83話 再開
「フレイぃ~私もうちょっと寝てたらダメぇ?」
「ごめんね、シア。でも大事な用だから。」
青い鳥に導かれて、僕らは人目につかない道を辿ってきた。
徒歩な上に遠いので、もう早朝。
だが、一晩ぐらいなら平気で歩けるようになったことを実感する。
村の人たちなら知っている馴染みの道ではあるが、今は荒れ果て誰もいない。
被害者は僕だけじゃないのだ。
ディアナには少し申し訳ないが、怖がらせたくは無い。
「あ、何か見えてきましたよ、シアさん!」
「宿屋かなぁ、合ってる?フレイ。」
少しうなづいてから、ドアをそっと開ける。
客がいない店内はいつもよりも暗く、奥に店主の煙草の火だけが揺らめく。
「お久しぶりです。ヴェイクさん。」
「んなぁ!?お前生きとったんか!?んで腕と目!?」
やっぱり村にまでは伝わっていないらしい。
とりあえず、目立ちたくは無いので中に二人を引っ張り込む。
「暗いから、気のせいかもしれないけどよ………お姉さん尻尾……生えてねぇ?」
「ん~気のせいじゃないですかね。あと多分私の方が年上ですよ。」
「イザベラに聞いてなかったんですか?ここに呼ばれたんですが。」
「いや、聞いてたんだけど誰とまでは…………呼んで来るか?」
「その必要は無いですよ。」
二階の個室群から声が降りてきた。
黒い制服に、自前の魔女帽子を被った赤毛の女の子。
杖とリュックサックを持って階段を降りてきたのだ。
「久しぶり、元気してた?」
「……………それが、ずっと心配してくれてた幼馴染に対する一言でいいの?」
イザベラは硬貨を数枚出しながら、僕へ向き直る。
「手紙は読んだのよね、じゃあ行くわよ。」
「あ、待ってね。ヴェイクさん!一部屋借りるんで荷物置いて行っても?」
「ん?おぉ。まいどー。」
「…………調子狂うわ。」
村唯一の宿屋を出ると、また荒れた道を辿り始めた。
もちろん学校からの道とは別だ。
緩やかな丘を登る先は、以前は何もなかった。
上から見下ろすと、復興に力を注ぐ人たちが見える。
朝はまだ早いというのに………やっぱり、僕が軽率に出てこなくて良かった。
「ねぇねぇフレイ。これどこに行ってるの?」
「………すぐ着くと思うよ。」
イザベラは何も言葉を発しない。
ただ、無言で歩く。
その間に、三人の隙を見て、僕の家の場所を横目で見る。
僕の家があった場所を横目で見た。
そして、ただもう一度、前を向いた。
「着いたよ、フレイ。」
手で指された先は、簡素な、慰霊碑と言えるものだった。
白みがかった石を削り成形されていて、簡素だが、丁寧に磨かれている。
イザベラは両手を合わせ、目を閉じ、死者への祈りを捧ぐ。
「この国では、霊が見守ってくれるから、生者は代わりに祈るんだ。」
僕も二人に促してから、片手を合わせ、片目を閉じる。
「手紙にも書いておいたけど…………亡くなった人達は損傷が酷すぎて、全員を墓に返すことは出来なかった。だから………皆この場所に宿っているわ。」
目を閉じたまま、イザベラの声が聞こえる。
事実はもう知っている。
そして、心の整理も前に終えている。
「あなたのお母さんと、お姉さんもこの場所に…………ね。」
目を開けて、もう一度慰霊碑に目を向ける。
もう、母をママと呼ぶことも、姉を呼び捨てすることもないだろう。
シアとディアナは言葉を発しない。
僕を気遣う必要は無いが、今はイザベラと話すべきなので、有難い。
「なんで、逃げなかったの?」
赤毛の彼女は僕を向き、声を絞り出した。
背後にある白石の構造物と日の光も僕を問いただしているようだ。
「ワイルドワイバーンだよ?戦闘用の魔法を学んだ私でも、一目で諦めた。」
あの時の状況を思い出す。
飛来した化け物は、見張り台を直接踏み潰し、大人たちの抵抗も踏みにじった。
土煙と、見知った声の悲鳴。
そして、長く感じた時間感覚。
「ヴェイクさんから聞いたんだよ。母さんと姉さんが死んだって。」
何処かからの血の匂い。
こけた時に出来た擦り傷の僅かな痛み。
「何かを失った気がして、日常の漠然とした空虚感が、大きく膨れてきた。」
ゲートを開いて魔界に道づれにする。
どう考えても失敗する、作戦とも言えない行為をやっただけだ。
「大切な人が居なくなったと思うと、生きる自信がなくなったんだ。」
目の前の景色が少し、あの日と被る。
あの日は遠く離れていたが、今同様に赤毛の彼女が見えていた。
「……他にも居たでしょ…?私が居たでしょ………!フレイ……!」
イザベラは怒ると拳をぎゅぅと握る癖がある。
僕は戦わない道を選び、彼女が誇り高く戦う道を選んでからは自重していた癖だ。
「………友達に、そんな重い事言えるわけないって思った。」
イザベラはもう、杖を握っている。
昔、村から出て行く僕らのために取り寄せた杖を。
魔界から逃げる時に落した、あのお揃いの杖をだ。
少し警戒してしまった二人を静止しながら、僕も話したいことを述べた。
「……ダンさんを召喚したんだって?それがヤバイってのは分かってるよね?」
「強くなりたかったのよ!ワイバーン程度に壊されない力が欲しかった!」
イザベラが荒れているのは久しぶりに見た。
彼女の方が強くなってからは、ここまで対立することは無かったからだ。
「足りないのよぉ……。まだまだ足りない!」
「十分だよ。そもそも僕は戻ってこれたんだしね。結構成長できたよ?」
イザベラの動きが僅かに硬直した。
「そんな状態で……まだ意地を張るつもり?」
頭を掻きむしり、リュックサックを地面に叩き付ける。
「ふざけないで!!アンタを戦わせるわけないでしょう!?」
「僕も、出来るならイザベラには黒魔術とかに関わってほしくないよ。」
やっぱり、意地の張り合いだ。
イザベラが僕を組み敷いてしまった、あの時から本気の喧嘩は減っていた。
僕はイザベラが不相応な危険なことに首を突っ込んでほしくない。
イザベラは僕に危険な場所に行ってほしくないんだ。
杖を地面に叩き付ける音は、喧嘩の初めを告げた。
地面から岩石の手が伸びてくる。
「痛い目に合わせてでも………平穏に戻ってもらうわよ、フレイ。」
「僕が頑固なことは十分知ってるだろ………。戦うかい?イザベラ。」




