表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/100

92話 特別A級逃走奴隷 ゼグ

「なぁ!魔界に行ってたんだって?」


裸足で地面を踏み締めて、傷面の少年は武器を遊ばせる。


風切り音は聞こえない。


回しているのは鎖のついた分銅。

ただし普通の武器ではない。

先端に付いているのは――加工された錘ではなく、岩山から割れ落ちたような鉄塊だった。


「力見せてみろよなぁ!?」


回転の勢いが僕を向いた時、右手を放し間合いが変わる。


下から突き上げるような攻撃。


分銅のサイズからして、防ぎ損ねれば骨折は免れないだろう。

理性は伝えてくる。


──その程度な訳が無い。

磨かれた本能が僕を動かした。


音の無いその打撃を回避した。

一瞬構えかけたも避けさせる。


回転の勢いは攻撃の勢いだ。

もう一方の分銅が動く前に、魔剣の差したルートを駆ける。


ギルドマスター、シアもほぼ同時。

正確に言えばマスターが最初に到達した。


左足。

少年の左足が地面に沈んでいた分銅を蹴った。


今さっきの攻撃よりは遅い攻撃。


「チィッ!」


マスターは体勢を変え、全力で盾を構えた。

両足は即座に開き、衝撃に備えている。


金属音。

──マスターは半メートルほど地面を滑り、盾は僅かに歪む。

僕では受けられない──!


「やぁぁあい!」


次にシアが剣を振るう。

僕はそれに合わせ、退路を塞ぐ軌跡を選んだ。


「悪くはねぇ!」


少年は正面から鎖を引き戻し、その勢いのまま後方へ投げた。

マスターを攻撃した方は弾かれて、同じ方角に勢いづいている。


痩せたというよりは肉が付かないような、小さな身体は宙へ浮いた。

その予想外の機動からは躍動を感じた。


「だが、良くもねぇ………。」


建物の一つ、石造りの塔に着地する。

鎖の両端から少しだけ離れた部分を持ち、高速で回している。


『中級魔法・火柱(フレイム・ピラー)………!』


距離を取っていたイザベラはマスターの後方から火を放つ。

だか、軸に近づけた回転には火が通る隙間は無い。


感想も無く、ただ押しのけられた。


「聞いてるぜぇ?フレイ……。お前の手札は魔剣、邪神、あと悪魔。」


指折り確認しながら僕の情報を開示する。

……全部バレている。

いつから”見られていた”?


「出し惜しみなんて出来るのか?俺はこの武器(ちから)を得た時、ゴシュジンどころか!えっと………アイジンとやらも全員ブッ殺したぜ!」


少年は回したままに話をしていた。

僕自身には興味が無いらしい。


それと、破壊力の正体は質量だ。

魔力を感じないし、元奴隷だったら魔法や魔術を操れない。

屋根の上でも回しているのは、本能で荷重を減らす理屈を理解しているのだろう。


………イザベラは隠れられた。


マスターもシアも、僕を待っている。

出し惜しみはするつもりは無い。



剣を握る手が、ひとりでに動いた。

まるで刃そのものが導くように、切っ先は少年の喉を指していた。



白いローブに映える染みは膨れ上がり、押し込められた平面上で暴れている。

あの傲慢を喰らいたいと、僕に語り掛けてくる。


頭に悪魔の声が響く。

『イワレテルゼ?契約者サマヨォ?』


──僕は地面に唾を吐いた。


「『塞墨』『煤烏』『漆骸』───起きろ。」




分銅同士がぶつかる金属音。


塔の上からA級は両の鎖を僕に向かって投げた。


少年は跳躍ではなく、

分銅の質量で自分を引き寄せていた。


「漆骸!」


こちらも単純な移動では対応できない。

黒い手を伸ばし、建物の残骸を掴む。


両足で補助をしつつ、身体を引く力に身を任せる。


距離を取った。

物理的な現象は、魔法も、剣も、拳も退ける。


──であれば!

「羽を伸ばせ、煤烏!」


法衣の封印を緩めた。

白いローブの袖は全て侵され、黒い羽音をまき散らす。


煤烏は最も高ぶった感情を喰らいに行く。


散った黒羽は風に吹かれたようだ。

笑うその顔に降り注ぐ。


片方の分銅をシアの方に投げた。

シアは余裕をもって回避する。


鉄塊は彼女の背後を掠め、石壁に叩きつけられた。

鈍い衝撃と共に鎖が張る。


その瞬間。


少年はそれを手繰り寄せた。


空中で、逆に。


跳んだのではない。

引かれた。


鎖に。


「触れねぇよ!そんなバッチィ羽にゃあ!」


シアはドロップキックにて吹っ飛んだ。

多分ダメージはない。


あの鉄球を受けるのに比べれば、少年は軽い。


だが、シアが復帰するまで数秒のラグがある。


周囲を見渡す。辺りは瓦礫だらけ。

襲撃の報告が届くまで、援軍は期待できない。


アリスの呪いから覚めても、冒険者たちはまだ目を覚ましていない。


マスターは出血し過ぎている。

攻撃の要、左腕も飛ばされているから、注意を引くのに専念している。


イザベラは何処かに隠れている。

何か準備しているんだろうが、それまでは動けない。


───僕が何とかしなきゃ………だ。

今は、縋らせてくれる人は居ない。


「…………自由に飛べ!煤烏ッ!」


どろり


影が溶けだす。


「んなぁ!?」


落ちた羽一つ一つに呪いが蘇り、小さな鴉として起きた。


袖から垂れた黒はボトリと落ちる。


最初に羽が形作られ、その羽ばたきが終わった頃。

顔の見えない怪鳥として飛び去った。


「漆骸、”手”を貸せ!」

『GRYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』


背中から無数の手が生える。


「ッ………!第二段階かな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ