63話 第一戦 フレイvsクレア(始まらない。)
昨日は本を数冊買い、内二つを読み切った。
文法はある程度は理解出来たが、単語はそう簡単ではない。
分からなかった言葉を後で調べるという、今のやり方では行き詰まるだろう。
辞書というものを見つけたのは幸いだった。
これからは暇な時にそれを眺めることにしよう。
大会で戦うのは八人。
それまでにダニカ、つまり入り口であったあの女が参加者を選別した。
既に二つ名を持っている強者とか、あまりにも弱い弱者は弾くそうだ。
ちなみに僕はギリギリに応募したので、枠は残っていなかった。
なので参加者を探して脅した。円満な交渉ができて何よりだった。
会場には多くの人が入っている。
一試合目の観戦をしてから僕の試合が始まるのでシアの横に座ることにした。
遠目だが、ダニカの横に筋骨隆々の大男が見える。
あれがこの都市の代表らしい。
「あの方、私のライバルだったそうですよ。」
僕の視線に気づいたのだろう。ディアナはそう話し始める。
「お二人が出ていた間に話しまして、色々聞いたんですよ昔のこと。」
「モーニングスター使いだったのよ!しかも三刀流!」
「三つも持ってどうするの?ディアナ。」
「今じゃ左手でしか持てませんし、分かんないですかね~。」
こういう利のない会話も悪くはない。
だからこそ、近づいてくる気配が煩わしい。
二日前にぶちのめした暴食ともう一人がやって来た。
その女は初めて見る存在だった。
緩いズボンで下半身を隠しているが、上半身はローブを羽織っているだけ。
サキュバス達よりも露出は多い。
しかし変態という者なわけではない。
首の付け根まで柔らかそうな毛皮で覆われている。
ふわりとした尻尾と獣耳もくっつけており、髪色はもう少し明るい黄色。
毛が生えていないのは手のひらと頭だけのようだ。
「どうも~。私はこの子のボスでね~。狐の獣人さんだよ~。」
ふりふり手を振る態度も柔らかだが、隙は無い。
暴食が警戒しているし、魔力量だけで見ればこの女は誰よりも多い。
「そう怖い顔しないでね~。シアちゃんは久しぶりかな~?」
「あぁレイ。この人リディさんの知り合いだよ。」
止められなくとも戦うつもりはないが、警戒を解く理由にはならない。
笑顔を張り付けたままに自然と隣に陣取る。
「クレアの箔付けのために来たんだけど、ヴァノンを負かされるとね~。」
笑顔をままに僕の顔を覗き込む。
「君、私達の配下になったりしない?」
「お断りしますよ。僕はまだ未熟ですから。」
魔力を高めて圧をかけてきたが、これが魔界流なのか。
まだまだ学ぶことも多い。
「……戦いが始まるらしいね~。一緒に見ようか~。」
戦いの舞台は半径百メートルの円。
建物の一角としては大きいが戦うには小さい。
特に、フレイにとっては小さく感じるだろう。
『さぁ始まります!カインクーヴァ災嘩武闘大会!二つ名を誰が勝ち取るか!』
実況はダニカだ。
聡明なイメージを一変させている、ある意味彼女が一番の天才かもしれない。
『右手に見えますは!地上から落ちてきた魔道国の見習い魔導士フ~レイ!』
『左手に見えますは!憤怒のイルザが配下!火炎の見習い魔術師ク~レア!』
「ひょろいガキをブッ殺せェ!あんたに賭けてんだ!お嬢ちゃ~ん!」
「大穴!ダークホース!思わぬ伏兵!勝てぇい!ガキんちょぉぉお!」
「どっちでもいいから殺せ!血飛沫!流血!惨殺処刑だぁあらァあ!」
どうやら思った以上の興行なようだ。
賭けに予想屋、飲食物を売る売り子に、スケッチしている者までいる。
後でスケッチは買うかもしれないな。
「盛り上がってるね~。レイちゃんにでも賭けちゃおうか?」
「俺は飯に使いますよ。オッズが低すぎる。」
横からの騒音にもかかわらずだ。
ディアナは試合の司会が始まってからは真っ直ぐにフレイを見ている。
興行とは言え、命が掛かっているのだ。
最悪ルールを破ってでも守ろうといった所だろうか。
シアも緊張していると思っていたが、案外そうでもない。
考えを巡らせてもピンとは来ない。
「?何よその顔。」
「緊張してないの?」
ストレートに私は聞いた。
「フレイ?ドラゴン倒したんだから大丈夫でしょ。昨日は良い目をしてたし。」
「………そう。」
昨日は顔を合わせていない。
敢えてだ。
聞いたら種を、自信の理由を教えてくれたかもしれない。
だが、それでは面白くない。
楽しみは取っておくほどに、より高ぶる。胸が高鳴る。ワクワクする。
この試合も見るかどうかは迷ったが、少し我慢が効かなかったのだ。
白いローブの下からは変化を見て取れる。
右腕には灰色のガントレット。眼帯と、腰に付けているのは剣か?
杖を背負っているのは今まで通りだが、纏う空気が違っている。
別に参加も強制ではないのに、自分から加わってくれた。
あぁ楽しみだ。
『第一試合!開幕だぁあ!』




