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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第七章 オーバーブレイヴ
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第百八話 激突する騎士と魔人

次回更新は8月5日(水曜日)0時更新予定です。



 王都は相変わらず賑やかだった。特に交流戦で多くの人が入ってきたこともある。今の王都は様々な種族が入り乱れている状態となっており、今の状態はある意味、五大種族にとって望ましい状態となっているといえるだろう。


「見てください兄さん。これ、とっても綺麗ですっ」


 クリスは嬉しそうに店に置いてあった指輪を見てはしゃいでいる。その光景を見ていると、もう昔とは違うんだなとあらためて実感する。


「あ、でもこっちも綺麗です……って、どうしたんですか? 兄さん」


 笑っていたことに気づかれたらしい。クリスはきょとんとした顔をしている。


「いや、クリスも女の子なんだなぁって思っただけだよ」

「むぅ。じゃあ、わたしを今までなんだと思っていたんですか? 別にわたし、男の子じゃないですけど」


 ぷくっと頬を膨らませる妹の姿もかわいいなんて思ってしまうのは、流石に兄の贔屓目が過ぎるだろうか。でも、実際にかわいいのだから仕方がない。今の自分は緩んでしまっているということは分かっているが。


「そうじゃなくてさ。クリスも、もう小さくないんだなって。年頃の女の子になったんだなぁって思っただけ」

「そうですよ。わたしだって、もう立派な女の子なんですから」


 えへんと決して小さくは無い胸をはる妹に苦笑する。


「じゃあ、立派な女の子になった妹に兄からこの指輪はプレゼントさせていただこうかな」


 クリスが気に入っていた指輪を購入して、二人で一緒に店を出る。クリスは買ってあげた指輪をはめてキラキラと目を輝かせていた。


「ありがとうございます兄さん。わたし、一生大切にしますっ!」

「大げさだなぁ」

「大げさじゃないですよ。わたしにとっては、とーっても大切なものです」


 さっそくはめた指輪を見て笑顔になっている妹を見ていたらプレゼントした身としては嬉しい。見ているとこっちまで笑顔になってくる。それに、こうしていると失った妹との時間をちゃんと過ごせている気がした。


 ☆


「むぅぅぅぅ……う、羨ましいです……」

「あー、フェリスさん?」

「で、でもでも、ソウジくんとクリスさんは兄妹なわけですし、邪魔するのもだめですし……あうぅ……クリスさん、羨ましいです……」

「ああ、ダメだこりゃ」


 羨ましそうに二人の様子を窺っているフェリスを見て隣にいるエドワードはため息をつく。つい、引っ張られるようにフェリスと共に来てしまったが来なければよかったと後悔しているところだ。


「ほら、そろそろ戻ろうよフェリスさん。お二人のデートを邪魔しちゃ悪いし」

「デート!?」

「どう見たってデートじゃないか。まあ、兄さんプレイなるものをするぐらいだからね。そりゃあ仲は良いだろうさ。友達以上に」

「……………………………………………………………………………………………………………………そ、そうですね!」

「う、うん?」


 何やら物凄く長い時間葛藤していた様子だが、最終的にかろうじて頷いたフェリスにたじろくエドワード。正直、目の前のフェリスは一生懸命に言いたいことを飲み込んだ感が強い。


(ううう……ソウジくんとクリスさんは本当は兄妹なのに……!)


 確かに本当の兄妹と知らない、何も知らない人から見れば指輪を買ってあげたり、あんな仲の良さそうな雰囲気でいられるとデートに見えるだろう。でも、あれはあくまでも兄と妹の兄妹水入らずの時間だ。それだけなのだ。


(クリスさんが羨ましいです。わたしもソウジくんから指輪をもらえたら……)


 その時のことを想像してみる。ソウジは、甘い言葉を囁きながらフェリスの手に指輪をはめてくれるのだ。勿論、左手の薬指に。


「えへへ。ソウジくん、そんな……そんなこと言われたらわたし、照れちゃいます。でもでも、嬉しいのでもっと言って欲しいのですけど……」

「もしもーし、フェリスさーん? 帰っておいでー」


 エドワードが、幻想の世界にトリップしたフェリスに呆れたようにため息をついたその時だった。

 ここからそう遠くない地点で、爆発音と何かが崩れ去ったかのような音が響いてきた。


「今のは……爆発音!?」


 さしものフェリスも今の音を聞けば一瞬で我に返る。同時に、嫌な何かを感じ取る。


(これって……これは……?)


 ぞくぞくとする、悪寒のようなもの。何か良くない物がこちらに近づいているかのような。


「…………っ!」


 フェリスは直感的にその場から駆け出し、ソウジのもとへと向かった。


 ☆


「今のは!?」


 爆発音の聞こえてきた方向をすぐさま察知し、振り向く。一泊遅れて遠くから人々の悲鳴のようなものが聞こえてくる。


(この魔力……!)


 どうやら今回は隠すそぶりもないらしい。感じられる魔力は明らかに魔人達のものだ。


(もしかして、巫女が見つかったのか?)


 現在、この街にいる『巫女』の中で判明しているのはルナとユーフィア、エリカの三人。エリカの方は自称であるものの、魔人達にはどうやら『巫女』として認識されているらしい。エリカを襲うならわざわざ街中である必要はない。同じく『巫女』と知られてしまっているユーフィアに関しても同じだ。ということはつまり、


(ルナの存在が奴らにバレた?)


 いや、それも違う。ルナの存在に気がついたのなら直接、学園を狙うはずだ。だとすれば、いまだ知りえない未知の『巫女』がこの王都にいるということなのだろうか。


「ソウジくんっ!」


 頭の中で考えていると、唐突にフェリスが駆け出してきた。遅れてエドワードも。


「な、なんで二人がここに?」

「え? あの、ちょっとお二人の様子が気になって……って、そんなことはどうでもいいんです! ソウジくん、今のって」


 後の言葉は要らなかった。フェリスの目から今の騒ぎが魔人達のものであるということは察しがついている。


「わたしも行きます」

「……分かった」


 正直、魔人達との戦いにフェリスを巻き込みたくない。でも言った所でどうせ聞かないだろうということと、彼女を仲間として頼りたいと思った。


「エドワード、クリスを頼む。二人は学園のギルドホームに戻っているんだ。少なくとも、あそこが一番安全だから」

「君達はどうするんだ? まさか、ここに残るって言うんじゃないだろうね」

「俺達のことは気にするな。ちょっと用事があるだけさ」

「兄さん、いったいこれは……」


 クリスが心配そうな顔をしている。妹のそんな表情を見ると、胸が痛む。心配を出来るだけかけたくなかったのに、結局はこうして心配をかけてしまう。


「とにかく、早く戻るんだぞ。いいな!」


 フェリスに手を触れ、そのまま共に転移する。

 転移先は、騒ぎの場所を大まかに予測した地点にある建物の屋根の上だ。ここからもう少し離れたところでいくつかの人影が破壊の限りを尽くしているのが確認できた。

 魔人だ。

 いるのは赤と青。そして黄。


(緑のアイツはいないのか?)


 前回、接触してきた緑の魔人グリューン。彼女は魔人という身でありながら人間であるアイヴィ・シーエルの味方をしていた。魔人のことはよく分かっていない。だけど、あの緑の魔人とは出来るだけ戦いたくはなかった。


「ソウジ!」


 声のした方向……空へと視線を移すと、白銀の翼を翻しながら星霊天馬が飛翔していた。そのまま傍に着地する。乗っているのはライオネルと、クラリッサにチェルシー。更に水で作った縄を天馬に繋いでつかまっているオーガストとレイドもいる。


「みんな、どうしてここに?」

天馬コイツが教えてくれたんだよ。まったく、本当に便利だぜ」


 話を聞いてみると、ライオネルの天馬が外の異変を察知し、向かおうとしたところをクラリッサ達につかまったらしい。


「で、一緒に連れてけって言われてさ。悪いな。まあ、ギルマスの命令には従うしかないってことだろ?」


 肩をすくめるライオネルに悪びれた様子は無い。まあ、彼とてクラリッサ達の存在が邪魔だとは思っていない証拠だろう。


「もうっ。ソウジったら、また一人で戦おうとしてたでしょ?」

「そんなことないよ。現にこうしてフェリスも一緒だし」

「ふぅん? どうしてフェリスが一緒なのかは知らないけど……まあ、いいわ」


 ジトッとした目を向けるクラリッサから視線を逸らすフェリス。


「今はこんなことしている場合じゃないし。わたしたちは周囲に逃げ遅れてる人がいないか確認して、避難の手伝いをするわよ。魔人達はソウジとライオネルに任せるわ。わたしたちじゃあいつ等に歯が立たないし。悔しいけど」


 現状、あの魔人達に対抗できるのは『黒騎士』と『白騎士』だけだ。通常の魔法ではいくら星眷魔法とて通用しないというのが魔人である。


「分かった。ありがとう」

「へっ、あとは任せろギルマス。いくぜソウジ!」

「ああ! 来い、『アトフスキー・ブレイヴ』!」


 ライオネルはブレスレットを装着し、こちらは『アトフスキー・ブレイヴ』を眷現させる。あの『鎧』を身に纏った状態に変身するのに本来はこうして『アトフスキー・ブレイヴ』を眷現させる必要があるのだ。これまで直接あの姿に変身できていたのはルナが『巫女』の力で生み出したあのブレスレットの『星遺物』があったからこそ。ソフィアに預けている今、それが出来ない。


「『スクトゥム・セイヴァー』!」

「『スクトゥム・デヴィル』!」


 同時に『鎧』を身に纏った姿へと変身する。

 白の輝きと黒の輝きが二人の体を覆い、輝きを切り裂いて中から『白騎士』と『黒騎士』が眷現した。そのまま『アトフスキー・ブレイヴ』を握りしめて跳躍し、青の魔人に向かって斬りかかる。ライオネルは『セイバスター』の銃口を赤の魔人へと向けていた。


「ムッ!」


 気配を感じ取ったのか、青の魔人が白銀の刃を青い剣で受け止めた。だが構わずそのまま魔力を捻じ込み、パワーを上げていく。青の魔人は急上昇したパワーに僅かに対応が遅れ、弾き出された。互いに距離が開き、見合った形になる。


「『黒騎士』、か。嬉しいぞ、よもや貴様とまたこうして戦えるとはな」

「俺としてはもう戦いたくはなかったんだけどな」

「水を差すようで悪いが、誰か忘れていないか?」


 声と同時に、足元の地面がドッと爆ぜた。


「ッ!」


 転移魔法で回避し、この土を操った一撃を放った人物に視線を向ける。

 そこにいたのは――――黄の魔人ゲルプである。


「へぇ。お揃いってわけか」

「あァ。今回はちょっと用事があってな」

「用事? なんだそれは」

「ゴミ掃除だ」


 青の魔人ブラウの発した言葉に眉をひそめる。


「なんだと?」

「我らの主がこの王都に来られる。そのための準備として汚らわしいゴミ共を掃除していると言ったのだ」

「あァ、分かりにくかったか。ほら、ちょうどそこにいるだろう? 儂らが掃除してやってゴミが」


 ゲルプの促した方向に視線を向けると、魔人達の破壊した建物の瓦礫に体を挟まれて身動きの取れなくなっている人が倒れていた。頭から血が流れている。ギリギリのところで死んではいないようだが、このままだと命が危ない。


「人が、ゴミだと? お前ら……!」

「ロートォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 怒りが滾りかけた瞬間、ライオネルの声が怒涛の嵐のように響き渡った。


「ハハハハハハハハ! 会いたかったぜ『白騎士』ィ! 前回のままだと不完全燃焼だったからなァ!」

「だまれ! 今日こそてめェをぶっ殺して、父さんと母さんの仇をとってやる!」


 両親の仇を前にしたライオネルの怒りが爆発し、ロートに荒れ狂うように力を叩きつけている。対するロートもそんなライオネルに対して狂ったような笑みを浮かべて受け止めている。


「さて、ではこちらもはじめるとしようか」

「主が来る前に、貴様というゴミも片づける」

「やれるもんならやってみろ」


 まだ周囲に、そこにいる人と同じように破壊された建物の瓦礫の被害に遭って身動きの取れない人がいるのかもしれない。だが、それらはきっとフェリス達イヌネコ団が、頼れる仲間達が何とかしてくれるはずだ。


(まずはこの場から奴らを引き離す!)


 転移魔法を発動し、まずはブラウの懐に潜り込み、剣を叩きつける。が、それを相手は読んでいたようで即座に氷で生み出したプロテクターに阻まれてしまった。ならばと今度は体を捻り、拳を叩き込む。


「ムッ……!」


 プロテクターの展開されていない隙間に拳を叩き込むことに成功し、体勢を崩すブラウ。


(ここだ!)


 瞬時に魔力を集約させる。


「『黒刃突ブラックショット』!」


 さながら大砲のような轟音と共に放たれた一撃。ブラウは剣を盾にして防いだが、衝撃までは緩和しきれずにそのまま遠くへと吹き飛ばされてしまう。が、技を放った直後の隙を突くかのようにゲルプが土で作りあげた拳を振り下ろしてきた。


「ッ!」


 またもや転移魔法で攻撃を回避すると、剣を叩き込み、そのまま押し出していく。何とかその場から魔人を押し出すことに成功する。ライオネルとロートもお互いに力をぶつけ合いながら移動している。


(問題はここからか)


 現状、ブレスレットをソフィアに預けているのでモードチェンジが出来ない。これまでレーヴァテインモードをはじめとした他の色の鎧に変身できていたのはあのブレスレットの力のおかげだ。それが無い以上、モードチェンジは不可能である。

 が、だからといってここで立ち止まるわけにはいかない。


「――――ほう。随分と楽しい余興じゃないか」


 軽い声と共に、重苦しい威圧感が辺りを一瞬で支配した。


『ッ!?』


 荒れ狂っていたライオネルまでもを一瞬で止めるこの威圧感。


「お前は……!?」

「魔王だよ。貴様ら下等生物の頂点に立つ者だ。覚えておくがいい」


 漆黒のローブに身を纏った邪悪な存在、魔王ラヴァルスードがついに姿を現した。





次回更新は8月5日(水曜日)0時更新予定です。



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