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98話 解析

天井から手を放し、赤を失った血だまりに着地する。


リゼは駆け出し、後方からカシウスが槍を構えてきた。


一瞬の合間に指に着いた無色の液体を舐める。

味も質感も熱さも、今までと変化はない。


だが、直ぐに違いは分かる。

やはり魔力が無くなっていた。


一秒に満たない解析はリゼに止められる。

ナイフは手のひらで滑らせて致命傷は避けた。


後方に逃げる僕を彼女は追撃し続ける。

噴き出した血が彼女の顔を濡らしていた。


壁際へ追い詰められた瞬間、

後方から振り抜かれた白磁の刃が顔の薄皮をさらい、棚を切り裂いた。


その破壊力は言うまでも無いが、今は壁を切り裂かない力量を褒めよう。

部屋ごと破壊すれば僕は逃げられるからな。


ナイフが僕の心臓へ突き出される。

右腕で刃の腹を押し、軌道を逸らす。


痛みは消しているが、流石に骨が削られる感覚は気分が悪い。


指に伝う血をカシウスへ向け飛ばす。

また、血を刃で受け止めた。


その動作が終えられるまで。


槍の観察に全神経を注ぐ。


穂先から柄にかけて、螺旋を描き絡みつく金の蔦。

装飾にしか見えないそれが変色していく。


血液から魔力を吸い取る武器。

吸い取った赤さを刃の先から取り込み変色した。


だが、魔力を遠ざけるための道具か?


否だ。


彼はわざわざ床の血を吸い取った。

対症療法だけでは説明できない。


恐らく彼は──


白い眼が怪しく光る。

星空のような無数の瞳孔が回転した。


「そこまで見抜くか。」


彼は僅かに笑みを浮かべながら槍を虚空に振った。

僕も反射で手を振るった。


右腕に魔力が着弾する。


覚えのある魔力印が貼り付けられた。


「………魔力乱刻印(マジックシール)。」


これを剥がさない限り全ての魔法が封じられる。

そもそも魔力が練られないからだ。


「フレイ君!鎮痛魔法に依存しちゃっているんだっけ?」


鎮痛魔法を切れた時、痛みで動けなくなった。

千里眼は僕の恥辱まで観ていたようだ。


二人が同時に飛び出す。


二種の刃先が僕に迫る。


「その程度か?千里眼。」


防御をかなぐり捨てたリゼを肘で打つ。


一瞬の動揺の合間にカシウスへは蹴りをかました。


当然致命傷にはならない。

魔法と装備で防御が硬いから。


後ずさったリゼが透明な血だまりから髪を引き上げる。


あぁ良かった。毒とかではないらしい。

実は舐めた時から気にはなってたんだ。


「……魔界で鍛えられたとは言え、痛みへの耐性とは別だ。

何をやった!痛みへの訓練には数か月はかかるだろう!?」


彼女は吠える。

カシウスも顔には出さないが予想外だったんだろう。


「賢者相手に魔法で対策するわけないでしょうよ?


鎮痛の薬を飲んでおいた。劇薬だけどね。」


動きがやっと止まってくれたから一息をつく。

疑問は僕も浮かんでいる。


「どこまで未来が見えているんだ?」


カシウスの目が見開かれる。

これは予想していなかったか。


「………本当に君は聡いね。いつから気が付いていた。」


「答える気はないね。あんた相手に心理戦を仕掛けるつもりは無い。」


やはり心を読むとかではないらしい。

半ばハッタリでもあったが仮説は正しかった。


千里眼という言葉には元々未来を読み取る力という意味もある。


リゼの動きも奇妙だった。


兄貴との連携を考えない、とにかく最速で殺傷する動き。

だが、槍の動きはそれを完璧に活かしていた。


僕が魔法を使う可能性に気が付いた時だって奇妙。


僕は頭の中だけで実際の動作には出していなかった。

だが、僕が感づいたことに、彼は感づいていた。

その直後に魔法を封じてきた。


「答えてはくれないのか?

予想を言うのなら、完全な未来視ではない。

・近い将来しか見えないか

・不確定な未来しか見えないか──だと思うんだけど。」


「本ッッ当に…………賢いね。」


彼は目を覆って笑い始めた。

髪をかき上げ高笑いをしていた。


「私は運命を観ることが出来る。予想とは違って数百年程度なら分かるよ。

確率ではなく運命だから誤ることも無い。


──だが、確かに完全ではない。」


リゼは動きを止めている。

カシウスも今は僕と話したいらしい。


下手な動きはせず息だけを整えた。


「私の千里眼は神の目線を得る能力だ。

まぁ、私たちが蘇らせようとしている神ではないよ?


あくまで運命を観測する上位存在を表しただけさ。」


魔力乱刻印(マジックシール)は時間経過では解けない。

許容量を超えた魔力を流して剥がす必要がある。


だから、僕はただ話を聞いていた。


「運命を観測するのだから運命には縛られない。


私は私の未来は分からない。それだけは未確定。」


だからたまに驚いてたわけだ。

彼自身に降りかかる未来は見えない。


それと、自分の攻撃をどう避けるかも分からないのだろう。


「だから基本はリゼに攻撃させて、ナイフを避ける先に槍を置いているわけだ。」


僕の思考を読んだように続く答えを先に応えてきた。


「それで、どうするの。賢い君なら槍の性質も分かったかな?」


当然の疑問だ。まだ能力が分かっただけ。


──この場に立つ前に、覚悟を決めている。


僕は駆け出した。


カシウスは槍を前に構える。

リゼはナイフと共に突撃してくる。


僕は、ナイフを首で受け止めた。


血が噴き出る。

二十秒で僕は出血多量で死ぬ。


十分過ぎるくらいだ。


脚を止めない。

痛みは無いからリミッターも無い。


リゼは固まり、僕はカシウスの前に辿り着いた。


槍が腹を抉る。


そこから出る血は透明に変異する。


だが、やはり刃先だけだ。


首から溢れる血は赤いまま。


僕はカシウスに抱きついた。



「本当に凄いね、フレイ君。」


流れる血が熱い。

腹からも血が溢れていた。


カシウスは倒れかかる僕を両手でむしろ支えている。


「君は正しい、この槍は刃先から血を吸う。


だが、惜しかった。」


リゼはナイフを持ちながら死にゆく僕を見つめていた。


カシウスは目の前に槍の柄を見せつける。

持ち手の荊棘も赤みがかっていた。


「こいつは私の血も吸う。

だから、返り血程度で私は死なない。」


カシウスはなにやら僕を讃えていた。

だが、意識の薄れた僕に内容までは分からない。


「何か言い残すことはあるかい?」


僕は途切れかけた意志だけで命を持たせた。


ぎゅぅう。


カシウスを逃さない。


「僕を抱きしめたよね?」


景色が赤く変わる。


「兄さん!早く殺さないと!?」


もう遅い。

流れる血は僕の服を染め上げ、フリルのドレスに変貌する。


髪は伸び、リボンが僕を彩る。


蹴り飛ばされたが、それも意味はない。


僕はベッドに倒れ、冷たい膝に寝転んだ。


「ねぇ、フレイ」


少女の声が部屋に響く。


「宿で着せ替えられてるのを見たはずなんだけどねぇ………。」


カシウスは目頭を押さえながら呟く。


僕は焦る二人を笑いながら小さな手を握った。


「おかえり。」


僕の眉を撫でながら彼女は声を発する。


リゼは扉にナイフを突き立てるが、そこはもう開くことはない。

この劇の中ではそれが自然だ。


「なんでアリスがここに居る!?」


リゼの絶叫が子供部屋を満たした。

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