ウェジー
初夏、青々とした針葉樹の合間からノルウェー第二の都市ベルゲンの街が見渡せた。偶然、そこで居合わせた毛並みの長い黒猫が老人のすねを擦ったあと、ひと足先に舗装された山道を歩き始めた。木漏れ日がどこまでも続く山道を照らし出している。その光景に惹かれて、老人もまた帰路に立った。猫の優雅で気品のある後ろ姿を見て、ふと閃き、老人は彼女の愛称にウェジーと名付けることにした。
老人の自宅はベルゲンの都市部より山沿いにあった。その家で残りの余生を一人過ごすことにしていたが、山道で出会ったウェジーが家まで着いて来てしまった。老人は未亡人で独り身の孤独からこころよくウェジーを受け入れたのだった。
老人は自宅に猫のご飯やトイレを備え、過ごしやすいようにエアコンの温度を保ち、彼女が家にいるあいだはブラッシングを行った。日が経つにつれ、気まぐれなウェジーも老人に対して心を開き始めていた。
昼下がり、老人は縁側の見える庭でひと息つくのが何よりも祝福に感じていた。ウェジーにとっても、最高の時間は彼の膝の上で丸くなって眠ることにあった。
やがて、ウェジーには月一度のルーティーンができるようになっていた。それは、老人に獲物をプレゼントすることであった。
早朝、または老人が眠っている時間帯、ウェジーはプレゼントを探した。獲物が見つからないこともあれば、運良く見つかり捕獲できるときもある。それには季節も起因し、最も獲れないのは冬場であった。しかし、冬場よりも夏の猛暑日の方がよほど大変な思いをした。
その日もやけに暑く、辺りが寝静まるころにウェジーは出かけた。彼女がプレゼントを咥えながら家に辿り着くころには朝日が昇り始めていた。
やっとこさ敷地の柵を越え、裏口から専用のドアをくぐり抜けて、階段から寝室へ向かう。寝室のドアは開かれ、ウェジーは床にプレゼントを置いた。それに気付いた老人はゆっくりと上体を起こし、困った顔を見せながらウェジーの頭を撫でたのであった。ひと仕事を終えて、ウェジーは老人の枕元で丸くなり幸せそうに眠った。




