49:アイテム選択と言いがかり
卵の交換に使ったポイントを引けば残り4300くらいだったが、モンスターの卵を除いたポイントで交換したアイテムはそれほど多くはならなかった。
交換アイテムの目玉っぽい武具に属性を付ける宝珠はこの段階で交換出来ない。
まあ、交換出来たとしても、おそらくしなかったと思うけどな。今装備している杖には属性があるし、防具もそう強い物でもない。宝珠の効果で性能を上げたところで焼け石に水というか微々たる変化しか生まない。これが攻撃力の高い武器だったりすれば効果は大きかったのかもしれないが、俺には無用の長物にしかならない。意味が無いわけじゃないけどさ。
交換アイテムはどうやら全職業向けのアイテムと、各職業向けのアイテムが存在していた。
全職業向けで最もポイントが必要なアイテムが宝珠だとすると、テイマーはモンスターの卵。戦闘職ならその職に合わせた武器になっている。そのため、テイマー用の他の交換アイテムとなると交換が確定している卵に比べて見劣りしていた。一応、今装備している物よりも良さそうな頭装備があったのでそれは交換することに決めたが、他に目ぼしい物はなかった。
そのため、テイマー向けのアイテムはこれ以上交換しないことに決め、適当に交換できるアイテムを見ていたら良さそうな家具アイテムがあったのでそれを交換。
蘇生薬の説明文を軽く読んだところテイムモンスも復活させられそうだったため、保険の意味合いと正直選ぶが面倒になっていたこともあり、残りのポイントは全て蘇生薬に交換した。1個100ポイントだったから交換した数は23個だ。もしテイムモンスの復活に使用出来ないようであれば、ソロだと使う当てがないのでさっさと売り払う予定だ。
ポイントの交換が終わったことでダンジョン内で他にやることが無くなった。この後の他に予定は入っていないが、時間はある。第2、第3エリアのギルドに行って依頼を受けておこう。第4エリアに移動するための条件からして、今後のエリア移動にもギルドポイントが関わって来る可能性は高いのだ。やれる時にやっておいた方が後々楽になるだろう。
第2エリアのギルドですぐに達成できる依頼を全て受け、ギルドへの済ませるとすぐに第3エリアへ移動した。
イベントが終わってそれほど時間が経っていないこともあり、フィールド上にはそれほどプレイヤーの姿は見られなかった。第2エリアの町でもそうだったが、町の中にはいつも以上にプレイヤーが多く居る状態だ。特に第3エリアは一番プレイヤーが留まっている場所でもあるため、町の中はプレイヤーでごった返している。
プレイヤーたちは大体は数人ないし、1パーティーくらいの人数で雑談しながら、目の前に表示されていると思われるウィンドウを操作している。
十中八九イベントで手に入れたポイントで何を交換するかの話だと思うが、中には他のプレイヤーの邪魔になるような位置で話をしている奴らも居て少しどころでなく移動が面倒だった。
仲間内で話し合って交換するアイテムを決めたい気持ちもわかるが場所を選んでくれよ、と言いたい。嫌なやつらに絡まれたくないから口には出さないが。
シュラたちも全員連れて来ているのでかなり移動がしづらい。特に朱鞠は普通のプレイヤーよりもサイズが大きいのでプレイヤーの間をすり抜けるように移動するのは無理だ。そんな理由で、朱鞠とついでにぷらてあは周囲にある建物の屋根の上を移動している。
俺も屋根の上を移動出来れば楽なんだろうが、屋根の上に登る方法が無いんだよな。ぷらてあみたいに朱鞠にしがみ付ければ可能なんだろうけど、そんなことは出来ないし。朱鞠の糸を使えば登れるだろうが、あれは攻撃スキル扱いなのでセーフティーエリアである街中では使えない。
そんなことを考えながら街中を進みようやくギルド前に到着した。
ギルドの前は他の場所よりもプレイヤーが多く、入口が見えているのに中に入るまでプレイヤーの中を突っ切らなければならないようだ。
「その名前! こんなとこに居やがったのかこのクソチートテイマー!」
面倒だなと思いながらため息を吐き、プレイヤーたちの間を進もうとしたところで後ろから罵声が聞こえた。
こんなプレイヤーが多く居る中で叫ぶなんて凄いなと思いつつも、テイマーって言っていたから俺に声を掛けている可能性が高いよな、とも考えた。
正直、こんな中で叫ぶような奴には関わりたくない。さっさとギルドの中に入れればいいんだが、そうもいかないことに歯がゆさを感じる。
「おい! 聞こえてねぇのか!」
後ろから聞こえてくる声の感じからして対象は俺っぽいなぁ。面倒だから無視するか? セクシャルガードがあるし無理やり引き留めることは出来ないのだし、こういうので一番いい対処方法は関わらないことだからな。
「無視すんじゃねぇっぐっ!?」
右肩に小さな衝撃受けたと同時に、バチッという音が聞こえた。
セクシャルガードもあるから強引に止めには来ないと思っていたんだが、どうやら後ろで叫んでいる奴は考えなしだったようだ。しかし、これでGMコールができるな。
ウィンドウを開きGMコールを選択する。すると『ウィンドウにログを確認中・・・』の文字が表示された。
ああ、そう言えば少し前ののアプデでGMコールのプロセス変わったんだっけか。前はGMが要件を聞いてから動いていたが、今は先にログを確認してから来てくれるようになったんだよな。どうしても音声対応だと嫌がらせとかをして来ている相手がGMコールに気付いて逃げたり、キレたりするから妥当な変更だと思う。
「てめぇなにすんだよ!」
「ん?」
いや、なにもしていないんだが……あー、もしかして今のセクシャルガードの反応を俺が何かしたと思っている? まさかセクシャルガードについて何も知らない……なんて無いと思うんだが、頭に血が上り過ぎて一時的に忘れているのか?
「まさかこんな所でもチート技能を使ってくるとはな! すぐにGMコールしてやるから逃げんじゃねぇぞゴミテイマー!」
いや、GMコールは俺がもうしているんだが……
それにしてもGM来るの遅いな。前は割と早い段階で来てくれたんだが、もしかしてGMの対処は必要ないって判断されたのか?
そう思いウィンドウを確認してみたが『現在現場に向かっています……』の文字が表示されていた。
対処が必要ないと判断されていなかったことは良かったが、何故来ない? しかも現場に向かっているってどういうことだ?
そう思い周囲を見渡すと、その理由に気付いた。
ああ、周囲に他のプレイヤーが多いし、こいつが騒いだことで野次馬も集まってきているせいで周囲にプレイヤーが沢山いるからか。これのせいで近くにGMが転移してこられる場所が無かったんだろうな。
「あ? 何だこれ。GMコール出来ないんだが……あ!? もしやてめぇさっき俺に何かやったんだな!?」
えぇ……マジかよこいつ。頭大丈夫か?
普通に日常生活が送れているかどうか心配になるレベルで思考回路がおかしい。普通に考えても1プレイヤーでしかない俺がそんな事出来る訳ないだろうに。
周囲にいるプレイヤーの中には未だに騒いでいるやつを憐れんでいるような視線を向けているのもちらほら居るようだ。
「あーはいはい。すいませーん。GMですー。通してくださーい」
ようやくGMが到着したようだがまだ姿は見えない。どうやら人垣の奥に居るようだ。そして、プレイヤーをかき分けるように小柄な女性が現れた。頭上にGMと表示されている事からして俺が呼んだGMなんだろうけど前に見た人と見た目が全然違うな。前はクールと言うか仕事人間感があったけど、今回の人は人懐っこい感じがする。
「なんだよ。GM来たじゃん。もしかして俺、無意識の内にコールしてたのかぁ! いやぁ、俺ってすげぇなぁ!」
「いえ、私を呼んだ方はこちらの方です。貴方ではありません」
「は?」
叫んでいた男が自画自賛しているところにGMはありのままの事を告げた。それを聞いた男は呆気にとられたような表情をしてGMを見る。
人懐っこいと思ったが、結構ズバズバ言うタイプなんだな。いやGM何だから当然か。
「到着が遅れてしまい申し訳ありません。すでにログの確認は済んでいます。セクシャルガードの発動、及び、会話ログに誹謗中傷発言も確認されています。これよりプレイヤー:アクシアの隔離処置を行います」
「はぁ? いや待てよ! 俺はこいつがチートしているのを問い詰めに来ただけだ! 何で俺が隔離されなきゃならないんだよ!」
「プレイヤー:アクシア。貴方の言うチート行為は根拠のない物です。さらに、貴方が掲示板に書き込んだ内容も確認済みです」
「だから何だよ。どう考えてもこいつがイベントで稼いだポイントはおかしいだろ! テイマーで俺よりもポイントが稼げるわけねぇんだ! そう考えてもチートだろうが!」
「イベント中は普段以上に不正行為の監視をしていますのでそれはあり得ませんし、この方のログも確認しています。私たちが確認した結果、この方は一切不正行為をしていませんし、悪質プレイヤーと協力関係でもありませんでした。そのため、イベント時に獲得したポイントは全てこの方の実力によるものです」
「んな訳ね――」
叫んでいる途中で男が消えた。おそらくこれ以上話を聞いても無駄だとGMが判断したのだろう。
「プレイヤー:アクシアを隔離処置しました。他に被害は無いようなので私も元の業務に戻ります。悪質なプレイヤーに絡まれたなどの状況に陥った場合はすぐさまGMコールをお願いします。質問などはGMコールでは対応できませんので、ヘルプページ下部にある問い合わせへお願いします」
周囲にいたプレイヤーたちにGMが会釈をする。そして最後に俺の方を向いて少しだけ真面目な表情を浮かべた。
「到着が遅れたこと再度お詫び申し上げます」
「いえ、あれはしょうがないでしょう。こんな状況ですし」
「ですが、本来ならもっと迅速に対応しなければならないのです。周囲の状況で到着が遅れるのは良くないのです。今後何らかの対策を考えなければなりません」
「まあ、そうかもしれませんけど、必要以上にしっかり対処していただきましたから」
GMの仕事は悪質プレイヤーの隔離と処理であって情報の開示は含んでいないはずだ。なので俺がチート行為をしていない、という話は本来しなくてもいい事だ。それなのにしっかりと調べた上で、一切そんなことはしていないと断言してくれたことは凄く有り難い。あのプレイヤーが言ったことを俺が否定したところで、話を聞いていた他のプレイヤーに良いようには取られることはそうそうないだろうしな。
「確かにあれは私個人の判断です。ですが、到着が遅れたことで防げた部分もあります。それのお詫びも兼ねているので」
ああ、そういう理由もあるのか。だが、それでもやってくれないGMも居そうだからなぁ。
「ともかく、GMコールありがとうございました」
GMはそう言って軽く会釈して来る。それに合わせて俺も軽く会釈する。
「それと、頑張ってくださいね。でわでわー」
何故か軽くウィンクしながらGMがそう最後に言い残し、シュンっといった感じのエフェクトを薄ら残し転移していった。
最後の頑張ってどういうことだ? GMが1人のプレイヤーを贔屓にするとは思えないし、何か意味が……あ。
GMの言葉の意味を考えながら視線を前に向けたところで、GMが言った意味が少し理解できた。
俺の視線の先、いや、他のプレイヤーの視線の先に俺が映っている。
変なプレイヤーに絡まれていたプレイヤー。
GMを呼んだプレイヤー。
俺の頭上に表示されている名前を見てイベントのランキングの上位に載っていたプレイヤーであることに気付いた。
そう言った感じの好奇の眼差しを周囲に居るプレイヤーが俺に向けているのだ。
この周囲に居るプレイヤーたちから凄く注目されているという、かなり居たたまれない状況に気付いた俺はすぐにこの場から離れようと考え、目的地であった目の前にあるギルドには寄らず、さっさと第4エリアに移動することを決めたのだった。




