64話 激突!魔法vs魔術
「さて、あの子はど~戦うのかな~?」
狐はクスクスと笑いながらヴァノンの飯を奪う。
彼は何も文句は言わず、僕に疑問をかけてきた。
「魔法一本なのか?あいつは。」
「あぁそうだよ。」
「きつい勝負だろうな。魔術師相手は。」
魔法と魔術、似ているようで違う技術だ。
魔法は人間が理屈立てて生み出したもの。
魔法は魔界で洗練されて残ったしたもの。
「魔法は誰でも使えるけど遅い、魔術は感覚任せで使い手は限られるが速い。」
シアが無知を晒す前に、暴食は当たり前のことを話す。
「初撃を躱せるか~?躱せても~物量で押しつぶされないか~。」
「そうなんですか……。」
読み間違えたか。無知だったのはディアナの方だった。
「魔術は感覚によるところが大きいからな……習得さえしてしまえば………。」
話の途中だが、試合の開始を伝える銅鑼が鳴り響く。
最初の展開は予想通り。
ある程度の距離を取った二人の内、先手を取ったのは女だ。
薄茶色のマントに隠れた女の手から火球が放たれる。
呪文の詠唱時間を与えない、最善の一手だろう。
フレイも魔術に魔法で応じる気はないらしい。
剣を左手で引き抜き、四つに炎を切り裂いた。
「フレイさんって剣使えるの!?」
ディアナはうるさいが、確かに当然の疑問だ。
剣を使えないと自分で言っていた上に、右利きだったはずだ。
女は続けて火球を投げまくるが、全て切り裂かれる。
フレイは駆け出し、距離を詰める。
手に握られる剣には見覚えがあった。
「悪魔を封じた黒剣だよ!ディアナ!レイ!」
剣に身体を乗っ取らせているわけか?意識を捨てて?
単純な物理攻撃で終わらせるつもりだろうか。
だが、相手だって馬鹿じゃないらしい。
フレイを前に後ずさりをしているだけではなかった。
火球が滞空し始めた。
全て切り裂かれるのならと、三つに一つを敢えて逸らしているのだ。
引き下がりつつ、火球を増やしている。
火球は会場の熱を上げ、歓声と共に炎のドームを作り上げた。
そして、突如フレイに背を向けて跳ぶ。
円を描く火球の群れに飛び込んで、炎を踏みしめ、足場としているのだ。
完全には覆われていないとはいえ、フレイは数十の火球に囲まれた。
剣技の届かない上空で、火球をひたすらに増やしている。
フレイの顔からは何も読み取れない。
剣に頼るだけでは勝てないが……。
『血流よりも熱く、空の星よりも輝く炎よ』
声は小さいが冷静に、確実に呪文を紡ぐ。
『聖滝をも干上がらせ、異界の目をも潰し、太陽神をも退ける傲慢な炎よ』
百を超えた火球に一つの火球で対抗するらしい。意識も何故か残っている。
『我が願いに応えよ』
練られた魔力は以前の………五倍ほどだろうか。
『あらゆる不条理も、あらゆる災厄も、あらゆる因果をも消し飛ばせ』
女は詠唱の完了前に潰す腹積もりだ。
駆けるのを止め、炎に号令をかける。
『擦り潰せ』
足場として残した一つを残し、その他全ての火球は手を叩く音と共に突撃した。
着弾時間も方向もバラバラ。螺旋を描いて炎熱が一点に集中する。
切り捨てるには余りにも多く、余りにも熱い。
魔力も視覚も遮られるほどの威力だった。
破裂音が重なり、数秒の後に土煙と共に音が途切れる。
『顕現せよ、今こそ栄光の時が来た。』
全てを隠した爆炎の中から声が響く。
三重の結界が熱も爆破も阻んだらしい。
結界を張る時間もなかったはずだが穴一つ、ヒビ一つ無い。
フレイは傷もなく、杖を向けた。
「魔術のイイとこはもう一個。」
狐女は食べ終わった容器を部下に押し付けながら話す。
「クソッ!」
『最高位火球魔法・魔道霊の王炎』
女の全力であろう大きめの三つの火球はより大きな熱に飲み込まれた。
「魔法は際限なく威力を高められる。最高だね~。やっぱし。」
火球が女の間近に迫る。
「降参!降参!お兄ちゃーん!」
暴食は舞台に飛び込んで両手を挙げた女を引っ張る。
上空に浮かせた火球を蹴り上げて、爆破からを避けるため真下に加速した。
爆音。
座席の保護のための結界には穴が開き、熱が落ちてくる。
「全く~もうちょっと強い結界にしておいてほしいよね~。」
狐が張った結界は飛ぶ火の粉を退ける。
むき出しの毛皮に燃え移ったら大惨事になるからだろうか。
なんにせよありがたい。手間が省けた。
フレイはブツブツと言葉を紡ぎながら剣を収めている。
秘密の一端は理解できた。
封印の器を剣から自分の腕に変えたのだ。
悪魔を左腕にのみ宿らせることで近接戦闘を可能にしつつ意識を保っていたのか。
………だが、最後の結界は意味が分からない。
炎魔法の詠唱の途中だったし、三枚も張る時間もなかったはずだ。
まだ隠しているな───。
『降参の意思を確認!第一試合ッ!フレイの勝利!!』




