67話 激戦!?レイvsメニル君
『これはどうしましょうか~!?二人とも倒れてしまったッぜ!』
先程までの激闘の音は失せ、辺りには冷気だけが留まる。
良く耳を澄ませば、微かな息遣いだけが聞こえるだろう。
目からは血が流れて、まるで涙のように見えるのだろう。
「降参します…。僕の負けだから、殺さないでね?」
冗談を言うような、無理に明るい声を出しながら両手を挙げた。
冷気は収束し、フレイの横をすり抜ける。
身体を覆う封印の魔力は崩壊し、僕の目を開けた。
杖を握ってはいるが、魔力は残されていない。
傷の痛みに唯々耐える様子を、僕は見下す。
僕は本気で戦って負けた。
だが、周囲に広がった冷気も僕だ。
封印魔法だけでは全てを封じられない。
僕の勝利を告げる声と、観客席からの罵声を聞きながら、抱きしめる。
抵抗する気も、余力もないのだろう。
素直に身を預けてくれたので、そのまま歩いて退場する。
歩きながらも治療は続けたので、息遣いも安らかなものになってきた。
「………上手くいかないね。結局、届かなかったよ。」
詠唱を止めて、耳を傾ける。
次の試合の準備で周囲は騒がしくなってきてしまったので、少し道を外れる。
人気のないベンチがあったので、座らせた。
治療を止めたくはないので、お腹を指でなぞり、呪文を紡ぐ。
「褒めてほしいの?大丈夫。君はすごいんだよ?」
「………どっちかというと、慰めてほしいのかもしれない。」
魔法を行使しながら、空いた手で頭を撫でてあげる。
こうしていると、心の内から温かい何かがこみ上げる。
何もかもが愛おしい。
傷ついた姿も、僕に立ち向かう姿も、何もかもが綺麗だった。
「フレイ……僕はやっぱり君に惚れたんだ。」
返事はない。
だが、まだ治療が終わらず、見えない目を向けてくれている。
「望みは僕にささやいてほしい。叶えたくなるんだ。君のためになりたい。」
手を取りながら、僕は本心を呟く。
「守られたいなら、守ってあげる。守りたいなら、守られてあげる。」
「愛されたいなら、愛してあげる。愛したいなら、愛されてあげる。」
「逃げ出したいなら、逃がしてあげる。立ち向かいたいなら、支えてあげる。」
瞼に指をあて、目を開かせる。
薄暗いこの場所では輝かない青い目も、僕には何物にも代えがたい光に見える。
「それが僕の望みになったんだ。」
見上げる表情に、少しの怯えがあるのは分かっている。
でも、目は逸らさないでいてくれていた。
「今は、…………対等な振りをしてほしいかな。」
「分かった。」
そう呟く声は、か細かった。
試合が始まったようだ。
ここまでも騒がしくなってきたので、席を立ち、二人の元に戻る。
「あ~!帰ってきたの~?遅かったね~。」
「傷はもう大丈夫ですか!?お二人共!」
こくりとフレイは頷く。
席順はフレイをシアとディアナが囲い、僕は端に座った。
狐女は信用できないので、僕と同様に端に座らせた。
目下の試合は皆そこそこに観戦している。
狐女は賭けた金額を確かめ、暴食は妹分と食べ物を分けている。
フレイ達はしゃべっているし、他の観客も似たようなものだ。
見どころのない凡戦だから、それもそのはずだ。
僕は真っ直ぐに司会席を睨む。
司会を務めているダニカの横の、大男を睨む。
薄茶色の短髪に、図体を覆うマント。
顔の傷の深さまで見えた頃に、勝敗が付いたようだ。
勝ったのは門番だったあの男。
馬鹿みたいに雄たけびを上げている。
「出番じゃない?頑張ってきなよ!」
「はいはい。」
『さぁ!いよいよ最後の試合だッ!』
声はこんな長丁場だというのに、衰えない。むしろ大きく感じる。
『冷気と剣技!それとちょっとの暴力で大会を勝ち抜いた!!レ~イ!!!』
『この町の門番であり、雷剣の使い手!あと、お酒が大好きパ~メニ君!!!』
男はやはり、剣を既に抜いていて、魔力を込めている。
怒声にも近い観客の声を受け止め、更に怒りが増してきた。
『準備は良いかぁ!行くぞ!行くぞ!行くぞ!?』
銅鑼の音が響くと共に、雷光が僕に向かう。
それだけだ。
いくら速かろうが、見え見えの狙いは簡単に避けられる。
突き出した剣は直ぐには引き戻せない。
純粋な身体能力で間合いを詰め、剣を叩き付ける。
受け止められはしたが、魔力を練る時間も、体勢を直す時間も与えない。
「てめっ!ちょっと待っ……。離れろ!!」
大振りの一撃を避け、拳を叩きこんだ。
『レイ選手の勝利—!』
足元の砂に沈むや否や。
むしろ、拳が入る前と思えるほど早く声は響いた。
どこからともなく、顔を隠した悪魔が現れて、倒れたそれを回収する。
最初から理解するべきだった。
こんな大会での勝利に価値はない。
”部下の箔付けのため”、”試運転”、あとは実力差の分かっていない雑魚。
この場に勝ったところで名誉は無い。
これはふんぞり返っているあの大男のためだけの場。
ルールは確かに無いが、死人は出ていない。
戦いが終わった後は、止めが刺される前に回収された。
始まる前に、悪魔と契約し、身の安全を確保していたのだろう。
こんな大会で勝っただけでは、僕は唯のルーキーのまま。
そして、フレイも舐められたままだ。
フレイは全力で向かってきてくれたのに、弱者として扱われるのか?
ふざけるなよ?
『ということで、今日!名誉を勝ち取った者に、ゲブレさんからお言葉を……』
声を遮って、僕は手振りで合図する。
僕に、マイクが投げ渡され、全員の注目が集まった。
『こんな、しょうもない試合が最後で満足ですか?』
観客は一度、静まり返った。
『最後の相手が、僕の障害が、アレですか?』
観客は少しのどよめきで満たされた。
ちらりとフレイを見ると、疑念を抱いているようだ。
”本気でやるのか”と。
僕は変わらず、殺気を向けている。
『あ~何を言いたいのでしょうか……?』
『喧嘩の買い方も知らねえのか!?随分その地位が愛おしいらしいな!』
大男はマイクを取るわけでもなく、何か言うわけでもなく、降りてきた。
「てめーに喧嘩を売ったつもりはないんだがー、まあいいか。」
砂埃の中から声を響かせる。
「喧嘩ってのは理不尽なぐらいが一番盛り上がるよな?」
僕はマイクを投げ、剣に手をかける
司会の声が、盛り上がる観客の声の間に割り込む。
『妖魔都市リディアナへの侵略。白い竜の討伐。暴食を下した”尭華の悪魔”レイ』
『”星艦”ミスティルティンを落とし、この都市を乗っ取った”傲腕”ケブレ』
会場の勢いは最高潮に到達した。
これでこいつを打ちのめせば、僕もようやく名誉が得られる。
それによって、僕と渡り合ったフレイの名誉に繋がるだろう。
その上、この、どうしようもないほどの怒りをようやく晴らせる。
『最終試合。始め!』
銅鑼の音が響いた。




