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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
女悪魔が内心切れている章
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72話 夢幻に続く森

樹林は僕らを取り囲んでいる。

いや、樹林だけではないか。

周りにはいつの間にか鋭い石が浮かび、茂みからは生物の気配があった。

フレイももう立ち上がり、周囲を警戒している。

服に付着した白い砂粒は指で摘まむとボロボロ崩れる。

思えば、あの風はこの砂の動きだったのだろう。

森の中だというのに、砂の風は勢いを落とさずに、鋭かった。

「………今は……煙に気をつけてくれ………。」

メイド服が前に見える。ドンドン前に突き進んでいる。

障壁を形成していた石達は煙に当たって落ちていく。

「………アレはおいしく……ない。ものすごい毒……。」

「もっと早く言ってくださいな、そういうの。」

シアが少しだけ文句を吐くのを横目に僕は周囲を警戒する。

木々は広葉樹と言えばよいのだろうか。

灰色の葉は美しく、生命力を感じさせる。

生命は木だけではない。

足首までは届かない短い草花や、音だけが聞こえる虫の声。

まばらに散らかる白砂に、何処からかの鳥の羽ばたき。

焼けるような砂浜の感触と、青い空に映える白いワンピースを着た彼女の笑み。


……は?


鋭い痛みが足首に走ることで目が覚めた。

噛みついた蛇は金属のような光沢を持っている。

だが最も特筆すべきはその質量。

細い体を足に巻き付け、足枷となり始めた。

いつの間にか数匹の束となった鉄塊は僕を捕らえる。

「レイ!ジッとして!」

シアは剣を抜いて飛び出し、さらに寄ってくる蛇を追い払おうとはしてくれた。

だが、金属蛇は切断できず、展性を示すのみであった。

剣には二匹が巻き付き、ろくに振ることすら出来なくなる。

「落ち着いてください。」

尻尾は二人に巻き付き、僕らは宙に浮く。

ディアナは重さを物ともせずに引き寄せてきた。馬鹿力。

彼女はフレイと共に僕らに背を向けて残りの数匹を引き受けた。

正面はメイドが突き進んでいる。

少し余裕ができたので、蛇を払おうとしたが離れない。

個々の身体が溶接でもしたかのようで剥がせないのだ。

「ちょっと………見せて………。」

外套のポケットから小さな小づちを取り出してきた。

頭をコツンと叩くと、蛇の締め付け、絡まる力が抜けていく。

脚はするりと抜けて、シアの剣も解放された。

魔力は感じない。

「………魔術か何か?」

「呪術の一種だ………模倣は出来ない………諦めて………………。」

「置いてくぞーポンコツ共。」

既に周囲の景色は元に戻っている。

さっきの空は異様に青く、今ある薄暗さとは無縁のものだった。

粗方の蛇は追い払われたので、大人しく前を向いて歩こうと立ち上がる。

「傷は大丈夫?治そうか?」

覗き込む顔を見て僕は背筋が凍った。

幻覚ではない。

恐らくいつも通りの表情で、特に不自然もないのだろう。

声も、さっきまで聞いていた物と同一。違和感はない。

心に宿るこの熱い思いも不変だ。

…………だが、その顔に見覚えはなかった。


『記憶の取り換え』


「……レイ?」

疑念を孕んだ声が耳元から上がる。

寄ってきてくれたフレイを、僕は思わず抱きしめていた。

伝わる熱は身体が覚えている。

その声も、まだ僕は覚えている。

「何でもないよ……。絶対にアレは見ないでね……?」

最後に頭を撫でてから立ち上がる。

僕に対する恐怖ではなく、純粋に心配してくれている顔なのだろう。

その美しい顔を焼き付ける。

……絶対に許さない。

あの薄汚い靄は僕が消し飛ばす。

忠告すらしなかった、あの女も絶対に氷像にしてやる。

あの未知の現象を起こさないように、俯いたまま。

だが、両の拳を握り締め、殺意に身を任せようとした。

「漏れてるぞーー。」

理不尽に憤る時間すらないらしい。

咄嗟にフレイを突き飛ばしたが、迫り来る根は避けきれなかった。

迫り来る20の内、2,3の根が脇腹を突き抜け、血がこぼれる。

腹を伝う血にさらに多くの根が反応。

正確に分析するなら、血の魔力に反応。

更に倍の魔の根が襲ってくる。

これを好機と取ったのだろう。

いつの間にか迫っていた、蛙、鼠、蛇が強襲する。

蛙は舌を槍撃のように伸ばす。

鼠は足に飛びつき、魔力を吸い尽くす。

蛇は最初と同じく質量と頑強さによって僕を阻害する。

今あるこの感情は”焦り”だ。

一匹一匹は障害ですらない。

魔法を放てば一掃は出来よう。

だが、その後は?

一掃する規模の魔法の後は、身体に放った魔力が付着する。

無限に続く、魔力を狙う木々相手では的となるしかない。

僕だけではない。今さっき守ると誓ったフレイも危険にさらされる。

ダメだ。マズイ。考えがまとまらない。

雑魚共の動きは遅く、普段なら対処方法を考える必要もない。

なのに、それでも今の頭では動けない。

もう右足は重さで持ち上がらない。

ネズミは毛皮を膨らませ、余裕と魔力を吸い尽くす。

舌が眼前まで迫る。

迫る根の先は背に触れた。


ガシャン。


飛沫した水滴が背を僅かに濡らした。

投げられたポーションの小瓶が木に当たり割れたのだ。

背を僅かに傷つけた根は急旋回をし、水溜りに突っ込む。

三匹の攻撃には小柄な背中が割り込んで来た。

膨れたネズミは蹴り飛ばされ、血を手で塗り付けられて蛇も滑り剝がされる。

舌の一撃は肩で受け止められた後、杖で殴打されて蛙は吹っ飛ぶ。

「落ち着いて、レイ。」

結界は手早く張られ、魔力は遮断。手当も開始された。

両手で突かれた抑えられ、光と共に治癒する。

自身の肩から流れる血よりも、僕を優先してくれている。

フレイは落ち着きながら僕をなだめる。

「エリーダさんは2,3秒に一回目を瞑る。多分連続で見なければ問題はない。」

「木の魔力探知の問題ない。最も大きいのに向かう。どうとでもなる。」

「煙は、吸い込まなければ死なない。触れば独特の感覚があるから分かる。」

一項目づつ確かめるような、踏み締めるような声だ。

立ち上がる前の最後の一言は傷口ではなく、僕の目を真っ直ぐに見ながらだった。

「元気出た?」

「………うん。ありがとう。」

その、少しの笑みを、目に焼き付ける。

ここまで支えられてでは格好がつかないが、冷静さは戻ってきた。

女も蜃記楼も絶対に殺すが、今はこの人が一番の優先事項だ。

僕よりも弱いのに、ここまで頑張ってくれている。

片目のだけでも、僕を気遣う気持ちは十分に伝わる。

ここが戦場でなければ、その唇に吸い寄せられていたかもしれない。

ほんのわずかな時間を使い、僕はまた、小さな身体を抱きしめていた。

「あのさぁ!動けるならさぁ!動いてくんない!」

小娘の声が轟く。

殺すべき奴が一人増えた。

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