08 別れ
久し振りに再会したヒカリとネルは、海の中でじゃれあっている。ネルもヒカリと同じくらい、すっかり大人になった。茶髪は以前よりも明るい色になった気がする。
「じゃあね、二人とも元気でね。あまりひとのいる陸に近づいてはだめよ」
近藤さんの言葉に、二人は同時にこくんと頷いた。
「月に一度は会いに来るからね。他の人魚とも仲良くするのよ」
ネルは初めての広く自由な海に興奮し、早く行こう、とヒカリをつつく。ヒカリは何か言いたげな目でこちらを見ていたが、結局何も言わずに海へ潜った。
永久に会うことができなくなるわけではないけれど、それは僕の中に何かを残していった。
「ごめんなさいね、今までずっとヒカリちゃんの面倒を押し付けてしまって」
振り向いて近藤さんが言う。
「いえ、僕が言い出したことですし。それに、結構楽しくやれましたよ」
「そう。良かったわ。でもね……」
急に真面目な顔になって、近藤さんが切り出す。
「人魚に魅入られてはだめよ」
魅入る?
僕は固まった。
「えっと……それ、どうかねいうことですか?」
「そのまんまよ。人魚に魅入られると、溺れてしまうわ」
「溺れるって、何に?」
さあね、と意味深な答えを残して、近藤さんは歩き出した。僕はまっすぐな水平線を見つめ、立ち尽くした。
家に帰った後で、彼女の存在が意外にも大きかったことを知った。思ったよりも静かな家だった。家族の住んでいそうな一戸建てに、僕一人。空気が動かなかった。
パソコンに、藤本教授からメールが届いていた。ヒカリは元気か、という内容だ。僕は適当に返事を返しておいた。
この時ばかりは、メールという機能に感謝した。メールなら、僕が今にも動揺で泣きそうなのを悟られないで済む。




