猫のお土産
お読みいただいてありがとうございます
うちの猫はお土産をよく持って帰ってくる。
子どもの頃から猫を歴代飼ってきたけど、こんなにお土産を持ってくる子は今までいなかった。
うちは別に放し飼いをしているわけじゃない。
基本室内飼い。
だけど、たまにドアやベランダを締め忘れてたのか、お外に出てしまうことがあって。
出掛ける前とかきっちり確認してるんだけどな。
それでもケアレスミスはあるらしく、猫がお土産を持って帰ってくる。
種類は沢山。
カマキリとか蛾とか蝶とかトンボ、蝉などの虫やら、ヤモリだかイモリだかカエルだか両生類だのは虫類だの、素人には区別のつかないアレとか。
大物だとネズミなんかも。
一度、三和土に首ちょんぱされたネズミを置かれたことがあったけど、後始末が大変だったな……。
首から上が中々見つかんなくて。
でもアレって猫の好意なんだよね。
だから叱れない。
そもそも粗相はしたその時に注意しないと、何で叱られてるか解んないからストレスになる。
お土産もそう。
いつ持って帰ってきたのか、獲物を仕留めたのか。
そういうのが解んないから、叱ってもストレスになるだけだろう。
持ってこなくてもいいよ、とは言ってるんだけど。
それよりも知らないとこで、獲ったネズミやらを食べられる方が嫌かもしれない。
下手すると病気だの寄生虫だのを持って帰ってくることになるから。
それもあってうちの猫は、定期的に病院に連れてってるし、ワクチンは絶対だ。
まあ、ワクチンは猫飼いの義務だしね。
でねー。
今日も今日とてお土産を持って帰ってきたんですよねー。
今日は庭に続く掃き出しから出てったみたい。
外出先から帰ってきたら開いてた。
もう焦ったね。
今のところ家出しても帰ってくるけど、毎回帰ってこられる保証なんかないじゃない?
車も自転車も多いんだから。
探すのにまず庭に下りたんだけど、あった。
お土産。
本日は尻尾のみだったけど、切った直後だったのかビチビチしてた。
まあ、放っておけば動かなくなるよ。うん。
猫だよ。
何処行っちゃったんだろ?
お土産がビチビチしてるんだから、帰ってきてるはず。
そう思って名前を呼んでみた。
「ごりょんさーん!」
ごりょんさん、までが正式名称。
でも「さん」は敬称の「さん」ね。
病院の診察カードには「ごりょん」で登録されてる。
ごりょんさんは漢字で書くと御寮さんになる。
意味は商家の若奥さん、だったかな。
特に何かこだわりがあってのことじゃなく、先代の猫達が「いとさん」「こいさん」「こいとさん」「わかぼんさん」だったから。
商家シリーズとでもいおうか。
こう、方言独特の可愛さが好きで。
もし雄の猫が来たら、今度は「だんさん」かもしれない。
来たら、というのは変な表現か。
でも、来たらなんだよ。
うちは結構な猫飼い歴だけど、ペットショップで買った子は一人もいない。
最初は捨て猫。
次は保護猫、その次は知人から引き取り要請。
さらに引き取った猫が、ある日家出したらと思ったら連れて帰ってきた子とか。
珍しいのになると、自分から玄関に入ってきた子とかもいた。
ごりょんさんは多頭飼育で崩壊した家からやってきた。
毛は真っ黒でシルクの光沢を持つ、グリーンの瞳の美人さん。
元の飼い主の話じゃ雑種ちゃん。
つか、いつの間にか出来てた子らしい。
そんなだから多頭飼育崩壊起こすんだ、バカめが。
げふん。
そうじゃなくて。
猫は呼んでも返事なんかしないと思うだろ?
するんだよ。
ただし気が向いた時だけな!
そして今日は気が向いたのか、階段の上。私の部屋の方から「にゃーん」というお返事があった。
帰ってきてたわけだ。
急いで猫の全身を拭けるウェットティッシュを持って階段を駆け上がる。
すると愛しの黒猫さんは、階段の踊り場にちょんっと座ってた。
「もー、勝手にお出掛けして! いる時に庭までってお約束でしょ?」
言いつつごりょんさんの足を拭き拭き。
この子は脱走した足で家には入るけど、ソファーやベッドには上がらない。そこは賢い。
でも廊下は歩いてるから、後でお掃除シートで拭いとかないと。
ごりょんさんは大人しく足を拭かせたけど、くわっとアクビを一つ。
さては聞いてないな?
猫に説教は無意味だろ思うだろ?
ところがどっこい。
猫は人間の言葉を理解できる。
聞く気が全くないだけなのだ。
じゃなきゃ「ちゅーる」って呟いただけで、寄ってくるもんか。
「あのねぇ、ごりょんさん。もう一回言うよ? オッケーなのは家族がいる時に庭先まで。それ以上は行っちゃダメです」
「ぃにゃーん」
「いやーんじゃないんだわー。怪我したらどうするの?」
「にゃーぅ」
「ない、じゃないのよ。今日は怪我がなかっただけです。次は怪我するかもしれないから、ダメです。猫はしまえ! これは常識です」
「むーん」
「むー、じゃないの。まったく。トカゲの尻尾、まだビチビチしてたんですけど? 本体、食べてないよね?」
「にょー」
「ノー? 食べてないってことか。じゃあ、いいや」
頭を撫でて行っていいよと言えば、一目散に走っていく。
多分お気に入りのタワーの天辺に言ったんだろう。
溜め息が出た。
部屋の中を掃除したら、庭にあったトカゲの尻尾をどうにかしないと。
お掃除シートを装備したモップ(?)で、ごりょんさんが歩いたと思わしき床を拭く。
フローリングなのを感謝したのは何度目だろう。
さっさと拭き掃除を終わらせて庭に出ると、もう辺りは真っ暗。
適度に発展してて、適度に田舎な土地柄か、星の光より人工の光で庭先も明るい。
さて、トカゲの尻尾だ。
流石にもうビチビチしてない。
頼んでもないのにポストに入れられる広告は、こういうときに役に立つ。
動かなくなったトカゲの尻尾を、その要らない紙で包むとビニール袋へ。
中見えちゃうと気持ち悪いし。
そうやって後始末をしていると、庭先を横切る二足歩行の影。
目を凝らせば、尖った耳と鷲鼻に緑色の皮膚。
二足歩行で奇妙に背中が曲がった、腰布だけを身につけた生き物。
見るからにお巡りさんこちらです、だ。
「ギギッ」
ギロッと濁った目がこちらを向く。
そしてなんとこっちにヨダレを垂らして向かってきた。
キモい。
思うと身体は勝手に動くもので、庭先にストレスが溜まって素振りしたくなる時用に置いてあったバットを手にとって。
「ふんっ!」
芯を捉えた感触があって、緑色の奇妙な物体の首がキュルキュルと向いちゃ行けない方に向いた。
うむ、絶好調。
その時だ、ガシャッと玄関前の門扉が開いた音があって。
しばらく待っているとリビングと玄関を繋ぐ扉が開いた。
振り替えると姉が買い物袋を下げて、こっちをみている。
「何してるの?」
「ごりょんさんのお土産の後始末」
「ふぅん? 今日は何持って帰ってきたん?」
「トカゲの尻尾」
「マジで」
ウケるとか笑ってるけど、何が面白いのかさっぱりだ。
姉がそのトカゲの尻尾を見たいと近づいてくる。
そして庭先を見て「あれ?」と首を捻った。
「ゴブリン死んでるじゃん」
「なんか今襲ってきたから」
「釘バット振った、と」
「そう」
春先には多いよねー。
姉が嫌そうに肩をすくめる。
気持ちは解る。
春には虫が騒ぎだすもんだけど、同時に変質者とゴブリンも蠢くんだよなー。
姉が「あ」と溢す。
「そういえば、回覧板でゴブリンの目撃情報出てたわ。駆除して持ってったら、駆除対応費くれるって」
「マジで!?」
「うん。明日にでも連絡して持ってってもらえば? ついでにごりょんさんのお土産の尻尾も」
「今度の尻尾はなんだろね?」
「さあ? 前回はポイズンリザードだったけどね」
ゴブリンの死体に、ビニール袋を乗せる。
明日は朝から探索者協会にお電話か。
そう思ったけどしかたない。
ゴブリン、臭いから長いこと置きたくないんだよね。
翌朝。
探索者協会の人に買い取り出張して見てもらったところ。
「あー……ワイバーンの尻尾ですね。買い取り額ですが、尻尾だけなんで十五万で。ゴブリンの方は、駆除依頼達成ということで一万円ですね」
「あー、はい。どうも」
私が倒したゴブリンより、ごりょんさんのお土産の方が高かった。
お読みいただいてありがとうございました。
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