05 藤本教授
近藤さんの言った通り、ヒカリはやはり病気だった。
最初、ますます白くなるヒカリを見て、僕は本気で焦った。このまま死なれたらどうしよう。そう思うだけで胸が痛んだ。
近藤さんを呼び、会社からも研究員を呼んだ。しかし上手くいかず、僕は休みをとって藤本教授に会いに行った。
教授は僕の顔を見ると、お久し振り、なんて言っていたが、ヒカリのことを口に出すと顔色が変わった。
「あれは生まれつき病弱なのです。薬を差し上げましょう。ヒカリのためだけに作ったやつです。なに、ただの抗生物質ですよ」
「なぜ、売ったりしたんです」
僕は唐突に、答えの出なかった疑問をぶつけてみた。教授はため息をついた。
「あの子はある女性のDNAを組み込んだ実験体でして。そのせいか、ヒカリは先程も言ったように病弱で。もう実験体にするのはやめて、ずっと手元に置いておこうと思っていたんです。海に放しても、とうてい生きていけないでしょう。でも、私では十分に愛情を注いでやれない。そんな時、友人が人魚が欲しいと言ってきたんです。竹馬の友でね。彼なら決して悪いようにはしない。そう思ったのです。ヒカリは…私の、死んだ娘にそっくりなんです。だから、どうしても笑ってほしくて。…でも、あなたの手に渡ったのなら大丈夫でしょう」
僕は曖昧な返事しか出来なかった。そして、尋ねてみた。
「あの子達に、寝る前に物語を聞かせていたそうですね」
「ええ、そうですが」
「『人魚姫』だと聞きました。一般に知られているものとは結末を変えているんですか?」
「ああ、そうそう。別の子に話した時にひどく泣かれてね。あれ以来、ハッピーエンドにしてるんだ。忘れてたな。それが、どうかしましたか?」
「ヒカリに聞かせようと思ったのですが、あいにく僕は不得意で。原稿か何かありませんか」
藤本教授はニコッとした。
「ありますよ、ノートに書いたやつが。たしか研究室にある。取って来ましょう。差し上げます」
「え、いいんですか」
「ええ、私はもうすっかり覚えてしまったから」
教授は深緑の表紙のノートを持ってきた。お話がまるごと書いてある。ありがたい。
「これまで毎晩どうしてたんですか」
「他のお話を読んでました。シンデレラとか、美女と野獣とか」
藤本教授がくすっと笑った。
「本当に、あなたの所で良かった」




