスとかがちょっと嬉しそうだったりそわそわしてる感じだったりするのは気にしないでおこう。


「これからわたしたちがやらなくちゃいけないのは二つ。一つ、『魔王を倒す手がかりを探すこと』。二つ、『残りの巫女を探し出すこと』。ソフィアさん達によれば、『巫女』の力が魔王との戦いの鍵になるらしいし……どっちにしろ、あいつらに狙われてるって分かってるなら保護しないといけないしね」

「……そのためには、手がかりが必要」

「それはソフィアさん達が残してくれているはずです。そうですよね、ソウジくん」

「ああ。師匠達が過去の勇者のことをこれだけ知っていたのは、リーナさんって人と協力して掴んだことらしいんだ。その人は勇者様たちについて研究している人なんだけど、その人のもとを訪ねて勇者様たちのルーツを探れば、同時に巫女のことについて何かしらの情報を得られる可能性があるって言ってた」


 ……それに、もしかすると、過去の勇者様たちについて実際に触れてみれば俺の前世の記憶が戻るかもしれない。そうすれば、より多くの情報を得られるはずだ。


「ところでよぉ、そのリーナさんって誰なんだ?」

「ラナ先輩の母親だ。リーナ・フェリーといえば王都の研究者たちの間では有名人だぞ」


 ラナ・フェリー先輩は交流戦の予選のランキング戦で俺が戦った先輩だ。『はくちょう座』の星眷を使っていた。彼女の母親は病に倒れていて、その治療に必要な薬のためにラナ先輩は戦っていた。幸いにも、俺が師匠からの仕送りで持っていた薬をあげたのでその後も体調はよくなったそうだが。


「そのラナ先輩って人にはもう話は通してあるぜ。リーナさんは今、王都にはいないらしいから俺たちがその場所に向かうことになるが、会って話をしてくれるそうだ」


 と、言ったのはライオネルである。元々、冒険者として外の街からやってきたライオネルたちは特に荷造りを行う必要がなかったので昨日のうちにラナ先輩に話を通してもらったのだ。なんでも、学園祭の時に少しだけ話して面識はあったとかで。


「その場所ってどこなんですか?」


 ルナの問いにライオネルはチラリとユーフィア様に視線を向けたあと、


「エルフ族の大陸にあるレストフォールって街らしい」

「レストフォール……わたしの故郷ですね」


 そうえいば、エドワードはレストフォール学園出身だったっけ。


「ただまあ、問題があってな。他の大陸に渡るにはいろいろと面倒な手続きとか許可を得る必要があったりで……まあぶっちゃけ、今のオレ達じゃ入れないってことなんだけど」

「あ、でもわたしがいるのなら通してくれるはずです」

「そりゃエルフの大陸に関してはそうかもしれねぇけど、問題は他の大陸に渡る時なんだよな。『巫女』を探すには別の大陸にも渡る必要があるだろうし、その時にもお姫様の顔パスが通じるかどうかがな……」


 『巫女』は各種族につき一人いる。ということは自然と他の大陸に渡る移動手段が必要になってくる。大陸間を移動するには面倒な手続きと許可が必要になっている。


「それに関しては大丈夫ですよ。えっと……これを姉さんから預かっているので」


 そう言ってフェリスが出してきたのは、学園祭の景品であるはずだった『五大陸フリーパスポート』である。これさえあれば五大陸を自由に行き来できるというものらしく、ライオネルはぎょっとした顔で驚いている。


「これを、エリカさんが?」

「ええ。学園を守ってくれたお礼にと……」


 まるで俺たちの行動を見透かしているようだ。


「……ただ、そのあと姉さんと連絡がつかなくて……生徒会の方たちに聞いても急に姿を消して驚いていると」

「生徒会長が姿を消した? なんか妙ね……」


 エリカさんは法則的に考えて『太陽の巫女』……であるはずなのだが、少し妙だ。いろいろと事情を知っていそうというのもあるが、そもそも彼女自身が本当に『巫女』なのか? 魔人は彼女を『巫女』だと判断したらしいが、ルナやユーフィア様と比べると、何かが違う。何か、というのはよくわからないけれど……直感的に。


「……でも、姉さんにはきっと姉さんの考えがあるんだと思います。それよりも今は、わたしたちのやるべきことをやりましょう」


 フェリスはどこか無理をしたかのような表情でエリカさんへの思いを振り切る。何だかんだでフェリスはエリカさんのことを尊敬しているし、慕っていた。だからこそ心配なのだろう。でも、今は前を見ようとしている。だったら俺達にできることは、フェリスの決意を尊重して、彼女と同じように前を向いてやることだけだ。


 ☆


 更に翌日。

 今後の目的地とエルフ族の大陸にあるレストフォールと定めた俺たちは、様々な思い出ができたレーネシア魔法学園を出ることにした。動くならはやい方がいい。既に生徒の大半は家に戻っているらしく、教職員たちは学園や街の復旧作業に勤しんでいるらしい。『核結晶コアクリスタル』はというと、生み出す魔力を街の復旧のためにあてているようだ。


「いざ離れるとなると、なんかいろいろと感慨深いわねぇ」

「……最初は、いやなことばかりだったのに」

「その話になるといろいろと刺さるものがあるな。僕は」

「まぁ、あの頃のオーガストは正直いやなやつだったからなぁ」

「それは食堂で働きながら様子を見ていたわたしからも同意見です」

「うぐっ」


 …………ああ、そういえばそんなこともあったっけ。最初はレイドと友達になって、そのあとにフェリスやオーガストと出会って……チェルシーが俺の部屋にかってに潜り込んでいて、クラリッサにギルドに入るように誘われたんだった。


 まだ一年も経ってない、春に起きたことだけど、もうかなり昔のことのように思える。確かにチェルシーのように最初はいやなことがあったけど、今ではそれよりもたくさんのいい思い出ができたし、大切な人達と出会うこともできた。


「ソウジくん?」

「……なんでもない。……行こうか」


 いろいろな思い出がつまった学園をあとにしようとした、その時だった。


「兄さんっ!」


 俺のことをそう呼ぶのは世界でただ一人しかいない。


「クリス? どうして……」


 学園の門を出ようとした辺りで、背後から走ってきたクリスの声に呼び止められた。慌ててきたせいか、クリスは息を切らしている。隣にはフレンダもいて、クリスを見守っている。


「あ、あのっ……わたし……ぜんぶ、ライオネルさんから聞きましたっ!」

「おい」

「いやぁ、悪い悪い。でもさすがにこのままお別れってわけにはいかないだろ?」

「ソウジさん、兄妹なんですから……生きている家族、なんですから」


 ……ライオネルとユキちゃんにそう言われると何も言えない。確かに、これから俺はどうなるのかもわからないし、もしかするとこれが最後になるのかもしれない。もちろん、そうなるつもりはないが……でも、こうやって話し合うことぐらいは、しておかなければならないのかもしれない。


「クリス……俺はこれから――――」

「わたしも行きますっ!」

「はい!?」


 俺が何かを言おうとする前に、クリスがいきなり爆弾をぶち込んできた。


「こんなの、納得できません! わたしたち、やっと再会できたばかりなんですよ!? なのに、あまりお喋りもできなかったし、二人の時間をすごすことも大してできてないじゃないですか!」

「お、おいまてクリス。俺達がこれからやろうとしていることは本当に危険なんだ」

「だからですっ! わたし、わたしは、もう…………兄さんと離ればなれなんて、いやです……」


 …………そう言われれば、俺はもう、何もいえないわけで。

 あの狂った家に一人置き去りになってしまったクリスのことを思うと、兄としてはどうしても負い目がある。


「……なぁ、あの、さ……」

「いいわよ別に。一人増えるぐらい」

「おい、わたしもいるぞ。二人だ」

「……フレンダも来るの?」


 チェルシーの首を傾げながらの問いにフレンダは肩をすくめた。


「一応、お目付け役だ。いくら勇者の力も有しているとはいえ、魔王と同じ力を持つ者を野放しにはしておけない……という建前だ」

「……なるほどな。王都の騎士団員であるお前が同行すれば、まあややこしいトラブルに巻き込まれにくいし、いろいろと便利というわけか」


 フレンダと何やら因縁のようなものがあるらしいオーガストは一番に察したらしい。言われてみればそうか。他の大陸で行動するにあたって騎士団員の身分を持つ人がいるのは何かと便利だろう。他の大陸にも騎士団はいるわけだから、『巫女』探しの時もそういったところとの連携も取りやすそうだ。


「だぁー! もう別に一人だろうが二人だろうがどっちでもいいわよ! ……それにしても、大所帯になっちゃったわね……」

「……たのしい方がわたしは好き」

「数だけなら前回の勇者様たちより多いなぁ」


 みんなはわいわいと勝手に盛り上がってるし、クリスは置いて行かれそうになったことに腹を立てているのか頬を軽くふくらませながら俺の隣を歩くし、フレンダはそんなクリスを見ながら微笑ましい表情を浮かべている。


「ソウジくん」

「……ん。どうした、フェリス」

「ふふっ。なんだか思っていたよりも賑やかな旅立ちになりましたね」

「……そうだなぁ」


 まるで、これから魔王を倒しに行く旅をする雰囲気ではない。きっと先代の勇者様たちも、もう少し真面目な雰囲気で旅立ったはずだ。

 でも、俺達はこれでいいのだろう。きっと。だって俺たちは別に勇者様御一行じゃない。俺達はあくまでもレーネシア魔法学園に所属するギルド『イヌネコ団』なんだから。


「でも、俺達のギルドらしくていいんじゃないか」

「わたしもそう思います」


 朝日が眩しい。これからどうなるのかは予想がつかない。でもきっと、どうにかなるのだろう。いや、どうにかしてみせる。


 俺はそんなことを思いながら、みんなと共に外の世界への一歩を踏み出した。




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