06 提案
ヒカリはどんどん元気になっていった。僕が作る物は何でも食べてくれた。―――ただ、レバーは匂いだけでパスした。好物は甘い卵焼き。僕も作るのがだいぶ上手くなった。
二ヶ月後、近藤さんが訪ねてきた。
「あらっ、すっかり元気になったのね。ずいぶん大きくなって」
ヒカリはすっかり大人になった。外見的には十代後半くらい。もうこの水槽では狭くなっている。
「どうかしら、水温も少しは温かくなったし……そろそろ海に帰すのもいいんじゃない」
僕ははっとした。本当に間抜けな奴め。いつまでもヒカリといられるなんて大間違いだ。最初から分かっていたことじゃないか。
そして僕は心と裏腹のことを口にした。
「ネルも一緒ですか。いつにしましょう」
ヒカリがじっとこちらを見ている。
「そうね…こっちはもう準備出来てるから、いつでもいいわ。来週の日曜なんてどうかしら」
本当はその日は一日中空いているのも知っているのに、僕はスケジュール帳をぱらぱらとめくってから頷いた。
「分かりました」
こうしてヒカリとの別れは突然に訪れた。結局一日中、ヒカリは僕と口をきかなかった。
あまり眠れないまま夜が明けた。どうやらヒカリも眠れなかったらしく、目がとろんとしている。朝食を食べる量がいつもより少なめだった。
「気分、悪いの?」
返事がない。やれやれと僕は部屋を出ようとした。
「ねえ」
尾びれで水面をパシャッと叩いて、ヒカリが口を開いた。
「本当にいいと思ってる?」
「何が?」
水がゆらゆらと揺れる。ヒカリはまた水面を叩いた。




