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81話 病み上がり

端的に言うと、僕はベットに寝かされていた。


窓際からは懐かしく感じる陽光が射し、繋がった生を実感させる。


「……起きたから状況を教えてくんないか?」


「おぉ、ちょっと待ってや。あと二単語暗記したらページ終わるから。」


隣に座っていたラスティは、僕の数少ない友人の一人だ。


今開いているのは必携 詠単語 LEAF。

全生徒に配られていて、たまに小テストに出される。


だが、流石に怪我人を無視してまで進めたいわけでは無いだろう。

そりゃそうだ。僕だってそっちの立場なら反応に困る。


「………正直、良く生きてたよなぁ、お前が魔界からってのは……」


「僕もそう思う。そっちはどんな感じよ?」


小さな冊子を適当に置きながら、水を差しだしてくれた。


「イザベラがお前らの場所を伝えてきたんで、先生数人で回収。あんまりにもグロかったんで生徒は全員帰宅させて、お前は保険室のベットの上ってわけだな。」


「お前は?何でいるの。」


「その右手をくっ付けた治療科志望の先輩と一緒で、志願したんだよ。」


「感謝しかないね。」


両手は無いので、右手だけで手を合わせるポーズをとる。

あと、右目も無いが目を軽く瞑っておく。


重たいガントレットは剥がされていたので、透明な魔力部位に血だけが巡ってる。


「一緒にいた二人はお前の部屋にいるよ。命の関わり度でいえば魔族のおねーさんの方がヤバかったはずなんだが、もう意識がはっきりしてるよ。足は分からないな。呪いを解けるか分からん。青い娘ちゃんの方は………ご飯食って寝てるな。」


ぶっちゃけ言えばベットには身体洗ってから入ってほしいんだけど、大丈夫かな。

僕も意識無い間に洗われただろうから…………大丈夫だと思おう。


「………お前の故郷の村の方なんだがさ、」


「それは話さなくていい。イザベラからの手紙で聞いたから。」


僕もラスも子供なんだから暗い話は止めておきたい。

友達にそこまでの負担をかけるのは求めてない。


手紙は随分前に受け取ったから、心の折り合いはつけている。


「じゃあ、お前が危うく賢者になりかけてた話でもするか?」


「………ナニソレ。」


手紙はダンさんから受け取った。

つまりイザベラは悪魔召喚をやったわけだろうから、話を変えたかったのもある。


だが、それ以上に、賢者になりかけてましたってのは単純に興味が湧く。


「賢者様らに必要な、真面目な態度と魔術技術、そんで偉業。」


「………そろってないだろ。」


「まず真面目だったろ?捨て身で故郷を庇ったろ?魔法技術も………まぁ死人判定だったわけだったから、そこら辺は雑だったな。」


「…止めといてくれて有難いわ。魔界でボコボコにされた後に自尊心無いから。」


「そこはイザベラに感謝で。あいつがお前が生きてるからって止めてたし。」


イザベラにはめっちゃくちゃ感謝だな。

学校唯一の同郷だから、忙しいのだろうかな?


「あいついなけりゃ寮の部屋も取っ払われていたらしいぞ。」


「マジで感謝しとく。漫画コレクションも残ってるよな。」


「掃除は清掃員のあの人がやってくれてるらしいし残ってるんじゃないか。」


ポケットの中からキャラメルを出してくれたので、二人で噛む。


粗方の状況が分かったなら、当然、学生なので次の話題も定まる。


「ちなみにぃ、僕のセーセキってぇ?」


「それは大丈夫ネ。それとなく聞いておいた。それにさぁ。お前文系だろw」


※文系=文魔道学選択。戦闘技術は学ばず、魔道具も作れないと揶揄されている。


「ちょっと聞き捨てならないんだけど?用キャに言われたくないけど?」


※用キャ=用魔道学選択。戦闘技術は学ばず、歴史も知らないと揶揄されている。


「まぁお前の功績に敬意を払って真面目になると、四代魔法校へ推薦があるって」


「へーそりゃ滅茶苦茶に有難い。受験パス出来る?」


※受験=魔道生選抜試験=面倒くさい


「……正直そうかもな。だが魔道基礎問題精講を解かないお前を俺は見下すぞ。」


「そもそも持ってないんだけどやっぱりそれ良いの?」


「さぁ?俺そもそも課題が終わってないから。」


「期末試験って僕パスできるかなぁ。やりたくないんだけど」


「そりゃ流石に…………………………大丈夫か?」


自分では当然気が付いていたが、僕の目は湿り始めていた。


噂話と勉強話。

ほんの少し前までの僕の人生の殆どを占めていた。


平穏に戻れるという実感が、僕を貫いていた。


「大丈夫だよぉ。怖かったわけじゃないんだけど、ちょっと安心しちゃって。」


魔界での旅は良くも悪くも僕を変えたと思う。


恐怖が消されて、レイが死んでから、ようやく良縁に恵まれていると気が付いた。


軽く抱いてくれたラスの背中を逆にさすり、もう大丈夫だと伝える。

じんわりとした湿り気は後で拭き取っておこう。


「んで、最後に聞いときたいんだけどさぁ。」


そう言いながら、窓の外のラス渾身の魔道具・空飛ぶ物干し竿君弐号!を指差す。


僕が魔界でずっと着ていた白いローブ。

だが、確かにおかしい。


「何か………こう、洗ってるうちに黒い染みが浮き出てきてよ………。ちょっと………うごいてないかな。」


死霊共の相手をさせるついでに魔界で棄ててこれたと思っていたが。


”煤烏”と名付けたその黒色は僕に憑いて来たらしい。


「………あれは触んない方が良いよ。ワンチャン廃人になっちゃうかも?」


「えぇー……?そんな奴連れてこないでよ。」


「僕だって、好かれるならもっとマシなのに好かれたいんだけど?」


ズキリとした痛みと共にもう一つの黒を思い出す。


ラスに気づかれないように、心臓を握る。


「…………少しぐらい静かにしていろよ、”膝骸”」


身体に巣くった悪魔に語り掛け、僕は一息をつく。



僕は平穏に戻れているのだろうか。

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