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学習の成果



 キャンプにつきものって何かな?


 はい、今なら私知ってます。それは、テントです。寝袋です。やかんです。懐中電灯です。レインコートです。マッチです。食料、特にチョコレートです。

 靴はハイヒールなんか絶対にいけません。歩きにくいでしょ。服もフリルや無駄な飾りはいりません。洗濯しないといけない時にムダに洗剤や洗剤を使っちゃうんだ、絶対。色は黒なんかはいけませんよ。蜂が寄ってくるし、暑いので。ベージュなんかを私は薦めときます。個人的にはカーキも好きです。喜一の着ている色ね。

 コンパスも必要です。方位磁針のことだよ。丸い円を正確に書く事なんて絶対ないから、丸を書くコンパスを持ってこないように。智は船にはどっちのコンパスもいるって言ってたけど私たちは船持ってないからいらないの。

 地図だっていりますよ。少なくともスタートする時ぐらいは。携帯用コンロに鍋やスプーン、それから忘れてた、万能ナイフ。これも絶対欠かせません。分かるでしょ?


 だけど、前は全然知らなかった。私のキャンプのイメージで必要なのはちょっと大きめのランタンだけ。探検にも、冒険にもランタン。それさえあればオッケーかと思ってた。何でそう思っていたのかは分からない。誰かに聞いたわけではないと思う。だって、まずランタンって言う人はいないみたいだから。

 私たちの今回行った旅の最初の話し合いでもそうだった。びっくりした。いくつも必要と思われる物の名前が挙げられる中、ランタンは最後の方に喜一が言い出したけど、もしかしたら出てこないかもしれないくらい後になってからだった。

 ランタンいるのにねぇ。今では皆ランタンが一番必要って思っていると思う。絶対にいるものだったんだよ、やっぱり。燃やす物なんか見つけられない砂漠の夜。月の光が無い真っ暗な夜。ね?


 何でもそうだけど、聞くと見るとは大違いだし、実際にやってみるのも本当に大変だ。一番大変だったのはトイレ。真雪もそうだよね。女の子だもん。はっきり言って今でもまだ抵抗がある。もうすぐトイレットペーパーが完全になくなっちゃうけど、そしたらどうなるんだろう。「手で拭け」って童謡の替え歌があったっけ。そんなの絶対に嫌!そんな事になったらトイレを我慢しまくって死んでやる。私の死んだ責任は、全部この旅の言い出しっぺの友哉のせいにしてやるんだからね。

 まったくあんたは無責任なハンサムだよ。のこのこ着いてきた私達は大バカだったよ。でも、まあ来てよかったけどね。だってあのまま普通に暮らしててノアに会ったりしたら。絶対にムリだよ。21世紀の日本に「世界があさって終わります」って聞いて「あぁ、そうですか」って信じる人なんかいないでしょ。現実とバーチャルリアリティーの区別がつかなくなっているヤツなら余計にノアのいう事を信じなかったと思う。


 8月の真昼間、砂漠の真ん中で青いTシャツにジーパンでとことこ歩いているノアの事。とうとう幻覚か?!と思うあの状況でなくちゃ私は絶対に信じなかった。水色のソックスに赤いナイキのシューズ。おまけに手ぶら。砂漠だよ?すっごい非常識!


 夏休みに入っての部活の帰り。神のお告げを聞いたノアは、そのまま世界の人に終わりを告げる旅に出たらしい。ノアは私と同い年。でも、ずっと年上に見えた。何だかおばあさんみたいに見えた。可哀想ではなかった。可哀想なのはこっちだよ。


 知りたかったのは世界の終わりじゃない。「果て」に行きたかったんだよ、私達。「果て」を探してたんだよ、私達。


 友哉は見ていられないくらいに落ち込むし、智もそうだった。真雪は元々あんまり喋らない性質だったから外すとしても、あの時はさすがにおしゃべりな私と喜一も黙った。あー、何だか愚痴になったな。反省。

 そう、感謝もしたんだよ、ノアに。世界の終わりを知ってるのと知らないのじゃ心構えが違うよね。でも、やっぱり恨めしい。聞きたくなかったよぉー!


 ノアはどうしてノアになれたんだろ。校内で確かに見かけた事がったノアだけど、話した事もないし、本当の名前も知らない。本当は学年が一緒だったってのも怪しい。だけど、智が「多分そう」って言ったからそうなんだろう。私達の中で信用できる人間がいるとしたら彼しかいない。一番まともだもん。

 大体教えてくれるならもっと前には出来なかったのかな。旅立つ前にさ。私には密かに憧れている人がいたんだ。せっかくなら彼の側で死にたかった。ヒロインぽくてステキじゃない。でも彼はすでに死んでいるし、彼のお墓の所在さえ知らない私にはどだい不可能な願いだけどさ。

 でもなぁ。砂漠で死ぬのってなぁ。どうせなら私のあの汚い部屋でもいいからもっと現実の中で死にたかったな。そうでなきゃちゃんとあの世にいけない気がする。行きたくないけど行かなくちゃいけないならそれ相応の準備がしたい。誰だってそうじゃない?

 大体葬式はどうなるの?皆でいっせいに死ぬわけだから、何もなし?合同葬?そんなの最悪。それとも葬式って別にしなくてもいいものなの?だったら何で今までやってたんだろう。暇つぶし?


 あーあ。ノアについて行けばよかった。ついて来るなって言ってたけど、それだって私達の自由じゃん。バカらしい。なんであの時は私達聞き分けが良かったんだろう。いつもは絶対に人のいう事をまともに聞かない喜一でさえ、ノアのいう事には従った。ああいうとこが救世主なのかな。救世主ではないって言ってたな。何だっけ。忘れちゃった。これだから私はノアになれなかったんだな。納得。


 悶々と考えている私達の沈黙を破ったのはやっぱり喜一だった。

「腹減ったな」

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