71話 超危険地帯
「基本的に……確認されている……被害は……………」
「だーまーれッ!お前の解説は何時間かけるつもりなんだぁあ!」
出発の前に、全員を集めて情報を交換することになった。
場所は星艦と名付けられた船の上。
安価であるが頑強な銅銀合金という素材で出来ているようだ。
所々指の跡が付いているのだが、あのゴリラは素手で戦ったのだろうか。
「基本的に確認されている被害は・失明・白骨化・記憶の取り換え・寄生」
「ろくでもないですね……。回り道は出来ないんです?」
「魔王様の心遣いを受けておいて更に求めるのか?子供とはいえ怒るぞ。」
すみません……。そうフレイはまた体育座りのままに俯く。
「俺の家……いや、ゲートからの最短距離にその森がアンだ。」
周囲はかなり騒がしい。それはそうだろう。
僕達が離れたら戦闘を始められるように調整をしているのだから。
「そんで?そっちからの話ってのは?」
ディアナは魔王に伝えておきたいことがあると申し出ていたらしい。
私にもよく分かっていないのですが、と前置きをしてから、魔女の預言を伝えた。
死者の行軍、ワイバーンの群れ、そして嗤う男と女。
また、飴を舐りつつ話を聞いていたこのメイドは文句を垂れる。
「…早く言っておけよ。ネクロマンサーっていやぁ”憤怒”の仲間じゃねぇか……!」
「エリーダ……アレは随分……前に死んだ……違う人……じゃあ?」
部下の進言を無視しつつ、ペシリと腕をはたき、飴の追加を求める。
そして、”ンんっ”と喉を鳴らしてから幼い声を出す。
「こんな声♡だったかぁ♡………………ちげぇなら心当たりはない。」
飴が無ければ、唾を吐き捨てそうなほどにゲッソリとした顔を受けても、ディアナは困り眉を浮かべている。
「……エリーダ様ならどうとでもなるでしょうから、そろそろ退いてくれません?」
「急かすなよぉ。殺しはしないが、ぶん殴るよ。」
目の隠れた部下の一人に一瞬だけ殺意を出しながら、戦艦を降りた。
高さは20メートル以上あったのだが、テクテクとそのまま歩き去る。
ヘム、シア、ディアナもそれに続き、残るは僕とフレイだけだ。
フレイが一瞬青ざめたのだが、軍服を着た名もなき戦闘員はとぼけた顔をしている。
「階段出した方が良いんですか?」
「いや、大丈夫です……。」
フレイは杖を手に取り、跨る。
箒は流石に持ってきていないようだ。
僕もそれに乗らせてもらい、僅かに震える肩に手を添える。
結果を言えば、かなりの安全飛行で前に追いついた。
「よぉ~し。森一歩手前に着いたわけだから、忠告をしておこうか。」
木々から百メートルほど離れた地点までの道中には、特に障害はなかった。
6人を一度に相手取ろうとする魔物もいなかったし、いても殺気で退かせられる。
森はザワザワと蠢いているように感じる。
まるで僕らを待っているようだ。
「魔法、魔術は控えろよ。木に突き殺されるからな?後は各自でどうにかしろ。」
余りにも短すぎる注意に、筋肉もぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「……蜃気楼を………見すぎるなよ……。それ以外は大抵………いや、もう一つ。」
その時、びゅぅと風が吹いてくる。
とは言っても、直に受ける前に反応をした。
木々の葉の揺れ、風に乗った砂粒がこちらに向かってきた。
「目を瞑ってくれ……!」
拙い発音ながらも、声を即座に低く轟かせる。
言葉通りに目を瞑り、魔力でのみの探知に切り替えた。
風が止むまでそう長くはかからなかった。
「……僕、目開けられていますよね?」
「………間に合わなかったか。……済まない。」
フレイの震える声に思わず目をカッ開く。
フレイの身体には出血、外傷はなかった。
だが、目が真っ白となっていた。
黒目が消え失せて、真っ白。
本人も、目を開いていることは明白に分かっているのだろう。
だからこそ、震え、誰かを探して手を前に伸ばしているのだ。
「白砂っていうんだよ。目にはいりゃ失明する。治療できる魔法、魔術は無い。」
「嘘でしょう!?」
「どうにか出来ないのですか…。フレイさんの目は……?」
二人はいきなりの事態に声をひっくり返しながらにフレイの手を握る。
僕は歯を食いしばりながらに周囲を警戒した。
「黙っとけ、治せないとは言ってねぇ。」
エリーダは二人を叩き退け、フレイの足を引っかけ、押し倒す。
そして、懐から取り出した小瓶を一滴垂らした。
「エリクサーならどうとでもなるが、無駄遣いはしない。」
サッサと起きろと、まだ起き上がれていない脇腹を蹴る。
フレイの視界にはようやく情報が入って来ただろう。
シアに支えられながら周囲を見渡す。
「……まだ、森の中にはいなかったはずですよね……。」
「…成長したんだ………。尽きることのない生命力…………。それと多様な危険…生物。」
メイドはケースに入っていた葉巻の先を切り出しながらに声を合わせる。
「「”百騒躍動”。無眼の樹林だ。」」




