武勇傳のないヒーロー
〈愚けしや戀の埓外春の陣 涙次〉
(前回參照。)
【i】
故買屋Xが、カンテラ事務所・相談室の客となつたのは、何も例の*「定期検診」を受ける爲ではなかつた。カンテラ「珍しいな、故買屋さんよ。何か事件でも?」-故買屋「あゝさうなんだ。もぐら國王と朱那が只今、痴話喧嘩中でね。國王が仕事する氣になれんとか云つて、ボイコットしてるんだよ、盗みを」。故買屋、その解決策をカンテラが提示してくれるものと踏んで、事務所まで訪れて來たのだ。
* 當該シリーズ第53話參照。
【ii】
「それなら、時軸麻之介を『もぐら御殿』に派遣しやう」とカンテラ。時軸の「和合空間」は、前回のやうな戰爭締結から、今回の「痴話喧嘩」レヴェルの諍ひをストップさせる事まで、大技小技の効く「術」だつた。故買屋、「宜しく頼むよ」と、先拂ひで百萬、ぽんと置いて、去つた。
【iii】
いつもは仲睦まじい國王と朱那であつたが、朱那が*「子供が慾しい」と云ひ出し、それが喧嘩のそもそもの發端となつた。國王は自分のタネをこの世に殘したくはなかつた。泥棒の大先輩・石川五右衛門が、豊臣秀吉に依り釜茹での刑に處された時、その一子を頭上髙く掲げ上げ、「石川や濱の眞砂は盡きるとも世に盗人の種は盡きまじ」と辞世を吐いたのは、皆さんもご存知だらう。國王にとつては、子供を殘すと云ふ事が、五右衛門の最期のやうな、酷たらしい刑死と不可分だつたのである。
* 當該シリーズ第62話參照。
【iv】
で、時軸。彼は明らかに疲勞してゐた。前回のやうな大規模な技の使ひ方をすると、決まつてこの疲勞が襲つて來る。カンテラが、自分とその「和合空間」を髙く評価してくれるのは嬉しかつたが、夫婦間の係爭にまで担ぎ出されてはなあ... と云ふのが、正直なところ。だが、故買屋が前金を支拂つたのでは致し方ない。「もぐら御殿」に彼は來て、國王・朱那に「術」を掛けた。
【v】
だが彼は、躰に染み付いた疲れのせゐか、「術」をしくじつてしまつた。その結果、朱那に【魔】が取り憑いたのは、何かの皮肉だつたのか。
※※※※
〈何もかも面倒臭くて打つちやつて置けば自然に芽が生えるかと 平手みき〉
【vi】
朱那に憑依したのは、「ニュー・タイプ【魔】」の殘党だつた。魔界生き殘りを賭けて、「ニュー・タイプ【魔】」逹は、黑ミサ容認への方針替へをしたのである。魔界の庶民逹は、何より次回の黑ミサ開催を心待ちにしてゐた。それで、その「祭壇」役の女として、朱那に目を着けた、と云ふ譯だ。
【vii】
相變はらず*「ニュー・タイプ【魔】」はカンテラにとりミステリアスであつた。その動向には、人知れぬところがあつた。朱那が、ふとした隙から【魔】に誘拐される迄、カンテラは「ニュー・タイプ【魔】」の動きに氣付かなかつた。「大變だカンさん、朱那が【魔】に攫はれた!」と國王。喧嘩中とは云へ、國王には朱那の存在は日常を支へるものとして大切だつたのである。要するに、國王は彼女に惚れてゐた。國王、大粒のサファイア(盗品)をカンテラに差し出し、「だうかこれで朱那を-」と懇願。カンテラ、じろさんを伴つて、直ぐに魔界へ降りた。
* 當該シリーズ第59話參照。
【viii】
實を云へば、最早零細な「ニュー・タイプ【魔】」勢力であつたものゝ、更にその中で分派してゐて、頑固な「叛黑ミサ」派が生き殘つてゐた。その者らが、カンテラ・じろさんに朱那の居場處をゲロした。じろさん、「朱那ちやん、もう安心してもいゝよ。俺らがやつて來たからには」-朱那「此井先生!」朱那から【魔】が離れたその一瞬を衝いて-
【iv】
カンテラ、大刀を拔き放ち、「ニュー・タイプ【魔】」主流派の、リーダー格を斬つた。「話をこれ以上やゝこしくさせるな。しええええええいつ!!」。そのミステリアスさを除いては、いかな「ニュー・タイプ【魔】」と云へど、其処らにゐる【魔】と變はりがない。
【x】
朱那はじろさんが保護し、彼ら一堂、魔界から脱出した。國王「朱那!」-後はお惚氣の領域である。勝手にご想像をお樂しみ下さい・笑。
【xi】
カンテラ、時軸に「和合空間」を酷使させた事、素直に詫びた。で、國王から貰つたサファイアを、時軸に特別ボーナスとして與へた。時軸、それをペンダントに仕立て、死ぬまで後生大事に首から掛けた儘であつた、と云ふ。「男の勲章つて奴でしよ、やつぱり」-と云ふところで、今回の閉幕となる。後は詩の引用。
雨上がりであらうとなからうと
怒りの傳播は早い
僕自身の問題と云ふより
通信なる事の産んだ悲劇/喜劇
心に黎明を燈す何かを探してゐた
人よ女よ
僕は戀のとば口に立ち
門前の小僧の振りをしてゐるが
本當は百戰錬磨
それでも別れを惜しむ
それが風情つてもんだろ?
人と人とは
一人の集合體なのさ
身勝手なガールフレンドを切る。もう何度もやつて來た事だが、心に殘る痼は變はらない。それでも笑顔で、『カンテラ』物語を書き綴る事〜。さて、お休みの日が近付いて來た。リフレッシュ、リフレッシュ(泣)。
※※※※
〈冷血の誹りを受けよ春別れ 涙次〉
ぢやまた。アデュー!!




