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現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、俺はかわいいテイムモンスたちに囲まれてゲームの世界を堪能する  作者: にがりの少なかった豆腐


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25:シュラ、アップデート?

 

 飛び掛かって来る蜘蛛を躱す。

 躱すと同時に攻撃を入れようとしたが、蜘蛛の脚が邪魔をして体部分に攻撃を当てられない。


 この蜘蛛自体の脚はアシダカグモのように長いわけではない。しかし、1メートルを超える体格に見合った脚の長さを持っているため、俺の腕では側面から攻撃した場合リーチが足りない。


 一応脚には攻撃を当てられているので、ダメージ自体は与えられているが、量自体は微々たるものだ。

 このまま足を重点的に攻撃することで部位破壊が発生する可能性もあるが、サイズ的に部位破壊ではなく怯ませるのが精々な気がするな。


 暫く、攻撃を躱しながらちまちまダメージを与えていたことで目が慣れて来た。

 この蜘蛛の移動速度は速い。しかし、目で追い切れる速さではあるし、体当たりも躱せる程度の速さだ。


 最初にライトショットでも当てられないと思ったが、目が慣れて来た今なら回避したタイミングなら当てられないことは無いだろう。


 そもそもこの蜘蛛の一番厄介なところは速さではなく、不規則に飛び跳ねている事だ。フェイントではないが距離が開いていると、ほぼ確実にこちらの遠距離攻撃はかわされてしまう。

 なので、先ほどからちまちま攻撃していたように、攻撃を躱した瞬間に近距離で魔術を放てばいいのだ。


「っ! ライトショット!」

「シャギッ!?」


 ライトショットが体に命中したことでビッグスパイダーが軽く怯む。

 よし、当たるな。しかし、軽くとはいえライトショットで怯むという事は、魔術系の攻撃に対する耐性が低いのか?


「たいほぅ…っです!!」


 蜘蛛が怯んだ隙を見逃さず、シュラが攻撃を放つ。


 大砲か。うーん、やっぱりシュラの言語能力、若干上がっているよな? これも今まではっきりと言えていなかった単語だし。レベルが上がったのか? 階層を移動する前にステの確認をしておくべきだったな。


 シュラの攻撃が蜘蛛に命中したことで与えたダメージは、総量の10%を少し超えるくらい。シュラの自損ダメージは5%には届いていないくらいか。


 自損によるダメージは数値だけ見ればそこまで大きくはない。しかし、このダメージは攻撃を外しても発生するので、軽く見ることは出来ない。

 事前にこの攻撃は必ず当たると思う時だけ使え、と言いつけてあるので乱発はしていないが、ボス戦などでは小さなダメージでも致命傷になる可能性があるので気が気ではない。


 蜘蛛が再び飛び跳ね始めたので、攻撃をして来たら直ぐに躱せるように構える。



 蜘蛛の攻撃を躱してライトショットを当てていく。

 時折、体当たりと同時に噛みつきて来るような動作をしているので、噛まれたらスキル欄にあった毒牙の効果で毒状態になるのだろう。


「ですぅっ!?」

「シュラ!?」


 噛みつかれないようにしなければ、そう考えていた時によりによってシュラが噛みつかれた。


 噛みつかれたことで一時的に動けなくなったシュラに対し、蜘蛛は拘束しようとしているのか体を揺らしながら体勢を替えている。


 それを確認した俺は直ぐさま蜘蛛の行動を止めるために走り出した。


「ライトショット!」

「シャギィッ!!」


 近付きながら攻撃したのだが、先ほどとは違い、ライトショットが当たったにも拘らず蜘蛛は怯まない。


「お…らぁっ!!」

「シャギュァッ!?」


 怯まなかった蜘蛛目掛けて走りの勢いそのままに殴りかかる。リアルだったらこんなことできないなと一瞬思いつつも攻撃は蜘蛛に当り、蜘蛛は悲鳴を上げ、ひっくり返りのたうち始める。


「アンチポイズン! …ヒール!」


 のたうっている蜘蛛を一旦無視し、シュラに掛かっている状態異常を回復させた上でHPも回復させる。


「大丈夫か、シュラ!」

「だいじょ、なのです」


 毒は直したしHPも回復させたから大丈夫なはずだが、確認のために声を掛ける。シュラは大丈夫だとアピールするように腕を伸ばし返事をしてきた。


「大丈夫そうだな。じゃあ、後はこいつを仕留めるだけだ」

「です!」


 蜘蛛はまだのたうっている。そろそろ起き上がってきそうだが、残りのHPは30%を下回っているので、ここから追い打ちを掛ければ起き上がる前には倒せるだろう。


 そして蜘蛛が起き上がる前に、俺がライトボールとライトショットを放ち、シュラが腕をハンマーに変えて攻撃したことで蜘蛛のHPが全損し、ポリゴンへと変わっていった。

 


『ダンジョンボスとの戦闘に勝利しました! この戦闘による報酬が支払われます。

 初めて新緑のダンジョンをクリアしました。

 ダンジョンクリア報酬が発生します。おめでとうございます。

 ダンジョンをクリアしたため、ダンジョン入口への転移陣の利用が可能になりました』


 シュラが噛まれた時は焦ったが、それ以外は危ないところもなく戦えたな。

 まあ、噛まれた時もそこまでダメージを受けていた訳ではないんだけどな。HPも7割近く残っていたし。


「ヒール」


 まだ、完全に回復しきっていないシュラのHPを回復魔術で全快まで回復させる。


「です!」

「いや、だから勝手に開けるなよ」


 ダンジョンをクリアしたことによって出て来た宝箱を、シュラがまた勝手に開けた。何で勝手に宝箱を開けるのかね。

 うーん、箱を開けるのが好きなのか、それとも別の理由があるのか。


「なのです!」


 そしてシュラは中に入っていた魔石を取り出し、それを頭上に掲げた。そう言えば、フロアマップを全部埋めた時に出た宝箱を開けた後の反応は、もう少しおとなしかったような。


「あーはいはい、魔石だな。…ん?」


 シュラから魔石を受け取ろうと手を差し出したのだが、シュラは俺が差し出した手と魔石を見比べるだけで、渡そうとしてくる気配がない。


 んん? 今まではあっさり渡してきていたのにここに来て何故だ? シュラの行動を疑問に思っていると、シュラは持っていた魔石を胸元に持って行き、握りしめているような動作をした。


「…です」

「……もしかして、それが欲しいのか?」

「なのです」


 俺の言葉に頷いているので欲しいということなのだろう。何故欲しいのかはわからないが、魔石(小)は割と数があるし、使う予定もないからあげること自体に問題はない。


 思い返せばマップを埋めきった時に出て来た宝箱を開けた後、直ぐに興味を失っていたんだよな。もしかしたら魔石が欲しくて宝箱を開けていたのかもしれない。

 ゲートキーパーの時の宝箱は俺が開けて直ぐに中身を回収していたから、シュラが手に取ってはいなかったし。


「なんで欲しがっているのかはわからないが、欲しいならそれはシュラにあげよう」

「なのです!」


 シュラが嬉しそうな声を上げる。うん、可愛い。しかし、何をするつもりなの…いやちょっと待て。


「シュラ、ストップ」

「です?」


 あげた魔石を口に運ぼうとしていたシュラを制止する。いや、何で食べようとした? パンを食べるのは分かっているが魔石も食べられるのか? ああでも、スライムだから別に問題ないのかもしれないな。


 シュラが魔石を食べたそうに俺の様子を窺っているが、どうしたものか。

 シュラ自身が食べようとしているから、変な事にはならないと思うが、止めないにしても先にステを確認しておくか。


『NAME:シュラ 種族:ヒューマスライム LV:31 属性:水

 HP:350 / 350 MP:185 / 185

 STR:213 (92) INT:176 総合攻撃力:194

 VIT:168 (8) MND:200 総合防御力:184

 AGI:205 (45) DEX:116 

 スキル:ウォーター・体当たり・のしかかり・スライム魔法LV 5・回避・武器 』


 いつの間にかレベルが30を超えている。ステの上がり方は今までと同じ感じで、スライム魔術が1レベル上がっているな。おそらくこれで腕を鎌に変えることが出来るようになったのだろう。


「すまん。もう食べてもいいぞ」

「です」


 シュラが魔石を呑み込む。

 ちょっとペットに対して、待て、をしているような軽い違和感を覚えたが、本来のテイムモンスターとテイマーの関係を思い起こせば、そこまで変ではないのかと、そう思い至った。


 シュラが魔石を呑み込んで、変化らしい変化は現れない。

 呑み込んだとはいえ、魔石だから消化?するには時間が掛かるのだろうか。それとも変化が見えないだけで、既に変化済みなのか?


「で…」

「ん?」

「でーすー!!」


 パワーアーップ!みたいに両腕を上げ、力強く声を上げて薄らと発光。発光したのは魔石を取り込んだことによるものだろう。

 シュラの様子を観察する限り、悪影響は出ていないようだ。とりあえず、シュラのステをもう一度確認しよう。


『NAME:シュラ 種族:ヒューマスライム LV:31 属性:水

 HP:350 / 350 MP:235 / 235

 STR:213 (92) INT:176 総合攻撃力:194

 VIT:168 (8) MND:200 総合防御力:184

 AGI:205 (45) DEX:116 

 スキル:水魔術 (初級)・体当たり・のしかかり・スライム魔法LV 5・回避・武器・言語 』


 若干変化しているな。数値はMPが50増えて、他は変化なし。スキルにあったウォーターが水魔術(初級)に変化した?追加された?のと、しれっと言語のスキルが生えているんだが。これってもしかして今まで以上に話せるようになるのか?


「何を見ているのです? 私にも見せて欲しいのです!」

「――― (驚愕) 」


 シュラがめっちゃ流暢に話してきたことで思考が一瞬フリーズする。


 いや、もうこれあれだろ。パワーアップではなくアップデートの類だろ。しかもVerで言えば、一段階新しくなったとかではなく、複数の過程を吹っ飛ばして最新Verになったくらいのやつ。


「? 見せてくれないのです?」

「―ああ、いや、見せるのは問題ないが、先に残りの報酬をしまってからだな」

「わかりましたなのです」


 残りの報酬である魔石をインベントリにしまう。その後にシュラが見たがっていた自身のステータスが表示されているウィンドウを見ながら、ほーとかにゅーとか変な声を出しているが、これって確実に知能も上がっているよな?


 ……後でイケシルバーに連絡を取って似たような事例があるかどうかの確認をしておこう。

 

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