61話 虚食
───────ヴァノンの能力は暴食。
能力の由来は不明。仕組みも不明。使い方は本人のみが感覚で理解している。
効果は消化。
本来必要な咀嚼、分解、吸収の過程を飛ばし、あらゆる道理や因果を無視する。
食った物の持つ栄養、成分に関わらず全て熱量→脂肪に変換。
口に収まり、中に隠れた瞬間に脂肪に変換され、例外も時間のずれもない。
しかし、蓄えたエネルギーをどうするのか。
その答えが彼の第二形態である。
フレイや魔女が行ったように、肉体の一部を捧げる黒魔術を使うのだ。
脂肪を捧げ続け、強化や魔力に変換し続ける。
あまりの消費速度のため、食らい続けなければ肉体を保てない。
だからこそ取り繕い続ける。故に───────
「虚食」
男の……いや、ヴァノンの身体から煙か上り、先程までと空気が変わる。
僕の掛けたものよりも質も数も上の強化。魔力量も増大しているな。
その万全な力をもって初めて行ったのは体当たり。
幸運か、それとも舐められたのか。
食撃ではなく打撃。それでも十分に重い。反応も遅れた。
砕けたあばらの痛みは無視するとして、距離を離す必要があるな。
氷をばら撒き、僅かに時間を稼ぐ。
単なる掌底が魔氷を砕く。砕いた氷手に取って食らい続ける。おのれ丸刈り。
小さな防御魔法を空中に展開し、登る。
肉弾戦重視の形態だ。
恐らく魔法出力も上がっているとはいえ、距離を離す方がマシ。
今のうちに回復魔法。
「だ!か!ら!甘いんだって!」
火球を放ち、それを足場として登ってきた。
三歩で登ってきたか!
どういう理屈で火に触れているのかは分からないが今はどうでもいい。
回復はしきれなかった上に腕をへし折られて墜落した。
拳の威力はもう打ち合えないらしい。
ついでに防御魔法に食らってから降りてきた。
「そろそろ降参しないのか?御免なさいってよ!」
折れてぶらりと垂れた腕を氷で固定する。
剣は振れない。魔術に指向性を持たせられるだけで十分だな。
やはりあいつの強化は消耗が激しいらしい。
僕が返事をしないと分かるとすぐに突っ込んで来た。
わざわざ、回り込んでだ。
成程。床の罠には気づくか。
左腕を向けて氷を放つ。
最大サイズをぶつけたつもりだが、衝突はしていない。
当たる前に食われている。化け物だな。
次は冷気を放つ。
動きを少し鈍らせられればいいと思っていたが、一息で吸い込まれる。
取り込んだ空気も変換できるらしい。
その気になればずっと吸い続けられるのだろう。
肺がデカくなってるわけでは無い。
「レイ!そろそろ降参した方がいい!」
「黙ってろガキが!」
ほんの少し注意が逸れたので腹に蹴りを入れるが、そこまで効いていないな。
体表に氷を付けてやろうと思ったが、それも無意味。
身から漏れた熱量だけでも氷を溶かしてしまうのだ。
蹴りのお返しに僕は一撃、横腹に食らった。
受け身を取り損ねて砕けたあばらから着地してしまった。
無駄なダメージだったな。
「そろそろ腹をくくった方がいいんじゃないか?本気出すか出さないかをよ。」
やはりこいつは慣れている。
悪魔のこともしっかり知っているのだ。
僕は、魔力で構成されている。
肉体は乗っ取った他人の物。ダメージも肉体を捨てれば無視できる。
使っている魔力も肉体に自然に溜まる分だけだ。
だから、肉体を捨てて戦えと言っている訳だ。
僕を分解すれば魔力は豊富使える。だが、再起するのには時間がいる。
「断る。お前ごときに何で代償を払わなきゃならないの?」
「じゃあ無理やり引き剥がすまでか!」
時間稼ぎはもう終わりだ。
「兄貴!」
女は先に気が付いたらしいが、もう遅い。
立ち上る煙も魔力も途切れた。
ほんの僅かな隙に最大出力の氷撃を放つ。
両手ほどの大きさの氷に肉体に残った魔力を全て注ぐ。
さっきまでの氷には魔力をほとんど込めていない。
氷を消化するのには逆にエネルギーを食う上に、暴れまわっていた。
「だから時間切れ。」
無防備な腹が貫いた。




