76話 デート
フレイは僕のもので、僕はフレイのものだ。
完全に落とされた。あの目は、アレは反則だろう。
これからも、フレイのおねだりは全て聞くつもりだが………。
これからは僕が望めばフレイに強制させられるのか。
………ゾクゾクしてくる。
契約を結んでから試しに望んだことは、二人で出かける事だった。
それも二つ返事で了承された。
「さぁ。行こうか。」
これからの全てが待ち遠しい、人生最高の日。の、はずだったのに。
「何でアンタがいる………ディアナ……。」
「お二人の話を聞いたわけじゃありませんが、分かります。不健全。」
ディアナは出かけて行ったはずなのに、直ぐに戻り、僕の隣に張り付いてきた。
「しっかりしてますが、子供なんですよ?私の倫理が耐えられません。」
「僕もアンタも経験値から言えば0歳だろうが………!?」
「倫理観は年相応です!」
「魔界に倫理もクソもないと思ってるんだけどねー。」
「でも……なんとなく嫌なんですよ!最悪殴ってでも止めちゃいますからね!」
ディアナは理屈を放棄し、拳を握る。
人気のある町の中だが、戦うか?
あのヤバイ女の街だから、どうせ戦場は用意されてるだろ。
「地上とじゃ価値観が違うんでしょうけど、成人まで待ってあげて下さいね。」
ディアナは戦闘の気はないと、両手を上げながらクッキーをよこしてくる。
少々、子供扱いなを受けている感じがするが……。
……まぁフレイが気にしていないなら殺し合いは止めておこうか。
特に目的地もないままに三人で道を練り歩く。
シアは部屋で寝ているらしい。部屋を暗くしたら眠くなる習性らしい。
フレイによれば数年は眠ったままで大丈夫だそうだ。
スライムってのはそういうものだと。
「ヘムさんと預言に関係ありそうな話をまとめておいたのですが……話しても?」
ディアナはさっきまでの暴挙とは変わり、少し控えめな顔に戻って切り出す。
二人に契約の話は教えていない。
出来る限り巻き込まない予定だが、話を避けすぎるのも違和感を持たれるだろう。
フレイはこくりと頷いた。
「魔王軍の調べではワイバーンは地上から来ていて、多くは分からないとの事で。亡者の群れも分かっていません。ですが、魔界で集めているのではないかと。」
「理由は?」
「フレイさんは知っているとも思いますが、地上では宗教が多く存在しています。死者は丁寧に弔われているし、アンデットとなっても聖職者や神によって浄化されるので………脅威となるほどの数は無いかと。」
指折り確認をしながら、ディアナは予想を語る。
知識の少ない僕では判断は出来ないが、説得力はあるように感じる。
ただし、と話は続く。
「もしかしたら、亡者は封印されているかもしれないとも話しました。世界には奇妙な道具は存在するので、死者を無数に運べる手段があるかもしれないと。」
「……そっか。」
考え込み始めたフレイから契約内容を気取られたくはない。
僕は手を叩き、話を終えた。
「魔王さんに話は通したんなら、そこまで悩む必要はないでしょ?」
「ん~それもそうですかねぇ。確かに、今は地上へ行くことに集中ですかねぇ。」
元凶は僕が必ず殺してくれるが、今はこれが正解だろう。
「ゲートについては、なんか聞きましたか?」
「近くにあるからいつでも出発できると、ヘムさんが案内してくれるんですって」
僕が手を差し出しても、次のクッキーは出てこなかった。
元の缶から小分けしたクッキー袋の中を、僕らは食べ尽くしてしまったらしい。
口の中も少し乾き始めた。
「何か食べに行っちゃいましょうよ!お金は私持ってますし!」
「そうだね、ついでにシアに何かお土産でも………………………………」
フレイの言葉が途切れたのも無理はなかった。
言いようのない威圧感と存在感。
暗い魔界であっても目立つ、大きな影が空を覆ったのだ。
反射光が白く輝く堅牢な鱗。
僕の氷を容易に砕く巨躯。
他を寄せ付けはしない重厚な翼。
そして、全てを見下ろさんとする瞳。
「………まじかぁ。」
ホワイトドラゴンは空に君臨していた。
民衆の反応は様々だ。
戦わんと、武器を抜く者。
勝ち目の無さを悟り、避難する者。
魔力を隠蔽し、息を潜める者。
だが、直ぐに全員が息を飲んだ。
無垢の王者は建物を潰しながら、四つ足で大地を踏み締めた。
周囲の恐怖と共に息を吸い込み、城に向かって光の束を解き放つ。
………少し違うか。
城の女主と、山にも等しい巨大な泡の塊に向かって息吹を解き放った。
膨大な二種の魔力は打ち消し合い、周囲の空気を震わせる。
遠く離れていた人影は、屋根を駆けて白竜の目の前にまで迫って来た。
華やかさと機能性を両立したメイド服に、身丈を超えた大きな泡管。
毒煙を包んだ泡を周囲に纏う姿は、竜とは別種の王者の風格か。
「無駄死!逃走!身を隠す!どれも結構だ!」
両者は睨み合いながらも、轟く声は周囲を先導し始めた。
「だが、どれも情けない!誇り高き魔族であれば!俺に続けよ!戦士共!」
泡管を掲げると、雄叫びが立ち昇る。
参戦するかと、フレイに視線で話そうとした時、寄ってくる影があった。
「君たちはゲートに。ここは魔王軍の縄張りだから部外者には関係ないかな。」
胸を大胆にさらけ出している女が話しかけてきた。
羽と尻尾をメイド服の隙間から出しているのを見るにサキュバスか。
緊張からか、武者震いか、少しだけ額に汗をかいている。
「魔王様の左腕の左腕。魔王軍No7エッチなお姉さんでお馴染みラピスラズリよ。うちのヘムがシアちゃんと一緒に待ってるから行ってくれる?」




