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最終章『あなたの世界のスタートライン』

「名誉あるセラエティアの臣民たちよ、聞け。始まりの朝が来た! この日は我々人類と、その同盟にとって大きな一歩となる偉大な日である!」


 皇帝テオドールが拡声魔術によって空にその宣言を響かせる。

 セラエティアの首都、プロヴィデンスでは式典が開かれていた。

 新たなる勇者の誕生。そして――


「――世界を破壊しようと企てた、この星に生きる全種族の敵、アマルガムは新生勇者の手によって倒された。我々は救われたのだ! 救世主は実在した!」


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


 観衆が大きくわく。

 そう、世界の終わりは回避されたのだ。それが天魔王によってもたらされたものではないとしても。

 勇者が誕生し、世界を救った。それは事実だ。

 ならばその勇者がいるかぎり、希望が潰えることはない。

 たとえこの世界に現れた新生天魔王がどれだけ強大でも、勇者がいる限り人類は負けない。


「此度は、勇者ハジメと共にアマルガムを討った英傑達に、セラエティア皇室より勲章を授けたいと思う。アンジェリークよ、前へ!」


 皇帝の呼びかけに、アンジェが式典の中心に立つ。


「我が娘第三皇女にして、勇者ハジメの婚約者アンジェリークより、勲章が授与される!! まずは闇の貴族にして、血界真祖たる吸血鬼の王、エリザベート・レ・ファニュ卿!」


 歓声を受けながらリザはアンジェの前に立った。


「よくやった、リザ」


「当然よ」


 リザの胸に、セラエティア皇室の紋章グラジオラスの花を模った勲章が輝いた。


「そして勇気と忠誠を示した召使い、リディエル!」


「わ、わたくしもよろしいのですか?」


「当然だ、リデル。受け取るが良い」


 観衆にハーフエルフだということまでは言わなかったが、召使いの身分でも英雄的行動は評価される。それがセラエティア。

 リデルの胸にもまた、グラジオラスが咲き誇った。


「続いて星神教会の十二級祓魔師ゾディアックス、双魚宮のピスケス!!」


 皇帝の呼びかけに、ピスケスは眠そうな眼をこすりながらのそのそ出てきた。


「しゃきっとせよ、ピスケス。背筋を伸ばせ」


「お腹すいたから、猫背になった。さかなくれにゃー」


「猫かお前は……あとでいくらでも新鮮な魚を食わせてやる」


「サバ缶ないかにゃ?」


「ないな」


 アンジェは母のように優しい眼で、ピスケスに勲章を授けた。


「さらに時計職人にして、時詠の巫女。正式な継承者となったマリアンヌ・ドロッセルマイヤー!!」


「……」


「マリアンヌ、顔をあげよ」


「……ごめんね、アンジェ」


「まだ、何も決まってはおらんさ」


「でもボクは、ハジメを――」


「お前のせいではない。全ては旦那様の心のままに。わらわは、勇者ハジメを信じておる」


「強いんだね、アンジェは」


「旦那様の、正妻じゃからな」


 こうして四人の少女にそれぞれ勲章が授与された。


「最後に新生勇者、ハジメ――は、一体どこにおるのじゃ?」


 そして――この式典の主役は。

 ざわつく観客。


 勇者ハジメは、現れない。あたりを見回しても、どこにもいない。

 マリィは空を見る。


「ハジメは――」



      最終章『あなたの世界のスタートライン』



「ハジメは――一緒に来ちゃ、いけないよ」


 日本上空に浮かぶ神器の中。

 僕とマリィは管理室コンソールまで戻ってきた。

 ピスケスが残響器「アルレシア」の効果によって、レーテからここまで、釣り上げてくれたのだ。

 こうしてアマルガムの引き起こした事件は、全て収束した。

 おじいさんはたった一人でカルヴァリオに残ることになったけど、眼を覚ましたマリィは「ボクが一人前になったら、また会えるよ」と力強く笑った。

 それが強がりだと、空元気だとわかっていた。

 だけどそれでいいんだ。

 強がって、空元気で、時々逃げて、嘘をついて。

 それでもいいんだ。

 僕らはひとりじゃないから。仲間がいるから。

 だけど――


 マリィは僕にそう言った。「一緒に来てはいけない」と。

 最後にポータルを開いて、完全に世界が安定し、日本とセラエティアが分かたれてしまうまでにセラエティアに戻らなければならなかった。

 そのためにマリィはポータルへ続く光の扉を開き、すでにリザ、ピスケス、リデルが通り抜けた後。

 僕とマリィだけが残っていた、その時のことだった。


「ど、どうして……?」


「ハジメには……居場所があったんでしょ。見つけたんだよね、自分を愛してくれる人を。心を――家族の絆を」


「でも、おじいさんと約束したんだ、君を――」


「ううん、いいんだよ、ハジメ。もうボクは一人でも歩ける。ハジメの優しさを必要としてる人はこの世界にたくさんいるよ。その人からハジメをとりあげちゃうなんて、ボクには出来ない」


「マリィ……」


「ハジメ、覚えてる? ハジメはボクの作った世界の中で、最初からずっと天魔王のことを考えてくれたよね。終わらないまま、中途半端なままでいたら、天魔王が孤独になるから。だから会いに来てくれたんだよね? ハジメは、弱い人とか、孤独になろうとする人に、ずっと手を差し伸べてたんだよ。手を伸ばしてくれてたんだよ?」


「だけど、僕は君と……!」


「お願い、ハジメ。その優しさを、ハジメの近くにいる誰かに向けてあげて欲しいんだ。誰かの悲しみとか、苦しみとか、全部背負って飛ぶなんて……そんな大変なこと、しないで欲しい。ハジメはハジメの世界で、幸せを見つけて欲しい……」


 マリィは笑っていた。

 なんだよ。

 涙が流れて、顔をくしゃくしゃにして。悲しいって、本当はずっと一緒にいたいって。

 そんなの、誰だってわけかるじゃないか。

 ほんとは、離れたくない。僕と一緒にいたいと、そう思ってくれてるのに。

 なのに、それ以上に僕が自分の幸せを見つけることを優先した。


 優しいのは僕じゃない。マリィのほうだ。

 僕が優しいのだとしたら、マリィのおかげなんだ。

 マリィがいたから優しくなれた。マリィがいたから勇者になれた。


「扉が完全に閉まるまであと一時間……ハジメ、後悔がないように。よく考えて。そして――答えを出して」


 そうして、マリィは光の向こうへ消えた。


「マリィ……」


 僕は、その後地上に降りた。


「家族――か」


 そうだ、帰らなきゃ。家に。きっと、心配かけてる。

 母さんにも、妹にも、父さんにも。きっとずっと、心配をかけてきた。

 申し訳ないと、罪悪感を感じ続けた。だけどそうじゃなかったんだ。

 みんな僕を憎いと思っていたわけじゃないんだ。

 ただ、幸せになって欲しかった。

 家族だから。


 玄関を開けると、母さんと妹が飛び出してきて、僕を抱きしめた。

 二人は僕の胸で泣いた。大泣きした。

 僕は泣かなかった。なんでだろう、悲しいとか嬉しいよりも。

 安心していた。

 だから「ありがとう」とか「ごめんなさい」じゃなくて、こういうのが一番なのだろう。


「ただいま」


 やっと、言えた。



「あの人はね……とても優しい人だった」


 母さんの話を、僕と妹は聞いていた。

 僕は真正面から母さんに頼み込み、ついに聞くことにしたのだ、「サカキ」のことを。

 僕の本当の父さんのことを。


「昔から頭が良くて、運動が出来て……弱い人を助け、孤独な人に手を差し伸べる。そんな人だった。私はそんなあの人の優しさが好きだった。だけどそれ以上に……守ってあげたいと思った」


「守る?」


「あの人はとても強い人だった。だけどその強さが、あの人を孤独にした。いつも造り物みたいな笑顔を貼り付けて……まるで仮面だったの。そんなあの人の背中がどこか悲しく見えて……私はあの人を愛した。その証が――始、あなたよ」


 母さんはやっと僕を見た。

 まっすぐに見てくれた。後ろめたそうな、罪悪感の篭った目じゃない。

 ただ一人の息子を慈しむ瞳で。


「だけど救われていたのは私の方だった。孤独だった私に可愛い息子が授かった……私は幸せでいっぱいだった、けど……あの人は、私が幸せになったと知ると……。もっと遠くの、もっと多くの人を助けようと考え始めた。一日中部屋に閉じこもるようになって……やがて、消えた」


 残響器のディスクをクリアして、異世界へと転移したことを言っているのだろう。

 僕が生まれてから、一年程度の出来事だ。


「あの人はきっとどこか遠くで、誰かを助けようとしたの。私にはわかってた。だから、だからこそ……始には同じ道を歩んでほしくなかった。始はあの人と同じ眼をしていた。誰よりも優しかった。だけどどこか寂しそうで……その心を癒やすことが出来なかった。私は、母親失格ね」


「そんなことないよ……母さんは僕のことを考えてくれたんだよね。今ならわかる、僕……愛されてたんだって。最初から、孤独なんかじゃなかった」


「……ふふっ、私の間違いだったのよ、全部。始はこうして帰ってきてくれた。あの人とは、違う道を選んだのね」


 母さんはそう言って微笑んだ。全ての重荷がとれて、救われたように。


「あ、あたしは! やっぱり本当の家族だって思ってるよ、お兄ちゃん! お父さんが違ってもさ、あたしたちはお母さんから生まれてきて、育てられたんだよ!」


「優希……そうだね。最初からそうだったんだ。僕には――」


 ――居場所が、あったんだね。

 マリィの言うとおりだった。僕はずっと、家族から幸せをもらっていた。

 幸せは遠くにあるんじゃない、ずっと隣にある。

 ただ近すぎて、あたりまえすぎて、気づかないだけなんだ。

 だから僕たちは、手の届かないものに手を伸ばしてしまう。


 ……。


 うん、決めた。

 僕は立ち上がる。


「始?」


「母さん、僕は決めたよ」


 母さんは最初は困惑していたが、僕の顔を見ると何かを悟ったように微笑んだ。


「そう、決めたのね」


「うん、僕、行かないと」


「……そう、始も、それを望んだの。そうよね、あの人の息子だもの」


「半分はね、だけど僕は母さんの息子でもあるからさ。だから……助けを求める誰かに手を伸ばすだけじゃない。僕に手を伸ばしてくれた人の隣にいたいって――そう、思ったんだ」


「始……」


「お兄ちゃん、どこに行くの……あたしのこと、おいていくの? せっかくホントのこと、話し合えたのに。ホントの兄妹になれたのに」


「優希……」


 僕は優希の頭を撫でる。

 長年、こうしてやれなかった。


「お兄ちゃん……!」


「大丈夫、絶対戻ってくるよ。約束だ、ほら。指きりげんまん」


「……うん」


 僕と優希は小指をあわせ、約束をかわした。


「行ってきます!!」



      ♪      ♪     ♪



「ハジメは――」


「――ここだよ!!」


 不可解な方向から投げかけられた声。

 セラエティアの式典に集まっていた人々全てが、声がした方を見る。

 自分の真上、頭上――青空を。


 最初は小さな影。それが徐々に輪郭を持ち、人影となり、そして……。

 マリィにはわかった。

 リデルにも、ピスケスにも、リザにも、そして――アンジェにも。

 あれは――


「――ハジメっ!!!」


「ヒーローは遅れて登場するって言うだろ!!」


 空から高速で飛来し、式典の中心に一気に着地。

 巻き上げられた大気の生み出す風圧が周囲に拡散する。


「――っあ!!」


 その結果、アンジェたち女性陣のスカートが巻き上げられる。

 眩しい白いふとももが露出する。

 静寂。誰もが言葉を失っていた。


「あ……あらー、これはつまり……スカートをめくる勇気が勇者の資質だからー……なんつって」


 わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!


 会場がわいた。わいた。わいた。その日一番、いや、今までで一番わいた。

 真の勇者の到来、美女のスカートが捲れたこと。世界の危機が回避された。

 そのどれでもあり、どれでもない。

 全部交じり合って、ぐちゃぐちゃな喜びが満ちていた。

 それが人間の喜び。今、生きている証だった。誰もが感じていた。

 自分たちは今――生きているのだと。


「ハジメー!」


 マリィがハジメの胸に飛び込んだ。

 それに続くようにリデルたちもハジメの身体に飛び込んでくる。


「ハジメさまっ、お待ちしておりました!」


「ゆーしゃ、腹が減ってもう立てない。おんぶして」


「ふ、ふん、別にあたくしは帰ってこなくても良かったんだけどね!」


「ハジメー、帰ってきたのだなー!!!!」


 そのどさくさに紛れて、騎士隊からオルセンが走ってくる。

 涙と鼻水といろんな液体でぐちゃぐちゃの顔で。


「げっ、オルセン!」


 正直ばっちい。

 が――


「邪魔じゃ、ガルドス」


 アンジェがオルセンの額を指で弾くと、オルセンはふっとばされて群衆に受け止められた。

 人一人ふっ飛ばしたことなど気にもしない穏やかな笑顔で、アンジェは女の子たちにしがみつかれる僕と向かい合った。


「旦那様」


「アンジェ……」


 アンジェは何も言わず、いきなり僕の頬を手でそっと触ったかと思うと――おもむろに僕の唇にやらかな唇を重ねた。


「っ――!?」


「あーっ、アンジェがハジメとキスしてるよーっ! ズルい、ズルいってば!」


 それを見とがめたマリィが僕の頬に強引にキスしてくる。


「何よっ、この男はあたくしの初めての男なのよ、所有権はあたくしにあるわ!」


 めちゃくちゃな事を言いながらリザが僕の首すじに吸い付いてきた。


「おなかすいた……いただきます」


 空腹のあまりもはや魚と人間の区別がつかないのか、僕の腕をかじり始めるピスケス。


「え、皆様そんな人前でなんて……」


 リデルだけは、戸惑ってキョロキョロと様子を伺っている。

 ああ、リデル。僕の味方は君だけだ、どうか僕を助けてくれ!


「うう……ダメです、わたくしもハジメさまとキスしたいです! 行きます!」


 ダメだった!

 僕は彼女たちにもみくちゃにされ、体中にキスマークをつけられていく。

 盛り上がる観衆、呆れ顔の皇帝、白目を向くオルセン。

 僕は彼女たちの体重を支えられず押し倒された。

 仰向けになって、僕のに映るのは青空。

 新しい朝が来た。

 暗闇でも、星の見えない夜でも。かまわない。

 いつか朝が来る。

 明日がくると信じられるから、僕たちは何度だって立ち上がる。

 勇気がわいてくる。


 なんでだろう。空を見てると、わけもなく涙が出てくる。

 涙なんて枯れ果てたと思ってたのに。こんなに幸せなのに。

 今までためていた後悔が、全て流れ落ちるように。


「みんな――ありがとう、ありがとう……ありがとう……ありがとう……!」


 僕の旅は、ここから始まる。

 まだスタートラインに立ったばかり。

 だけど僕はどこまでも飛んでいける。

 夜の空に星がきらめくから。

 朝になれば青空が顔を出すから。

 荒れた大地にも花が咲くから。

 僕を好きになってくれた人がいるから。


 僕は君の世界が好きだから。

 僕は僕の世界が好きだから。


 だから行くよ、どんなところにでも駆けつける。

 僕は勇者だから――あなたの世界に祝福を。







      終焉へのスタートライン ― DIES IRAE: The Starting Line ―




                 END

これにてこの物語は終わりです。長きにわたって読んでくださった方々には、心の底から感謝いたします。ありがとうございました。

誤字の修正やミスの修正、設定の補足などは今後も行っていきますが、ひとまずハジメとアマルガムの物語は完結ということにさせていただきます。

とはいえ、セラエティアが救われたわけではありませんので、これから始まる新しい冒険の物語もいずれ書きたいと思っています。


現時点では次回作や続きなどについて、この世界観の話をもっと書いていこうという方針を立ててはいますが、具体的に何を書こうかとはまだ決まっておりません。

一応、同じ世界で少し時期の違う話や、別の人物を主人公にした話などの構想はあります。当然ハジメ自身の冒険の続きも最後まで考えてはいます。その辺りについて要望がありましたら、ご自由にご意見を出していただければ、喜んで参考にさせていただきます。

少なくとも同シリーズで出していくとは思いますが……。


ともかく、完走していただいた皆様、本当にありがとうございました。

評価やブクマはとても励みになりました。今後共よろしくお願いいたします。

また次回作でお会いしましょう。

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