第九十九話 白の騎士、赤の魔人、その因縁
アイヴィの捜索を続けていたライオネルたちであったが、彼女の消息を得られないまま、歯がゆい思いをしていた。ユーフィアたちに関してはソウジたちが見張ってくれているので安心だが、問題はアイヴィである。魔人に連れ去られたという事実がどうしてもライオネルたちを焦らせていた。
学園の外まで探索範囲を伸ばしていたが、少なくとも『太陽街』の中では彼女の姿は見当たらない。王都はかなり広いので、すべてを探しきったというわけではないが。
「くそっ。どこいったんだ先輩……」
一度、『太陽街』にあるとある広場に集合するライオネル、レイド、オーガストの三人。それぞれはお互いに表情から成果を得られなかったことを察した。
「まずいな……先輩が魔人に連れ去られてから既に一夜が明けた。このまま長引けば余計に足取りが掴めなくなる」
「それは分かってるんだけどな……せめてもっと広い範囲や空から探せれば……ってああ!」
ライオネルが自分の呟きの途中で、とある一つの考えをひらめかせた。
「どうしたんだ?」
「あいつだ! あいつを使おう!」
「あいつ?」
首を捻るオーガストにライオネルは懐から『スクトゥム・セイヴァー』の力を引き出すブレスレットを取り出した。
「こいつからあの天馬を呼び出して探してもらえば」
「よせ!」
ブレスレットを取り出そうとするライオネルの腕をひっつかみ、慌てて抑えさせるオーガスト。
「ちょっ、何するんだよ。我ながら良いアイデアだろ?」
「それは確かにそうだが、こんな人の多いところであんな目立つものを召喚する気か?」
言われてライオネルは思い出した。今、自分たちがいるのは真昼間の『太陽街』の広場のど真ん中。当然ながら人は多い。こんなところで星霊天馬を召喚すればかなり目立つ。
「あの天馬は交流戦の時にいろんな人に目撃されている。『黒騎士』の操る使い魔としてな」
第二競技の際、ソウジは『黒騎士』の姿に変身した状態でこの天馬に跨り、会場のど真ん中に現れた。その姿は多くの人々に目撃されており、次の日には新聞の一面を飾っている。それを召喚するということはライオネルが『黒騎士』と誤解されてもおかしくはない。
「それに、学園にフレンダのやつが来た意味を忘れたか。お前は『白騎士』の正体としての容疑をかけられていてもおかしくはないんだぞ。もっといえば、今この瞬間も騎士団の連中から見張られているかもしれない。その状態であの天馬を召喚してみろ。一発で正体がバレるし、正体がバレれば騎士団の方がどう動くかもわからん。それに、魔人たちにお前の正体がバレれば『再誕』から本格的に命を狙われるかもしれないのだろう?」
騎士団の方にも『再誕』のメンバーが潜り込んでいる可能性を排除できない以上、迂闊に正体をバラすわけにはいかない。オーガストの言葉にライオネルはハッとし、肩を落とす。
「悪い。ちょっと焦ってた」
「分かってくれればいい。ただ、今のアイデアは確かに良いものだ」
「オーガスト、まさか……」
「そのまさかだ」
レイドの言葉にオーガストはニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「仮に騎士団の連中の監視があったとして、恐らくこの『太陽街』に限られている。だったら、学園に戻って召喚すればその目を欺ける」
「けどよ、このまま学園に戻ってそのままあの天馬を召喚してもバレるんじゃ?」
「ギルドホームの周辺なら大丈夫だ。そこで二人分の天馬を召喚する。これなら一瞬だし、学園の中にまでは監視の目はいかないだろうから、学園の中から外に転移すれば騎士団の連中をまける。あの天馬はどうやら結界の中と外を自由に行き来することのできる能力があるようだし、『天庭園』の中から外へと出てもらえばいい」
「学園の中に監視の目がないという根拠は?」
「二つある。一つ目は学園に張り巡らされている高位魔法結界プラス、ギルドホーム周辺にはられている七色星団特製の超高位魔法結界。いくら騎士団といえども、この二つの結界を突破して中の様子を監視するのは不可能だ。二つ目はフレンダの存在。学園の中にまで監視が行き届いているのならわざわざフレンダを送り込む必要はないからな」
「なるほどな。うん。納得した」
「よーし、そうと決まればまずは学園に戻ろうぜ。休憩も兼ねてさ」
いざという時になってヘトヘトで戦えませんでは話にならない。ライオネルたちはソウジとの接触を図るべく学園に戻った。学園に戻ると、ソウジはやたらと疲れ切ったような表情をしていた。いろいろあったらしいが、今最優先すべきなのは星霊天馬の召喚である。
「なるほど。その手があったか」
「そういうことだ、いくぜ!」
ギルドホームの外にある庭に集合したイヌネコ団。この場所は七色星団お手製の結界に包まれているので許可された人物は入ることは出来ない。今ならばフレンダもそうだ。
ソウジとライオネルは『星遺物』であるブレスレットを装着すると、魔力を流し込んで二体の天馬を召喚した。二人は不思議とこの天馬の呼び出し方を知っていて、それに従うと召喚が出来た。
溢れんばかりの光と共に現れた天馬たち。ソウジとライオネルに懐いているのか機嫌よさそうに頬ずりをしてくる。
「アイヴィ先輩を探してくれ」
「頼んだぜ」
ソウジとライオネルの二人から指示を受けた天馬は「任せろ」と言わんばかりに一鳴きすると、再び光に身を包んで姿を消した。どうやらこの結界の中から別の場所へと転移したようで、結界の中と外を自由に行き来できる能力というのは確かなようだった。
「マジで結界とか関係なく移動できるんだな……他の冒険者があの天馬見たら泣きそうになるだろうよ」
ライオネルのしみじみとした一言に、一同は苦笑する。
とはいえ、実際にあの天馬の力は相当なものだ。魔人にも対抗できるほどのパワーを秘めており、更に結界に関係なく空間の移動が可能。冒険者が喉から手が出るほど欲しがるのは当然だし、そうでなくとも一つの兵器として強力なものだ。
それを作りだした『巫女』の存在。その謎がますます深まるばかりだ。何のコストも支払わずに、何の触媒もなく、凄まじい力を持つ『星遺物』を創造している。果たして、魔人が彼女たち『巫女』を欲するのはその力が目的なのだろうか?
考えたところでその答えが出てくるわけもなく、ソウジはいま自分にできることに集中することにした。
☆
赤の魔人ロートは、餌となるであろうアイヴィ・シーエルという少女の様子を観察していた。彼女はいま、何かに憑りつかれたかのように学園の方へと歩みを進めている。あの新型邪結晶は人の負の感情を増幅させるものだ。邪結晶の元となった、エイベル・バウスフィールドが作りだした黒い結晶の効果を持っている。負の感情を増幅させた彼女が学園に向かっているという事は、彼女の心の闇は学園に関係しているのだろう。あるいは、あそこにいる誰か、か。だが、そんなことはロートにとってどうでもいいことだ。
ロートは『黒騎士』と『白騎士』と戦えればそれでいいのだ。戦いこそ彼女の生きがいにして最高の幸せ。強い者と戦うことに快感を覚える。だからこそ、交流戦の時は戦えなかったのが本当に残念だった。次こそは戦うと心に決めていた。そのための餌が『アイヴィ・シーエル』である。
「楽しみだなァ……ああ、はやく来てくれよ。黒でも白でもどっちでもいいからさ」
あの騎士たちと戦った時の事を想像するだけでゾクゾクと体が震える。実際に戦ったらどうなるのだろうか。想像を絶する快感を得られるのだろうという確信。それが今のロートを突き動かしていた。
「相変わらずド変態ね……」
ぼそりとそんな言葉を吐き出したのはグリューンである。
「あァん? 別にいいだろ、アタシはアタシだ。第一、なんかお前おかしいぜ?」
「おかしい? ワタシが?」
「ああ。なぁんで不機嫌なのかねぇ。昨日からずぅっとイライラしてるぜ、てめぇ」
「…………そりゃ、人間の中に混じって歌なんてうたってたらストレスも溜まるわよ」
「そういえばそんなことしてたな、お前。ご苦労なこった」
ケラケラと笑うロート。どうやらこの言葉で納得したらしい。
本当は違う。
イライラしていたのは本当だが、人間の中に混じっていたからイラついていたわけではない。
アイヴィ・シーエルという少女が今回の一件に巻き込まれていることに、イラついているのだ。
なぜロートはよりにもよって彼女を選んだのか。そしてそのことにイラついている自分に動揺するグリューン。なぜ自分がこうなったのかは分からない。ただ、あの少女の言葉は今でも心の中に残っている。
グリューンの、ユリアの歌が好きだと。勇気をもらえると。そういってくれたことが、なぜか今でも心の中に残っているのだ。
いや、そもそも心とはどういう事だ?
魔人に心などというものが存在するのか?
わからない。
わからない。
わからない。
だが確かなのは、緑の魔人グリューンは今の状況をよしとしていないこと。
あの少女を救いたいと、願ってしまっているということだ。
では。
そのために、どうすればいいのか?
「…………ロート」
「あ?」
「『黒騎士』か『白騎士』。片方は譲ってあげるけど、もう片方はワタシに譲りなさい」
「ハァ――――――――!? てめぇ、横取りか!」
「うっさいわね。アンタが扱いづらいバカのせいでこっちは無駄にガンガン働かされてとばっちりくらって、ストレスも溜まってんのよ。自分がバカで扱いづらい自覚があるならこれぐらい譲りなさい」
どうやら自分が魔人リラにとって作戦に扱いづらい魔人であることは自覚しているらしく、珍しく顔をしかめるロート。
「チッ。しゃーねぇな。寛大なアタシ様に感謝しろよ」
「これぐらい当然よ。まあ、せいぜいストレス発散させてもらうわ」
グリューンはある一つの決心を心に秘め、アイヴィを救う騎士の到着を待った。
☆
ルークは全力で、アイヴィ・シーエルの捜索を続けていた。彼女がいきなり怪物になって生徒を襲ったなんて信じたくは無かった。だけど、ここ最近の彼女は様子がおかしかったのも確かである。
気づいておきながら大したことのできなかった自分の無力さに思わず歯噛みする。
何が『十二家』だ。何が『皇道十二星眷』だ。何が天才だ。
自分はなんと無力なことか。
大切にしている女の子一人守れやしないなんて。
女の子一人救ってやれないなんて。
今ほど自分の存在を弱々しく思ったことは無い。今ほど無力さを感じた瞬間は無い。
だから。
(必ず探し出す。探し出して、アイヴィねーちゃんを救うんだ……!)
彼女がなぜ怪物になったのかは分からない。だが、何があっても彼女を守る。
自分の存在を受け入れてくれた女の子を、守って見せる。
そんなルークの願いが通じたのかは分からない。
だが、ルークの星眷によって放たれた影人形は、学園の敷地内に踏み込んだアイヴィの姿を捉えた。
(見つけた!)
彼女の居場所を把握すると、すぐにルークは駆け出していく。全速力で彼女のもとへとたどり着く。
学園の正門付近。そこに彼女はいた。
「アイヴィねーちゃん!」
俯きながらゆらゆらと歩いていたアイヴィは、ルークの声を聞くとピクッと肩を震わせる。そしてゆらあ、と不気味な動作で顔を上げ、ルークの姿を捉える。
「あァ……ルークくん」
「探したよ、アイヴィねーちゃん。さあ、帰ろう?」
「かえ、る?」
「うん。生徒会室にさ。僕たち、あそこでよく一緒に遊んだでしょ?」
「せいと……かい……」
虚ろな目でブツブツと何かを呟くアイヴィ。そんな彼女の姿を見たルークは痛ましさのようなものを感じた。だが、そんな状態にしてしまったのは自分にも責任がある。
「そう。生徒会。君が、僕をあの居場所に導いてくれたんだよ。君がいなかったら、今の僕はいなかったと思う。君がいたから、今の僕があるんだ」
今の彼女は、自らの闇の中に沈み込んでいる。交流戦の時、エドワードとマリアが魔人に蹂躙されている際に自分は隠れていることしか出来なかった。星眷の力を駆使してソウジたちとそう変わらないタイミングで、別角度から遺跡エリアに侵入し、探索を行っていた。その際に、エドワード、マリアと魔人との戦いを目撃した。圧倒的な力の前に蹂躙されていく二人の少年少女の姿を見て、アイヴィは隠れていることしか出来なかった。
情けないと思った。
自分を変えるつもりで生徒会に入ったのに、このザマはなんだ。
すべてが終わった後も、彼女の心の中には罪悪感が残り続けていた。
自分はなんて情けないのだろう。なんて罪深いのだろう。
ただひたすら、自分を責めた。
そしてある日、学園の中で見知らぬ誰かと出会った。フードを被って顔は分からなかったが、その誰かはアイヴィが力を欲していることを知っていた。そして、黒い結晶を手渡してきた。
「そいつを使えば、アンタは強くなれる」
フードの人物はそう言った。
それが危険な物であることはなんとなく分かっていた。だがそれを使えば、強くなれるということもなんとなく分かった。
迷った。悩んだ。
そしてある日、ユリアと会えた。
彼女の歌にはいつも勇気づけられる。元気が出る。尊敬し、憧れる人と話を聞いて決心がついた。
自分を変えるきっかけをくれたルークを護れるぐらいの力を手に入れたいと思った。
そして結晶を使った。
力を得た。だが、アイヴィの心はどんどん邪気によって蝕まれていった。
ただただ強くなりたい。力を得たいという思いだけが残った。
「ねぇ、ルークくん」
「ん? どーしたの、アイヴィねーちゃん」
「生徒会とかさァ。そんなの、どうでもいいよ」
「――――え?」
ぎょろんっ、と。
アイヴィはルークを視て、ケラケラと笑う。
ただひたすら不気味に。
笑う。
「それよりも、視てよ。わたし、とぉぉぉぉぉぉぉっても、強くなったんだよ?」
その言葉を合図に。
彼女の体は、邪悪な力に包まれた。
力を得たい。得た力で守りたいと思ったモノ。
彼女はかつて守りたいと思ったモノに、牙を向ける。
☆
その異変を察知した二体の天馬は、すぐさま飛翔して主の元へと向かった。ソウジとライオネルはちょうどギルドホームで休息を取っていた途中であり、その異変を天馬から聞き取る。
「見つかった!」
ソウジのその言葉を合図に、イヌネコ団のメンバーが動き出した。場所は正門付近。
既に現れている二体の天馬の前で、ソウジとライオネルはブレスレットを構え、魔力を流す。
「いくぜ先輩!」
「分かってる!」
轟! と魔力を解放すると、二人は同時に呪文を叫んだ。
「『スクトゥム・デヴィル』!」
「『スクトゥム・セイヴァー』!」
黒と白の嵐が吹き荒れ、二人の少年を包み込む。
やがて黒と白の魔力を切り裂いて、二人の騎士が眷現した。
『黒騎士』と『白騎士』に変身した二人は天馬に跨ると、そのまま結界の外へと飛翔する。その場から一瞬にして姿を消した二人。
「わたしたちも急ぐわよ!」
クラリッサたちは、ソウジたちに追いつくべくギルドホームの外へと走りこんだ。自分たちは邪人と戦う事は出来ない。だが、それでも。ソウジを支えると決めた。もう彼だけに戦わせないと決めた。戦いには役に立たないかもしれないが、出来ることはあるはずだ。
☆
天馬の力によって結界の外へと現れたソウジとライオネル。二人はそのままアイヴィのもとへと向かう。ルークだけでは危険だ。急ぐ必要がある。
「ッ!」
だが、不意に別方向から風の弾丸が二人を襲う。ソウジは咄嗟に『アトフスキー・ブレイヴ』を眷現させてそれを切り払う。が、凄まじい爆風が生まれその勢いにのまれる。ソウジとライオネルはその衝撃で揃って地面に落下してしまう。
「チッ!」
「こんのぉ!」
咄嗟に天馬の翼を使って飛翔しようとしたものの、それでも勢いは殺しきれずに二人は揃って地面に叩きつけられてしまった。
「今のはいったい……」
その言葉を喋り終えないうちに、攻撃をしてきた何者かの正体が明らかになる。
圧倒的なまでの膨大な、邪悪な魔力。
一人は赤。
一人は緑。
「魔人……!」
二人の騎士の目の前に、二人の魔人がその姿を現していた。
「悪いけど、邪魔させてもらぜェ?」
歪な鎧に身を包んだ二人の怪物。その片方、赤の魔人が楽しげな声を出している。
「くそっ、こんな時に……!」
「こんな時だからこそ、なんだよなァ、『黒騎士』。つーか、お前らとはずぅ――――っと戦ってみたかったんだぜ? アタシは。よくもここまで我慢ができたもんだ」
赤の魔人は「よぉく聞け!」と前置きすると、手に巨大な焔の斧を出現させた。
「アタシは赤の魔人ロート! さあさあさあッ! アタシと戦って、アタシを楽しませろぉ!」
言うや否や、全身から凄まじい勢いで焔を放出する赤の魔人ロート。
その隣では緑の魔人グリューンがじっとソウジとライオネルの二人を観察していた。まるで見極めるかのように。
「いくぞ、後輩。さっさと倒してアイヴィさんを助けないと」
「………………………………」
「どうした?」
隣のライオネルの異変に首を傾げるソウジ。さきほどまで、ギルドホームにいた時は元気だった彼が、途端に静かになっていた。
「…………あの、焔……」
ポツリと言葉を漏らす。
彼の脳裏に浮かぶのは、かつての記憶。
自分の両親の命を奪い、妹を平和な生活から遠ざけたあの人影。あの焔。それが今、目の前の魔人が発するものと一致している。
「間違いねぇ……アイツだ…………ッ!」
ぎゅっと拳を握りしめる。
怒りで魔力が全身から迸り、バチバチとスパークを起こす。
「アイツが……あの赤い魔人が……! オレの父さんと母さんを殺した犯人だ…………!」
「なっ……!?」
ライオネルの両親が『再誕』の手によって殺されたことは知っていた。
だがまさかその仇が、魔人だったとは。
「許さねぇ……てめぇだけは、絶対に! ここでぶっ潰す!」
「ヒャハハハハッ! いいねぇ、いいぜてめぇ! 気に入った!」
「おい待て、落ち着け後輩!」
ソウジがライオネルを落ち着かせる前に、緑の魔人がソウジに襲い掛かってくる。『アトフスキー・ブレイヴ』でグリューンの風の刃を受け止めながら、そのまま押し切られる形でその場から離脱していくソウジ。
「ロート、そいつはアンタにあげるわ」
「へっ。そうかい。だったら、遠慮なくゥッ!」
轟ッッッ! と、ロートの全身から爆発的に魔力が迸り、焔が在れる。
ライオネルは怒りで全身から魔力を放出しながら『オリオン・セイバー』を構えてロートに立ち向かっていく。ソウジはそんなライオネルの姿を視界に捉えつつ、グリューンの風の力によってどんどん別の場所へと押し出されていった。
だがまるで頃合を見計らったかのように、人けの無い場所でグリューンは突如として風を解除してソウジと共に落下する。落下してからあらためて体勢を立て直しつつ、グリューンの起こした不自然な行動に顔をしかめるソウジ。
対する緑の魔人はというと、先ほどのように攻撃を行うようなそぶりを一切見せなかった。
「……?」
武器を構えたまま状況を見守るソウジ。だが数瞬の後に、グリューンが意を決したかのように口を開いた。
「黒騎士、アンタに話があるわ」