80話 エンディング
『かかうにれさけえはやあらうみうつどへえんまどさすちみお…………。』
メモに記された呪文を、そのまま口ずさむ。
門は勝手に閉じていき、先程までのように封印されていく。
ちょん切れた腕の断面で押さなくても良いのはありがたい。
切断した左腕は回収できなかった。
鎮痛術は切れてしまっているが、まだ痛みは感じない。
直ぐに、痛みがあふれるだろう。
断面に起こる拍動を伴う痛みと、爪を食い込まされるような幻肢痛が。
「………右腕はくっ付けないの?」
シアの声が背後、やや下から聞こえる。
二人はぐったりと地面に寝そべっているからだ。
確かに右腕は鎖で繋いでおいたので持ち帰られた。
気絶したディアナに左腕を当てて魔力を流しながら、状況を整理する。
「地上は魔力が薄いから……
治療したら魔力が足りなくなっちゃうかな。」
右上腕は焼き切れ、一部欠損している。
それを魔力を固めて補完していたが、この魔力濃度ではどうしようもない。
「……数時間以内ならくっ付けられるから、多分……繋げられるでしょ。」
「……………祈っておくわ。」
心配をしてくれている所悪いが、正直二人の方が深刻だと思う。
スライムの分裂は、魂と肉体を文字通り分裂させる。
つまり、シアは文字通りに半分は死んでいる。
話しかけられるまで、知性を保ったままであるかどうかも心配だった。
魔族は人間やエルフ、獣人なんかより痛みに鈍いそうだ。
魔族な上に、最前線で生き抜いてきたディアナが気絶している。
反応がないのは、殆ど死んでいるから……というわけではないのか?
湧いた疑念を振り払い、呪文を羅列する。
「……………逃げなくても大丈夫なの?」
詠唱の途中で返事は出来ないので、頷くだけにとどめておく。
さっきも触れたが、地上は魔力が薄い。
魔界に慣れた強者であればあるほど身体がだるく感じるだろう。
扉を閉じたので、それを破壊する必要もある。
もし、それでも追ってくるならどうしようもない。
逃がしてくれたレイには悪いが、死ぬ他ない。
残っていた魔力を全て使い切ったところで治療を断念した。
飛行のために魔力をかなり消耗していたから、直ぐに尽きてしまった。
でも、ディアナも数時間はもつだろう。
………むしろこの肉体強度なら自然回復してしまうかもしれない。
当面の仕事を終えたので、僕も地面に身体を預ける。
魔界では考えられないことだ。
ここが魔界なら、多分もう首を絞められ死んでいる。
そして、どうやら僕はまだツイているらしい。
青い空に見えたあの青い鳥は、イザベラの使い魔だったはずだ。
僕の探索を続けてくれたのか、別件か。
それは分からないが、救援ぐらいは呼んでくれるだろう。
肩の力が更に抜ける。
というか、意識が遠のいているのだ。
帰ったら、もう危険からは逃れられるだろう。
命を投げ捨てて故郷を守った代償は、両腕と右目、それに恐怖と怒り。
それと……………
「…………レイ」
だが僕は帰ってこれた。
鳥の瞳の奥にいるだろう友人を、縋るように見る。
日の光が眩しい。
失った物にさえ目を瞑れば、平穏に戻れるだろう。
この暖かい地上に、僕は帰ってこれた。
これで僕の旅は終わったんだ。




