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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第七章 オーバーブレイヴ
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第百二十話 ルナの真実

「ブリジットさん……」

「ごめんね、ルナちゃん。今までわたし、ルナちゃんに嘘ついてた」

「嘘……?」

「うん。嘘。あなたは両親に捨てられて、そこをわたしが引き取ったって言っていたでしょう?」

「は、はい。でも……それが嘘なんですか?」

「そうだよ」

「そ、それこそ嘘です。だって、わたしは覚えています。ブリジットさんがわたしを引き取ってくれた日のこと……」

「じゃあ、それ以前は?」

「え?」

「それ以前の記憶、ある?」

「それは…………」


 ルナは黙り込む。俺達はブリジットさんが何を話そうとしているのかがまったく読めない。どういうことだ? いったい彼女はこれから、何を言おうとしているんだ?


「あのね、ルナちゃん。本当は、あなたの両親はあなたを捨てたわけじゃないの」

「え…………?」

「ルナちゃんが五歳の時かな……その頃にはもう既にルナちゃんは『巫女』として覚醒していたの。だけどそれは、けっしていいことじゃなかった。ラヴァルスードに嗅ぎつけられる恐れがあったから。あなたの両親はわたしたちの友達で、ラヴァルスードのことも知っていた。あいつが『巫女』を集めて完全復活を目論んでいたのも……だけど、まだ小さかったルナちゃんを守るために、二人はルナちゃんにあることをしたの。それが…………」


「記憶の封印?」

「ん。正確には、『巫女』の力を封印かな。ラヴァルスードから巫女を守るためには、巫女の力を封じるのが安全だった。だから、当時まだ開発途中だった術式を使って、二人はルナちゃんの巫女の力を封じ込んだ。だけどまだ未完成だった術式には代償が必要だった。

「だ、代償……? いったい、なにを……?」


 ルナの声が震えている。きっと、何となく分かっているのだろう。

 創られた存在とはいえ、神から与えられた力を強制的に封じるのだ。ましてや未完成な術式。とてつもなく大きな代償が必要であることは明らかだ。

 ブリジットさんは目を伏せたまま、過去に起きた真実を語ってゆく。


「術者の命。この場合、ルナちゃんの両親の命、だね」

「…………っ!!」


 やっぱり、そうか……。

 ルナを見てみると、やっぱりショックを受けている。無理もない。いきなり立て続けにこんな話をされて、今までの記憶は嘘の記憶で両親も実は死んでいたなんて言われたら……。俺は少しでもルナの支えになればと、彼女の手を静かに握る。反対側では、フェリスがルナの手を握っていた。クラリッサとチェルシーは俺とフェリスの手の上から同じようにルナの手を支えるかのように繋いでいる。


「っ。みなさん……」

「……ルナ、だいじょうぶ?」

「無理しなくていいのよ? 辛くなったら休憩くらいしたっていいんだから」

「……ありがとうございます。わたしは大丈夫です」


 ルナは落ち着いてきたのかゆっくりと呼吸を整えると、再びブリジットさんの方に向き直る。


「あの、ごめんなさい。ブリジットさん。……教えてください。わたしに何があったのか」

「…………ん。わかった。……ルナちゃん、いい友達をもったんだね。おねーさん、ちょっとうれしいよ……」


 ブリジットさんはにこっと保護者としての顔を見せると、すぐにまた過去の出来事を語りはじめた。


「術者の命を代償として効力を発揮した魔法は、ルナちゃんの中にある巫女の力を封印した。でも、その魔法はさっきも言ったけど術式がまだ未完成。結果、巫女の力を魔力ごと封印することになったの」

「だから、わたしは魔法が使えなかったんですね……」

「……うん。そのせいでルナちゃんには悲しい思いや辛いおもいをたくさんさせちゃった。ごめんね」

「いえ。確かにあの頃は辛かったですけど……おかげで、みなさんと出会うことができましたから」

「そっか……えへへ。ルナちゃん、本当に変わったね。これもみんなのおかげかな」


 そっと涙を拭うブリジットさんを、フィーネさんがしんみりとした顔で見ている。ルナをユーフィア様と重ねたのだろうか、はたまたブリジットさんを自分と重ねたのかは分からないけど……。どちらにしても、ブリジットさんの気持ちが分かるのだろう。


「ごめん……えっと、ルナちゃんに魔力が無いのは、今話した通り。でも、勇者の力を持つソウジくんの影響で封印が解かれて『巫女の力』が解放されてるから……いずれ一緒に封印された魔力も戻ってくると思う。記憶の件だけど……これは、ルナちゃんの両親に頼まれて、わたしが書き換えたの」

「どうしてわたしの両親はわたしの記憶を書き換えるように頼んだんですか?」

「ルナちゃんに悲しい思いをさせたくなかったから、らしいよ。あの二人、ルナちゃんのことをとっても大切にしてたからこそ分かってたんだよ。自分の為に両親が死んだって知ったらきっと、ルナちゃんが悲しむって。そうなるぐらいなら、自分たちがルナちゃんを捨てたことにして、親を恨んでくれた方が、悲しませるよりマシだって」

「そんな…………そんなの、おかしいです」

「そうだね。わたしもそう思う。バカだったんだ、あの二人。でも、ルナちゃんのことは本当に大好きだった。大好きだからこそ、守りたかったんだと思うよ。自分たちの命を捨ててでも」


 きっと、ブリジットさんも当時はたくさん悩んだのだろう。止めようともしたのだろう。でも、できなかったんだ。それを今も悔いているのかどうかは分からないけど……。


「…………で、ここからが本題。ソウジくん、君はもう勇者としての記憶が一部蘇っているよね? だったら、疑問に思わなかった? ルナちゃんはいったいなんなんだろうって」

「……はい」

「その答えはね、ルナちゃんの両親にあるの」

「親に?」

「うん。ルナちゃんの母親は人間だけど、父親は――――――――魔族。この意味、わかるよね?」

「ッ! それって……!」


 驚きのあまり言葉をなくす俺たちの前にブリジットさんは静かに頷いた。


「ルナちゃんは、人間と魔族との間に生まれた『半魔族ハーフ』なの」

「で、でも待ってください。ルナには魔族の証である翼がありません!」

「……フェリス。ハーフの重要なことを一つ忘れてるわよ」


 クラリッサはすべてを察したかのような、震えた声で指摘する。

 チェルシーはというと、自分の腰辺りを見ながらポツリと呟いた。彼女が獣人であるならば、そこに尻尾があるはず。だが、『半獣人ハーフ』であるはずのチェルシーとクラリッサには『獣人』の特徴である尻尾が欠けている。


「…………ハーフは種族としての特徴が、欠ける」

「あっ…………」


 普段のフェリスならきっとこんなことはすぐに気付いたはずだ。ただ、今日は色々なことが一気に降りかかってきて流石に正常に判断することができなかったようだ。……そうか。これで合点がいった。


「ルナは『半魔族ハーフ』だから翼がなかったのか……」

「そういえば……ルナが『巫女』になったところをわたしとチェルシーがはじめて見たとき……ルナの瞳が赤くなってたわ」


 クラリッサの言葉で、俺はマリアさんと出会った時のことを思い出した。


 ――――最後に登場したのは――――第五の大陸の種族である魔族の生徒たちだった。


 ――――基本的にその見た目は人間と変わらない。だが、魔族は背中に翼が生えており、また魔力が高まると瞳が紅くなるという特徴を持つ。生まれつき魔力の高い者は眼がもともと紅いらしいが、それは魔族のエリートの中でもごく一部らしい。


 魔族は魔力が高まると目が赤くなるという特徴を持つ。更に言えば、生まれつき高い魔力を持つ者はもとから眼が赤くなる。でも、ルナには魔力が無い。封印されてしまっている。


「そうか……魔力ごと封印されていたから、ルナの目は赤くならなかった。『巫女』の力を受け継ぐほど魔力が高くても、魔力ごと封印されていたから目が赤くなかった。だから『巫女』の力を解放した時だけ、目が赤くなったんだ。ぜんぜん気づかなかった……」

「まあ、魔族って言っても翼さえなければほとんど見た目は人間と変わらないしね。種族としての特徴が二つとも見えない状態だったんだから、気づかなくても無理ないよ。だからルナちゃんは……『月の巫女』ってことになるね」


 さて、とブリジットさんはルナに向き直る。すべてを覚悟したかのような表情だ。


「これがわたしの知っていること。ごめんね、ルナちゃん。これまでずっとだましてて。……両親の記憶も、奪っちゃって。わたしのこと、嫌いになったかな……」

「……ちょっとびっくりしましたけど……でもわたし、ブリジットさんのことを嫌いになんてなりません。ブリジットさんはわたしのことを本当の子供のように育ててくれましたし……真剣に、たくさん心配してくれました。お父さんやお母さんのことだって……真剣に悩んで、真剣に考えて……決めてくれたんでしょう?」

「ルナちゃん……」

「だったら、いいです。ちょっとびっくりしましたけど……でもわたしには、みなさんがいますから。だから、わたしはもう大丈夫です。もう泣き虫だったころのわたしじゃないですから。だから……ブリジットさんも、自分を赦してあげてください」

「うぅ……ルナちゃぁん……ごめん……ごめんねぇ。でも、……ありがとぉ…………ごめんねぇ……」


 どうやら色々な糸が切れてしまったのかブリジットさんはぽろぽろと泣きながらルナに抱きついた。俺達は手を話し、当のルナ本人はというと優しい笑みを浮かべてブリジットさんの頭を撫でている。


「うう……今までずっとだますようなことして……ルナちゃんに嫌われちゃったらどうしようって、ずっと考えてたの……でもでも、あの二人が残した子だし、それにわたしもかわいいルナちゃんのことを放っておけなかったし、もう家族も当然だもんって考えてたし…………」

「よしよしです。泣かないでください。わたしも同じ気持ちですよ」


 ブリジットさんも、きっと辛かったんだろうな。なにせ、あれだけ大好きだったルナの記憶を自分の手で書き換えていたのだから。


「まったく、これだとどっちが保護者か分かりませんね」

「まぁまぁいいじゃないフィーネ。今日ぐらいは、ね?」

「ディアール……まあ、そうですね。ブリジットもずっと苦しんでいましたから」


 俺はルナとブリジットさんの光景を眺めながらよかったと思うと同時に……疑問点が一つあった。

 ルナが『月の巫女』だとしたら――――『太陽の巫女』はいったい誰だ?

 記憶の中にいた『太陽の巫女』は……フェリスの面影があった。エリカさんは……何か違う気がする。それに気になるのは、ルナに使った巫女の力を封印する魔法。あれは未完成といったが、だとしたら今は? 完成しているのだろうか。ルナのように小さい頃から巫女としての力を覚醒させている人がいたとしたら?

 俺は気になって、師匠へと視線を向ける。


「……師匠」

「分かってる。『太陽の巫女』のことね」

「……はい」

「ごめんなさい……それもブリジットの時と同じ。私はたしかにあなたの知りたいことを知っているけれど、これは私の口から言えることじゃないわ。そういう約束なの。そして私は、できればあの子の意思を尊重してあげたいと思ってる……ごめんなさい」

「いえ。そうじゃないかと思ってましたから。大丈夫です」


 やはり『太陽の巫女』の鍵を握るのはエリカさんだ。彼女は何か隠している。大切なことを……。


「ねぇ、ソウジ」

「ん。なんですか、師匠」

「あなたは前世の勇者としての記憶を持っている。でもまだすべて思い出したわけじゃないわ」

「……そうですね」


 少なくとも、俺が死んだ時、俺はまだ普通の学生だった。普通の学生として死んで、この世界に転生した。自分の前世が勇者だとしても、その辺りだけ疑問が残る。


「勇者としての記憶を思い出し、過去の戦いを思い出す。勇者のルーツを辿ること。それがきっとラヴァルスードを倒す鍵になると思うわ」

「はい」

「だけど……これだけは忘れないで」


 師匠は俺の瞳をじっと見つめてきた。何かを刻み込もうとしているような……それぐらい真剣な眼差しだ。


「たとえ前世の記憶を持っていても、どれだけ思い出したとしても……あなたはあなた。ソウジ・ボーウェンという存在。私の弟子で、この世でただ一つの、大切な宝物よ。今のあなたには帰るべき場所がある。守るべき人たちがいる。それだけは、覚えておいて」

「……はいっ!」


 そうだ。ルナが『半魔族ハーフ』であったとしても、ルナはルナだ。なにも変わらない。それは俺も同じだ。勇者という前世を持とうとも、今の俺は世界最強の魔法使いの弟子にしてギルドイヌネコ団のメンバー、ソウジ・ボーウェンだ。それだけを、覚えておけばいい。

 そうするだけで、明日に向かって歩くことができる。




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