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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
女悪魔が内心切れている章
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69話 メイドとカタコト脳筋登場

~我はここに定義する。この欠損は不当なり。この苦痛は不要なり。この衰退は虚妄なり。細胞の一片、核の深淵至るまで、刻まれた崩壊の履歴を否定せよ。世元素を編み直し、エーテルの奔流を以て、失われたるを補填し、根絶したるを接続せぬ。右手に慈悲を、左手に秩序を。因果の糸を遡らせ、傷の記憶を無へと帰し、光輝なる全へと再起せよ。見よ!血潮は逆流し、魂の器は今、再び満たされる。見よ!願いは重なり、記憶の線は今、再び繋がれる。神代の奇跡は今ここに再現され、あらゆる不浄、あらゆる毀損は、我が意志の前に無散するであろう。全身、全霊、全憶。彼の者に、原初の一呼吸を。最上高位回復魔法…万象回帰・覇道宝光』



決着から、ずいぶん時間が経って、意識を取り戻してから更に三十分が経った。

観客は既に失せ、応急手当は暴食が終わらせている。

負傷は深かったとはいえ、意識を戻した段階で心臓も砕け散った骨も癒えていた。

つまり、今、町を覆った光は過剰である。

細々とした傷だけでなく、火傷、肌のハリまでも戻ったが、既に宿に戻ったらしいフレイのことを考えると、圧倒的に損であるように感じる。

「…………終わったかぁ?憤怒ぉ……。」

「終わったよ~!大人しくしておいてくれて~あ~りがとね~~!」

倒れる寸前まで笑っていた傲腕も、少しやつれているように見える。

対して、魔法の詠唱を終えた狐は、尻尾を盛んに動かし、恍惚とした表情である。

「ありがとうな……この人の詠唱を止めたら、馬鹿みてぇに怒るんだ。」

暴食は僕にささやいた。

確かに、ここまで長い呪文は極めて非実用的だ。

めったにない機会だったのだろう。

この女狐が強くなければ、僕も途中で殴り止めていたのだが。


光の収束に気づいたのだろう。

眼鏡女がやってきた。

しかし、以前までのような大人しいスカートではない。

頑丈さだけが取り柄であると言わんばかりの武骨な黒い服。

胸元に紫のマークがつけられている。

また、以前とは纏う空気が変化していた。

冷静でありつつも、眼鏡の下には爛々とした目を隠しているのだ。

「久しぶりに見たなぁ、それ。誰も着てる奴いないだろ?」

傲腕はそこらの小石を指先で退屈そうに潰しながら語り掛ける。

「黙れ。魔王様への忠義を表すこの服に唾がかかる。」

「えっと、何かあったんですか……?」

吐き捨てるように語る姿に、唯一残ったディアナが問いかけた。

軍服…っていったか、それを着た彼女は少しだけ表情をやわらげた。

というより、邪悪な笑みを浮かべたというだけか。

「”ミスティルティン”が治ったので、ココを取り返すんですよ。」

「お前らは出て行った方がいいなー。アレは見境ないから。侵略兵器だから。」

魔力を流して探知すると、確かに人気が消えている。

農地にいた人間まで消えているから、ろくでもないことが起こるのは明白か。

さっさと出て行く方がいいようだ。


そして、今の探知で異様な気配にも気が付いた。

また、向こうも気が付いたようで、一気に跳躍、随分大きい一歩でやって来た。

ズドンという音と瓦礫の錯乱の後、二人分の姿が土煙の内から現れた。

「元気してたか?ダニカ。お前がその筋肉に負けた以来だったかな?」

「明日には取り戻して見せます…!エリーダ様!」

自分らが立てた土埃にくしゃみをしたのはメイド服を着た女だった。

横には傷だらけの、羽織一枚だけをまとった筋肉の塊。

身長はそれぞれ、1.75メートルと3メートル。

メイドの方は手ぶら。

筋肉の方は大きな木槌を背負っている。

ディアナはボケーッとあっけに取られ、女狐はヤベーって感じの間抜け面だ。

「今日は死天秤に用があったんだが…まずはお前らだな。言い訳はあるかよ。」

そう言いながら、憤怒、暴食、今更起きたアホ女に指を指す。

「ちょっと寄っただけで~す。リディアナに行くんで~す。」

「……今は、忠誠の何たるかを知らんコレが居座ってるが、魔王様の土地だ。」

親指で雑に傲腕を指しながら、金髪メイドは圧をかけている。

「ブチ殺されたいのか?自分が、超長尺の魔法以外取り柄がないの忘れたか?」

「……エリーダ…。オレ……気が……乗らない…。」

「黙ってろ!ヘムッ!!この場で強いのは俺だ!決定権は俺にある!殺すぞッ!」

明らかにヤバい女だが、実力を伴った狂気だ。

確かに、今現れた二人が合わされば、逆らえないだろう。

突如として頭をガリガリと搔きむしりながら、獣のような眼光で睨みつけている。

「う~ん。降参!私が悪かったです!行こっか、ヴァノン。」

わざとらしく両手を上げながら、忘れ物がないかを指差し確認させている。

そして、”またね☆”と手を振りながらに立ち去って行った。

騒がしい一団が去ってしまったが、残された僕らはどうしろというのだろう。

生まれてから観測した中で最も長い溜息をエリーダとかいうのは吐き終えた。

「魔王様が配下が一人。”害醜腐食”エリーダだ。ゲート使いたいらしいな。」

どうやら、こいつも魔王という奴の部下であるようだ。

…であれば、猶更、この軍服は場違いなほどに真面目過ぎるのではないだろうか。

上司は上裸と、恐らく趣味のメイド服だぞ?

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