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シンガポールのお食事事情 第4章

作者: junju

第4章にはいります。後半です。でもまだまだ続きます。

第4章 ハイ・ティー


4月のある日、シオに別のクラスの女の子が話しかけて来た。


時々見かけるが話した事は無かった。


いつもマンダリン(北京語)を話していたので中国人だと思ってた。


「こんにちは。私、妙。あなた日本人なの?」


久しぶりの日本語だ。


「そうだけど。あなたも?」


「うん。よく中国人に間違われるけど。」


「わたしもマレーシアンに間違われる。」


シオは肌が浅黒く、着やせする体型が日本人離れしていた。


「じゃあ。お互い外国人だと思っていたんだね。」


「外国人だわ。シンガポールなんだし。」


妙はほほをピンク色にして笑った。


シオもつられて笑った。


すごい久しぶりだ。


「ミス・シオ。ホテルで生活してるって本当?


学校にもタクシーで来るってみんなうわさしてるよ。


すごいね。一ヶ月いくらぐらいかかるの?」


「そうね。最初いたホテルはすぐ出たけど今でも一ヶ月


(1S$=112yen:1982)3千ドルぐらいかな。


さすがに馬鹿馬鹿しくなってる。」


「ワオ。ブルジョア!私、YWCAのドミトリーでいるけど


一ヶ月5百だよ。ミス・シオもYWCAにおいでよ。」


「でも、共同生活ってのは無理だわ。」


「家族用のホテル棟に、月千5百ぐらいで入れるって聞いたよ。」


妙は世間話程度に誘ったと思うが、宿泊費用が半分になると聞いて


シオはその日のうちにホテルを引き払った。


オチャード・ロードの東の端がフォート・カニング・ロードにいびつにつながっている。


その坂道を登り切った処にYWCAフォート・カニング・ロッジはあった。


そして、やってきたシオを見て驚いている妙を、無理にルームメートにした。


シングルルームが空いてなかったからだ。


妙は最初困ったような顔をしていたが、宿泊費用を全部出すと言うと、


しばらく考えてうなずいた。2人で住んでも月千5百ドル。


妙にもいい話だ。シオは日本語で話せる妙を気に入っていた。


シオは英語で生活する毎日にとても疲れていた。


 週末になると二人はシンガポールの町に繰り出した。


シオは妙に化粧をしてチャイニーズドレスを着せ、もちろん自分もフルメークした。


そしてオーチャード・ロード沿いのデパートをのぞき、


マンダリンホテルでお茶などして夜がふけるのを待った。


ブラックベルベット・アンド・ゴールド、レインボウ、スタジオM、


ローカルばかりの店、ヨーロッパの観光客が多い店、


おしゃれで個性的な店がたくさんあった。


日本人がめずらしかったのと女の子は無料になることも多かったので


踊ったり、酒を飲んだり、明け方までシンガポールの夜を満喫した。


また、別の日には、ニュートンサーカスにタクシーで乗り付け


ふかひれスープを食べたりした。珍しく妙もおいしいと言う。


あまりに頻繁に行くので最近ではYWCAの前にいつもタクシーが待機するようになった。


中年のドライバーはシオのお抱え運転手みたいだった。


彼はいつもフロントマネージャーに話しかけて時間をつぶし、


お呼びがかかるのを待っていた。


マネージャーはインド人の女で、色黒だがアーリア人特有の美しい顔をして、


運転手の話に下品な笑い声をたてていた。妙な感じだ。


美しい黒鳥がミミズやゴカイを啄んでいる様な違和感だ。



 天井扇が優雅に回る。


自分の部屋のそれとラッフルズ・ホテルのそれは全く別の物のようだ。


今日もシオはテフイン・ルームでハイ・ティーを楽しんでいた。


吹き抜けのメインロビーを通り抜けると別世界だ。


前庭にパーム・ツリーが大きく葉を広げ、車寄せにオースチン型のリムジンが止まっている。


シオは妙のおかげでシンガポールの毎日を楽しむ様になっていた。


 今日は妙が友達を連れてくると言った。そろそろ待ち合わせの時間だ。


そして、意外にも妙の友人は男だった。名前をシェンロンと言う。


しかし、妙の友達と言う感じではない。


十歳は年上だろう、端正なしぐさの中にどこか緊張感がある。


ホールのスタッフがふとこっちを見た様な気がした。


「こんにちは。ミス・シオ。」


妙に紹介されてロンは落ち着いた声で挨拶した。


妙はいつものように素顔だがロンの横でいるととても可愛らしい。


水色の涼しげなチェックのワンピースを着ている。


そして、週末にセントサ島へ行こうと熱心に二人を誘った。


「セントサのケーブルカーって大丈夫かしら。去年落ちたんでしょ。なんだか怖いわ。」


「もう大丈夫だよ。新しくなったしね!」


妙が強く返事した。よっぽどロンと行きたいんだろう。



 シオは無意識にロンの手を見た。


きれいな手の男が好きだからだ。


ロンは好感の持てる手をしていたが、左手の薬指に指輪をしていた。


「ミスター・シェンロン。」


「あ・ロンでいいですよ。」


「ロンってドラゴンの事なんでしょ。」


「そうですよ。よく知ってますね。父が名付けてくれました。」


たわいのない話の中でロンが正規の英語教育を受けた華人であることがわかる。


ラッフルズの景色の中にロンのクイーンズ・イングリッシュがしっくりとなじむ。


 ロンは同じ華人でもYWCAのタクシー運転手とは違う階層の人間だ。


でも、いったいどんな友達なんだろう。妙はよくわからない。


既婚者との恋愛?シンガポールで?華人と?全然未来がないじゃん!


今瞬間を楽しんでいるのかな?妙って不思議!


 シオには、今まで無条件に人を好きになるという経験がなかった。


遊んでいるようでも、ある意味とても臆病で計算高かった。


恋愛とはいつも相手がシオに何かしてくれるものだと思っていたから、


自分にとってメリットのない相手とつきあうことは無かった。


シオから見ると妙はとても危なっかしい。


 ただ、心のままに生きている野生児だ。


 妙は二人の話をにこにこしながら聴いているが、


段々右肩が下がってロンに寄り添うように座っている。


妙のロンを好きな気持ちが伝わってきてこっちの方が赤面する。


ロンは妙をどう思っているのだろうか?それもシオにはよくわからない。


わからないことは面倒くさい。



「今からみんなでエリザベス・ウオークに行きたいな。」


「私はマーライオンに興味がないわ。二人で行ってきなさいよ。」


これ以上、妙につきあうのもばかばかしくなった。




ではでは。

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