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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
女悪魔が内心切れている章
74/75

75話 契約

「帰ったぞー。風呂ぉー。」

「あ~無事だったんスね。森のヤベー奴とやらは?」

「封印した~。風呂ぉー。こいつらには部屋~。」

森を切り抜け、少し走ると城に連れられた。

メイド服を着ているだけで、やはりこの女は力ある存在らしい。

執事服を着たガキに命令を出している。

メイドも数人揃えているようだ。幾つかの強い気配と視線も感じる。

風呂の事しか考えていないようだが殺すのは計画的にだ。……今はどうでもいい。

「え~初めまして。でーいいですかね。部屋ぁこっちですわ。」

シアよりも低い身長に、サキュバスとは違う羽虫のような羽を生やしている。

案内を適当にやってはいるが、隙は無い。だが、こいつもどうでもいい。

今は隣を歩くフレイだけが気がかりだ。

負傷は完治したのか?封印もせず魔剣を使っていたが、反動は?魔力欠乏は?

………………神に食われた感情とは?

「……どうしなさったんで?正直アナタには勝てないんで怖いんですが。」

「レイ?なにかあった?」

「……………何も?」

いつの間にか止まっていた足を無理やり動かす。

…………弱みを見せるつもりはない。

少し、シアに意識をやった間に、フレイは何やらディアナに耳打ちしていた。

「シアさん、私と一緒に観光行っちゃいましょうか!」

「んー?分かった!」

「えー何スカ?人払い?オレも行っちゃいましょうかね?」

………なんだ?フレイは僕だけ残したいのか?

腕を引かれて、案内した部屋に連れられる。

「ちょっと話そうか。レイ。」



部屋は清潔だが手狭な一室。

魔族用の、少し大きめのベットが二組並べられている。

フレイはその内の一つに腰かけて僕にも座るように指し示す。

「さっさと言ってしまうと、僕は恐怖心と怒りを失いました。」

「…………え?」

呆気にとられたのは、自然に、何事もないように話したからだ。

ベットから足をだらりと投げ出したまま、むしろ、いつもよりも気張っていない。

黙り込んでしまった僕を見て、フレイは鞘に収まった剣を指しつつ話を迂回する。

「これの呪いは怒りの増長による暴走。だから、二回目食われたのは怒りだけだ。それ以外は問題ないよ?………流石に初撃はどうしようもなかったケド……」

「………ごめんなさい。僕のせいだね。」

背けてくれないその瞳から、僕が先に目を背けてしまった。

手からは汗が噴き出す。

もっとうまくやれたはずだった。守れなかった。僕の慢心と警戒不足だった。

「僕は、君に守ってくれって言ったことはなかった。」

フレイは僕の手を取りながら、やはり目を背けてはくれない。

「怖かった。素直にはなれなかった。確かありがとうも言っていなかったと思う。助けて貰っても、恐怖は一切拭えていなかった。守る義務なんてなかったんだ。」

「………でも、僕の責任だろう?」

フレイは本当に、力を抜いたままに言葉をかけてくれる。

今までとは違う態度に多分、僕は戸惑っている。

「そこまで言うなら……話を変えようか。本題はこっちだからね。」

「…………何?」

「僕の代わりに復讐してほしい。」

意識外の言葉を呟くその瞬間にも、フレイの纏う空気は変わりはしなかった。

「僕の村を滅ぼしたのも、泥炭の遺言にあったのも、なぜか僕だけを襲ったのも、ワイバーンだった。……僕には復讐すべき誰かがいる。」

フレイは伸ばした足に肘から重心をかけて、俯き始めた。

「でも、僕にあった復讐心は消えた。地上に戻っても遂行できるとは思えない。」

「……殺してこればいいんだね?その誰かを。」

「うん。話が速くて助かる。それで、契約をしたいんだ。」

契約。悪魔には大きな意味を持つ儀式だ。

人語を持たない迷宮の悪魔でも、経験のない僕にとっても本能的に意義が分かる。

互いを縛ることで互いに対価を得る、黒魔術の根源。

「必要ないよ。フレイの頼みは何でも聞く。僕に頼んでくれるだけでいい。」

「深い意味はそんなにないんだ。対等な振りしたいだけ。だから話を聞いみて?」

フレイは静かに、でも確かに主張する。

これまでのような、どこか緊張した様子からはかけ離れていた。

「……じゃあ、何をくれるの?」

「僕の人生、そのまんまあげる。っていうのは?」

………意味が分からなくなった。

顔をグイっと上げて覗かせる顔は少しの笑顔を浮かべたままだ。

「……分からない。対等になりたいって言ってたんじゃ?」

「自暴自棄ってやつかな。死の恐怖が無くなると生きる意味も分かんなくなって ………それに、僕が出せる物の中でレイにとって価値がある物がないし。」

「………なんで僕にだけ話すの?契約なんて結ばなくても二人がいるじゃない。」

頭でディアナとポンコツスライムを思い浮かべる。

あの二人なら文句も言わずに手伝うはずだ。

そもそも契約を言い出さなくても僕も手を貸していた。

「なぜ自分から差し出すの?」

「あの二人を危険に晒したくないってのもあるんだけど……。」

フレイは少し口ごもってから言葉を紡ぐ。

「僕は寂しがりらしくて、多分……見捨てられたくないんだ。ごめん。さっきの、深い意味がないってのは嘘かもしれないね。」

僕は力を抜いたその視線に………ゾクリとした。

これまで、フレイの弱みは何度か見てきた。

でも、それは見せてしまったというべきものだった。

今の……この目とは違う。

自分から弱みを………………”僕にだけ”見せている 。

「助けてくれただけじゃない。前は目を抉っても心配すらしてくれなかった。今は感情なんて目に見えないものにまで気にかけてくれている。惹かれちゃうよね。」

声は今まで以上に甘い。

態度は今まで以上に気弱。

「全部任せるよ。何でも従う。代わりに復讐にだけは付き合ってほしいんだ。」

フレイの身体の重みが手から僕に伝わり始める。

じっとりとした汗がさらに熱を帯びて冷めてくれない。

「ダメかな?甘えすぎ?」

片目の潰れた上目遣いは見たことがないくらいに美しかった。

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