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人魚姫  作者: 沖津 奏
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02 二人の人魚

 その日は雨だった。三月なのでとても肌寒い。中本と二人で以前放した人魚達の様子を見に行く途中のことだった。

 中本が急に一台のトラックに目をつけた。

 その動物的勘は大当たりで、業者は人魚を二人運んでいた。まだ子どもの人魚だ。人間にしていえば四、五歳くらい。

 一人はふわふわした茶髪で、もう一人はストレートの黒髪。目は二人共茶色で、顔かたちは日本人に似ている。

 茶髪は人懐こいのに、黒髪は警戒心が強い。


「お名前は?」


 慣れた様子で中本が話しかける。おいおい、と思ったが、意外にも茶髪は楽しそうに答えた。


「ネルよ。おじさん、だあれ?あたらしいおとうさん?」


「んー、まあ、そんなところだ」


 全然違うけどな。


「あと、『お兄さん』ね」


 僕と中本はまだ三十路前だ。

 中本は黒髪を見た。


「君は?」


 黒髪は喋らない。それどころか、睨みつけている。呆れたネルが口を開いた。


「ヒカリよ。いつもはよく喋る子なの」


「そうなんだ。ところで君達、何でこんなところにいるか知ってる?」


 ネルは頷いた。


「ええ、あたらしいおとうさんにあいにいくの」


「二人一緒に?」


「うん」


 僕と中本は顔を見合わせた。


「その人の名前、わかるかい?」


「しらない」


「じゃあ、前の『おとうさん』の名前は?」


「フジモト キョウジュさん」


 中本が首をかしげる。


「キョウジュさん?変な名前の人だな」


 …って違うだろ!教授じゃないか?

 ネルが続けた。


「いつもしろいふくきてるの。センセイってなまえもあるみたい」


「へえ…」


 やっと中本は気づいた。そして、少し険しい顔をする。


 藤本教授といえば、そっちの分野では雑誌に論文や写真の載る有名人だ。最近は人魚研究で環境省のお偉いさんとの付き合いもあるそうだ。その人がなぜ…。


「いつもね、ねるまえにおはなしきかせてくれるの」


「そうなんだ」


 その時、中本の呼んだNPOが来た。後ろに何やら荷物を積んだ白の軽トラックから、スーツの女性が降りてきた。

 四十代くらいか。ショートボブの黒髪には、ところどころに白髪が光る。化粧は濃くなく、すごく好印象だ。手には怪しげなバッグを提げている。


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