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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第七章 オーバーブレイヴ
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第百六話 ライオネルの決意

 夜。ライオネルは一人、ギルドホームからこっそり抜け出して夜風に当たっていた。夜風、とはいってもここは『天庭園』の中。魔法空間によって生まれた環境であり、夜空に浮かぶ月もあくまでも現実の風景を元に再現されたハリボテにしか過ぎないのだが。

 思い返すのは、赤の魔人ロートのこと。

 前回戦った際に、あの魔人が親の仇だということが判明した。以降、ライオネルはずっとそのことを思いつめていた。


(アイツが……父さんと母さんを……)


 拳に力がこもる。これまでは『再誕リヴァース』の誰かが親を殺したということしか分からなかった。分かっていなかった。だが、ついに見つけた。直接親を殺した相手を。


「殺してやる……! このオレが、必ず……!」


 憎悪を込めた言葉を吐き捨てる。血が出るまで拳を握りしめる。仇の顔はもう覚えた。今度は逃さない。逃すつもりは無い。次に会った時は、絶対に殺してやる。


(ユキに気づかれる前に……)


 ライオネルは赤の魔人が親の仇であるということをユキに隠している。両親が殺された時のことはユキの心に大きな傷を残していた。今でこそ時間が経ったことやルナという同年代の友達が出来て、安心して過ごせる時間が出来たからこそ心の整理もついている。だが、親の仇である赤の魔人のことを直接触れるとどうなるか分からない。ライオネルはそれが怖かった。

 両親が殺されてからしばらく、ユキは抜け殻のようだった。二人で旅を続けているうちに次第に落ち着いていったが、あの頃の妹をライオネルは忘れていない。今みたいに元気になったのが奇跡といっていいぐらいだ。


「…………」


 ライオネルはブレスレットに手を触れる。これは旅の途中で出会った師が自分に託してくれたモノだ。魔人達に対抗することのできる力。この力で、妹を守る。そして、両親の仇をとる。


「見ててくれ、父さん。母さん……」


 結界の中に再現された偽りの月を眺めながら、ライオネルは一人決意を固めた。


 ☆


 フレンダと話をした次の日の朝。

 ギルドホームの中で、『イヌネコ団』のメンバーにそのことを伝えた。


「そういうわけだから、とりあえず騎士団側に少なくともこっちは敵意は無いってことが伝わったと思う」

「お前はバカか」


 話し終えると、オーガストの言葉がさっそく飛んできた。


「迂闊に正体をバラすとは……今まで必死にごまかしてきたというのに……」

「ていうか元からバレバレだったけどな」

「そもそも、騎士団の方が手を出してこないという保証はどこにもないぞ」

「それもそうなんだけどさ……あの後、フレンダともう少し話し合って情報収集に協力してくれることにはなったんだよ」

「つまり、騎士団側の情報をこちらに提供してくれるということですか?」

「とりあえずはそういうことになるな」

「信用できるのでしょうか……わたしもフレンダについてはそう多くのことを知っているわけではありませんけれど、キャボット家は代々王都の守護に命を懸けてきた家です。もしもソウジくんが……いいえ、『黒騎士』と『白騎士』が騎士団長に害ある存在と判断された場合どうなるか……」と、フェリス。

「どっちにしろ、相手の出方がわかんねぇよなァ」


 レイドは天井を仰ぎながら言う。それは同意見だ。


「でも、ソウジの判断は正しかったと思うわ。どうせ元から怪しまれてた上にアイヴィ先輩の一件があったでしょ。ソフィアさんとソウジ……じゃなくて『黒騎士』が一緒に戦っていたところはバッチリ見られてただろうし。そうなるとソウジに結びつくのが自然よね」

「……むしろタイミング的には丁度良かったかも」

「下手に隠し通すと変な誤解を与える可能性がありますもんね」

「そーゆーこと」


 ルナの言葉にうんうんと頷いているクラリッサ。流石にここまで来るとこの場にいる全員、状況の把握が早くなってきた。


「まあ、そういうことだから思い切ってみたってわけ。とりあえずライオネルのことは伏せてるけど」

「……………………」

「ライオネル?」


 自分達のことに関わる重要な話だというのにどこか思いつめている様子のライオネルに思わず首を傾げる。


「おい、どうかしたのか?」

「え、あ、い、いやっ。なんでもないぜ。ちょっと考え事していただけだ」


 ニカッと笑うライオネル。明らかに無理をしていることが分かる。前回の一件で……赤の魔人がライオネルとユキの両親の仇だと知ってからライオネルはずっとこの調子だ。ユキもそんな兄のことを心配しているが、ユキに赤の魔人のことは秘密にしてくれと頼まれている。ユキにショックを与えたくないということなので協力しているが、それによって一人で抱え込むような状態になっているのではないかという心配があるのも確かだ。


「『黒騎士』って言えば、オーガスト。脚本は書けたのか?」


 あからさまに話題を変えたことはバレバレで、だからこそ「これ以上は触れるな」という意志の表れのようにも思えるので無言を貫き通す。

 オーガストはライオネルの言葉にキラリと目を輝かせて、ニヤリと笑みを浮かべていた。


「ふふふふふ……よくぞ聞いてくれた。実は既に完成している!」

「…………………………………………あ、はい」


 ここまで来たらもう観念するつもりだが、いざ脚本が完成したことを知らされると「あ、はい」としか言えない。こちらからすればオーガストが得意げに持つ脚本は時限爆弾のようなものなのだから。


「ではさっそくみんなに配って――――」

「おおっとぉ! そろそろ授業の時間だなぁ!」


 わざとらしい声をあげて無理やりお開きにする作戦に出る。鞄をひっつかんでギルドホームから出るが、その際にライオネルの方へと視線を移す。


「……………………」


 ライオネルは依然として悩んだような様子を見せていたが、今はこれ以上のことを触れる事が出来なかった。


 ☆


 既に『イヌネコ団』が行う『黒騎士をテーマにした演劇』のことは知れ渡っているようで、廊下を歩いていると色んな生徒から「頑張れ」や「観に行く」などの好意的な声があがっていた。どうやら、オーガストの狙い通り話題性はかなり高いらしい。


「フッ、どうだ。僕の作戦は完璧じゃないか」

「そうね。確かに現状でも十分、話題性はバッチリね。これなら審査員投票でも良いところまで行けるかも」

「でも、話題性があっても肝心の劇の内容が良くないと審査員の票はとれないぜ?」


 と、一人の少年がオーガストとクラリッサの言葉に対して得意げな声を滑り込ませてきた。


「デリック先輩」

「おっはよう一年生諸君!」


 朝からニカッと爽やかな笑顔を披露してきたのは風紀委員に所属している二年生のデリック・バルモアだった。


「おはようございます。聞きましたよ先輩。交流戦での戦いが評価されて騎士団からスカウトが来ているらしいですね」


 フェリスの言葉にデリックは目を丸くした。


「なんで知っているんだ? フェリスちゃん。……ってああ、そうか。生徒会長の妹さんだもんなァ」

「ええ。先日、一度寮に戻ったら姉さんが人の引き出しを漁っていたところを捕まえた時に言っていたので」

「できればそのシチュエーションで聞いたっていうのは知りたくなかったかなぁ……」


 人のスカウトの話を、あろうことか姉がコソ泥のような真似をして捕まった所で話されているというのは何だか微妙な気分になるのだろう。


「先輩はどうするんですか? スカウト」

「クラリッサちゃんはどうしてほしい?」

「どうでもいいです」

「あ、そうなんだ……」


 しゅんと肩を降ろしてしょんぼりとするデリック。すぐに調子を取り戻し、肩をすくめると、


「まあ、ちょっと考え中だよ」

「ええっ、どうしてなんですか?」


 驚いたように声をあげるのはレイドである。騎士団といえば卒業後の進路としてはトップクラスに良い部類なので驚くのも無理はない。


「そりゃありがたい話だとは思ってるぜ? でもさ、こんなオレなんかが通用するのかなって思うわけよ」

「交流戦じゃ空間魔法を使える相手に勝ったじゃないですか」

「そりゃ確かに勝ったけど、割とギリギリだったし、それにアレは相手がまだ空間魔法に慣れてなかったおかげだ。最後の決め手もだまし討ちみたいなもんだし、もう同じ手は使えねェ。オレはどちらかというと、『交流戦』は自分の実力を見つめなおす良い機会になったって感じだよ」

「つまり……」

「オレはまだまだ修行が足りねェなって思ったってコト」


 そんなデリックを見て、レイドはポカンと口を開けている。が、すぐに反省したような顔を見せた。


「そっかぁ……どちらかというとオレは、『交流戦』で満足しちまってたな……オレも戦えるようになったんだって」

「お前の場合は自信が無かったからな。それはそれで良い傾向だと思うぜ? まあ、満足して止まっているようじゃまだまだだけど。お前も『星眷使い』になったんならもっともっと自分を磨いた方がいいぜ。ていうか、『星眷使い』になったっつー自覚を持て自覚を」

「うっす!」


 デリックの言葉にレイドは決意を新たにしたのか元気よく返事をした。コンラッドと修行していたレイドだが、デリックもかなり付き合ってくれたという。それでお互いに仲が深まったのだろう。オーガストがむむむ、と不満そうな顔をしているが。


「デリック、朝から何をギャーギャー騒いでいるのかしら」

「おっ、こりゃ珍しいメンツだねぇ」


 次にやってきたのは、三年生のヒューゴ・デューイにニコラ・ヘイマーである。ヒューゴは『上位者ランカーズ』としてかつて『イヌネコ団』と戦った生徒であり、ギルド『ドネロン商会』のギルドマスターである。彼の『創造』の力を持つ『コンパス座』の星眷、『キルキヌス・クリエイター』には随分と苦しめられた。

ニコラは交流戦の第一試合を共に戦った三年生であり、彼女の『最善の行動を指し示す』能力を持つ『らしんばん座』の星眷、『ピクシス・フューチャー』には敵の襲撃を見破ってくれるなど防御の面でかなり助けられた。また、彼女は風紀委員の副委員長でもある。


「ヒューゴ先輩。お久しぶりです」

「ひっさりぶりだねェ、ソウジ・ボーウェン。見たぜ、『交流戦』。第一試合じゃ派手に暴れてたじゃねぇの」

「あはは。ありがとうございます」


 第一試合といえばギデオンに怒っていたところだ。どうしても苦笑いになってしまう。


「……ニコラ先輩、お久しぶりです」

「うふふっ。久しぶり、チェルシーちゃん。今日もネコミミが可愛いわね」

「……ありがとうございます。照れる」

「照れてるところもかわいいわ。あ、もちろんクラリッサちゃんのイヌミミも同じぐらい可愛いわよ。だから拗ねないで。ね?」

「べ、別に拗ねてないですけどっ」

「ということらしいけど、どうかしらフェリスちゃん」

「ふふっ。クラリッサはちょっと子供っぽいところがありますから」

「どういう意味よそれっ!」

「おっとクラリッサちゃんチェルシーちゃん、一応言っておくが、オレも君たちのキュートな耳には心奪われてしまうぜ」

「黙りなさいデリック」


 交流戦の際にどうやら女の子達は女の子達で先輩後輩関係なく親睦を深めていたらしい。まあ、デリックは相変わらず軽いというかなんというかだが。


「そういやぁ、聞いたぜソウジ・ボーウェン。お前、『黒騎士』をテーマにした演劇の主役をやるんだってな」

「そうそう。私もそれを耳にしたのよ。なかなか面白いことをするじゃない」

「……………………あ、そうですか……」


 分かりきっていたことだが、先輩からこう真正面にそれを言われると色々と辛い。


「内容は見ていないからまだ分からないけれど、少なくとも話題性はかなりあるわよね。校内でも指折りの美少女達も集まることだし」

「だよなァ。それに加えて校内一のハーレム王が主役ときたもんだ。こりゃオレら『ドネロン商会』もウカウカしてらんねぇぞ」

「ちょっと待ってください」


 今、聞き捨てならない単語が聞こえてきた。


「なんですかそのハーレム……うんたらかんたらって」

「知らないの?」


 ニコラが信じられないと言いたげにじっと見つめてくる。不思議と冷や汗が出てきた。


「何を……ですか……?」

「アナタ、学内じゃかなりの有名人よ。いろんな意味で」

「い、いろんな意味?」

「ええ。可愛い女の子をたくさんはべらせてハーレムを作ってるって」

「……はい?」


 なんですかソレ。初耳なんですケド。


「つい最近は美少女転校生をすぐさま自分の女にしたって専らの噂よ。兄さんプレイを強要させたとかで」

「誤解です! 誤解なんですっ!」

「誤解も何も……今でさえ三人もはべらせてるじゃねぇか」


 ヒューゴが呆れたように言う。確かにフェリス、クラリッサ、チェルシーがいる。ルナは幸いというかなんというか、食堂の方に戻っているのでこの場にはいないが。


「別にはべらせてるわけじゃ……」

「まあ、どっちにしろさァ。お前、結構女の子のファンも多いんだぜー?」

「ファン?」

「ホラ、交流戦での戦いっぷりを見てファンになった子とかさ」

「交流戦には付き物よ、こういうのは」

「そうそう。毎年の名物みたいなもんだ」


 ヒューゴもニコラも似たような経験があるのだろう。肩をすくめている。隣でデリックが「ねぇ、オレは? オレのファンはどんな子?」と二人に尋ねているが華麗に無視されている。

 とにかく、ヒューゴとニコラの反応を見る限り、別に大した問題にはならないだろう。ハーレム王という点は聞き捨てならないが、集客につながるならそれはそれで有りなのではないか。


「………………………………先輩」


「その話……」


「……もう少し詳しく、聞かせてください♪」


 チェルシー、クラリッサ、そしてフェリス。

 この三人の笑顔が、なぜか今日はとても怖いと思った。


「じ、じゃあ、そういうわけだから俺は教室に」

『行かなくていいから待ちなさい』

「…………はい」


 美少女三人のとてつもない威圧感に圧し負けた。

その後、何故か「知らない女の子についていかないように」と厳重注意を受けることになったのは、今でも謎である。



次の更新は21日(火曜日)0時を予定しています。

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