表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/100

93話 血と鎖の空

一瞬の硬直。


正面、少年。

左にマスター。


瓦礫の中にシア。

イザベラは姿を消している。


──その間に。


黒い手が空中に魔法文字を刻む。

幾本もの腕が、術式を分担して書き上げた。


黒手の魔法記述は、もう終わっている。



「っつぁああぁああああ!!」

少年は分銅の回転半径を縮めた。

回転密度が一気に上がる。


迫る黒羽根と飽和的に降り注ぐ火球魔法。


その全てを弾いているように見える。


──見えるだけだ。


呪いは物理的法則に縛られない。

砕けようとも、小さい本体が連なる。

鴉の群れは消えはしない。


火球を砕くことは出来ている。

直撃の前に鎖が当たる。

金属製のそれは熱を帯びていく。


マスターは状況をよく見ている。

起き上がったシアを静止していた。


煤烏の呪いに触れないように。

しかし、逃げられないような距離を保つ。


「らぁあ!」

少年は両足で跳躍する。


だが、それでは逃れられない。


握ったその鎖分銅はまるで手枷だ。

超人的な身体能力で地面を砕くほど押しても、高々数メートル。


回転を止めた数秒。

彼は魔法も呪いも使えない。


彼を焼き尽くす。彼を呪い尽くす。


「…………最高だなッ!」


分銅が僕へ投げ放たれる。

両手を放し、片方の分銅を投げつけてきた。

もう片方も手放し、重力に預けている。


彼は笑っていた。

「このスリル!」


そうだ、回転は止まっている。

反作用の向きが変わった。


分銅を投げた瞬間、鎖は手から離れていた。

引き寄せられる力はない。

代わりに、投げた反動だけが身体を後ろへ弾く。



──敵との距離は、六メートルだった。

鎖は八メートル。

有効射程五メートルから距離を取っていた。


跳躍の直後に投擲。

反動でさらに離れる。


直線距離二メートルだけ離れた。


急に変動した位置に炎も呪いも追いつかない。



一瞬が引き伸びた感覚の中で彼の才能を魅せ付けられる。


裸足の指で。

親指と人差し指で。


落とした方の分銅を掴んでいた。


足でそれ引き、鎖はピンと張る。


鎖は僕へと向かう一直線になった。


その一瞬の道を彼は掴んだ。

裸足の指で挟み込む。


鎖の道を、駆け抜ける──



「マジかよ!?」


シアが慌てて援護に来てくれるが、間に合わない。


ズガンッ!という着弾音。


分銅そのものは避けられた。

だが、それを放った存在からは逃げられない。


宙を自在に舞うほどに、身軽な身体。


踏ん張る地面が無ければ、

打撃は全て軽い。


致命傷にならないことはこの場の全員が分かっている。


だからこそ。


それを障害とも思わないからこそ、

この少年はA級の脅威だ。


「フレイ!?避け──」


汗ばんでいて、金属臭が染み付いた腕が巻き付く。

右腕は差し込めなかった。

詠唱のための、喉が………締ま……っ…た。


関節技、それも完璧に決まった。


裸締め………だ。




受けて初めて理解する。


呼吸ではなく、血が止まっている。



痛みを魔法で止めているとか、

もっと重症だったことがあるとか、

死ぬのが怖くはないとか、


そんな些事は関係ない。


…………あと五秒。


そう思ったころにはあと四秒。

直ぐに落ちる(しぬ)のを理解する。



剣は足元に落した!

出した黒手ではパワーが足りない!

呪いの黒鳥はまだ遠い!


魔法!?


馬鹿なことを考えるな、そもそも喉が潰れている!!!


考……考え、かん、が………考えを巡らせ………ろ!


かやく………?むりだ。僕ごと死………。

仕込んだくぎ……………?そんな程………無………。




視界が歪む。


血が足りないはずなのに、頭に血が上る感覚が続いている。


錯覚、幻覚、思い過ごし。


「こっちを魅な!A級!!!」


僅かに見えたそれに僕は救われた。


「私はそいつと同じ!B級冒険者!兼!中級魔導士!」


地面がそのまま立ち上がったような巨体に目を惹かれたか。


「……最ッッッ高ッッだな!?」


締めは半端に終わり、彼はそれを見上げて笑う。


血が一気に巡り、視界が焦点を取り戻す。


土くれの体。舞い落ちる砂煙。バカげた巨大さ。

その頂点に、幼馴染の姿があった。


「ゴッッ………ゴ~レムじゃん!!!」


気づかれないよう、邪魔されないように。

ギルドマスターは僕を回収した。


「捻りブッ潰せ、無魂巨身像…………。」


少年は見上げたまま、髪をかき上げた。


「あぁ、最高にイラつく………。ご主人共と同じだな………。


俺より、弱い癖して………借り物の力で見上げてくる。」



鎖を掴むところまでしか見えなかった。

巨拳が全てを包み込んだ。


遅い動きでも、真上を陣取る巨体。


落下の力を得た土塊は回避は出来ない範囲攻撃。

抉る攻撃も、この規模間の前では通らない。



砕ける音がした。



一帯に飛び散り、散乱する。


…………バカな。


「見下すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」


空に居たのは、

上に居たのは。

見下していたのは、彼だった。


超質量の鉄塊を、

最大の直径で、

最高速度で回していた。


風切り音。

舞う土飛沫。

暴走とも言える絶叫。



だが、誰かが呟いた言葉は、どれも指していなかった。


「─────楕円?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ