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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第七章 オーバーブレイヴ
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第百十五話 蹂躙する魔王

書籍化についての続報を活動報告にあげています。

これからも書籍化についての続報は月一ペースで発表していきます。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/146332/blogkey/1229203/

「なっ……!?」


 学園の一角が爆発し、炎に包まれた。それはあまりにも突然で、一瞬のことだった為かしばらく呆気にとられていたがすぐにハッと気を取り戻した。


「お、お兄ちゃん……」


 ぎゅっと袖を掴んでくるユキも感じ取ったのだろう。


「ああ。この得体のしれない、ゾッとするような魔力……間違いねぇ。魔人共と……魔王だ」


 ついにラヴァルスード自らが学園に乗り込んできたのだ。少なくとも巫女が二人……いや、エリカを含めると三人いる、レーネシア魔法学園に。


「こ、この寒気がするような魔力……なんですか、これ……」


 クリスはまるで寒気がしているかのようにガタガタと体を震わせてぎゅっと自分の体を抱きしめている。

 無理もない。ラヴァルスードの方も以前、王都に現れた時よりもいっそう、寒気というか、殺気のようなものが増している。ユキだってそれを感じて震えているのだ。


「おいフレンダ、さっさとクリスちゃんとユキをギルドホームに連れてけ。あそこなら安全だ」

「……分かった。行くぞ、二人とも」

「待ってフレンダ。ら、ライオネルさんは? そ、それに、兄さんもはやく逃がさないと……!」

「安心しろ。ソウジならオレが探しておく。それに、オレじゃなくてもフェリス達がもう探してるかもしれないしな。とにかくここはもう危ないから、さっさと逃げろ!」


 それだけを言い残すとライオネルは炎の中心地に向かって走り出した。確かめるまでもなく、寒気のする魔力は中心地から漂ってくる。迷うはずもない。悲鳴をあげながら逃げ惑う人々の間を縫ってライオネルは走った。


 ☆


 右手を振るうだけで大地が爆ぜ、死を孕んだ炎が踊り、あらゆるモノを焼き尽くしていく。人々は恐怖し、悲鳴をあげながら必死に逃げてゆく。

 ラヴァルスードにとっては人々の恐怖や悲鳴こそが退屈を紛らわせる最高のスパイスである。

 故に、彼は人々の更なる絶望を求めて力を振るう。

 手はじめに誰も逃がすことのできないように学園の周囲を魔力の壁で完全に封鎖。逃げ場を無くしたところで、この学び舎を戦場にする。


「そうら、逃げろ逃げろ。当たると死ぬぞ?」


 言うや否や、空中に球状の炎の塊を創りだすと、ラヴァルスードは背を向けて逃げ出していく人々に向かって躊躇いなく放った。


「む?」


 無防備な背中に炎球が直撃したかと思われたが、違った。当たる直前に何者かが逃げる人々の背を守るかのように炎球の前に立ちふさがり、手に持っていた剣で切り裂いた。

 切り裂かれた炎は爆ぜ、魔力の欠片が舞い散る。

 風と共に現れたのは――――白銀の鎧に身を包んだ戦士。

 白騎士だ。


 ☆


「おい、大丈夫か!」

「は、はいっ」

「ならさっさと逃げろ!」


 白騎士――――ライオネルは何とか守りきることのできた一般人に退避を促し終えると目の前の敵を見据える。

 魔王ラヴァルスード。

 かつて世界の支配を目論み、戦争を起こした張本人。

 勇者達に倒されたはずなのに奴はなぜかここにいる。

 だが、それも今なら何となく察しがついた。

 ソウジが見せてくれた再生能力。もしもあれが魔王と同じ力だとしたら、ソウジと同じかそれ以上の再生能力を持っていてもおかしくない。実際、邪人や魔人達は再生能力を持っており、白魔力かスクトゥムの力を持つ物以外の攻撃ではダメージを与えてもすぐに再生してしまう。

 問題はかつての勇者たちも白魔力を持っていたはずで、白魔力の攻撃で倒されたはずの魔王がなぜ再生したのか……理由は分からないが、ライオネルの見立てでは奴は死んでいなかったのかもしれない。死んでいないからこそ、長い長い時間をかけて白魔力のダメージから体を再生させることが出来たのかもしれない。


「白騎士よ。黒騎士の奴はどうした?」

「へっ。先輩の出る幕はねぇよ。お前らはオレ一人で充分ってことだ」


 強がってはみたものの、実際のところソウジがいても厳しい状況であることに変わりはない。しかし、それでもやらなければならない。必死にあがき、もがき、苦しんでいる途中のソウジを戦わせるわけにはいかない。


「ラヴァルスード様、ここは私が」


 傍に控えていた魔人達が一斉に立ち上がった。


「いや、お前達は散って学園を蹂躙しろ。オレはこいつと遊んでから往く」

「舐めんな!」


 グリューンはいないようだが、それでも四体。プラス魔王。ライオネル一人ではどう考えても荷が重い。それでも剣を握りしめ、白騎士は立ち向かう。

 四人の魔人達が散った。ならば尚更、こいつを早急に倒さなければならない。


魔王アイツを討てば、すべてが終わる!)


 目指すは敵の大将、魔王の首。

 魔力を脚部に集約し、加速魔法を発動。

 実戦の中で鍛えられてきたライオネルの魔法は並みの冒険者を凌駕する。ソウジの『黒加速』に勝るとも劣らない速度でライオネルは上段から剣を振り降ろす。


「『勇龍斬セイヴァーバースト』!」


 渾身の魔力をこめて振り下ろした一撃。白魔力の奔流がラヴァルスードを襲う。白魔力の一撃。届けば確実にダメージを与えられる――――!


「ッ!?」


 放った必殺の一撃は空を切り、仕留めようとしたはずの敵がいない。視界から消えた。だが、どこに。

 

「遅いぞ。欠伸が出る程にな」


 声がしたのは真後ろ。咄嗟に振り返り、剣を盾にする。ギリギリで間に合ったガード。対するラヴァルスードは悠々と繰り出した拳を『オリオン・セイバー』へと叩きつけた。


「ぐッ、う……!?」


 ガードしているにも関わらずさながら巨大なハンマーで直接殴りつけられたかのような重い衝撃。

 体全体が揺さぶられているみたいだ。くらっているのは、ガードしているはずのたった一撃の、拳なのに。


(な……んだこれ!? 明らかに前やさっきの炎とはパワーが違う……! 前回は遊んでやがったのか!?)

「おいおい。この程度でよろけてどうする? あまり退屈させてくれるなよ」


 驚愕していると、畳みかけるように黒い魔力の塊がラヴァルスードの右手に集約された。さっきの炎とは比べ物にならない程の力。


(やべっ!?)


 一見しただけで分かる膨大な魔力の塊。当たるわけにはいかない。

 動きが鈍る中、必死に体を捻り、ラヴァルスードの放つ黒い魔力の奔流を紙一重でかわす。

 凝縮されたエネルギーの塊はライオネルを空振りし、学園の大地を抉り、連鎖的な爆発を生み出していく。既に人が逃げてしまい、並んでいた無人の屋台が木端微塵になっていた。


(なんてパワーだ……! デタラメじゃねぇか!)


 あれが当たっていたらと思うとゾッとする。不安定な体勢のまま後ろに跳んで地面を転がりつつラヴァルスードから距離をとる。転がりついでに剣を『セイバスター』へと変形させて瞬時に狙いを定めて連続で魔法弾を放つ。


「フン。つまらん」


 ラヴァルスードは右手をすっと目の前に突き出すと、ライオネルの放った魔法弾全てを掴みとり、握りつぶす。ベキベキベキッと歪な音と共に魔力の塊である弾は砕け散った。


(なんて奴だ畜生ッ)

「……言っただろう、白騎士」

「あァ?」


 はぁ、とラヴァルスードはため息をつくと、まるで小さな子供に言い聞かせるような調子で、淡々と言葉を紡いでいく。


「オレを退屈させるなよ、と」

「ッ……。そりゃ失礼。けどなぁ、オレは別にお前を楽しませようとしているわけじゃないんだよ!」


 あの重い一撃は厄介だが、銃撃戦では勝機が無いと悟ったライオネルはジャキンッとメカニカルな音と共に『セイバスター』を『オリオン・セイバー』へと変形させ、地面を蹴った。

 確かにラヴァルスードの一撃は重く、魔法攻撃もデタラメなパワーを持っている。

 だが当たらなければいい。さっきのようにギリギリのところでかわして直接白魔力のこもった刃を叩き込んでやれば勝機が――――、


「このオレに近づきたいというのなら、特別に手伝ってやるぞ」


 聞こえたのは、その言葉だけだった。

 一瞬でラヴァルスードが消えたかと思ったら、次の瞬間には鳩尾にゴッ! とあの重苦しい衝撃が叩きつけられた。


「がはっ……!?」


 何が起こったのか分からなかった。薄れゆく意識を懸命に現実世界に繋ぎ止めてようやく、ラヴァルスードが瞬時にライオネルに近づいて鳩尾に膝蹴りを叩き込んだと分かった。さっきもそうだ。一瞬で攻撃をかわされた。なぜだ?

 答えはすぐに出た。


「転……移……魔法……?」

「正解だ。忌わしき鎧の戦士よ。黒魔力を操るオレからしてみれば、この程度の魔法は造作もない」


 そうだ。転移魔法は黒魔力の魔法。魔王であるラヴァルスードが使えないわけがない。


「このオレに『距離』など関係ない。まァ、お前のお仲間の黒騎士も同じだろうが?」

「あ……イツと……お前を……一緒にするんじゃねぇッ!」


 叫び、剣を振るう。ラヴァルスードは避けることもせずに『オリオン・セイバー』の刃を手で掴み取った。悠々と刃を手で直接握り締める魔王に、ライオネルは驚愕した。


「なにッ!?」

「おいおいまさかこんなオモチャが当たればオレにダメージを与えられるとでも思ったのか? 失望したよ白騎士。こんな子供に与えるようなオモチャの纏う白魔力など、オレの魔力で強引に握りつぶせる。――――このようにな」


 ぐしゃり。と、ラヴァルスードは刃に纏う白魔力はおろか『オリオン・セイバー』までもを握りつぶしてしまった。さっきの魔法弾を握りつぶされた時以上の歪な音を奏で、ライオネルの相棒である、様々な戦いを共にした『星眷魔法』が呆気なく砕け散る。

 バラバラと白い破片が光を失いながら地面に落ちる様子を見たライオネルは、ひやりとする寒気のようなモノに全身を支配されたような錯覚がした。まるで、心臓を締め付けられているかのような。否、これが、これが……絶望、というものなのだろうか。


「………………………………ッッッ……!」

「あァ、良い反応だ。顔は見えないが、絶望したことが伝わってくる良い魔力の乱れだ」


 どこかうっとりとした表情を浮かべたラヴァルスードはライオネルの首を左手でつかむと、万力のように締め付けていく。ギリギリと徐々に強まっていく力に必死に抗おうとするライオネルだが、拘束が溶ける気配が無い。ダメだ。抜け出せない。


「ぐ……! この、野郎……!」


 宙吊り状態のまま首を絞められたライオネルは意識が遠のいてきた。このままだと本当にまずい。死ぬ。使って抗おうとするがラヴァルスードの手は恐ろしい程の力がこめられており、少しずつ力を強めているのは苦しむ白騎士の反応を楽しんでいるからだろうということが伝わってくる。


「あァ、良い、良いぞ。絶望に抗おうとするその必死な様子……。素晴らしい。だから『支配』はやめられない。希望を目指して絶望に抗い、戦おうとする者こそ、オレが殺すに値する。希望を砕き、支配し、訪れる絶望こそがオレに快感を与える!」


 なんだこいつは。快感を与えるだと? こいつは、こいつがこれまでやってきたことをこうも楽しげにしてきたのか?

 奴はこれまでもこうして多くの人々を苦しめてきたのだ。楽しそうに。嬉しそうに。

 許せない。

 お前だけは、絶対に。


「てめぇみたいな……やつに……! 負けてたまるかあああああああああ!」

「叫ぶのは結構だが、目の前にオレという至高の存在がいるんだ。もう少し静かに叫べよ下等生物」


 ライオネルの意志に応えるかのように白騎士の鎧が煌めき、輝き始めたが、ラヴァルスードが希望を絶望で塗りつぶすかのように黒い炎で白騎士の全身を包み込んだ。

 轟ッッッ!! と、地獄の業火を髣髴とさせるラヴァルスードの黒炎はライオネルを容赦なく焼き殺さんと燃え上がった。いかに白騎士の鎧と言えども直接、それも継続的に叩き込まれた魔王の炎に耐えきれるはずがなく。


「ッ――――! があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」


 体を魔王の黒炎で包み込まれたライオネルはあまりの激痛に叫ぶことしか出来なかった。全身を絶え間なく刃物で貫かれているかのような痛み。いや、それすらも大きく上回る程の、筆舌に尽くしがたい程の痛みが白騎士を襲っていた。

 ラヴァルスードの攻撃により怪我を負い、逃げ遅れた民たちは王都を守る正義の騎士が魔王に成す術がなく蹂躙されていく様を見てたちまち絶望に支配されていった。白騎士が現れた瞬間に助かったかと思った。いつもみたいに、あの化け物を退治してくれるのかと思っていた。

 だが、違った。

 あの白騎士ですら敵わない。

 もうだめだ。

 おしまいだ。

 死ぬしかない。

 それらの負の感情はラヴァルスードの好物とするところであり、しっかりと感じ取っていた。


「ははははは覇は覇ははは覇覇ッ! 感じるか、白騎士! 貴様が蹂躙されていく様を見て民たちが絶望に包まれているぞ! これは良いッ! お前をじっくりといたぶってやれば、大勢の目の前で貴様を殺してやれば、多くの絶望が手に入るッ!」


 ラヴァルスードは思い立つと、すぐに魔人達を呼び寄せた。


「さあ魔人達よ! 今からこのとっておきのショーをこの場にいるすべての種族に見せてやろうじゃないか!」


 ☆


 学園の各地で破壊活動を繰り広げていた四人の魔人は魔王の指示を受けると、クリスタルを取り出して空中に放り投げる。空を舞うクリスタルは砕け散り、巨大なスクリーンを紅蓮に燃える空に映し出した。

 思わず学園の中にいた者達が空中のスクリーンに視線を向けた。

 そこに映っていたのは、魔王に首を絞めつけられ、黒い業火に焼かれる白騎士の姿。


「お兄ちゃんっ……!」


 ユキが口元を抑えて今にも泣きそうな声で空中に浮かんだスクリーンを見つめる。ギルドホームに入ろうにも、魔人達の戦闘のこともあって未だ外にいた。結果、この惨劇を目にすることになってしまった。

 鎧もバキバキと徐々に歪み、砕けはじめている。殆どに亀裂が入り、鎧の防御能力も低下していることが明らかだった。


 このままでは、確実に死ぬ。


「いや……嫌っ! 誰か、誰かお兄ちゃんを助けて!」


 残されたたった一人の家族の死が目の前に迫りくる。ユキには叫ぶことしか出来なかった。誰でもいいから、何でもいいから助けてほしかった。ユキのたった一人の家族を、兄を。

 しかし、誰も助けてはくれない。

 あの魔王の持つ圧倒的な力に、寒気のする得体のしれない魔力に誰も立ち向かおうとする者はいなかった。

 当然だ。勝てるはずがない。勝てるイメージがまったく浮かばない。

 まさに悪夢。


 もう、だめだ。


 終わりだ。


 何もかも。


「お兄ちゃん…………嫌だ……死んじゃやだよぉ……」


 ユキは力が抜けたかのように、がくりと地面に膝をつく。

 頬を涙が伝い、絶望を象徴するかのように空を舞う。


「誰か……誰か……! お兄ちゃんを……わたしのたった一人の家族を……助けてよぉ――――!」


 少女の叫んだ言葉は祈りだった。何の打算も計算も無い、ただの純粋な、たった一つの願い。

 業火に焼かれる空に溶けた祈りと願いは、


「――――――――『魔龍斬デヴィルストライク』!」


 一人の少年が纏った鎧と、掴んだ白銀の剣が纏う黒魔力の刃によって応えられた。

 黒魔力の刃はラヴァルスードに見事直撃し、魔王から意識を失ったライオネルを放すことに成功する。 


「…………ほぅ。なかなか良いタイミングで現れるじゃないか……」


 ラヴァルスードは突如として現れた乱入者に対してニタリとした笑みを浮かべた。果たしてそれは喜びか、狂気によるものか。

 ただハッキリしているのは、


「黒騎士よ」


「…………ラヴァルスード。お前を、止めに来た」


 絶望を斬り裂かんと、一人の少年が立ち上がったという事実だけだ。




書籍化についての続報を活動報告にあげています。

これからも書籍化についての続報は月一ペースで発表していきます。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/146332/blogkey/1229203/


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