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86話 今後の旅

「ディアナは別行動してくれない?」

「はぇ?」


魔力を補給しつつ、僕はこれからの行動についての持論を述べた。

シアとディアナが固まった間に、イザベラにも青く澄んだポーションを手渡す。


「ディアナの解呪には北西大陸の太陽神信仰団体に頼むのがいいと思うんだ。」


「いやいや、じゃあみんなで行こうよ!?ねぇディアナ!」


手振りを交えて主張するシアに、ディアナも勢い良くうなずいた。


「私も賛成かな。ディアナ…さん?が冒険者登録できないと思うし。」


冒険者資格があれば、多くの国を渡っていける。

魔界では杞憂であったが、地上ではディアナの触手は目立ちすぎると思う。

冒険者には強さと同じぐらいに、社会的信用が重要なのだ。

校長先生もディアナを妖魔連合の関係者と知っていた風だった。

冒険者ギルドは強く、優秀な人材程精査するから、気づかれるだろう。


「シアは人間として誤魔化せるけど…。ディアナは……難しいと思う。」


僕の方から誘っておきながらで、本当に申し訳ない。


「……でも、何で一人行動なのよ。ディアナは歩けもしないのよ?フレイ。」


「村には飼い主を亡くした馬がいるからそれに乗ればいいわ。そもそも、彼女がこの中で一番強いでしょ?」


そう。ディアナは強い。

魔界でも強者として通してこれた上に、魔法の構造こそ理解しきってないが、回復魔法含め、有用な呪文は暗記できている。地上では全く苦戦すらしないだろう。


「申し訳ないけど、もう一つ理由があって………。呪われた武器と、魂を奪ってくる悪魔。それに邪神を引き連れて太陽神のお膝元に行くって……死ぬでしょ。」


正直これが一番大きい。

ただでさえ目立ちたくはないのに、権威ある神にまで目を付けられてはいけない。


「……分かりました。お三方のためなら、やってみましょう、一人旅!」

「ありがとう。……頼むね。」

「………絶対死んじゃいけないからね!ディアナ!」


イザベラは反応に困り、多少の拍手をした。

そして、大きく新調した瓶を一気に飲み干してから話を変えた。


「シアさんを人間で誤魔化すってどういうことなの?」


流せてはいなかったか。

正直僕は言った後すぐに失言だったかもと思っていた。

話を止めないように待ってくれたことに感謝しつつ、僕も一瓶をしっかり飲み干してから、覚悟を決めた。


「………シアはブルースライムだよ。」

「はぁ?」

「シアでいいよ。私もイザベラって呼んでもいい?」


イザベラはやはり大きく息を吸い、両手をついたまま座る青い少女を見た。

確かに、目も髪も唇まで青いが、地上では化粧か何かに思えたのだろう。


一呼吸では足りなかったのか、もう一度息を吸ってからイザベラは赤毛を揺らした。


「喋ってる………、いや、それは良いわ。悪魔召喚してから常識は崩れてるから。それより、この、青くて………とろみのついた魔力回復のポーションってアンタもしかして──


僕は無言で首を振り、イザベラも黙って顔を覆った。


シアは僕らのこの葛藤を知らないから、キョトンとしたままに撫でられている。

ディアナは当分無いだろう、弾力のある肌の感触を感じながら一言。

「………これが別れって淡白すぎませんかね。」






冒険者ギルドは多くの国に置かれている冒険者を管理する組織だ。

基本理念は、信頼度や実力の担保を、地上全土で通用できるものとすること。

E級から、A級にまで分けられる冒険者登録が行われており、基準は四つ。

・戦闘力

・未知や怪異への対応力

・旅の知識、生存力

・社会的信用

この資格を持てば旅を行える存在であるという信頼を証明できるのだ。


「フレイは来たことあったっけ?」

「一応ね。僕は更新でシアは新規登録になるかな。」

「試験か何かがいるの?イザベラ!」


騒がしいのは、ギルドに貼られた依頼を受注する者が多いからだ。

この血と汗の匂いが漂うこの建物は、先進国である我が魔道国であっても他の国と変わらない様子だそうだ。

隣ではしゃぐシアはかなり場違いに思われるが、そこにいる傷だらけの大男に喧嘩を売られていないのはイザベラのおかげだろう。

顔なじみの受付嬢に声をかけて、シアをエスコートしている。


窓口は空いていたので隣の窓口へ僕は駆けこむ。

「すみません、こっちは更新をお願いしまーす。」





僕が別室に通された理由は分かっている。

ここのギルドマスターとは初対面だが、ガタイの良さと強者の雰囲気から威圧されていることは直ぐ気が付いた。


「……お前の所の校長とは腐れ縁だ。だからこれが嘘だってんなら、今言え。あいつの名を使うのは気に食わねぇ」


190センチの巨体と傷だらけの顔で凄まれるが、本当のことを語った。

狭い部屋と形式上で出された茶の熱気の前でも怯む必要は無い。


「この推薦状は確かです。学校の名と先生に恥じない程度には、僕に信用があると自負しています。………実力が気になるのであれば、証明して見せましょう。」


机に置かれたものは黒い剣と、神の居座っているローブ。

この二つはこのギルドお抱えの、太陽神を信仰する照翼会から来た聖職者兼、受付嬢のキアラさんが鑑定と評価を終えている。


僕と同じ金髪、青目の彼女は、それぞれを、

・穢級狂操武具『塞墨』。

・穢級封神法衣『白浄』。

『白浄』に封じた黒い神を、・禍級感蝕闇神『煤鴉』と名付けて登録した。


『穢』級や『禍』級というのは、霊的な脅威度を示す指針だ。


『陰』『蝕』『穢』『禍』『晦』の基本五段階で表すこれらは、冒険者の等級

『E』『D』『C』『B』『A』と同様、地上全土で共通の指針とされている。


同時に、僕に宿る悪魔のことも正直に話している。


今は強力な二つの呪いと放てば多くの被害を出すだろう悪魔を、僕が御しきれるかどうかを審査されているとだけ分かればいい。


本来は修行を積んだ聖職者が対応する案件だから、信頼を証明できなければ、没収。

もしくは、ここで処刑の手筈が整ってしまうだろう。


逆に言えばこの男と受付嬢を一人納得させれば恒常的な信頼とこれらの管理権を確保できるわけだ。逃げるわけにはいかない。


「……一撃交換って伝わるかぁ?それを今回はB級昇格試験とする。」

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