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第三章2『勇者になるための試練・カルヴァリオ』

      第三章2『勇者になるための試練・カルヴァリオ』



 視界が光に包まれる。

 気が付くと、僕とマリィの二人は、白い空間に立っていた。

 上下も左右もわからない、平衡感覚も方向感覚もない空間に、確かに立っていた。


「手をはなさないでください、勇者様」


「う、うん」


 僕はマリィに連れられて、上下左右関係なしに進んでゆく。

 足場も見えない、全く漂白された空間だけどマリィの進行方向に見えない足場ができているようだった。

 よく見ると、白い空間にいくつもの光の扉が浮かんでいる。


「マリィ、ここは……?」


「ここはポータルです。勇者様も一度ポータルを通って世界を移動しました」


「ポータル……あれは、全部異世界につながる扉なのか。僕らはどこを目指してるの? カルヴァリオ、だっけ……どんなところなのかな」


「カルヴァリオは神性を封じる器です」


「神性?」


「神の力は適合者の手になければ世界のバランスを崩します。適合者のいない神器はカルヴァリオに封印しなければポータルからつながる平行世界全てを滅ぼす可能性があります」


「君たち時計職人と時詠の巫女は、そういう崩壊から世界を守ってきたんだ……ねえ、マリィ。どうして君はいつもと違うんだ? いつもはもっと明るくて……なんだか、いつもの君じゃないみたいだ」


「……私は時詠の巫女。勇者様を導く『きずな』。そのために生まれました。それ以外の生き方は知りません」


「だけど君は……マリィだ。時計職人のマリィ、そう言ってくれたじゃないか。君は笑ってた、嘘じゃないはずだ」


「……」


「もしも、もしも僕が勇者になれば。君はどうなるの?」


「……役目を果たすだけです」


「役目って何」


「神器の中に留まり、近づきすぎてしまった勇者様の世界との扉を閉じます。そうなければ連鎖反応で世界は破滅的結末を迎えることになります」


「はっ……? どういう――」


「遠すぎる二つの世界を移動するためには、こちらがわとあちらがわ、双方から扉を開く必要がありました。しかしその代償として、世界は近づきすぎてしまった。世界は水に浮かぶ泡のようなもの。交わってしまえば弾けて消える」


「それを防ぐために……君がここに残るって」


「はい、それが私の役目ですから」


「それってどのくらいの長さが必要なんだ……? すぐに、出られるよね……? 長くても、何年かくらいで」


「……わかりません。何十年かかるか。私の命で足りるのか」


「僕を呼び出した代償が、それだっていうのか……そんな大変なことになるなら、なんで僕なんか……」


「――ハジメ」


「っ――マリィ……?」


 今までの冷たい機会人形のような時詠の巫女に、ふいにマリィの表情が宿る。


「ハジメはボクを見つけてくれたから……だから、いいんだよ」


「そんな……」


「……さあ、勇者様。行きましょう、カルヴァリオの扉はすぐそこです」


 そしてマリィの表情は消えて、時詠の巫女だけが残った。

 僕らは白い空間にポツリと浮かんだ真っ黒な長方形の前に立っている。


「勇者様――この手をはなさないで」


「ああ、絶対はなさない」


 僕らは黒い扉の中に、ゆっくりと足を踏み入れた。

 転移する度に、身体が分解され、再構成されるのを感じる。

 おそらくマリィと手を繋いでいなかったら目的地に出られる保証はないだろう。

 ここは空間と時間がごちゃまぜになった場所だ。僕には進むための感覚が備わっていない。

 手を離せば暗闇だ。きっと戻っては来れない。


「ここが――カルヴァリオ」


 僕らは「そこ」に辿り着いた。

 カルヴァリオ。神器を封印する場所。

 全体が機械仕掛に覆われた空間。巨大な歯車が連動して回転している。

 中心には星神教会のシンボルである星十字が立てられている。

 そして……。


「あれがデュランダル……でも、あれは」


 確かに剣が突き刺さっている。だけど――床とか祭壇とかじゃない。

 デュランダルが刺さっているのは、人にだ。

 星十字に磔にされた人間の心臓、そこに神器が突き刺さっているんだ。


「あれは――誰だ」


「あのお方は先代勇者様です」


「先代勇者……あれが、ライン。だけどどうして胸にデュランダルが……」


「何が起こったのか、私にもわかりません。おそらく天魔王の死によって世界のパワーバランスが崩れ、勇者様は自らを封印することで世界の安定を保ったのでしょう」


「それって……もし僕が天魔王を倒しても同じことになるってこと?」


「……それは誰にもわかりません。おそらく神にも」


「神、か」


 神。いるんだね、そういう性格の悪い奴が。

 この無数の並行世界のさらにその上で、奴らはほくそ笑んでるってわけだ。運命とか、未来とか、全部知った気になって。僕らを見下している。

 だけど僕らは神様じゃないから、先のことなんてわからない。

 前に進むしか無い。その先に破滅が待っていようと。


「いいね、そういうの。悪くないよ」


「勇者様……」


「じゃあ、始めようか」


 僕とマリィがカルヴァリオの中心にまで歩いて行く。

 星十字の前で、僕とマリィの手がはなれた。ここからは僕一人だ。

 星十字に磔にされた先代勇者「ライン」。生きているのか、死んでいるのか。

 目を閉じ、何も語らない。息もなく、心臓も動いていない。だけど血色はよく、死んでいるようにも見えない。

 「封印」というのが正しい表現なのだろうか。時がとまっているように見える。

 彼の心臓を貫く神器デュランダル。

 僕はその柄を握りこむ。大きさ、感触はゲームの中と同じだ。

 抜ける。これなら抜けるはずだ。


 ――だけど。

 本当にそれでいいのか?

 この剣を抜いて、僕が勇者になれば……そのあとはどうなる。

 マリィは世界の崩壊を止めるためにこの異空間にとどまると言った。

 それは独りになるということだ。孤独になるということだ。

 僕が勇者になっても、マリィがいなくなったら……いなくなったら……。


「勇者様――?」


 マリィの声。僕を心配している。

 そうだ、迷っている暇なんて無い。マリィは僕を信じてくれた。見つけてくれた。

 何者でもなかった僕に対して、勇者という何者かになるチャンスをくれたんだ。

 その信念に報いなければならない。


 僕は柄を強く握って――引き抜いた。


「――っ!?」


 いや、引き抜けていない。確かに最初は手応えがあったけど……。

 どこかでひかっかって、それ以上動かない。


 嘘だ。そんなハズない、だって僕は儀式を終えて勇者に選ばれたはずなんだ。

 ゲームの中じゃ、神器を使っていたはずなんだ。

 なのに、抜けないなんて、ありえない。そんなわけがない。


「嘘だろ……そんなわけ……」


「――ハジメッ!」


 狼狽する僕に、マリィの叫び声がいきなり投げかけられた。


「マリィ、どうして」


「なんか変だよ、ハジメ、早く剣を抜いてっ!」


「マリィ、どうしたんだよ、ちょっとまって、剣が途中でひっかかって――」


「――とにかく儀式は中止! 時計塔ホロロギオンに戻らなきゃ!」


 マリィは僕の手をとり、かけ出した。

 黒い扉から外に出て、再びポータルに出る。


「マリィ、急いでるなら僕が抱えるから、指示を!」


 僕はマリィの小さな身体を抱えた。

 白い空間をマリィの指先が示す進行方向にしたがって高速で駆け抜けていく。


「マリィ、いきなりどうしたんだよ! 中止って一体……」


時計塔ホロロギオンの反応が変なんだよ、たぶん儀式の術式が書き換えられてる!」


「書き換え? 一体誰が……何のために……」


「わからないけど、戻らないと世界が大変なことになるよっ!」


「わかった、あの光の扉だよね。飛び込むから目ぇつぶってて!!」


 僕は一気に元の星空世界に戻る扉へと飛び込んだ。

 一気に空間の色が変わり、薄暗い場所に出る。


「はぁ……はぁ……戻ってきた……けど」


「何……これ……」


 マリィと僕が見たのは、とんでもない光景だった。それはほんの半時間ほど前とは全く違う。

 凄惨な光景――血にまみれた場所。


「死体は……エルフや人間、こっちはドワーフか」


 どれも要人の警護についていた戦闘要員だ。

 その死体の山に混じって、エルフのエドルノア卿も倒れていた。わずかに息があるけど、かなりの重症だ。今すぐ治療しないと助からない。


「エドルノア卿、一体どうして……!」


「小僧……戻ったか……」


「誰が……一体こんな」


「仮面の……ゲホッ、ゲホッ!」


「ダメだ……もう喋るな! そうだ、治療――リデルは、ここに倒れてる以外のみんなはどこに行ったんだ……」


「さらに奥……行け、勇者。神器を……抜いたの、だろう」


「……ああ、安心して寝てなよ」


 エドルノア卿は安心したように目を閉じた。死んだとは思いたくないけど、どっちにせよ長くは保たない。リデルを見つけないと。

 どうやら皇帝やアンジェ、オルセン、リデル、それにファニュ卿も死体や重傷者の中には混じっていない。

 どこかに……エドルノア卿は奥と言っていたけど。


「マリィ、奥ってのはどっちにいけばいいの」


 この空間も方向の区別が感じられない場所だ。奥と言っても四方八方どこに行くべきかわからない。

 だけどマリィならこの空間でどこにいけばいいのか。どこに他の人々がいるのかわかるはずだ。


「ハジメ……本当にいいの?」


「マリィ?」


「ハジメは他の世界の人間なのに……きっとこれから考えられないほど辛いことが起こって……傷つくかもしれない。それでもいいの?」


「今そんなこと言ってる場合じゃ――」


「今を逃したらもうきっと言えないから! ……ハジメ、本当にいい?」


「決まってる。最初から答えは同じだよ、僕は君を助ける。そのためにここにいる」


「……わかった。あっちにいる、みんな。それと――敵」


「敵……それって」


「たぶんこの感覚――アマルガムだ」


「アマル……ガム……!?」


 仮面の男。そうだ、それしかなかったじゃないか。

 アマルガム。だけどなんでこんなところまで……?

 いや、考えている暇はない。行かないと。あんな危険な奴が――アンジェを、リデルを、みんなを。


加速魔術スタンピード!」


 加速。マリィの指し示した方向に高速で駆けてゆく。


「間に合え――!」

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