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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第七章 オーバーブレイヴ
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第百十話 ユーフィアの戦い

 魔王は思いのほかアッサリと撤退した。わざわざ王都に乗り込んできたとは思えないぐらいにアッサリとしていた。だが、戦いが終わって、身を隠して変身を解き、クリス達と合流しても心の中からショックのようなものは抜けきらなかった。


 自分の使っている力は、魔王と同じモノ。


 その抗いようもない事実が心の中でずっしりとのしかかった。


「兄さん?」


 ギルドホームに戻った時、おずおずとした様子でクリスが話しかけてきた。話しづらい雰囲気になっていたので声をかけにくかったのだろうか。


「あの、大丈夫ですか? 元気がないようですが……」

「……うん。大丈夫。ちょっと疲れただけだから」


 今はとにかく一人になりたかった。

 自分の力は、自分の師に呪いを負わせたあの魔王と同じモノ。

 かつて世界を支配しようと企み、多くの血を流した忌わしき存在。

 それと同じ力を持つ自分は、これでは、まるで、本当に――――


(化け物じゃないか…………)


 知りたくなかった真実から眼を背けるかのように、他者を拒絶し、一人で部屋に閉じこもった。


 ☆


「ソウジくん……」


 ギルドホームから返ってきた際、ショックを受けた様子だったソウジはそのまま一人部屋に閉じこもってしまった。フェリスはそんなソウジに声をかけることも出来ないまま、見送ることしか出来なかった。


「兄さん……いったい、何があったのでしょう……」


 クリスは心配しつつも、自分の兄がなぜあんなことになってしまったのか分からない様子だった。だが、フェリス達には分かる。ライオネルの口から何があったのを語ってもらったことで察しがついた。

 曰く、ソウジの纏う『スクトゥム・デヴィル』があの『魔王』と同じ力であったこと。

 ソウジにはそれがショックだったのだろう。

 きっとソウジは今、自分が本当に化け物なのではないかと思い込んでいる。

 これまでのように魔力の色が黒いだけで受けてきた差別的発言とは根本的に違う。

 彼の持つ力そのものが、多くの人々を苦しめてきた悪しき存在と同じモノなのだから。


「それにしても……どういうことだろうね、アレは」


 沈黙する場で、口を開いたのはエドワードだった。


「魔王を名乗る男……それに、『黒騎士』もその魔王とやらと同じ力を持つらしいじゃないか」


 エドワードはどうやら魔王と黒騎士との間に交わされた会話を聞いていたらしい。

 出来るだけ被害を抑えるために戦う場を変えたとはいえ、場所は王都のど真ん中だ。

 エドワードだけでなくとも多くの人が魔王と黒騎士との間に交わされた会話を耳にしていたに違いない。


「魔王とやらが本当に復活したかは疑わしいが、魔人と名乗る者達に、あの禍々しい力…………」


 呟くと、あの時のラヴァルスードの力を思い出したのかエドワードはぶるっと体を震わせた。


「いや、あれは本物じゃ」


 体を震わせるエドワードに、断言したのはマリアだ。


「儂も気になって一度、外に飛び出したのじゃが……感じたぞ。奴の魔力を。あれは間違いなく、かつての魔王じゃ」

「本物って断定してるけど……マリアさんは昔の魔王と面識はあるのかい?」

「いや、無い。だが、実家の地下にかつての魔王が利用していた施設のようなところがあってな。封印してはいるが、未だに魔力の痕跡が根強く残っている。さっき感じた悍ましい魔力は、アレと同じだった」

「その情報は?」

「心配するな。気付いた時点で既にエルフの騎士隊やこの街の騎士団にも提供しておる」


 マリアの言葉にエドワードがまたもやぶるっと身を震わせる。


「そうか……。もしも、黒騎士が本当に魔王と同じ力を持つとしたら……」

「持つとしたら、どうだっていうんですか」


 エドワードの言葉に、フェリスは少し棘のあるトーンで言葉を投げかけた。


「……彼には姫様を魔人と名乗る者達から助けられた恩儀がある。だが……他の人達は…………」


 言いづらそうにするエドワードだが、彼のその言葉が何を意味するのか。その場にいた者達は理解していた。


「……いや、よそう。これから緊急の会議がある。これで失礼するよ」

「儂もこれから会議に向かう。この場は同じく、失礼させてもらうぞ」


 そう言うと、二人ともギルドホームから出て行ってしまった。エドワードとマリアは留学生の中でも家柄的に高い地位にある。特にマリアは魔帝の娘であり、現状において有力な情報源となるだろう。

 二人がギルドホームから去ると、残ったのはソウジを除くイヌネコ団の面々にクリスとフレンダだけになった。


「兄さん……」

「クリス、そろそろ寮に戻ろう」


 兄を心配するクリスに、フレンダが優しく呼びかける。その際、一瞬だけフェリスと視線を交わす。


「体を壊したらソウジも心配する。アイツも今日は疲れただけだ。休ませてやろう」

「フレンダ……はい。分かりました」


 クリスは肩を落とした様子で頷くと、フレンダに連れられて寮へと戻った。

 ようやくギルドホームがイヌネコ団の面々だけになり、すぐさま話題は魔王のことへと移る。


「まさか、魔王が蘇ってしまったなんて……」

「いや、蘇ったっていうわけじゃないみたいだぜ。アイツはまだ不完全だって言ってた」

「アレでか……正直、距離が離れていてもあの強大で禍々しい魔力は……肌に刺さったぞ」


 先程のエドワードと同じようにオーガストも身をぶるりと震わせている。それほど、恐怖を感じる魔力だったということだ。魔王がきっかけで黒の魔力が恐れられるようになったのも納得がいく。


「それも問題だけど……それよりも、心配なのはソウジのことよ」

「……ソウジ、とてもショックを受けてた」

「そりゃ魔王と同じ力だなんて言われたらなぁ……」

「でも、そんなの関係ないです。ソウジさんはソウジさんです」


 ルナの言葉にその場にいた全員が頷いた。だが、本人からしてみればそう割り切れるものではないだろう。実際、割り切れないからこそソウジは苦しんでいるのだ。


「わたしは、この命をソウジさんに助けられました。ソウジさんは魔王なんかじゃありません。たとえ使っている力が、魔王と同じものだとしてもです」

「それはみんなが分かっていますよ、ルナ。ですが、個人的に気になるのは騎士団の動向ですね……」


 フェリスは十二家の一つ『ソレイユ家』の人間だ。だからこそ、この街の騎士団がどういうところかを理解している。だからこそ、不安になる。

 代々この街を守り続けてきた守護のキャボット家。

 王都、王族に害ある者は彼らの敵となる。


「もしかすると騎士団は、黒騎士を……ソウジくんを排除しようとするかもしれません」

「そりゃないぜ! ソウジは何もしてねぇのに!」

「落ち着いてください。あくまでも可能性の話です」


 レイドに向かってそう言うフェリスだが、その表情は険しい。

 実際、ソウジの持つ鎧の力は魔王と同じモノだということは向こう側も察知しただろう。


「あの、もし……もしも、ソウジさんが敵だと認定されたら、どうなるのですか?」

「……分からん。何しろその力のルーツが魔王と同じモノだからな。まあ、あまり良い期待は出来そうにないな」

「そんな……」


 鎧の力でソウジに助けられたルナとしては、納得できない予想だろう。そんなことはオーガストだって一緒だ。しかし、かつての黒魔力に対する人々の反応を考えるとあまり良い期待は出来ない。


「フレンダを使って調査までしてましたからね……とりあえずフレンダの報告で敵意はないことが伝わっていますが、今回の件で騎士団や……いいえ。騎士団だけじゃありません。他の十二家や王族がどんな判断を下すか……」

「貴族や王族がどんな判断を下そうが、関係ないわ」


 重い空気になりかけたところをバッサリと切ったのは、クラリッサだった。

 イヌミミをぴんっと立てて決意を固めたかのような表情をしている。実際、彼女の目は強い意思で燃え上がっていた。


「仮にそいつらがソウジを敵だと認定したとしても、わたしたちはソウジの味方よ」


 あそこまでショックを受けたソウジを見るのは初めてだった。それだけに、守ってあげたいという思いがクラリッサの中で渦巻いている。いつも守ってもらってばかりで、魔人達との戦いでも仕方がないとはいえ結局はソウジとライオネルに頼りっぱなしだ。


「……いつも守ってもらってばかりだから、今度はわたしたちがソウジの力になる」


 その言葉に異を唱える者は誰もいなかった。

 今度は、自分達がソウジを支えるのだ。


 ☆


 王都に出現した魔王と名乗る男の存在はすぐさま王都上層部に通達された。留学中である魔帝の娘、マリア・べレストフォードによって魔王であることがほぼ確定となった為に、事態はより一層、深刻となった。

 騎士団長をはじめとしてステジア王国の最高戦力『十二家』にも緊急の招集がかかった。また、エルフ側の代表団の中にはユーフィアや、彼女を守る親衛隊の一員としてエドワードがおり、魔族側には魔帝の娘であるマリアが代表の一員として会議に加わっている。また、騎士団側にはフレンダの姿も見えた。

 この緊急会議を取り仕切るのはステジア王国の国王、バルバス・アジアテスである。


「皆、緊急の呼び出しに応えてくれて、まずは礼を言う。また、他種族の方々にも礼を言わせてもらいます」

「そんな堅苦しい挨拶は抜きにしましょうよ、国王様。事態は急を要する、ってやつなんじゃないのかしら?」


 まるで場の空気を探るようなバルバスの言葉をバッサリと切ったのはエリカ・ソレイユである。彼女はこの場にいない父に代わり、ソレイユ家の代表としてこの場にいた。


「うむ。そうだな……マリア姫から提供された情報によると――――魔王ラヴァルスードが、この王都に現れたという」


 バルバスの言葉で、一気に場の空気が変わった。魔王とは過去においてこの世界を支配せんとした者。

 その力は強大であり、先程の黒騎士との戦闘においてもその邪悪な魔力は王都一帯を駆け抜けた。

 この場に揃った者達ならば、悍ましき力を感じ取ったはずだ。

 魔王が復活したのは、また、復活しつつあることを疑う者はこの場にはいない。


「各種族が再び手を取り合う状況になったということだ。無論、早急に対策を立てる必要がある」

「さっそく『五大種族平和同盟』が役に立つ時が来た、というわけですな?」


 国王の言葉に頷いたのは十二家の一つ、エアハート家の当主の男である。ヤギのような顎鬚を撫でながら、じっと魔撮機カメラ(かつての勇者の開発した魔道具)で撮影された写真を睨み付けた。そこにはラヴァルスードと名乗る魔王と、黒騎士の姿が映っている。


「そうだ。既に各種族の王には連絡をとばしている」

「それで、具体的にはどういった対策をとるのじゃ?」

「そこだが……マリア姫、まずはあなた達に調査を依頼したい」

「ラヴァルスードや魔人達の手がかりじゃな。まァ、確かに奴らについての手がかりなら魔族の大陸にあるかもしれんからな。心配せずとも、既に手配しておる」

「すまない。助かる」


 夏ごろに結ばれた『五大種族平和同盟』によって、五種族間の連絡がスムーズになるように連絡網が整備されている。今回こうしてスムーズに緊急会議が開かれたのもこれによる効果が大きい。

 とはいえ、まだラヴァルスードに関する情報は少ない。

 分かっているのは、彼が魔人と呼ばれる者達を従えているということ、そしてその繋がりを考えると彼が『再誕リヴァース』と呼ばれる魔法犯罪組織のリーダーだということだけだ。


「『再誕リヴァース』と呼ばれる者達についてはエルフの大陸でもチラホラと情報を聞いています。目立った活動はしていないようですが」

「ドワーフの大陸でも同様だ。この王都では既にいくつも活発に活動しているようだが」

「この前は学園を直接襲撃されたりしたわね。あと、みなさんご存知の同盟を結ぶ際に襲撃されたりもしたわね」


 エリカの言葉に、更にクライヴ・ライガが付け加える。


「加えて、『交流戦』においてもユーフィア様を狙って動いていた。第二競技や第三競技にも魔人達が介入していた」

「確か、それに関しては黒騎士と白騎士と呼ばれる者達が阻止したようだね?」


 ここでユーフィアがピクッとエルフ族特有の長い耳を震わせた。危うく開きそうになった口を傍に仕えていた侍女のフィーネがユーフィアの口を閉じさせる。こんなところで黒騎士様について語られたらたまったものではない。


「ふぐふぐむご」


 今のはつい条件反射だったようで、どうやらはしたない真似をしかけたことは自覚があるらしい。頬を少し赤く染めている。ただなぜか抑えたはずの口はふぐふぐむごだの動いているが。


「ユーフィア姫どうかされましたか?」

「いえ。どうやら持病の発作のようです」


 何も間違っていない。


「ふむ。そういえば、別の村では交流戦以前より白騎士らしき鎧の戦士の目撃情報がありましたな」

「白騎士……それに黒騎士か」


 ここで、会議の空気が一気に変わった。

 仮にこの場にルナがいたとして、こういった場に疎い彼女ですらすぐ分かる程の空気の変化。


「報告によると、黒騎士の纏う鎧にはあのラヴァルスード……魔王と同じモノであるとか」

「つまり、彼も魔王の力を持つと?」

「そう考えても問題ないですな。黒い魔力に魔人達を退ける圧倒的な力……正体は一体誰なのでしょうか」


 エアハート家の当主の発した言葉に反応したのはフレンダ、ユーフィア、マリア、エドワードの四人だ。フレンダは正体を知っているが故の反応。ユーフィアとマリア、エドワードの三人は正体を知りたいという意味での反応である。エリカとフィーネは流石というべきか反応を表に出していない。


「その黒騎士についてですが」


 ここで言葉を発したのは、『てんびん座』の星眷を持つウォード家の当主である女性、イーディス・ウォードである。両親が病で他界した為に二十という若い歳で当主となった女性だ。


「彼が魔王と同じ力を持っているというのなら、決断せねばなりません」

「決断? 何を決断するというのですか?」

「彼を……黒騎士を、どのように扱うかです」

「そのことだが」


 イーディスの言葉に、騎士団長であるブルーノ・キャボットが口を挟む。


「黒騎士はこちらに敵意は無い」

「なぜそんなことが分かるのです?」

「本人に確認したからだ」


 サラリと発せられたブルーノの言葉に、会議室がここ一番のざわめきに包まれた。

 黒騎士の正体は未だ分かっていない。正体は誰もが知りたかったことだ。


「なんと! それは……誰なのです!?」

「本人の希望により、それは伏せさせていただく」

「なぜです? なぜ黒騎士は正体を隠すのです!」


 エアハート家の当主の追及は予想されていたことだ。ブルーノはそれに対して口を開きかけたが、それよりも先にエリカが先制する。


「考えてもみてくださいよコーデリアのパパ。学園襲撃事件の主犯はうちの学園の教師に扮していたんですよ。どこに『再誕リヴァース』のメンバーが潜んでいるとも分からないのに迂闊に正体を吐けないでしょうよ」

「む、むぅ……それもそうか」


 納得したエアハート家の当主。クライヴはチラリとエリカへと視線を向ける。


「……珍しいな」

「何が?」

「お前が出張ることがだ。いつも会議の時は興味のなさそうにしていたからな。今日はやけに積極的だ」

「あら失礼しちゃうわね。私はいつでも王都の平和と繁栄を願っていますのことよ。したがって、会議だっていつも真面目に聞いているわ」

「そりゃ失敬した。まあ、オレの聞き違いでなければ妹の部屋のベッドに潜り込んでいる方がよほど有意義だと愚痴っていた気もするが」

「ああ、ご多忙な風紀委員会のお仕事でついにお頭がおかしくなられましたのね。この私が会議を真面目に聞いていないはずないじゃない。オススメのお病院をご紹介させていただきますのことよ筋肉ダルマ」

「……もういい」


 どうやらこれ以上つついても何も出す気はないらしいと悟ったクライヴはため息をつきながら言葉を収めた。


「敵意は無い……が、危険分子であることには変わりありませぬ」


 エアハート家の当主が発した言葉で、今度は会議が不穏な空気が流れ始めていた。


「危険分子、というわけではありませんが彼の存在が不安であることは私も同意です」


 エアハート家の当主の言葉にイーディスが軽い同意を示した。

 勿論、ユーフィアにとっては好ましくない状況である。


「危険? 黒騎士様が危険ですって?」

「ええ。そうです、ユーフィア様」

「なぜです!?」

「報告はあなたも目を通したはずですぞユーフィア姫。魔王の言うことが正しければ、黒騎士の纏うあの鎧は『魔王の鎧』。つまりは、あの魔王ラヴァルスードと同系統の力だということですぞ?」

「だからなんだというのですか? 黒騎士様は今までたくさんの人を救ってくださいました。このユーフィア、黒騎士様にこの身を三度も救われています」


 思わず立ち上がったユーフィアを、あくまでも冷静にイーディスが意見を述べる。

 熱くなりかけているユーフィアに対してイーディスは正反対なぐらいに冷たく、淡々としている。


「それは私達も理解しています。ですが、彼の力が魔王と同じであること……この点は無視できません。もしも彼の力が暴走したらどうするのですか?」

「暴走などしていません!」

「今は確かに、そうですな。ですが、報告によると彼は『最輝星オーバードライブ』を使用したはいいものの、その力を制御しているようにはとても思えませぬ」

「鎧の方にも同じことが言えます。今は良いですが、もし、何かの拍子で暴走してしまった場合……下手をすると、第二の魔王が誕生してしまうことも可能性として考えられます」


 イーディスとエアハート家の当主の言うことは正しい。

 それはまだ子供ながらにユーフィアにも分かる。

 それでも、納得できない。

 確かに暴走の危険はあるかもしれない。それは分かる。分かるが、それでも黒騎士はユーフィアの危機を三度も救ってくれたのだ。彼から伝わってくる温かい魔力は今でも忘れられない。彼は優しい。優しさがなければ身を挺して誰かを守ることなんて出来ない。


「……では、白騎士様は? 彼は白魔力……あの過去の勇者様と同じ色の魔力の持ち主です。あの方と行動を共にしているのですから、黒騎士様の安全は保障されてもいいはずです」

「それはつまり、いざという時は白騎士がストッパーになると?」

「はい。わたしは彼らについてはよく知りません。ですが、白魔力の持ち主がいざという時のストッパーになるということは考えても良いと思います」


 本当は、こんな風にさも黒騎士が暴走するかのような言い方をしたくはない。だけどユーフィアは出来るだけ、彼を守りたかった。自分にできる方法で少しでも彼を支え、守りたかった。


「それに、今、黒騎士様はこちらに対して敵意は無いと言っています。そんな相手をわざわざ刺激するようなことをすれば、もしかすると本当に第二の魔王になるかもしれませんよ」

「ふむ……」

「……確かに、そうかもしれませんね。早急すぎたかもしれません」

「何にせよ、今はまだ敵か味方か、安全なのかそうでないのかを判断するには情報が足りないと思います。むしろ、わたしたちがすべきことは黒騎士様と手を結ぶことではないでしょうか? 現状、魔人達に対抗できるのは黒騎士様と白騎士様だけなのですから」


 とはいえ、彼が魔王と同じ力を持っているとなると彼と手を結ぶことに難色を示す者が多い。

 今はかろうじてユーフィアの必死の説得で場が持っているようなものだ。

 ユーフィアはこれまでこういった場にはあまり出たことが無い。こういった場に出る時はいつも父の傍だった。重要な会議でここまで喋ったのははじめてだ。

 正直、もうキャパシティ的に限界を迎えようとしていた。

 もうなにがなんでも黒騎士を守ろうと無我夢中だった。


「…………ユーフィア様の言うことももっともです。ですが――――」


 別の誰かが何かを言おうとした瞬間だった。


「もう良いんじゃない?」


 エリカが、仲裁するかのように言葉を挟む。


「そもそもあの魔王が同じ力だって言っているだけであの鎧が本当に魔王と同じ力かどうかは現時点では分からないんだし」

「確かにそうだが、それを証明できるだけの説得力が、あの鎧にはある」

「そうかもね。けど、今のところ暴走する気配もないし利用できるだけすればいいんじゃないの。何も今すぐバッサリと切り捨てなくてもいいでしょう。ユーフィア様の言うとおり、対抗できるのはあの二人の騎士だけなんだし。すぐに敵と断定して切り捨てるには惜しいわ。彼らが暴れてくれることでこちらにも得られるものがあるはずだし、敵の戦力を少しでも減らしてもらわなくちゃ」

「しかしだな……」

「暴走のことを心配してるなら、ユーフィア様が言った通り白騎士ってストッパーがいるでしょ。見た感じ、二人は仲良い先輩後輩みたいだし、いざとなったら止めてくれるでしょ。仮に止めきれなくても、こっちで始末すればいいのよ」


 利用するだけ利用して、いざとなったら切り捨て、始末する。

 それで納得したのか口を出そうとした者は黙り込んだ。


(た、助かりましたぁ…………)


 エリカの助け舟で何とかこの場を乗り切ったユーフィア。正直、利用するだけ利用して、いざとなったら切り捨て、始末するというのは気に食わないが、現状はこれが最大限の譲歩といったところだろう。

 とにかく、黒騎士が今すぐ敵として認定されることはなくなった。

 ユーフィアは心の中でエリカに感謝しながら、疲れ果てたようにあとは会議の成り行きを見守った。


(頑張りましたね。ユーフィア様)


 こっそりと、フィーネは侍女として仕えてきた主の成長を嬉しく思い、微笑んだ。





とりあえず次の更新は8月12日の水曜日を予定していますが、もしかするとまた早まる可能性もあります。

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