31:荒ぶるウサギ
「ウサギ?」
毛の長いウサギ。確かアンゴラウサギだったか? 俺が知っている奴は顔まで毛で覆われているやつなのだが、このウサギは顔の毛はそこまで長くないな。そういう種類か? それともアンゴラ以外の種類かもしれない。
ああいや、そうじゃない。何でここにウサギが居るのかとか、今まで話しかけて来ていたのはこいつなのかとか、いろいろあるだろ。
『おい。聞いておるのか!?』
「……なのです」
『何するんじゃ!? 止めるのじゃ!』
どう対応すべきか悩んでいる内に、シュラがウサギを持ち上げる。持ち上げられたウサギはシュラの腕から逃れようと藻掻いているが、どうやらかなり非力らしく逃げられそうもない。
シュラがウサギを抱きかかえていると、小学生がウサギを可愛がっているみたいで微笑ましくはあるのだが、ウサギの方は完全に嫌がっているんだよな。これ、止めさせた方がいいだろうか。
『あ、ちょっ、近付くでないわ!』
シュラの腕の中でもがいているウサギに興味を引かれたのか、ぷらてあも指先でウサギをつつき始めた。
「ん?」
先ほどまでウサギが居た場所に何か丸い物が落ちていることに気付いた。今まで気付かなかったという事は、あの丸い物はウサギの下にあったのか後ろにあったのか、とにかくこの空間の入り口からでは見えない所にあったのだろう。
そして、あの球体を俺は見たことがある。と言うか、今インベントリの中にある。
何十回、いや何百回とダンジョンを攻略する中でこの前ようやく10個集まり完全な球体となったあのアイテム。
そう、ダンジョンコアだ。
最初のゴブリンダンジョンで手に入れたから、割と簡単に集まると思っていたのだが、想定外に集まらなかった。
それでようやく集まった訳なのだが、こうやって目の前に転がっているという事は、別に集めなくても良かったのか?
『ほぬぁ!? そち何をしようとしておる!? それに触るでないわ!』
俺が地面に落ちていたダンジョンコアと思われる物を拾おうとしたところで、ウサギがさらに暴れる。シュラもさすがに抱え続けるのは無理と判断したのか、ウサギを放す。
まあ、シュラの腕から逃れたからといって俺が拾うのを阻害できる訳もなく、ウサギが俺の行動を止める前にそれを拾った。
『あぁぁぁああああ!?』
急いで駆け寄るもダンジョンコアを俺に取られて絶叫するウサギ。なんかその姿を見ていると申し訳なくなってくるが、それよりもこれの確認が先だ。
[ (アイテム) ダンジョンコア レア度:7 Fs:‐]
ダンジョンを形成するために必要なコア。コアの主を決めることでダンジョンを作り出すことが出来る。ただし、何処でもダンジョンを作り出すことは出来ないため、特定の場所に持って行かなければならない。1度決めたコアの主は変更できない。
現在、このコアはダンジョンを形成しているため、このコアが破壊されると紐づけされたダンジョンが崩壊する。※このアイテムはインベントリにしまうことが出来ません。
マスター:アンゴーラ
ふーん。説明の内容は微妙に違うがおおよそ同じか。ただ、俺の持っているダンジョンコアはレア度が6だから別物扱いなのだろうな。
少なくともコアがあればダンジョンが出来るこれとは違い、元ある洞窟をダンジョンに変えたり、別のダンジョンを乗っ取ったりしなければならないので、0からダンジョンを作り出すことは出来ない。
『それは妾のじゃ! そちが触るでないわ!』
ダンジョンコアを取り返そうと、ウサギが俺に対して体当たりを仕掛けているが痛くはない、と言うかダメージを受けていないので攻撃判定にはなっていないのか。
しかし、ウサギは構わず俺に体当たりなどの攻撃……のようなものを続けている。
鬼気迫る感じで俺に体当たりをかましているウサギに、どうしたらよいかを迷っているシュラたちは俺とウサギに視線を迷わせていた。
『ふぬぅ、ふぬぅぅ。何なのじゃそちらは!?』
さすがに疲れたのか、息を荒げながらも1分もしない内にウサギは俺に対して攻撃してくることはやめた。
そもそもコアを奪われたくなかったら、ここに俺らを呼び込まなければよかったのだ。そうしなければならなかったのかもしれないが、それならばもう少ししっかり隠すべきだろう。
『そもそもなんじゃ。妾がここを作ってそう経たぬうちに入ってきおって! さらには妾が設置したボスまで倒すとは! それに、まだ作っとる最中だったんじゃぞ!?』
作りかけ……ああ、だから階層が2つしかなくて敵も弱かった割にダンジョンボスのレベルが少し高かったのか。
もうちょっと見つけるのが遅かったら階層の数も増えていただろうし、出て来るモンスターも強かったかもしれない。まあ、俺がここまで来てしまった以上、たらればの話ではあるけどさ。
「いや、なんかすまん」
『ようやく安心して住める場所を作り出せたと思っておったんじゃぞ。それに、あわよくば妾を捨てた者に復讐できると思ってもおったんじゃぞ!?』
いや、なんでこんな話をここでするかな。それだけ聞くと完全に俺が悪者じゃないか。そもそも何でこのウサギ(おそらくNPC扱いなのだろうけど)にこんな話をさせているんだ運営。
確かに、近年、無計画にペットを購入して捨てる人が増えているという問題があるのは知っているが、ここはゲームの中なんだよ。非現実の空間で現実の話題を出すのは、微妙に萎えるから止めてくれ。
「まあ、俺が攻略しなくても近い内に他の奴に攻略されていたと思うけどな」
『な……なんじゃと』
「あと、ダンジョンで発生したモンスターって、ダンジョンから出られなかったと思うがどうやって復讐するつもりだったんだ? お前自身が強くなる当てでもあったのか?」
ダンジョンの中に居るモンスターは基本的にダンジョンの一部扱いらしいので、外に出ることが出来ない。なので、復讐すると言ったこのウサギは自力でしなければならないわけだが、他に協力者でも居るのだろうか。
『……え?』
おっと、それについては知らなかったオチか?
なんだろうなぁ、ダンジョンマスターって肩書を手に入れたことで万能感に酔いしれていたとか、そんな感じなのかね。
まあ、あわよくばとか言っていたし、計画らしいものも大して考えていなかっただけなのかもしれないな。
「えーと、まあ、どうあれお前が―」
『妾はお前という名前ではないわ! ちゃんとアンゴーラという名前を持っておる!』
ああ、そう言えばダンジョンコアのマスターの欄にアンゴーラって載っていたな。
「あー、アンゴーラがダンジョンを作った目的は、安心して住める場所を作る事なのか?」
『そうじゃ』
「だったら、ダンジョンはあんまり向いていないだろ。普通、ダンジョンがあればアイテム目当てにかなりの数の人間が来るから、安心とは程遠いし」
強いモンスターとかを出せるなら安心できるかもしれないけど、少なくともアンゴーラがこうなったように、作り立てで出て来るモンスターが弱いダンジョンでは安全とは言えないだろ。
『ぬぅ? ダンジョンマスターになれば入って来る者を適当に追い払っていればいいのではないのか? そのコアを妾にくれた相手はそう言っておったぞ?』
ふむ? ダンジョンコアをアンゴーラに渡した相手が居るのか? 運営によるつじつま合わせの可能性もあるが、自分で見つけ出したわけではないのか。
『はっ!? それよりもそれを妾に返すのじゃ!』
「返すのはいいんだが、それで俺たちはこのダンジョンから出られるのか?」
元からダンジョンを壊すつもりはない。なので、さっさと外に出せばいいのだけど、制約でもあるのだろうか。
『……出られるぞ。そちがリタイアすればいいのじゃ。そうすればこのダンジョンから出ることが出来るわ』
「ん?」
リタイア……という事は正式にクリアした事にはならないのでは? 転移陣を出して外に送ることが出来ないとなると、インスタントダンジョンのクリアはそのダンジョンを壊す、いや、ダンジョンコアを壊すことで成立するという事だろうか。
アンゴーラの言葉を理解して、返そうとして差し出しかけていたダンジョンコアを引っ込める。
『ぬあっ!? 何故じゃ!?』
リタイアすればおそらく俺が死亡した扱いになるからシュラたちには影響はないはず。ただ、ビッグラビットを倒した後に宝箱は出て来たが、ダンジョン攻略成功のアナウンスが流れていないので、ここでリタイアを選択した場合、ダンジョンボス討伐報酬とは別のダンジョンのクリア報酬が受け取れないのだろう。
「リタイアするのは俺らにメリットがないから無理だな」
『ぐぬぅっ』
出来ると言った時も少し間があったから、俺らに利が無いことくらいは理解しているようだ。
やはりこのダンジョンコアを破壊しないとクリアにはならないのだろう。
さすがに、ダンジョンコアを壊すことでアンゴーラが死ぬというなら止めるけど、話の流れ的に死ぬことはなさそうだし、大きな問題はないだろう。アンゴーラには悪いが、諦めて欲しい。
『待てそち。何をするつもりだ!?』
俺の視線がダンジョンコアに向いたことで嫌な予感でもしたのか、アンゴーラが焦ったような声?を上げる。
そう言えば、ダンジョンコアの乗っ取りってどうやるんだ? その辺りの詳しい説明って俺の持っているダンジョンコアの説明に記載されえていただろうか。
慌てているアンゴーラを無視してインベントリからダンジョンコアを取り出す。
うーむ、説明には書いてないな。ならヘルプ……
「ん?」
どういう訳か、インベントリから取り出したダンジョンコアとアンゴーラが持っていたダンジョンコアが小さく震え始め、淡く光を発し始めた。
「え? 何だこれ?」
訳もわからず戸惑っている間にも、ダンジョンコアの震えは徐々に大きくなっていく。
暫く耐えていたのだけど、その振動を抑えきれなくなってしまったことで、2つのダンジョンコアが俺の手の中から零れる。しかし、ダンジョンコアは地面に落ちることは無く、俺の少し前に浮いていた。
「えっちょっ!? えぇ?」
『何なのじゃあ!?』
アンゴーラのダンジョンコアと俺が持っていたダンジョンコアがいきなり融合し、発している光がより強くなる。
そして、融合したダンジョンコアは弾けるように勢い良く飛び出し、その勢いのままアンゴーラに衝突して強い光を放った。
『ぬぐぁあぁぁぁっ?!』
≪ダンジョンコアを上書きしたことで、名称未設定ダンジョンを支配下に置きました。
ダンジョンマスターの称号を獲得しました。それに伴い、ダンジョン管理スキルを取得しました≫
≪インスタントダンジョン 難易度:Eをクリアしました。報酬はインベントリに送られます≫
とりあえず、ここで一旦の区切りになります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
今後も予定通り更新していきます。
来年もよろしくお願いします。




