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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第一章 世界最強の星眷使いの弟子
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第十一話 ハーフの少女たち

 春のランキング戦が近づいてくると、明らかに校内の雰囲気が変わりだした。三年生はどこかピリピリとしているし、二年生も緊張感を持っている。ただ一年生は、緊張感の中にもどこかお祭りムードのようなものも感じられたが。

 ランキング戦は個人戦とギルド戦にわけて行われる。また、日程も分かれているためにどちらにも参加することが可能だ。先に個人戦が行われ、その一週間後にギルド戦が行われる。一週間のインターバルがあるのは個人戦で傷ついた生徒の治癒期間となっている。


 少しでもポイントを稼ぎたいソウジは是非ともギルド戦に出たいところではあるのだが、ソウジをスカウトしてくれるところがあるわけでもないし、一緒に組んでくれる生徒はおそらくレイドかフェリスぐらいだろう。ギルドを作るには最低でも五人が必要なのであと二人足りない。

 ソウジはレイドの強化魔法の特訓に付き合っていた。レイドもランキング戦の個人戦に出場するので、その日までに少しでも戦闘力を高めておこうということである。


「なんか、いつもいつも悪いなぁ。付きあわせちゃって」


「いや、俺なら大丈夫だ。それにレイドも頑張りたいんだろう? ランキング戦」


「おう。オレん、ビンボーだからよ。将来は騎士になりたいんだ。もしくは、冒険者かな」


 この世界における騎士とは実力のあるエリートのことをさす。騎士になるにはまず高い戦闘力が必要になる。レーネシア学園から騎士団に推薦入団しようとしたらまずはランキング戦で個人戦、もしくはギルド戦で二十位以内に入ることが条件となっている。その壁は高く、厚い。


「騎士になれば家族のみんなの生活を楽にさせてやれるしな。冒険者も、普通の職業に就くよりは稼げるしチャンスもある。まあ、理想は騎士なんだけどな。安定してるし」


 強化魔法の練習に打ち込んでいたレイドの顔が曇る。


「でも、オレなんかがなれるかなぁ……」


 いつも元気なレイドがここまで落ち込むのは珍しい。どうやら強化魔法の習得にあれだけ手こずったことはレイドの中でまだ尾を引いているようだ。


「なれるさ」


 ソウジは事実を述べる。


「そ、そうか?」


「そうだよ。俺が保証する。それに、俺も出来ることがあったら協力するからさ。まずは一緒にランキング戦に出て、ポイントをガンガン稼ごうぜ」


「……おうっ! そうだな!」


 ソウジに励まされたのかレイドはすぐにいつも通りの明るい笑顔を見せる。


「うっし! ランキングの上位にいけば特別支援金ももらえるし、そうすりゃあ実家に金貨を送れるしな!」


「ああ。サクッと倒して、サクッと金貨をゲットしよう」


「いや、サクッとはいくとは限らないんだが……」


 レイドが苦笑する。が、その時ソウジはある違和感を感じ取った。


「……ん?」


「どうした、ソウジ?」


「いや、誰かに見られてたような気が……」


 ここは食堂の裏にある森の傍だ。辺りに人けはない。だが、確かに誰かに見られていた。


(気のせいじゃない…………でも、なぜ俺たちを?)


 可能性としてはいくつかあるが、ソウジの様子を探りそうな生徒に心当たりがあるといえばある。


(オーガスト・フィッシュバーンか?)


 その日ソウジは、周囲に気を配りながらレイドの特訓を終えた。

 ここ数日、誰かに観察されていることを感じながら過ごしたソウジは校内で自分の噂話をされるよりも不気味だった。その正体が分からなかったからだ。オーガストはあれから大人しくしている。不自然なくらいに。そんな奇妙な状況に晒されてからちょうど三日経ったある日。


 ソウジはいつも通り、寮の自分の部屋で起床した。レイドやフェリス、ルナたちといる時間は心が安らぐが、周囲の視線を感じない自室はそれと同じぐらい気楽にできる。つくづくこの寮での部屋が個室でよかったと思う。だが不思議なことにその日の朝は目を覚ますと同時に、自室だというのに誰かの視線を感じていた。


「……!?」


 その異変に、ソウジはすぐに気が付いた。自分と同じベッドの中に誰かが潜り込んでいる。身長的にはルナと同じ。それにこの甘い香りに柔らかい感触……。


(お、女の子!?)


 ソフィアによくベッドの中に潜り込まれていたからこそ気づくことが出来た。ソフィアの時はベッドからボトリと落としていたが見知らぬ女の子にそんなことをするわけにはいかない。


「ん…………ぁむ……」


 幸いにも(?)ベッドに潜り込んでいた女の子が目を覚ましたような気配をした。もぞもぞと布団の中でゆっくりと起き上がる。その拍子に布団が落ちると、ぴょこっと女の子の頭からかわいらしいネコミミが飛び出してきた。


(獣人族?)


 いや、違うとソウジは否定する。獣人族は人間の体にその獣の耳や尻尾を持つという特徴を持っているが、目の前の少女にはぴょこんと頭から飛び出しているネコミミは見えるものの、尻尾がない。


(もしかして……半獣人ハーフか?)


 半獣人ハーフとは人間と獣人族の間に生まれた子である。だが、この世界において半獣人ハーフは嫌われていることが多い。過去の戦争が、一部では今でも尾を引いていることが影響されている。『下位層アンダー』と同じく、半獣人ハーフは差別の対象になる場合が多い。

 半獣人ハーフの少女は感情の希薄そうな子で、エメラルド色の瞳をしていた。ルナと似てるな、と思ったのはかなり小柄な点である。しかし、ささやかなサイズとはいえ胸の柔らかい感触もして落ち着かないのでさっさとどいてほしいとソウジは願うばかりである。


「んにゅ……寝てしまった。いっしょうのふかく」


「それはどうでもいいんだけど、さっさと降りてくれないかな?」


「……ん。ことわる」


「……理由を聞いてもいいか?」


「……そーじは、いいにおいがするから」


 意味不明である。


「……それに、あたたかい。ぽかぽかする。きもちいい。だからきのうは寝てしまった」


「オーケー、とりあえず君が寝落ちしてしまったことは分かった。でも、どうしてわざわざ俺の部屋に来たんだ?」


 ソウジが質問すると、ネコミミ少女は「んー」と右手の人差し指を唇に当てて感情の読み取れないクールな表情を保ったまま何かをがんばって思い出そうとしていた。


「……そーじを『ろーらく』してこいって言われたから」


「……なぁ、今とてつもなくよからぬことを言っているって自覚、ある?」


「?」


 どうやら分かっていないらしい。とりあえずソウジはネコミミ少女をベッドから降ろす。


「それで、そもそも君は誰なんだ?」


「……チェルシー・ベネット。Aクラス」


「Aクラス? 俺に何の用なんだ?」


 Aクラスとの接点など、ソウジにはオーガスト・フィッシュバーンぐらいしか心当たりがない。ここ数日感じていた視線のことを考えると、怪しまずにはいられない。

 チェルシーは無表情で、ネコミミをぴこぴこと動かしながら、用件を述べた。


「――――そーじを、わたしたちのギルドに誘いに来た」


 ☆


 その日、ソウジはいつも以上に生徒たちのヒソヒソ声に晒されることとなった。まさかこれ以上酷くなるとは夢にも思っていなかったほどに、いつにも増して噂話をされていた。突き刺さる視線が痛い。

 それもこれも、人の布団に勝手に潜り込んできたネコミミ少女、チェルシーのせいである。なぜここでチェルシーが関わってくるのかというと、さっきから彼女がソウジの背中に抱きついてきてそのままぶら下がっているからだ。首元に彼女の吐息がかかってさっきからむずむずするのもそのためだ。


「おい、離れてくれ」


「……いや」


 朝からこの調子である。


「……そーじはいいにおいする。あったかぽかぽか」


「あのなぁ……」


「……それに『ろーらく』するまで離れるなっていわれた」


「それが本音じゃねーか!」


「……『かんゆう』だった気がしなくもない」


「それだとかなり意味が変わってくるんだけど!?」


「……そーじ、わたしの魅力にめろめろ?」


「めろめろしたからさっさと離れてくれ。頼むから」


 はぁ、とため息をつくがほっといたらそのうち離れるだろうと判断したソウジは半ばやけくそでそのまま行動することにした。チェルシーは軽いのでそんなにも負担にならないのが唯一の救いだ。それに、授業になればそのうち離れるだろう。


「よーっすソウジ。おはよ……って、なんだソレ……」


「それを聞きたいのはこっちだよ……」


 寮のエントランスでレイドと合流してもチェルシーは離れる様子がない。


「……おっはー」


「お、おっはー?」


 チェルシーは時代を感じさせる朝の挨拶をレイドにして、レイドは戸惑いつつも律儀にそれを返す。


「ソウジくん!」


 すると、物凄い勢いで女子の部屋のあるところからエントランスへと、フェリスがやってきた。明らかに怒っている。バチバチと魔力を滾らせているようにも感じるほどに。


「さっき、ソウジくんが見知らぬ女の子と抱き合ってるって話を聞いたんですけどいったいどういう……って!?」


 フェリスがチェルシーを見た途端、驚いたように立ち止まる。

 思わず口を噤むほどに衝撃的な光景だったのだろう。


「まず第一に、抱き合ってない。正確には、ひっつかれてるが正しいよ」


「……おっはー」


「おっはーじゃねぇ」


「……ぐっどもーにんぐ?」


「言い方の問題じゃないからな!?」


「……そーじはわがまま」


「お前それこの状況で俺に言うか?」


 段々とソウジもこの少女に対して遠慮がなくなってきたのを見て、フェリスはぐぬぬと唸っている。


「ううう~……。いったいなにがどうなってるんですかぁ……」


「それ、一番ききたいの俺だからな?」


 それからまたひと悶着があったものの、なんとか食堂にたどり着いた。が、なぜかルナにジトッとした目で見られてそこでまたひと悶着あったので、朝食にありつけたのはいつもより三十分ほど遅れた時間帯だった。そこでようやく、ソウジはレイドとフェリスにチェルシーにギルドに誘われたことを話した。


「ギルドねぇ……つーか、Aクラスならいくらでも相手はいるんじゃないか?」


 率直な疑問を漏らしたのはレイドである。その疑問に対してチェルシーはどこか暗い表情を見せた。


「……わたしたちは、半獣人ハーフだから」


 それがAクラスでの自分の立場がどうであるかを物語っていた。半獣人ハーフは獣人側にしても人間側にしてもあまり好まれていない場合が多い。獣人でも人間でもない『中途半端な種族』とされているのだ。

 そんなハーフの少女たちとまともに組んでくれるような生徒が、Aクラスにはいなかったのだろう。


「……悪い」


 レイドが謝ると、チェルシーは気にしないでとふるふると首を振った。

 ソウジは話題を変えるために気になった点についてたずねてみることにした。


「さっき、わたし『たち』って言ってたけど、チェルシー以外にもギルドのメンバーがいるのか?」


「……そうだよ」


「へぇ。それって誰……」


「わたしよ!」


 と、ソウジが訊ねたそのタイミングで、ソウジたちに待ってましたと言わんばかりに誰かが声をかけた。

 振り返ると、そこにいたのはルナやチェルシーと同じぐらいの身長の、小柄な少女だった。イヌミミをぴょこんと頭から生やしており、真紅のルビー色の瞳をしている。クールなチェルシーとは正反対にこちらの少女はとても活発そうだ。そしておそらく、チェルシーと同じ半獣人ハーフだろうということが推測できる。


「えーっと、君がチェルシーを俺に送り込んできたのか?」


「そうよ! そこのチェルシーを送り込んだのは何を隠そうこのわたし、『星眷使い』のクラリッサ・アップルトン様よ!」


「……わたしは、同じく『星眷使い』のチェルシー・ベネット」


「わたしたちが最強ギルド(になる予定)の、イヌネコ団(仮)よ!」


「……わーぱちぱちぱち」


 ふふんっと自信たっぷりにドヤ顔で腕組みして仁王立ちするイヌミミ少女と無表情で淡々と拍手するネコミミ少女。

 この二人が『星眷使い』であることに驚きつつも、どうしてもため息をつかざるを得ないソウジであった。




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