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第二章3『城下町』


 皇都プロヴィデンスは城下町と王宮、森や泉など全ての施設を含めて、強固な城壁に囲まれた一つの城塞都市になっている。

 城下町と言っても、王宮の門を出ればすぐそこだ。


「ごめんリデル、待った?」


「ハジメさま。いえ、わたくしも今来たところです」


 僕らは門の前で待ち合わせていた。

 漫画にかいてあるようなありきたりな受け答えが成立した。

 リデルはいつものメイド用のものではない、私服らしいエプロンドレスを着ていた。

 エプロンドレスである点では同じだけどデザインはより可愛らしく新鮮な感じだ。


「リデルー、はろはろー。その服可愛いね」


「マリアンヌさまもいらっしゃられたのですね。マリアンヌさまの服こそいつも可愛らしいです」


「ええー、照れるなぁ」


 マリィはむず痒そうに頭をかいた。

 互いをナチュラルに褒め合ったぞ。これが女子トークってやつか。

 確かに二人とも可愛いけど、僕はどうにもこういう女子のノリってやつには疎い。


「じゃあ行こうか、僕もこの世界のこと、もっと知りたいし」


「さんせー、王宮から出たこと殆ど無いから楽しみ!」


「ふふっ、わたくしも楽しみです」


「――まて、旦那様」


 そんな僕らにふいに声がかけられる。

 アンジェだ。起きたばかりといったようなボサボサの髪に寝間着のままの姿でふらふらとこっちに歩いてくる。


「正妻のわらわをおいて、女連れでどこへ行こうというのだ……ふにゃ」


 露骨に眠そうな態度であくびをしながら、涙を拭っている。


「どうしたの、すごい眠そうだけど」


「ハジメさま、その……アンジェリーク様は寝起きからお昼ごろまでは力が出ないのです」


 リデルが僕に耳打ちする。

 なるほど。夜の様子からも思ったけどアンジェという人間はオンとオフの差が大きいみたいだ。

 戦いの時には研ぎ澄まされた刃のような圧倒的な気配を誇っていた彼女が、夜には来望がそうだったようにどこか冷めていながらも包み込むような母性を感じさせた。

 そしていまは、また違う顔を見せる。


「ふわぁ……わらわもついていくぞ。旦那しゃまぁ……」


 もう完全にふらふらだ。呂律がまわらず手足にも力が入っていない。

 そうしているうちにアンジェの世話係のメイドたちが追いついてきて、彼女を取り押さえた。


「アンジェリーク様! お顔を洗って朝食をおとりになってくださいませ! 外出はお昼までお預けです!」


 気の強そうなベテランのメイドが皇女様にも容赦なく叱責を浴びせる。


「やだやだー! わらわもいくのじゃー!」


「はいはい、お一人で着替えられたら行きましょうねー」


 そのままアンジェは捕獲された宇宙人のようにズルズルと連行されていった。

 僕らはことの顛末を唖然として見ていることしか出来なかった。


「……かわいそうだけどまあ、あんな姿国民には見せられないよね」


 そうして僕とリデルとマリィは門の外へ歩き出す。


「――っ!?」


 その時、何か嫌な感じがして振り返った。

 僕らとすれ違うように門から王宮内に入ってきたのは配達屋で、荷台に重そうな何かを載せて物資を搬入している。

 見たところ怪しい感じはしない。


「ハジメさま、どうなさったのですか?」


「今、何か変な感じがしたんだ……自分でも説明できないけど」


「変な感じ、でございますか?」

 

「ハジメも感じたんだ……でもすぐに消えたよ」


 マリィもそう言っている。僕は配達屋の運ぶ箱に魔力の波動を飛ばしてスキャンした。


「内容物は魔導銀ミスリル……不純物は多少あるけど90%以上が純正だ」


「それなら、たぶん武具や術式剣の素材が補填されたのでしょう。時折不純物として魔族の体組織が付着していることがありますが、後に精錬されて純度を上げて使いますよ」


「なるほどね」


 そのリデルの説明に一応納得した。

 魔導銀は神聖な光の魔力によって精錬された「まことの銀」。この世界でもっとも人間の使う魔力と親和性が高く、魔族、とくに吸血鬼など闇の力を持った生命体に強い攻撃性を持つ。

 例えば魔導銀製の縦断などを殺せば「不死者アンデッド」にも再生不可能のダメージを与えられるように、体力で劣る人間が魔族に立ち向かうために必要不可欠な金属だ。

 魔導銀は貴重な素材だから武器の全てをそれで構成することは資金的な問題で難しいけど、魔力の通りやすさを利用して主に術式回路の素材として使われている。

 アンジェの使う術式剣「グラジオラス・ラピエル」なんかは材質の全てが魔導銀でできている特別製みたいだけど。……セレブはやっぱり違うなぁ。


「じゃ、ま。気を取り直して行きますか。皇都プロヴィデンスの城下町にさ」



      第二章3『城下町』



 僕の知っているファンタジーの世界は中世を舞台にしているケースが多かった。だけどこの世界は――少なくともセラエティアの皇都プロヴィデンスには当てはまらないようだ。

 僕がゲームの中で冒険した世界はこの十年前の世界で、その時には既に僕の世界でいう近世以降の文明レベルがあって、魔力の活用に特化した技術では現代に通ずるものもあった。

 例えば空を飛ぶ船「飛空船」だ。飛行速度は僕らの世界で言うジェット機には到底及ばないけれど、浮力の生み出し方などはまた別のアプローチで作られている。

 それもこれも、天魔大戦期に種族の存亡をかけて戦った人間が爆発的に発展させた「術式回路」技術によるものだ。この世界の文明と文化は、術式回路によって支えられている。


 プロヴィデンスの街並みはクラシックな意匠を残しながらもいたるところに組み込まれた術式回路によって高い機能性を発揮していた。

 電線が無くとも、僕らの世界では電気を必要とした文明の利器を使用者の魔力を少し流すだけで効率的に利用できる。なんともエコな話だ。

 回りを見るだけでも、術式回路を組み込んだ持ち運びの通信機などを持った人々が散見される。電子機器エレクトロニクスが発達しなくても近代化はなし得るんだなと関心した。


「ハジメさま、いかがですか。街の様子は」


「うん、面白いね。僕がここに来る前はゲームでこの十年前の世界を疑似体験していたってことは話したよね」


「はい。先代勇者様の冒険を再現し、見事儀式を成功なさったと聞いております」


「ゲームでは天魔王を倒すまでの旅路と関係ない細かいディティールは省略されてたからね。なんか新鮮だよ、文化とか、人の生活とかを見るのは」


 門から直進した先の大通りには活気があった。

 このセラエティアでは安息日には休息をとらなければならないという決まりがあるが、休日にこそ商売は捗るというもので、大通りに面した多くの店が今日も営業をしていた。

 リデルによると半休でも良いということで、昼過ぎに店をたたんだり夕方頃から店を開けたり――とにかく営業時間が普段よりも短ければそれで良いらしい。


「てきとーだなぁ」


「法的に定められた規則ではなく、あくまで慣習ですので……。でもこうしてわたくしもお休みをいただけるので、ありがたいことです。普段王宮にいるとお給料の使い道もありませんし」


 リデルは可愛らしいがま口をちょいと差し出した。

 中にはぎっしりと硬貨が詰まっている。王宮だけに給料は良いのだろうか。


「ボクもおじいちゃんにお小遣いもらったから買い物するよっ!」


「なんだ、僕だけ無一文か……」


 こっちの世界に来ても相変わらず働いてないからお金は持っていない。

 アンジェあたりにおねだりすればお金を貰えたかもしれないけど、なんか悪い気がするし。

 いや、男のプライド云々言うつもりはないし、女の子に養われるのもそれはそれでいいんだけど。


「大丈夫ですよハジメさま。わたくしのお給料はハジメさまに使っていただくために持ってきたのですから」


 リデルがそう言って微笑んだ。

 打算的なものは何も感じられない、あくまで善意のみで形作られた笑顔。

 まぶしすぎる。


「いや、リデルあのね。さすがにそこまでしてもらうのは悪いよ」


「お気遣いしていただかなくても、わたくしは趣味もありませんし、服を買っても着る機会がありませんから。お給料の使い道がなくて困っていました。ハジメさまの助けになるならそれだけで幸せなんです。ご迷惑、でしたか……?」


「ううっ……」


 リデルが潤んだ瞳で僕を見上げる。この目には本当に勝てそうにない。


「わかったよ。お言葉に甘えて、銀貨一枚借りるね」


「一枚でいいのですか?」


 リデルが開けたがま口の中には大量の金貨が詰まっている。どうやら相当使い切れない給料を溜め込んだようだ。


「いいんだよ。これで十分。じゃあまずは僕の言う条件の場所につれていってくれるかな」


「はい、どこへでもなんなりと!」


 リデルはそう元気よく返事をした。


「そっか。じゃあ条件を言うよ、そうだな――」


 ――この街で一番物騒な場所、かな。

最近、更新ペースが落ちて申し訳ありません。今後はもう少し速く書けるようにしようと思っています。

おかげ様でブクマ件数が10件に到達しました。皆様に読んでいただけているとわかるだけでとても励みになります。ありがとうございます。

これからも出来る限り面白く書けるよう、精進していきたいと思っています。よろしくお願いいたします。


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